ヒメアマガエル

Microhyla okinavensis Stejneger, 1901

両生綱 > 無尾目 > ヒメアマガエル科 > ヒメアマガエル属 > ヒメアマガエル

  • 成体 (宮古島)
概要

[大きさ] 

オス: 22.5-27.2㎜

メス: 26.5-29.9㎜         [3]

[説明]

  • 日本で最小のカエル
  • 将棋の駒のような特徴的な体型を持つ
  • 南西諸島に広く分布
  • 近年、八重山諸島の集団が別種となった
  • オタマジャクシは半透明
分布

[分布]

北琉球: 諏訪瀬島(国内移入)

中琉球: 奄美諸島(喜界島,奄美大島,加計呂間島,請島,与路島,徳之島,沖永良部島,与論島),沖縄諸島(伊平屋島,具志川島,伊是名島,古宇利島,家島,瀬底島,屋我地島,伊計島,宮城島,平安座島,浜比嘉島,津堅島,久高島,沖縄島,渡嘉敷島,座間味島,阿嘉島,慶留間島,粟国島,渡名喜島,久米島)

南琉球: 宮古諸島 (宮古島, 伊良部島) [2,8]

[生息環境]

  • 低地から山地まで様々な環境でみられる。
分類

[分類]

  • 両生綱 > 無尾目 > ヒメアマガエル科 > ヒメアマガエル属 > ヒメアマガエル

[タイプ産地] 

  • (おそらく)沖縄本島 [12]

[説明]

  • 1901年Stejneger によって記載された。その際の分布は沖縄島となっており、おそらく沖縄本島においてタイプ標本が採集されたと考えられる[12]。その後Okada (1931) やMaeda & Matsui (1989) によって大陸に広く分布する種である M. ornata のシノニムとされ、一方でDubois (1987) では理由もなく okinavensisが復活するなど、不明瞭な扱いが続いた。風向きが変わったのは2005年、松井らの論文によってそれまで M. ornata として扱われてきたものには3つの集団が含まれているという報告がなされた。その中ではインドやバングラデシュに分布するものがM. ornata であり、台湾や中国に分布している集団は M. fissipes、琉球列島に分布している集団は M. okinavensisとそれぞれ昔に名付けられたシノニムを復活させるべきである、とされた[5]。この論文では複数の形態的な特徴を用いることでヒメアマガエルは両種と識別可能であるとしており、 Kuramoto & Joshy (2006) においても3種の形態的な差異に加えて鳴き声の違いなどが報告され[3]、知見が蓄積していった。一方で、先の松井らの研究においてもヒメアマガエル集団内、特に八重山諸島とそれ以外の集団内において別種レベルの遺伝的な差異があることも知られており、琉球列島の地史を鑑みてもケラマギャップ (沖縄、奄美諸島と宮古、八重山諸島を隔てる境界線)をまたいで分布している本種は2グループに分かれるのではないかと考えられていた。2019年、富永らによって中国本土と琉球列島のヒメアマガエル属を対象にした大規模な研究が行われ、やはり両集団には大きな遺伝的な差異があることが再確認された[13]。加えて、八重山の集団は残りのヒメアマガエル集団よりも中国内陸に分布するM. mixtura の方に遺伝的に近く、逆に沖縄、奄美、宮古諸島の集団は八重山集団よりも中国本土の M. beilunensis に近いことが明らかになった。これにより、ヒメアマガエルは多系統群であることが明らかになり、2020年に八重山の集団はヤエヤマヒメアマガエル M. kuramotoi として新種記載された[8]。現在M. okinavensis は、中国内陸部貴州省の標本から2019年に新種記載された M. fanjingshanensis に最も近縁であると考えられている [4,8]。
体の特徴

[形態]

  • 体は扁平で、将棋の駒のような独特の体形をしている。胴体に比べて頭部が小さく、吻に向けてすぼんでいく。前肢は短いものの後肢はかなり発達しており、体サイズに比してその跳躍力は著しい。水かきの発達は悪い。
  • 体色に関しては、吻から後肢の付け根に向けて黒色の線があり、そこを境に褐色の背面と灰色の腹面に体色が分かれる。通常、背面の中心部に暗褐色の斑紋がある。

[似た種との違い]

その特徴的な体型やサイズから、同所的に分布する他のカエルとは明瞭に見分けられる。よってここでは、同所的に分布しているわけではないが、新しく記載されたヤエヤマヒメアマガエル (以下ヤエヤマ) との見分け方について記載論文から言及する。

先の論文にて言及されている形態的な相違点は2つ、後肢の長さと腹部の模様である。本種はヤエヤマよりも後肢が長い傾向にある。そして喉から胸部に顕著で、腹部にかけて徐々に粗くなっていく茶色の斑点が現れる領域がより狭い。また、この斑点はヤエヤマにおいては両性で同程度見られるが、沖縄本島や奄美大島の集団においてヒメアマガエルの斑点には雌雄差があり、オスにおいて喉部に見られる斑点がメスにおいてはほとんど見られない。  [8]


生態

[食性]

  • ヒメアマガエルは小型なので、餌となる生物は小さいものに限られる。奄美大島の個体群を対象にした研究では、同属の他種と同じようにアリを好んで捕食するスペシャリストであるとしている[1]

[繁殖]

  • 繁殖は年間を通して見られるが、通常は3~7月の間でなされる。水溜まりや水田などの止水域や、流れの緩やかな流水域の水面に層状に卵を浮かべる。卵数は270~1200個で何度かに分けて産卵する。[7]

[鳴き声]

「ガララララ、ガラララ」

ヴィブラスラップという打楽器を鳴らした時の音に似ている。

[幼生]

  • 全長は大きなものだと40㎜近くになる[9]。
  • 体は半透明で、眼は頭部の側面に離れて位置する。
  • オタマジャクシには呼吸のために取り込んだ水を排出する噴出孔がある。多くの種では体の左側にあるが、ヒメアマガエルでは体の腹側にある。
  • 口器は体の前方に突出しており、他のオタマジャクシにおいて通常みられる角化歯がみられない。この口によって浮遊している小さな生物や藻類を捕食していると考えられる[7]。タイにおいて同様の口器をもつ同属の種を用いた研究では、藻類や原生動物、輪形動物、珪藻などを食べていることが報告されており、本種でも同様の食性がみられる可能性がある[10]。
  • 歯のない口器や噴出孔の位置は、本種だけの特徴ではなく、ヒメアマガエル科全般に見られるものである (Scaphiophryne や Otophryne では歯がみられる…らしい)[11,14]。
  • 中層を泳ぎまわりつつ、浮遊生物を捕食するような生活を送っていると考えられる。似た体色をしている M. ornata における研究では、半透明な体が捕食者回避に大きな役割を果たしていることが報告されており[9]、本種の体色にも中層で泳いでいる際に、水底にいる捕食者からの攻撃を避ける役割があるのかもしれない。
  • ちなみに、ヤエヤマヒメアマガエルの幼生と非常に似た形態をしており、両者の明確な識別点はないとされている[8]。
その他

執筆者: 野田叡寛


引用・参考文献

  1. Hirai, T., & Matsui, M. (2000). Ant specialization in diet of the narrow-mouthed toad, Microhyla ornata, from Amamioshima Island of the Ryukyu Archipelago. Current Herpetology, 19(1), 27-34.
  2. 国立環境研究所. (2020)侵入生物データベース.<https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/40130.html>, 参照 2020-09-27.
  3. Kuramoto, M., & Joshy, S. H. (2006). Morphological and acoustic comparisons of Microhyla ornata, M. fissipes, and M. okinavensis (Anura: Microhylidae). Current Herpetology, 25(1), 15-27.
  4.  Li, S., Zhang, M. E. I. H. U. A., Xu, N. I. N. G., Lv, J. C., Jiang, J. P., Liu, J. I. N. G., … & Wang, B. (2019). A new species of the genus Microhyla (Amphibia: Anura: Microhylidae) from Guizhou Province, China. Zootaxa, 4624(4), 551-575.
  5. Matsui, M., Ito, H., Shimada, T., Ota, H., Saidapur, S. K., Khonsue, W., … & Wu, G. F. (2005). Taxonomic relationships within the Pan-Oriental narrow-mouth toad Microhyla ornata as revealed by mtDNA analysis (Amphibia, Anura, Microhylidae). Zoological Science, 22(4), 489-495.
  6. 松井正文, & 関慎太郎. (2008). カエル・サンショウウオ・イモリのオタマジャクシ ハンドブック.
  7. 松井正文, & 関慎太郎. (2016). ネイチャーウォッチングガイドブック: 日本のカエル分類と生活史~ 全種の生態, 卵, オタマジャクシ.
  8. Matsui, M., & Tominaga, A. (2020). Distinct Species Status of a Microhyla from the Yaeyama Group of the Southern Ryukyus, Japan (Amphibia, Anura, Microhylidae). Current Herpetology, 39(2), 120-136.
  9. Mogali, S. M., Shanbhag, B. A., & Saidapur, S. K. (2020). Adaptive significance of the transparent body in the tadpoles of ornamented pygmy frog, Microhyla ornata (Anura, Amphibia). Acta Herpetologica, 15(1), 55-57.
  10. Moonasa, B., Thongproh, P., Phetcharat, E., Kingwongsa, W., Ratree, P., Duengkae, et al. (2018). The stomach contents of some amuran tadpoles from Thailand. Journal of Wildlife in Thailand Vol. 25, 21-40.
  11. Orton, G. L. (1953). The systematics of vertebrate larvae. Systematic Zoology, 2(2), 63-75.
  12. Stejneger, L. (1901). Diagnoses of eight new batrachians and reptiles from the Riu Kiu Archipelago, Japan. Proceedings of the Biological Society of Washington.
  13. Tominaga, A., Matsui, M., Shimoji, N., Khonsue, W., Wu, C. S., Toda, M., … & Ota, H. (2019). Relict distribution of Microhyla (Amphibia: Microhylidae) in the Ryukyu Archipelago: High diversity in East Asia maintained by insularization. Zoologica Scripta, 48(4), 440-453.
  14. Vitt, L. J., & Caldwell, J. P. (2013). Herpetology: an introductory biology of amphibians and reptiles. Academic press.

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