カミツキガメ

Chelydra serpentina (Linnaeus, 1758)

爬虫綱>カメ目>カミツキガメ科>カミツキガメ属>カミツキガメ

概要

[大きさ] 

  • 平均甲長40 cm,最大49.4 cm.[1]

[説明]

  • 北米原産の大型のカメ.
  • 1960年代に国内に持ち込まれた外来種.
  • 在来種への影響やヒトへの危害が危惧されている.

[外来種指定状況]

  • 特定外来生物(外来生物法).[2]
  • 移入規制種(佐賀県 環境の保全と創造に関する条例).[3]
  • 日本の侵略的外来種ワースト100.[4]
分布

[分布]

  • カナダ南部からアメリカ合衆国南東部まで自然分布.[1]
  • 国内には,1960年代に米国からペットとして持ち込まれた.[4]
  • 千葉県印旛沼周辺[5],東京都武蔵野地区[6],静岡県狩野川水系[7],神奈川県[8]などで定着が確認されている.また,北海道から沖縄県に至るまで,日本各地で目撃例がある.[2,9]

[生息環境]

  • 汽水域の湿地、淡水湖、河川など.[10]
分類

[分類]

  • 爬虫綱>カメ目>カミツキガメ科>カミツキガメ属>カミツキガメ

[タイプ産地] 

“Caldis regionibus”と記載されていたが,後にルイジアナ州ニューオーリンズ[11]及びニューヨーク市周辺[12]と規定された.[13]

[近縁種との分類学的関係]

チュウベイカミツキガメ(Chelydra rossignonii)及びナンベイカミツキガメ(Chelydra acutirostris)はかつて本種の亜種とされていたが,ミトコンドリアDNAの解析結果から,別種レベルに分化していることが明らかになった[14].なお,外来生物法では,本種に加え,これら2種も規制の対象となっている.[2]

体の特徴

[形態]

  • 頭は大きく,完全に甲羅にしまい込むことが出来ない.[10]
  • 背甲には3本の隆条があり,後縁はギザギザしている.[10]
  • 背甲の色は黄褐色,茶色,オリーブ色,黒色など多様である.[10]
  • 老齢個体は背甲がより滑らかになる.[10]
  • 腹甲は小さい.[10]
  • 日本の在来種に比べて尾が長いため,軌跡(左右足跡の間隔に対する尾跡の最大幅の割合)から生息を確認できるという報告がある.[15]
生態

[生活史]

  • 夜行性.[10]
  • 水温18~26 °Cで活発になる.[1]
  • 水底徘徊に特化しており[10],野外での発見が困難.[16]

[食性]

  • 肉食傾向の強い雑食性で,主に魚類,両生類,小型のカメ類,甲殻類,貝類,水生昆虫などを捕食するが,動物の死骸,藻類,水草,陸生植物の果実も食べる.[10]
  • 幼体は活発に餌を探しまわるが,成長するにつれて待ち伏せ型の採餌をするようになる.[10]
  • 千葉県印旛沼及び神奈川県で行われた消化管内容物の調査結果からは,アメリカザリガニとヨシの割合が半分以上を占めていた.[8,16]
  • 国内において,その他にも魚類,種子,藻類,枝葉,昆虫,両生類,貝類などの捕食・採食が確認されている[15].大型個体の消化管からは,鳥類(ゴイサギ[8],カイツブリ[16]),哺乳類(イタチ[8],アズマモグラ[16]),クサガメ[20]なども確認されている.

[捕食]

  • 原産地では,本種の成長個体の主な捕食者はワニ,カワウソ,コヨーテなどである[10]ため,国内において潜在的な天敵が存在しないことが本種の定着を可能にした要因の1つとされている.[4,8]
  • 原産地では,幼体や若い個体はサギ・タカ類に捕食される.[10]
  • 原産地では,本種は卵の段階での捕食に最も弱い.国内でも本種の卵の被食は確認されている[21]が,卵の死亡率は原産地よりも低く,個体群の増大につながっていると考えられる.[22]

[繁殖]

  • 原産地(テネシー州,米国)[10,17]及び国内(印旛沼)[18]で,5~6月に産卵することが確認されている.
  • 一度の産卵数は,平均35個,最大104個.[19]
  • 一般的には,1年に一度産卵.[10]
  • 交尾は水中でなされる.雌が深さ10~13 cmの巣穴を掘って産卵.[1]
  • 幼体は55~125日で孵化するが,孵化が翌年になることもある.[10]

[卵]

  • 白色球状で直径23~33mmほど.[10]
その他

[その他]

  • 米国からペットとして持ち込まれた個体が遺棄され,各地で野生化している.本種は大型で繁殖力も強いため,競合及び捕食により,在来のカメを始めとする国内の淡水生物相に重大な影響を与えうる.[4,16]
  • 本種は気性が荒く,顎の力が強いためヒトへの危害が懸念される.また,漁具を破損したり,漁獲物を食害することも考えられる.[4]

執筆者:鈴木洋平


引用・参考文献

  1. Steyermark, A. C., M. S., Finkler and R. J. Brookseds. 2008. Biology of the snapping Turtle (Chelydra serpentina). The Johns Hopkins University Press, Baltimore. 225 p.
  2. 環境省ホームページhttps://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list/L-ha-01.html参照2021-05-31.
  3. 佐賀県ホームページhttps://sy.pref.saga.lg.jp/kenseijoho/jorei/reiki_int/reiki_honbun/q201RG00001309.html参照2021-05-31.
  4. 安川雄一郎. 2002. カミツキガメ. 94 p. 日本生態学会(編). 外来種ハンドブック. 地人書館. 東京.
  5. Kobayashi, R., M. Hasegawa, and T. Miyashita. 2006. Home range and habitat use of the exotic turtle Chelydra serpentinain the Inbanuma Basin, Chiba Prefecture, Central Japan. Current Herpetology25 (2) : 47-55.
  6. 佐藤方博,鈴木貫司. 2006. 東京都武蔵野地域におけるカミツキガメの確認状況. 爬虫両棲類学会報. 2006 (1): 56 (講演要旨).
  7. 加藤英明,衛藤英男.2012.静岡県狩野川水系におけるカミツキガメChelydra serpentina(Testudines, Chelidridae)の定着.東海自然誌,5号,p. 41-44.
  8. 天白牧夫,大澤啓志,勝野武彦.2015. 神奈川県内の水辺公園におけるカミツキガメの定着要因と防除成果. ランドスケープ研究,78 (5): 667-670.
  9. 国立環境研究所 侵入生物データベースhttp://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/30010.html 参照2021-05-30.
  10. Ernst, C.H., R.W. Barbour, and J.E. Lovich. 1994. Chelydra serpentina Snapping turtles. p. 2–18. In: Turtles of the United State and Canada.Smithsonian Institution Press, Washington DC, USA.
  11. Smith, Hobart M. and Edward H. Taylor. 1950. An annotated checklist and key to the reptiles of Mexico exclusive of the snakes. Bull. U. S. Nat. Mus.(199):~+ 253.
  12. Schmidt, Karl P. 1953. A Checklist of North American Amphibians and Reptiles. Sixth ed., Amer. Soc. Ichthyol. Herpetol.viii + 280 P.
  13. Gibbons, J.W., Novak, S.S. and Ernst, C.H. 1988. Chelydra serpentina(Linneaus), snapping turtle. Cat. Am. Amphib. Reptiles420: 1–4.
  14. Phillips, C.A., W.W. Dimmick and J.L. Carr. 1996. Conservation genetic of the common snapping turtle (Chelydra serpentina). Conservation Biology,v. 10, p. 397-405.
  15. 小林頼太.2007. 軌跡を用いたカミツキガメの生息確認法. 爬虫両棲類学会報. 2007(1):14-16.
  16. 辻井聖武,矢部隆,日野輝明.2012. 千葉県印旛沼水系における外来種カミツキガメ(Chelydra serpentina)の食性.名城大学農学部学術報告,48号,p.13-17.
  17. White, J.B. and G.G. Murphy. 1973. The reproductive cycle and sexual dimorphism of the common snapping turtle, Chelydra serpentina serpentinaHerpetologica, v. 29, p. 240-246.
  18. 自然環境研究センター.2014.平成25 年度印旛沼水系カミツキガメ捕獲指導及び防除手法開発事業報告書(千葉県委託業務).185 pp.
  19. Miller, K., G.F. Birchard, and G.C. Packard. 1989. Chelydra serpentina (common snapping turtle). Frecundity. Herpetol.  Rev. 20 :69.
  20. 加藤英明,石黒真帆,白輪剛史,小南陽亮.2015.カミツキガメChelydra serpentina(Testudines,Chelidridae)の消化管内容物から確認されたクサガメMauremys reevesii(Testudines,Geoemydidae)の記録.東海自然誌,8号,p. 1-3.
  21. 髙山順子,松沢陽士.2015.千葉県印旛沼水域において平成26 年度に確認されたカミツキガメの産卵巣、及び卵の被食.千葉県生物多様性センター研究報告,9: 1-8.
  22. 自然環境研究センター.2006.平成17 年度特定外来生物防除推進調査(カミツキガメ)業務報告書(環境省請負調査).70 pp.