ミヤコカナヘビ

Takydromus toyamai (Takeda & Ota, 1996)

爬虫綱>有鱗目>カナヘビ科>カナヘビ属>ミヤコカナヘビ

概要

[大きさ] 

  • 頭胴長 45–60 mm,全長 160–220 mm程度 [1].

[説明]

  • 宮古諸島にのみ生息する日本固有種.
  • 個体数は近年急速に減少している.

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020選定 : 絶滅危惧IA類.
  • 沖縄県レッドリスト2017選定 : 絶滅危惧IB類.
  • IUCNレッドリスト選定 : 絶滅危惧IB類.
  • 環境省選定 : 国内希少野生動植物種(2016)
  • 沖縄県指定 : 天然記念物(2019)
  • 宮古島市自然環境保全条例指定種(2005)
分布

[分布]

  • 宮古諸島固有種.宮古島,池間島,大神島,伊良部島,下地島,来間島に分布 [2].

[生息環境]

  • 開けた草地やサトウキビ畑に生息 [3].
  • 森林から農耕地,集落内の緑地,市街地に至るまで,生息環境は多岐に渡る [4,5].
  • 主に草の上や低木の枝の上で活動するが,地表に降りる場合もある [1].
分類

[分類]

  • 爬虫綱>有鱗目>カナヘビ科>カナヘビ属>ミヤコカナヘビ

[タイプ産地] 

  • 平良 (宮古島) [3]

[説明]

  • Arnold (1997)は,外部形態に拠る系統解析結果に基づいてTakydromus属をTakydromus亜属とPlatyplacopus亜属の2グループに分類した.本種はアオカナヘビ(T. smaragdinus)および台湾に分布するT. sauteriと共に,Platyplacopus亜属に再分類された [6].
  • Lin et., al. (2002) およびOta et., al. (2002) による分子系統解析結果によって上記の仮説は棄却され,本種が中国に分布するキタカナヘビ(T. septentrionalis)および台湾に分布するスタイネガーカナヘビ(T. stejnegeri)に近縁であることが判明した [7,8].
体の特徴

[形態] [1,6,9]

  • 鼻先を含め,非常に細身な体型.
  • 全長の4分の3程度を尾が占める.
  • 体はほぼ一様に鮮やかな緑色で雌雄同色.
  • 四肢の先端は褐色または赤褐色を呈する.
  • 咽頭板は3対.
  • 喉板が耳孔の位置まで発達
  • 腹板にキールがある.
  • 腹面にある大型鱗列が8列.
  • 鼠径孔は1対.

[食性]

  • 昆虫,クモ等の小型節足動物 [1].

[捕食者]

  • リュウキュウアカショウビン [10],アシダカグモ [11],ノネコ [5,9],外来性捕食者であるニホンイタチ [1,12]による捕食例が報告されている他,インドクジャクによる捕食も指摘されてる [1].
  • 台湾に生息するミドリマダラカナヘビ(T. viridipunctatus)を対象とした研究では,アマサギ,チョウゲンボウ,アカモズ等の鳥類による捕食が主要な死亡要因であることが報告されている [13].これらの鳥類は宮古諸島にも生息しており,本種の主な捕食者になっていると考えられる [14].

[繁殖]

  • 繁殖期は非常に長く,3月–9月に及ぶ [14].
  • 交尾時には雄が雌の横腹に噛みつく [15].
  • 5月–6月に孵化した雌は,孵化後76日–120日程度で抱卵すると推定されている [14].
  • 飼育下で行われた観察により,本種の抱卵期間は40–50日と報告されている [16].
  • 多くの個体の寿命は1年未満であり,特に雌は雄より短命である傾向にある [14].
  • 本種は個体群中に年2化的な個体と年1化的な個体が混在する珍しい生活史特性を有する.本特性は宮古諸島の温暖な気候によるものであり,本種の個体群維持にも大きく関与している可能性が高い [14].

[卵]

  • 草の根元や土中の浅部に産卵 [1].
  • 1回の産卵数は1–3個であり,7割強の雌が一度に2個産卵することが報告されている.ただし,10–12月に産卵する場合,産卵数は1個となる [14].
  • 1か月程度で孵化する.[1]

[幼体]

  • 孵化直後の幼体は頭胴長25–26 mm程度である [17].
  • 幼体の加入期は長く,5月–11月に及ぶ [5,14].
  • 幼体の初期成長は早く,温暖な時期には0.3 mm /日の速度で成長し,孵化後2.5ヶ月–3ヶ月で性成熟する [14].
その他

[その他]

  • かつては農地や民家周辺の草地などの人の生活圏を含む様々な環境でみられる普通種であった [3,18,19].
  • 土地開発による生息地の消失,捕食性外来種による食害,農薬散布による悪影響,違法採取などの複合的な要因により,1990年代後半頃から個体数が減少していったと推定されている [1,5].
  • 本種は高密度生息地内で集中分布をしており,個体群の維持には生息密度そのものが重要な条件の1つである可能性が示唆されている.したがって,生息地が分断されないよう対策することが,本種の個体数を回復させる上で必要と考えられる [20].

執筆者:鈴木洋平


引用・参考文献

  1. 竹中践.2014. ミヤコカナヘビ. “レッドデータブック2014-日本の絶滅のおそれのある野生動物 3 爬虫類・両生類”, 環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室(編),東京都,6–7.
  2. 前之園唯史,戸田守.2007.琉球列島における両生類および陸生爬虫類の分布.Akamata (18): 28-46.
  3. Takeda, N. and H. Ota. 1996. Description of a new species of Takydromus from the Ryukyu Archipelago, Japan, and a taxonomic redefinition of T. smaragdinus Boulenger 1887 (Reptilia: Lacertidae). Herpetologica 52: 77–88.
  4. 才木美香,新城宗史,久貝春陽,戸田守.2018.住民からの目撃情報に基づくミヤコカナヘビ(爬虫綱:有隣目:カナヘビ科)の分布状況.沖縄生物学会誌(56):1–10.
  5. 戸田守,高橋洋生.2018.ミヤコカナヘビの保全―現 状と今後の展望―.爬虫両棲類学会報2018:187– 193.
  6. Arnold, E.N. 1997. Interrelationships and evolution of the east Asian grass lizards, Takydromus (Squamata: Lacertidae). Zoological Journal of the Linnean Society, 119(2), 267-296.
  7. Lin, S.M., C.A. Chen, and K.Y. Lue. 2002. Molecular phylogeny and biogeography of the grass lizards genus Takydromus (Reptilia: Lacertidae) of East Asia. Molecular Phylogenetics and Evolution, 22(2), 276-288.
  8. Ota, H., M. Honda, S.L. Chen, T. Hikida, S. Panha, H.S. Oh, and M. Matsui. 2002. Phylogenetic relationships, taxonomy, character evolution and biogeography of the lacertid lizards of the genus Takydromus (Reptilia: Squamata): a molecular perspective. Biological Journal of the Linnean Society, 76(4), 493-509.
  9. 戸田守,当山昌直.2017. ミヤコカナヘビ. “改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版(動物編)”,沖縄県環境部自然保護課(編),沖縄県,186–187.
  10. 植村慎吾,浜地歩.2020. アカショウビン.Bird Research News 17(5), 1-2.
  11. 安里瞳.2021. アシダカグモによるミヤコカナヘビの捕食例.Akamata (30): 10-12.
  12. 河内紀浩, 中村泰之, 渡邉環樹. 2018. 国内由来の外来種ニホンイタチ Mustela itatsi による絶滅危惧種ミヤコカナヘビ Takydromus toyamai の捕食. 哺乳類科学 58(1), 73-77.
  13. Lin, J. W., Y.R. Chen, Y.H. Wang, K.C. Hung, and S.M. Lin. 2017. Tail regeneration after autotomy revives survival: a case from a long-term monitored lizard population under avian predation. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 284(1847), 20162538.
  14. Asato, H. and M. Toda. 2025. Precocious maturation and semi-multivoltine lifecycle in a subtropical grass lizard, Takydromus toyamai. Current Zoology, 71(2), 184-195.
  15. 笹井隆秀,才木美香,戸田守.2016. ミヤコカナヘビの繁殖行動の観察および体表面の咬み痕について. Akamata (26): 19-24.
  16. 齋藤祐輔.2023. 上野動物園のミヤコカナヘビ 生息域外保全の取り組みについて.どうぶつと動物園 (75): 14–19.
  17. 持田浩治,竹中践,戸田守.2014.ミヤコカナヘビの孵化幼体サイズの一例報告.Akamata (24): 29-31.
  18. 当山昌直.1976.宮古群島の両生爬虫類(I).爬虫両棲 類学雑誌5:64–74.
  19. 立津槙斗,神里秀美,徳嶺夏南子,徳嶺美南子,上地翔平,伊川佳那,石川作実,儀間朝宜,権田雅之,戸田守,才木美香, 2022. 聞き取り調査に基づくミヤコカナヘビ(爬虫綱:有鱗目)の過去の生息状況. 沖縄生物学会誌(60):1-10.
  20. 安里瞳, 高橋洋生, 戸田光彦, 戸田守. 2023. 国内希少種ミヤコカナヘビにおいてなにが個体群の成長を妨げているのか? 生息密度勾配の把握と集団構造解析によるアプローチ―ミヤコカナヘビ研究グループ―. 自然保護助成基金助成成果報告書, 32, 49-55.