アオウミガメ

Chelonia mydas (Linnaeus, 1758)

爬虫綱 > カメ目 > ウミガメ科 > アオウミガメ属 > アオウミガメ

概要

[大きさ] 

成体の甲長は80-100 cm[16]

[説明]

  • 背甲は滑らかで広く楕円形。肋甲板は4対。
  • 背面の体色は個体により様々であるが、腹面は基本的に黄色がかっている。
  • 頭部の前額板は1対である。
  • 大西洋、インド洋、太平洋の温帯から熱帯の海域に生息する。
  • 主に海藻や海草を食べる。

[保全状況]

  • IUCN版レッドリスト2020:絶滅危惧種(EN)[3]
  • 環境省レッドリスト2020:絶滅危惧II類(VU)[5]
  • ワシントン条約付属書I [17]
分布

[分布]

  • 大西洋、インド洋、太平洋の温帯から熱帯の海域
  • 日本ではほぼ全域で見られるが、産卵地としては小笠原諸島および屋久島・種子島以南の南西諸島があげられる[16]。
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > カメ目 > ウミガメ科 > アオウミガメ属 > アオウミガメ[8]

[タイプ産地] 

  • Ascencion Island(南大西洋の小島) [15]

[説明]

  • 本種のタイプ標本はスウェーデンのウプサラ大学進化博物館とリンネ博物館が所蔵しているが、2個体のタイプ標本(シンタイプ)は、どちらも現在アカウミガメ(Caretta caretta)とされる種と同じ特徴を示している。そのため、現在アオウミガメとされているChelonia mydasの学名はCa. carettaのシノニムである可能性が高く、学名の変更が必要である。しかし、現在Ch. mydasとCa. carettaは学名として広く用いられていることから、これらの学名を変更することは大きな混乱を生じる可能性が懸念されている[10]。
  • また、本種のうち、中南米の太平洋側で生息する個体の分類について意見が分かれている。クロウミガメChelonia agassizii Bocourt, 1868として本種とは別種とする考えと、本種の亜種Ch. mydas. agassiziiとする考えがある[10, 13]。

[シノニム]

  • Testudo mydas LINNAEUS 1758
体の特徴

[形態]

  • 甲羅は滑らかで広く楕円形。後肢の上でわずかにくぼむ。縁は波状になることがあるが、鋸歯状にはならない。
  • 頭部は前方に丸みをおび、一対の前額板を持つ。
  • ヒレには1本の爪を持つ(稀に2本持つ幼体もいる)
  • 背側の体色は個体差が大きく様々であるが、通常は放射状の筋があり、大型の成体の中には斑点があるものも存在する。
  • 腹側は幼体で白く、成体では黄色がかっている。(以上[14])
  • グアテマラのナウアラテ川河口で採集された個体の標本に基づき記載されたクロウミガメChelonia mydas agassizii Bocourt 1868はその分類をめぐって意見が分かれている。東太平洋を中心に確認されているこの個体群は甲羅の高さがより高く後肢基部の背甲にくびれがあり、腹部の体色が灰色から黒色であるという特徴がある[11]。
  • 遺伝子を用いた分析ではクロウミガメと呼ばれる個体群を別種とするとアオウミガメの他の地域個体群が側系統になることから[6]、クロウミガメを別種とする考えは支持されなかった。
  • しかし、形態学的な特徴は有意な差が認められるものもあり[11, 13]、生殖的に隔離されている別種である可能性も示されている[11]。

[似た種との違い]

日本近海でよく見られ、産卵にも訪れるウミガメはアカウミガメ、アオウミガメ、タイマイの3種である。この3種類は頭部の前額板と甲羅の肋甲板がそれぞれ何対あるかで見分けることができる。

  • アカウミガメ:前額板2対、肋甲板5対
  • アオウミガメ:前額板1対、肋甲板4対
  • タイマイ:前額板2対、肋甲板4対

アカウミガメと比べて頭が小さく、甲羅は丸みを帯びていることが特徴[18]。タイマイのように甲羅の縁が鋸歯状になることはない[14]。

アオウミガメアカウミガメタイマイ  
生態

[食性]

  • 海藻、海草、カイメン類、ホヤ類、クラゲ類[4, 7]
  • 主に海藻や海草を食べるが、カイメンやクラゲといった動物性の餌を捕食することも報告されている[7]。

[繁殖]

  • 日本における主な産卵地は南西諸島と小笠原諸島である[16]。
  • 産卵期は5月から8月ごろ[1, 12]。
  • 雌は夜間に砂浜に上陸すると、穴を掘り産卵を行う。一度に100個ほどの卵が産み落とされる。2ヶ月ほどで卵から孵化した幼体は、地上に脱出して外洋へとむかう[9]。
  • ウミガメは性別が卵のある特定の時期に経験する温度で決まる(温度依存性決定)。約29℃で雄と雌が同じ割合で生まれるが、それより数℃高いと雌、低いと雄がほぼ100%の割合で生まれる[9]。

[行動]

  • 日本の砂浜で孵化した後、アオウミガメの幼体が具体的にどのような生活史を送っているのかははっきりしていない。外洋で稀に見つかる幼体は流れ藻と一緒にいることが多く[2]、浮遊生物を食べて生活しているのではないかと考えられている。

執筆者:田嶋宏隆


引用・参考文献

  1. Abe, O., et al. (2003). Nesting populations of sea turtle in Ishigaki Island, Okinawa. In Proceedings on the 4th SEASTAR2000 Workshop (pp. 40-43). Graduate School of Informatics, Kyoto University.
  2. Carr, A., & Meylan, A. B. (1980). Evidence of passive migration of green turtle hatchlings in Sargassum. Copeia1980(2), 366-368.
  3. Chelonia mydas (Green Turtle). IUCN Red List of Threatened Species.<https://www.iucnredlist.org/ja/species/4615/11037468> 参照 2021-06-15.
  4. Gillis, A. J., Ceriani, S. A., Seminoff, J. A., & Fuentes, M. M. (2018). Foraging ecology and diet selection of juvenile green turtles in the Bahamas: insights from stable isotope analysis and prey mapping. Marine Ecology Progress Series599, 225-238.
  5. 環境省. 2020. 環境省レッドリスト.<http://www.env.go.jp/press/files/jp/114457.pdf> 参照2021-06-10.
  6. Karl, S.A. and Bowen, B.W., 1999. Evolutionary significant units versus geopolitical taxonomy: molecular systematics of an endangered sea turtle (genus Chelonia). Conservation biology13(5), pp.990-999.
  7. 森阪匡通, 酒井麻衣, 小木万布, 久保田信, & 亀崎直樹. (2011). 伊豆諸島御蔵島周辺海域で観察されたアオウミガメによるクラゲ捕食. うみがめニュースレター89, 15-16.
  8. 日本爬虫両棲類学会. 2020. 日本産爬虫両生類標準和名リスト. <http://herpetology.jp/wamei/index_j.php>, 参照 2021-06-15.
  9. NPO法人日本ウミガメ協議会付属黒島研究所. ウミガメとは. <http://www.kuroshima.org/pg324.html>, 参照2021-06-19.
  10. 岡本慶. 2014. ウミガメ科の外部形態の地理的変異と分類の再検討. 東京大学学術機関リポジトリ. < https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=6927&item_no=1&page_id=28&block_id=31>, 参照2020-10-12.
  11. Okamoto, K., & Kamezaki, N. (2014). Morphological variation in Chelonia mydas (Linnaeus, 1758) from the coastal waters of Japan, with special reference to the turtles allied to Chelonia mydas agassizii Bocourt, 1868. Current Herpetology33(1), 46-56.
  12. Okuyama, J., et al. (2020). Quarter-Century (1993–2018) Nesting Trends in the Peripheral Populations of Three Sea Turtle Species at Ishigakijima Island, Japan. Chelonian Conservation and Biology: Celebrating 25 Years as the World’s Turtle and Tortoise Journal19(1), 101-110.
  13. Pritchard, P.C., 1999. Status of the black turtle. Conservation Biology, pp.1000-1003.
  14. Pritchard, P. C. H. and J. A. Mortimer. 1999. Taxonomy, external morphology, and species identification. p. 21-38. In: K. L. Eckert, K. A. Bjorndal, F. A. Abreu-Grobois, and M. Donnelly (eds.), Research and Management Techniques for the Conservation of Sea Turtles. IUCN/SSC Marine Turtle Specialist Group, Gland, Switzerland.
  15. THE REPTILE DATABASE. 2021. Chelonia mydas. < https://reptile-database.reptarium.cz/species?genus=Chelonia&species=mydas&search_param=%28%28taxon%3D%27Cheloniidae%27%29%29>, 参照 2021-06-15.
  16. 内山りゅう, 前田憲男, 沼田研児, 関慎太郎. 2002. 決定版 日本の両生爬虫類. p. 162–163.
  17. ワシントン条約規制対象種の調べ方. <https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/02_exandim/06_washington/cites_search.html> 経済産業省. 参照 2021-06-15.
  18. 環境省自然環境局, 日本ウミガメ協議会. ウミガメ保護ハンドブック. pp.3.