オオサンショウウオ

Andrias japonicus (Temminck, 1836)

両生綱 > 有尾目 > オオサンショウウオ科>オオサンショウウオ属>オオサンショウウオ

概要

[大きさ] 

  • 全長40–150cm (記録上の最大全長150.5cm[6])

[説明]

  • 世界最大級の両生類で日本固有種
  • 比較的冷涼な河川や水路に生息、完全水生
  • 夜行性で肉食
  • 長寿で30年以上生きるが、正確な寿命はわかっていない

[保全状況]

  • ワシントン条約附属書Ⅰに記載
  • 文化財保護法で特別天然記念物に指定
  • 種の保存法で国際 希少野生動植物種に指定[5]
  • 環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に指定[4]

[別名・地方名]

  • ハンザキ、ハンザケ、アンコ、アンコウ、ハジカミ、ハザコなど[11]
分布

[分布]

  • 岐阜以西の本州と、九州および四国の一部[11,13]

[生息環境]

  • 一般に標高300~1000mの谷川に生息すると言われるが、平野部の水田の水路などにも見られる。生息地の川幅や流速、水深は多岐にわたる。水温は25℃を超えない。日中等は岩や岸の横穴の中などに隠れている。[11,13]
分類

[分類]

  • 両生綱>有尾目>オオサンショウウオ科>オオサンショウウオ属>オオサンショウウオ

[タイプ産地] 

  • 日本(三重あるいは滋賀、鈴鹿峠?[3])

[説明]

  • はじめTemminckによってTriton japonicus (Tritonはイモリ属)として記載されたが、別属として属名Megalobatrachusが与えられた。[3,9]
  • しかし、ヨーロッパ産の化石種Andrias scheuchzeriと同属であるとされるようになり、先行する有効名であるAndriasが属名として適格とされるようになった。[3,9]
  • 近縁種チュウゴクオオサンショウウオA. davidianusも含め、A. scheuchzeriの亜種であるとする説もあったが、骨格形態に差があることなどから、現在では一般に独立種として扱われている。[9]
  • チュウゴクオオサンショウウオとも遺伝的な差異が見られ、別種として扱われている(形態的にも異なると言われているが定量的研究は未知)。[9]
  • シノニム:Triton japonicusSalamandra maximaMegalobatrachus japonicusCryptobranchus japonicusなど[3,9,13]
体の特徴

[形態]

  • 褐色の地に黒い斑紋が散在する。[11,13]
  • 体は扁平で、体側に皮膚のひだをもつ。頭部はより扁平で目は小さい。尾は全長の3分の1ほどで後部が側扁する。四肢は肥厚して短い。[11,13]
  • 上顎には口縁の歯とは別に鋤口蓋骨歯をもち、顎も強いので咬まれると危険。[11,13]
  • 繁殖期の雄は総排泄腔の周辺が肥大するが、それ以外に外部形態の雌雄差は知られていない。[11,13]

[似た種との違い]

チュウゴクオオサンショウウオ、交雑個体との違い

 これまでに国内の野外で見つかっているチュウゴクオオサンショウウオ(以下中国種)は灰褐色~黒の地に淡い斑紋をもつものが多く、本種とは色彩的に異なるものが多い。また、交雑個体は中間的な色彩を持つものや全体の体色が淡いものが多数捕獲されている。形態的には、中国種と交雑個体はより扁平かつ大型で、吻端がくちばし状になる個体が多いと言われている。しかしながら、定量的な形態比較は研究途上であるうえ、3群ともに個体変異が大きく種内でも差が見られるため、外見で確実に同定することは難しい。遺伝子解析による同定が必要となる。[2]

生態

[食性]

  • 幼生時には主に水生昆虫を捕食する。[11]
  • 成体は主に魚類や甲殻類を捕食するが、基本的に食べられる大きさの動物は何でも食べ、カエルやヘビ、カメ、モグラ、カワガラス、シカの胎児(人間が捨てたとみられる)等の捕食例がある。また、時として共食いも見られる。[10,11,12,13,14]

[繁殖]

  • 6~8月ごろ、繁殖場所への移動が見られ[11,13,15]、雄は産卵巣穴をめぐって闘争する。この闘争で最悪の場合頸部等を咬み切られて死亡する個体もいる。[1,7,11,14,17]

[卵]

  • 8月末から9月ごろに雄が待つ巣穴に雌が入り産卵する。1腹300~700個程度の卵を産む。[7,11,13]
  • 卵は数珠状。雄は孵化後しばらく経つまで巣穴に残って卵を守り、時折体をゆすって巣内の水を循環させると言われている。[11,13]

[幼生]

  • 卵は40~50日ほどで孵化し、全長3cm程度の幼生が生まれる。孵化直後は外鰓をもち、四肢はない。数か月で四肢が生えるが、外鰓は残る。[11,13]
  • 体色は全身黒いものが多い。2年目くらいから成体と同じような体色パターンが現れ始める。[11,13]
  • 4~5年ほどで変態し、外鰓が消え鰓穴もふさがる。このころでおよそ20cm程度になる。[11,13]

[成長]

  • 成体になるまでは年間3~5cm程度ずつ成長する。その後は年1cm前後。[11,13]
  • 個体差が大きく、餌の食いが良いものは成長が早いことが多い。[11]
  • 1m前後に達するには数十年かかると考えられる。最長で51年飼育された記録があるが、寿命はまだわかっていない。[11,13]
その他

[文化]

  • 古くから山間部では蛋白源として食用にされてきた。北大路魯山人の著書(「魯山人の料理王国」)中に調理法や風味の記述がある。
  • 岡山等ではオオサンショウウオを祭った神社や祭りが見られる。
  • 井伏鱒二の「山椒魚」等、文学作品中に登場することも多い。

[保護・保全]

  • 特別天然記念物であるため、基本的には触れるだけでも違法である。
  • 各地で生息調査や生息地保護のための取り組みがなされている。例えば、遡上を妨げない魚道付きの堰堤や、人口巣穴を入れた護岸等、工事の際にも配慮がなされている。[11,16,18]
  • 京都など一部地域でチュウゴクオオサンショウウオの移入・交雑が問題となっており、行政や大学により調査・対策が進められている。なお、外部形態での同定が困難であることや、オオサンショウウオ属全種が種の保存法に指定されていることから、中国種や交雑個体であっても無許可での取り扱いは一切禁止されている。[2,5,8,11]

[コメント]

  • 両生爬虫類の中でも特に知名度の高い動物でありながら、研究者が少なく未知の部分が多く、既知の情報であっても意外と知られていないことが多いように思う。たとえば、咬みつくとか父親が卵を守るとか。また、長寿ゆえか非常にゆったりとした生き物でもあるので、長時間観察していなければほとんど動くこともなく、水族館等でも外見を楽しんで終わりという人も多いのではなかろうか。本稿では、そんな彼らの既知情報をできるだけわかりやすくまとめてみたつもりである。ここに掲載したのは先人たちの研究調査の賜物の一部であるが、9年ほどオオサンショウウオに関わってきた筆者にとってもまだまだ興味が尽きない魅力的な対象であるので、今後さらに研究を進め、様々なことを明らかにしていけたらと思う。個人的感想だが、かわいい、きれい、かっこいいの三拍子そろった上に畏敬の念をも抱かせる威厳もあり、この魅力をより多くの人に知ってほしいと思う。

執筆者:浜中京介 このページは一般社団法人Beansさまの支援により作成されました。


引用・参考文献

  1. 土井敏男. 2004. オオサンショウウオの胴部および尾基部の深い咬傷例. 爬虫両棲類学会報. 2004(2): 75-78.
  2. 浜中京介. 2018. 交雑オオサンショウウオの調査. Caudata. 2: 9-13.
  3. Hoogmoed, M. S. 1978. An annotated review of the salamander types described in the Fauna Japonica. Zoologische Mededelingen, 53(9): 91-105.
  4. 環境省. 生物情報収集・提供システム いきものログ. https://ikilog.biodic.go.jp/Rdb/env 参照 2019-02-08.
  5. 環境省. 種の保存法の概要. https://www.env.go.jp/nature/kisho/hozen/hozonho.html 参照 2019-02-09.
  6. 桑原一司. 2004. 日本一大きいオオサンショウウオのなぞ. (松井輝明・池田明子編) 広島県の不思議辞典. 新人物往来社, 東京. pp 216-218.
  7. 桑原一司・中越信和. 2009. オオサンショウウオAndrias japonicusの繁殖行動の解析―産卵行動の観察記録と動画資料の開設―. 高原の自然史. 14: 11-50.
  8. 京都市情報館. 記念物 (史跡・名勝・天然記念物).. http://www.city.kyoto.lg.jp/menu2/category/24-4-3-0-0-0-0-0-0-0.html参照2019-02-08.
  9. 松井正文. 2001. オオサンショウウオの属名について. 爬虫両棲類学会報, 2001(2): 75-78.
  10. Matsushita, Y., O. Yamakawa, H. Onuma, K. Nishikawa, M. Motokawa, and T. Yato. 2015. Andrias japonicus (Japanese Giant Salamander). Diet. Herpetological Review 46(1): 69-70.
  11. 日本オオサンショウウオの会 HP. https://www.giantsalamander.net/ 参照 2019-02-08.
  12. Nishikawa, K., M. Matsui, Y. Kaneko, and N. Yoshikawa 2017. Andrias japonicus (Japanese Giant Salamander). Diet. Herpetological Review 48(1):152-153.
  13. 佐藤井岐雄. 1943. ハンザキ (オオサンショウウオ). 日本産有尾類総説. 日本出版社, 大阪. pp 322-346.
  14. 清水善吉. 2008. オオサンショウウオの繁殖闘争にともなう共食いの記録. 爬虫両棲類学会報. 2008(2): 96-98.
  15. 田口勇輝. 2009. オオサンショウウオの季節的な移動: 流水に棲む両生類による繁殖移動の可能性. 日本生態学会誌. 59(2): 117-128.
  16. 田口勇輝, 夏原由博. 2009. オオサンショウウオが遡上可能な堰の条件. 保全生態学研究, 14(2): 165-172.
  17. 栃本武良. 1995. 兵庫県市川水系におけるオオサンショウウオの生態 Ⅷ. 繁殖生態について (2)闘争. 動物園水族館雑誌. 36(2): 51-57.
  18. 栃本武良. 1995. 兵庫県市川水系におけるオオサンショウウオの生態 Ⅷ. 繁殖生態について (4)人工巣穴設置による産卵場所復活の試み. 動物園水族館雑誌. 37: 13-17.

注釈:11. 日本オオサンショウウオの会のHPは、引用元記載のないインターネット情報ではあるが、そのソースが栃本武良氏をはじめとする、日本を代表するオオサンショウウオ学者や動物園水族館関係者の著作・調査結果等であることがわかっているので、全体を通して広く参考にさせていただいた。筆者自身も栃本氏や関係者から直接情報を得たり飼育個体やデータを拝見したりして確認済みであることを追記しておく。

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