ナガレヒキガエル

Bufo torrenticola Matsui 1986

両生綱 > 無尾目 > ヒキガエル科 > ヒキガエル属

  • 抱接中の成体 / Adults in amplexus
概要

[大きさ] 

  • 体長 8–16 cm

[説明]

  • 山地に生息し、渓流で産卵するヒキガエル
  • オタマジャクシは大きな口を持ち、岩に吸い付くことができる
  • ミミズ、虫、サワガニなどを食べる
  • 成体の鼓膜が小さく不明瞭な点で、他の本州産ヒキガエルと見分けがつく

[保全状況]

  • 環境省のレッドリスト2020未掲載。しかし県単位では準絶滅危惧や絶滅危惧Ⅱ類に選定されている。
分布

[分布]

  • 北陸地方から紀伊半島南部にかけて分布

[生息環境]

  • 標高60~1700m近くの山地帯に棲む。沢沿いの岩の上や林床、樹上で見つかる。[3,4]
分類

[タイプ産地] 

  • 大台ケ原(奈良県)

[説明]

  • 学名の意味 渓流に棲む(torrent=渓流、col=生息する)
  • アズマヒキガエルと交雑する場合があるようだ[9]。系統的にはアズマヒキガエルよりもニホンヒキガエルに近い[1]。
体の特徴

[形態]

  • 背中は灰褐色~赤褐色で、赤やクリーム色や青色の線状または斑点状の模様をもつ。ただし模様の個体差はきわめて大きい。腹は黄色の地に黒い斑紋が入る。
  • 体格はがっしりとしていて、背中にはいぼ状の突起が散在する。鼓膜は小さく不明瞭。
  • 近縁のニホンヒキガエルに比べ指や水かきがやや大きく、これは渓流での生活への適応だと考えられている[3,5]。

[似た種との違い]

分布域の大部分がアズマヒキガエルと重なっており、同じ沢で両種を見かけることもある。2種は鼓膜の大きさで見分けるのが最もわかりやすい。アズマヒキガエルは明瞭で大きな鼓膜をもつが、ナガレヒキガエルでは鼓膜は小さい(ふつう鼓膜の直径が眼から鼓膜までの距離の半分ほど)。

ニホンヒキガエルとも似るが、同じように本種の鼓膜が小さく不明瞭なことで見分けられる。

ナガレヒキガエルアズマヒキガエル
生態

[食性]

  • ミミズ、ヤスデ、昆虫、サワガニなどを食べる[4]

[繁殖]

  • 繁殖期は4月から5月で、一地点では1~2週間ほど[4,7]。
  • オスはふつう陸地ではなく水中でメスを待つ[8]。産卵場所は渓流の淵であることが多い[6]。
  • 産卵時には、メスは卵を少し産んでは歩き回るといった行動を数回繰り返すことで、卵をまわりの小枝や岩に巻きつかせてゆく。[8]
  • 性比はオス:メス=2:1ほどで雄に偏る[6]。

[卵]

  • 卵は長いひも状の卵塊として産みだされる。産卵数は2500–4000個ほど。[4]

[幼生]

  • 全身が黒い。止水性であるニホンヒキガエルやアズマヒキガエルの幼生に比べ、口が大きく、尾びれが低い。歯列の並び方も異なる。[2]
  • ふつう生まれた年の7~8月以降に上陸する[4]。
その他

[コメント]

  • 生態・形態・分布に特徴的な点が多く、どのように止水性のヒキガエルから進化してきたのか、進化的に興味深い種です。

執筆者:木村楓


引用・参考文献

  1. Igawa, T., Kurabayashi, A., Nishioka, M., & Sumida, M. 2006. Molecular phylogenetic relationship of toads distributed in the Far East and Europe inferred from the nucleotide sequences of mitochondrial DNA genes. Molecular phylogenetics and evolution, 38(1): 250-260.
  2. Matsui, M. 1975. A New Type of Japanese Toad Laryae Living in Mountain Torrents. Zoological Magazine, 84: 196-204.
  3. Matsui, M. 1976. A new Toad from Japan. Contributions from the Biological Laboratory, Kyoto University, 25(1): 1-10.
  4. 松井正文. 2018. 日本産カエル大鑑. 文一総合出版.
  5. okita, M., Hasegawa, Y., Yano, W., & Tsuji, H. 2018. Characterization of the Adaptive Morphology of Japanese Stream Toad (Bufo torrenticola) Using Geometric Morphometrics. Zoological science, 35(1), 99-108.
  6. Tsuji, H., & Kawamichi, T. 1996a. Breeding habitats of a stream-breeding toad, Bufo torrenticola, in an Asian mountain torrent. Journal of Herpetology, 30(3): 451-454.
  7. Tsuji, H., & Kawamichi, T. 1996b. Breeding activity of a stream-breeding toad, Bufo torrenticola. Japanese Journal of Herpetology, 16(4), 117-128.
  8. Tsuji, H., & Kawamichi, T. 1998. Field observations of the spawning behavior of stream toads, Bufo Torrenticola. Journal of herpetology, 32(1): 34-40.
  9. Yamazaki, Y., Kouketsu, S., Fukuda, T., Araki, Y., & Nambu, H. 2008. Natural hybridization and directional introgression of two species of Japanese toads Bufo japonicus formosus and Bufo torrenticola (Anura: Bufonidae) resulting from changes in their spawning habitat. Journal of Herpetology, 427-436.

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