タシロヤモリ

Hemidactylus bowringii Gray, 1845

爬虫綱>有鱗目>ヤモリ科>ナキヤモリ属>タシロヤモリ

概要

[大きさ] 

  • 頭胴長 40–55 mm [1],全長 100 mm程度 [2].

[説明]

  • 南アジアから東アジアにかけて分布するヤモリで,国内では奄美諸島を中心に生息している.
  • 人家から森林まで広く生息し,外灯にも集まる.
  • ホオグロヤモリとの競合による個体数の減少が懸念されている.

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2014選定 : 絶滅危惧Ⅱ類 [1].
  • 沖縄県レッドリスト2017選定 : 情報不足 [3].
分布

[分布]

  • 奄美大島,喜界島以南の琉球列島(沖永良部島以南では,物証を伴う記録は宮古島と多良間島に限られる.また,1980年代以降の報告例は奄美諸島に限られる) [1–5].日本では1965年に奄美大島から初めて記録されたが,人為的な移入の可能性も指摘されている[6].
  • 国外では台湾,馬祖島,香港,中国東部,南部などから,インドシナ半島北部,バングラデシュ,インド北部,ブータン,ネパールなど広範囲に分布 [1,2,3,7].

[生息環境]

  • 人家から森林まで広く生息 [8].
  • 市街地を含む民家,納屋,東屋,廃屋,その周辺の庭木,開けた低木林等に生息し,奄美大島では海辺でも見られる [1,9].
  • 常緑広葉樹の自然林や回復の進んだ二次林では確認されていない [1,4].
分類

[分類]

  • 爬虫綱>有鱗目>ヤモリ科>ナキヤモリ属>タシロヤモリ

[タイプ産地] 

  • 記載論文には記述がないが,Smith (1935)は香港としている [10].

[説明]

  • Carranza & Arnold (2006)による分子系統解析では,ナキヤモリ属は大きく5系統に分かれると推定された.本種が属する”Tropical Asian clade”はアジアを中心に広く分布する種から構成されるグループと東南アジアに分布する種から構成されるグループに大別され,本種は後者に分類された [11].
  • Bansal & Karanth (2010)による分子系統解析の結果,”Tropical Asian clade”が5つのグループから成ることが判明した [12].本種は特に,H. karenorumおよびH. garnotiiに近縁であるとされる[11,12].
体の特徴

[形態 [1,7,13,14]]

  • 背面の地色は淡褐色または黄色味を帯びた淡灰褐色.
  • 背面には暗褐色または黒褐色の不規則な斑紋や縦条が見られる.
  • 背面は細かい顆粒状の鱗からなり,大型の結節状鱗は見られない.
  • 腹面は黄白色または白色.
  • 頭部の側面に,鼻孔から耳孔上部に延びる白い縦条がある.
  • 前・後肢とも第1指は比較的発達している.
  • 指下板は中央でほぼ二分する.
  • 尾はやや幅広い楕円形であり,大型鱗の環状列は見られない.
  • 尾には黒褐色の横帯を備えていることが多い.
  • 雄の総排泄腔に23–31個の前肛孔があり,中央で孔のない2, 3枚の大型鱗によって隔てられている.

[似た種との違い]

オガサワラヤモリ(Lepidodactylus lugubris),オンナダケヤモリ(Gehyra mutilata)との違い

  • 本種は第1指の末端節が発達し,その先端に明瞭な爪がある.

ホオグロヤモリ(Hemidactylus frenatus)との違い

  • 本種には背面の大型の顆粒状の鱗や尾のトゲ状の鱗がない.

アマミヤモリ(Gekko vertebralis),オキナワヤモリ(Gekko sp.),ミナミヤモリ(Gekko hokouensis)との違い

  • 本種は指下板が二分する.
生態

[食性]

  • 鱗翅類,双翅類(喜界島),シロアリ(奄美大島)の捕食が確認されている [1].

[繁殖]

  • 香港で行われた調査によると,産卵は3月下旬に始まり,8月下旬まで続く.孵化は6月下旬から9月下旬に起こり,孵化に要する期間は30–45日である [8].

[卵]

  • 飼育下で行われた研究によると,長径9.1 mm,短径7.5 mm程度の卵を一度に2個産む [15].

[幼体]

  • 飼育下で行われた研究によると,孵化直後の幼体は頭胴長20 mm程度である [15].
  • 香港で行われた研究によると,孵化から9–11か月で成熟することが示唆されている [8].
その他

[その他]

  • 夏季の夜間,灯火に集まる昆虫類を捕食することが確認されている.一方,生態的に競合するホオグロヤモリがいる場所では,比較的暗い部分にいる傾向にある [16].
  • 台北で行われた調査によると,本種は餌場をめぐって同種間で争うことがあり,その結果として尾の消失した個体も多い [17].
  • ホオグロヤモリとの餌やシェルターを巡る競合による,個体数の減少が危惧されている [1,9].

執筆者:鈴木洋平


引用・参考文献

  1. 太田英利.2014. タシロヤモリ. “レッドデータブック2014-日本の絶滅のおそれのある野生動物 3 爬虫類・両生類”, 環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室(編),東京都,38–39.
  2. 千石正一.1979. 原色/両生・爬虫類.家の光協会,p. 23.
  3. 戸田守.2017. タシロヤモリ. “改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版(動物編)”,沖縄県環境部自然保護課(編),沖縄県,216.
  4. Ota, H., 1986. A review of reptiles and amphibians of the Amami Group, Ryukyu Archipelago. Mem. Fac. Sci., Kyoto Univ. (Biol.) , 11: 57–71.
  5. 当山昌直.1976.宮古群島の両生爬虫類相(I).爬虫両棲類学 雑誌,6(3): 64–74.
  6. 柴田保彦. 1965. タシロヤモリの奄美大島からの記録. 大阪市立自然科学博物館研究報告 (18): 1-2.
  7. McMahan C.D. and G. R. Zug. 2007. Burmese Hemidactylus (Reptilia, Squamata, Gekkonidae): Geographic Variation in the Morphology oi Hemidactylus bowringii in Myanmar and Yunnan, China. Proc. Calif. Acad, Sci, 58(24): 485–509.
  8. Lazell, J. 2002. The herpetofauna of Shek Kwu Chau, South China Sea, with descriptions of two new colubrid snakes. Memoirs of the Hong Kong Natural History Society 25:1–82.
  9. Kurita, T. 2013. Current status of the introduced common house gecko, Hemidactylus frenatus (Squamata: Gekkonidae), on Amamioshima Island of the Ryukyu Archipelago, Japan. Cur. Herpetol., 32 (2): 50–60.
  10. Smith, M.A. 1935. The Fauna of British India, including Ceylon and Burma. Reptilia and Amphibia. Vol. II— Sauria. Taylor and Francis Ltd., London, UK. 440 pp.
  11. Carranza, S. and E. N. Arnold. 2006. Systematics, biogeography, and evolution of Hemidactylus geckos (Reptilia: Gekkonidae) elucidated using mitochondrial DNA sequences. Mol. Phylogenetics Evol. 38(2): 531–545.
  12. Bansal, R. and K. P. Karanth. 2010. Molecular phylogeny of Hemidactylus geckos (Squamata: Gekkonidae) of the Indian subcontinent reveals a unique Indian radiation and an Indian origin of Asian house geckos. Mol. Phylogenetics Evol. 57(1): 459–465.
  13. Ota, H., 1989. A review of the geckos (Lacertilia: Reptilia) of the Ryukyu Archipelago and Taiwan. In: M. Matsui, T. Hikida and R. C. Goris (eds.), Current Herpetology in East Asia, pp. 222–261. Herpetological Society of Japan, Kyoto.
  14. 中村健児・上野俊一. 1963. 原色日本両生爬虫類図鑑. 保育社. 大阪.
  15. Xu, D. and J. Xiang . 2007. Sexual dimorphism, female reproduction and egg incubation in the oriental leaf-toed gecko (Hemidactylus bowringii) from southern China. Zoology 110 (1): 20–27.
  16. Otsuka, K. and H. Ota . 1987. Illuminance conditions of activity sites and behavioral interactions in two Hemidactylus species from Taiwan . The abstracts of papers presented in the 34th Annual Meeting of the Ecological Society of Japan. p. 192.
  17. Liang, Y. S. and C. S. Wang. 1975.The lizards found from Taipei Hsien, Taiwan. Q. J. Taiwan. Mus. 28 (3–4): 431–482.