シロアゴガエル

Polypedates leucomystax (Gravenhorst, 1829)

両生綱 > 無尾目 > アオガエル科 > シロアゴガエル属

  • 成体(シンガポール)
概要

[大きさ] 

  • 体長 5–7 cm

[説明]

  • 西アジアから東南アジアにかけて広大な分布域をもつ種で、日本では外来種。環境への影響の懸念から特定外来種に指定されている。褐色で、指先に大きな吸盤を持つことが特徴。沖縄では5月から11月にかけて繁殖し、乳白色の泡状の卵塊を産む。

[保全状況]

  • 特定外来生物であり、生体の輸送や保管が禁止されている。また日本の侵略的外来種ワースト100にも指定されている。
分布

[分布]

  • 沖縄諸島の大部分、北大東島、宮古諸島の大部分、石垣島、そして与論島に移入分布。西表島は2019年に根絶宣言がなされている。国外ではネパールからインドシナ半島、スンダ地域、フィリピンまで広大な分布域をもつ。[1]

[生息環境]

  • 低地に生息し、様々な環境で見られる。特に市街地や耕作地といった人為的な撹乱環境でよく見られることが特徴的。[2,3]
分類

[分類]

[タイプ産地] 

  • ジャワ島

[説明]

  • 属名Polypedatesは「多く跳ねるもの」、種小名のleucomystaxは「白い上唇」という意味。[3]
  • 分布域が広大で、形態的によく似た近縁種がおり、かつ歴史的に人為移入がたびたび生じてきたことから、本種の分類学的な整理はついていない。近年の遺伝学的な研究により整理されたものの、まだ複数種を含む可能性がある。日本にはジャワ島やフィリピンに分布する系統が移入され、定着している。[4, 5]
体の特徴

[形態]

  • 背面は褐色で、数本の縦縞模様を呈することもある。和名の示す通り、上あごの縁は白い。腹面はクリーム色で目立つ斑紋は持たない。
  • 体は扁平で、後肢は長い。指先には大きな吸盤を持つ。後肢には水かきが発達するが、前肢は水かきを持たない。

[似た種との違い]

  • 琉球列島ではオキナワアオガエルと似る。しかし本種は体色が緑色にならないこと、前肢に水かきを持たないことで区別できる。

シロアゴガエル

オキナワアオガエル

生態

[繁殖]

  • 繁殖期は一繁殖池でも長く、沖縄で5月初旬から11月初旬にかけて。とくに7,8月に繁殖のピークがある。通年温暖で降雨のあるシンガポールでは年中繁殖が可能なようだ。[6,7]
  • 池、水たまり、水の溜まった人工物など、止水であればさまざまな環境で繁殖する。1匹の雌に2-3匹の雄が同時に抱接して産卵する場合もある。[8]

[卵]

  • 直径10㎝弱ほどの泡状の卵塊として、水場ちかくの岩や植物体などに産み付けられる。蔵卵数は約400個。[3,6]
草に産み付けられたシロアゴガエルの泡巣(香港・8月)

[幼生]

  • 体色はふつう暗灰色で、吻端に白色の斑紋が目立つ。広い尾びれをもち、眼が体側に位置することも特徴。大きくなると4cmほどまで成長する。幼生はほぼ通年見ることができる。[3,6]
  • 成長した幼生は同種の卵塊も餌にすることがある[6,9]
その他

[移入]

  • 日本への移入が最初に報告されたのは1964年の嘉手納基地周辺である。遺伝的な解析から、移入シロアゴガエルはフィリピン由来の集団だと推定されており、米軍の貨物に紛れて入ってきたものと考えられる。[5,10,11]
  • 福岡県でも、定着はしていないものの、最近マレーシア発の貨物コンテナ内から本種が発見された。このことは本種が貨物に紛れて分布を広げる可能性を示している。[12]

執筆者:木村楓

2021年5月11日公開|5月12日 文献追加・微修正


引用・参考文献

  1. 国立環境研究所 侵入生物データベース. https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/. Accessed 22 Jul 2020
  2. Inger RF, Stuebing RB, Grafe TU, Dehling JM (2017) A field guide to the frogs of Borneo, 3rd ed. Natural Hisotiry Publications (Borneo) Sdn. Bhd., Kota Kinabalu
  3. 松井正文 (2018) 日本産カエル大鑑. 文一総合出版
  4. Brown RM, Linkem CW, Siler CD, et al (2010) Phylogeography and historical demography of Polypedates leucomystax in the islands of Indonesia and the Philippines: evidence for recent human-mediated range expansion? Mol Phylogenet Evol 57:598–619
  5. Kuraishi N, Matsui M, Hamidy A, et al (2013) Phylogenetic and taxonomic relationships of the Polypedates leucomystax complex (Amphibia). Zool Scr 42:54–70
  6. 田中聡 (2012) 沖縄島における外来種シロアゴガエルの産卵時期と泡巣形成場所について. 沖縄県立博物館・美術館博物館紀要 1–10
  7. Berry PY (1964) The Breeding Patterns of Seven Species of Singapore Anura. J Anim Ecol 33:227–243
  8. 田中聡, 千木良芳範 (2011) 沖縄島における外来種シロアゴガエルの複雄配偶について. 沖縄県立博物館・美術館博物館紀要 1–6
  9. Yorke CD (1983) Survival of Embryos and Larvae of the Frog Polypedates leucomystax in Malaysia. J Herpetol 17:235–241
  10. Kuramoto M (1965) A record of Rhacophorus leucomystax from the Ryukyu Islands. Bull Fukuoka Gakugei Univ Part Ⅲ 15:59–61
  11. Kuraishi N, Matsui M, Ota H (2009) Estimation of the origin of Polypedates leucomystax (Amphibia: Anura: Rhacophoridae) introduced to the Ryukyu Archipelago, Japan. Pacific Science 63:317–325
  12. 江頭幸士郎, 小川雅弘. 2020. 福岡県におけるシロアゴガエル(Polypedates leucomystax)の初記録. 爬虫両棲類学会報 2020:61–63.

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