マダラウミヘビ

Hydrophis cyanocinctus Daudin, 1803

爬虫綱 > 有隣目 > ヘビ亜目 > コブラ科 > ウミヘビ亜科 > ウミヘビ属 > マダラウミヘビ

  • 現状では、琉球列島において本種とクロガシラウミヘビを形態から区別することはできない[9, 11, 19]。写真はマダラウミヘビとは確定できないが、本種の特徴[7]を持つ沖縄本島産の個体[25]。
概要

[大きさ] 

  • 最大全長 275 cm [3]。

[説明]

  • 完全海棲で自ら陸に上がることのない、胎生ウミヘビ類の中でも最大級の種。
  • ペルシャ湾から琉球列島まで広範囲に分布するが、琉球列島内では別種クロガシラウミヘビと混同され、現状では両種は形態的に区別できない。
  • クロガシラウミヘビと同様に猛毒を持つため注意が必要。沖縄県内で本種と同定された個体による咬症例がある。
  • アナゴ類やハゼ類といった底生魚類を捕食する。

[保全状況]

  • IUCNレッドリスト:低危険種(LC)
  • ペルシャ湾ではエビ用の漁網にかかって傷つく事例が多く、漁業が本種の個体数に悪影響を及ぼしている可能性がある[23]。
  • ベトナムでは本種とトゲウミヘビ(Hydrophis curtus)が食用や薬用のため毎年多数漁獲されており、個体数の減少が危惧される。また漁民が漁獲時に受けたウミヘビ咬症をサイの角によって治療しようとする例が後を絶たず、南アフリカのサイ類の密猟に繋がっていることが懸念される[2]。
分布

[分布]

  • 琉球列島からペルシャ湾、オーストラリア北部まで分布[4, 5, 7]。ただし、オーストラリアの個体群は別種Hydrophis pacificusとする文献もある[12]。

[生息環境]

  • 海の沿岸域に生息する。砂泥底でよく見られる。ペルシャ湾では河口域のマングローブ環境で最もよく見られるウミヘビの種である[13, 23]。
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有隣目 > ヘビ亜目 > コブラ科 > ウミヘビ亜科 > ウミヘビ属 > マダラウミヘビ

[タイプ産地] 

  • インド、カルカッタ近郊の海水の入りこんだ河川(Daudin, 1803: p. 374)

[説明]

  • 本種が属するHydrophis属は現生の爬虫類の中でも最も急速な種分化を遂げてきた分類群である。本属は150–750万年に共通祖先が存在したとされ[14–16]、2021年現在では50種近くが知られている[17]。
  • ミトコンドリアDNAおよびマイクロサテライトを用いた分子系統解析から、マダラウミヘビはインド洋に生息する西側の系統と、東南アジアから東アジアにかけて生息する東側の系統に大きく分かれることが知られる。また、マイクロサテライトによる系統は、東側の系統からさらにクロガシラウミヘビ (H. melanocephalus) 、H. coggeriH. parvicepsの3種が分化したことを示唆している。したがって、現在マダラウミヘビとされる西側と東側の系統はそれぞれ別種として扱うべきだと考えられる。さて、マイクロサテライトを用いた解析では東側のマダラウミヘビと他3種はそれぞれ単系統群を示し、現状の種の分類と合致するのに対し、ミトコンドリアDNAによる系統では、東側のマダラウミヘビとクロガシラウミヘビは多系統群を示す。これは急速な種分化の中で、ミトコンドリアDNAが種間交雑に伴う遺伝子浸透の影響を受けたためと考えられる[7]。
  • 正式に日本産のマダラウミヘビとして保存されている標本は沖縄島の安謝で採集された1個体のみである[9]。
  • Tandavanitj (2013[9])は、琉球列島におけるマダラウミヘビとクロガシラウミヘビを含む系統(マダラウミヘビ–クロガシラウミヘビ複合種群[10, 11])のサンプル、およびSanders et al. (2013[7])の東側のマダラウミヘビと東南アジア産クロガシラウミヘビ、およびその近縁種を含めたミトコンドリアDNA分子系統解析をおこなった。その結果、琉球列島産個体をそれぞれ含む2つの単系統群が認められた。両系統群は少なくとも沖縄諸島において同所的に生息する。しかし両系統群はどちらも、Sanders et al. (2013[7])で示される東側のマダラウミヘビ、および東南アジア産のクロガシラウミヘビの個体を含むため、この2系統はマダラウミヘビ(東側)とクロガシラウミヘビという種の区分と対応しているわけではないと考えられる。これは前述にように遺伝子浸透の影響によるものと考えられる。
  • 東南アジアにおいては、マダラウミヘビは頭胴長が1 mを超え、胴周長が頚周長の2倍未満となり、クロガシラウミヘビおよびH. coggeriH. parvicepsは頭胴長が1 mを超えることは稀で、胴周長は頚周長の2倍以上となることで区別される[7]。なお、この形態の違いは、マダラウミヘビがアナゴ類、ウツボ類、ハゼ類といった比較的幅の大きな魚類を捕食するのに対し、他3種はより細長く、穴に潜む性質のあるウミヘビ科魚類の捕食に特化したことと関連していると考えられる[7, 16]。一方、Toriba (1994[8])は日本産ウミヘビ類の識別法を示し、マダラウミヘビは眼が小さくてその直径が眼下幅より小さいのに対し、クロガシラウミヘビでは眼の直径が眼下幅より大きいとした。しかし、後の形態学的再検討の結果、これらの識別法は日本産標本については当てはまらないことがわかった[9, 11]。マダラウミヘビ–クロガシラウミヘビ複合種群について、さらなる分子系統・形態学的解析に基づく分類学的再検討が待たれる。
体の特徴

[形態][1, 3, 4, 5, 6, 7]

  • 最大全長275 cm[3]。尾長は全長の7–10%程度を占める[6]。
  • 体鱗列数は頸部で27–35、胴部で37–47。腹板数270–390[3]。
  • 体色の変異は大きい。背面は黄緑色あるいは灰色で、腹面は白っぽい。黒あるいは暗く青みがかった環帯が体全体に多数入る。環帯は胴部を一周し、背面で幅広い場合、胴部を一周し、幅が均一の場合、背面で幅広く、腹面に向かうにつれて細くなり、消失する場合とがある。大型個体では横帯が不明瞭となる[3]。
  • 東南アジア産の本種の標本を調べた研究では胴周長は頚周長の1.2–1.8倍となり、本種はウミヘビ科魚類専食者である近縁種(H. melanocephalusH. parvicepsH. coggeri)に比べて首が太く頭部が大きいとされる[7]。

[似た種との違い]

クロガシラウミヘビとの違い

  • 「分類」の項目で述べたように、現状では日本産個体に関して、マダラウミヘビかクロガシラウミヘビかを形態的に判別することはできない。今後の分類学的研究が望まれる。
生態

[食性]

  • アナゴ科とウツボ科に属する細長い魚類や、トビハゼを含むハゼ類を捕食する[7, 13]。
  • 飼育下ではミナミゴンズイPlotosus lineatusを捕食した例がある[18]。

[捕食]

  • 他のウミヘビ類同様、サメ類に捕食される可能性がある[14]。

[繁殖]

  • マレーシアでは1–4月に妊娠個体が捕獲されている[20]。
  • スリランカでは5、10月に妊娠個体が捕獲されている。妊娠個体の全長は97–130 cm[21]。
  • インド南東部で9–10月に捕獲された多数の妊娠個体が2月に頭胴長30–40 cm程度の仔を3–5匹出産した記録がある。妊娠個体の全長は115–200 cmで、母親の全長が大きいほど産仔数が多い傾向がある[18]。

[毒性]

  • 本種は上顎の前方に毒牙を持つ。毒液から17種類のタンパク質が同定されており、神経毒成分および筋肉毒成分が主である。マウスを用いた半数致死量は血管注射の場合0.132 μg/gとかなり低く、毒性は非常に強い[22]。
  • 沖縄県や奄美大島で本種またはクロガシラウミヘビ(方言名クビグヮー、クビーグワ)による死亡例がいくつかある[26, 27]。死亡例には子供が多い。
  • 1989年に沖縄県那覇新港で、本種と同定された全長167.1 cmの大型の雌個体を釣り上げた成人男性が個体を食用にするため胃内容物をしごき出していたところ咬まれた記録がある[26]。咬症約3時間後から筋肉痛や目の異常、ミオグロビン尿(イカの墨汁のような色)などの症状があり、15時間後には複視、眼瞼下垂、診察を受けた17時間にはさらに咬筋のけいれん、四肢の脱力、筋自発痛、筋把握痛、筋硬直が著しかったが、約1ヶ月後に回復し退院した。
  • ベトナムで本種によるものとされる咬症死亡例がある[2]。
  • 上記咬症例の多くは漁師が漁網の作業中に手で掴んだり、無理に捕獲して陸上で刺激したり、子供がいたずらして触ったときに起こっている。海中でヒトが何もしないのにいきなりウミヘビの方から咬みついてきたというケースは知られていない。遊泳中にウミヘビに攻撃される確率は、溺れたり、サメに襲われたり雷に打たれたりする確率よりずっと低いと言われている[28, 29]。
  • 現在日本ではウミヘビ抗毒素を常備していないため、ウミヘビ咬症患者の治療には困難が予想される[26]。

[外部寄生者]

  • 佐渡島沿岸に漂着した本種あるいはクロガシラウミヘビとされる個体から、ウミヘビフジツボ(Platylepas ophiophila)が約50個体採集された記録がある[24]。
その他

[文化]

  • 沖縄諸島や八重山諸島の方言名ではHydrophis属の3種(マダラウミヘビ、クロガシラウミヘビ、クロボシウミヘビ)はクビグヮー、クビグヮーイラブー、カジグヮなどと呼ばれることがあり、これらは気性が荒く危険ということで、比較的おとなしく食用になるLaticauda属のウミヘビ(イラブー)と区別されている。クビグヮーはうなじ、首すじ、首の後部を意味する。また、マダラウミヘビだけはカジグヮーイラブーという別名もある。イラブー漁が盛んな久高島ではHydrophis属をンジャナシと呼ぶ[26]。宮古諸島ではヤウピャウ、ヤマガラ、ヤマガラウナズと呼ばれる[27]。
  • ベトナムなど東南アジアの一部では、食用、薬用、皮革製品のため漁獲される[2]。

執筆者:藤島幹汰(最終更新2025年1月24日)


引用・参考文献

  1. Daudin, F. M. 1803. Histoire Naturelle, Générale et Particulière des Reptiles. vol. 7. Paris: Dufart, 436 pp.
  2. Nguyen, V. C., Nguyen, T. T., Moore, A., Montoya, A., Rasmussen A. R., Broad, K., Voris, H. K., and Takacs, Z. Sea snake harvest in the Gulf of Thailand. Conservation Biology 28, no. 6 (2014): 1677-1687.
  3. Rasmussen, A. R., Elmberg, J., Gravlund, P., & Ineich, I. (2011). Sea snakes (Serpentes: subfamilies Hydrophiinae and Laticaudinae) in Vietnam: a comprehensive checklist and an updated identification key. Zootaxa2894(1), 1-20.
  4. David, P. & Ineich, I. (1999) Les Serpents venimeux du monde: systématique et répartition. Dumerilia(Paris), 3, 3–499.
  5. Rasmussen, A. R., Sanders, K. L., Guinea, M. L., & Amey, A. P. (2014). Sea snakes in Australian waters (Serpentes: subfamilies Hydrophiinae and Laticaudinae)—a review with an updated identification key. Zootaxa3869(4), 351-371.
  6. Damotharan, P., Arumugam, M., Vijayalakshmi, S., & Balasubramanian, T. (2010). Diversity, biology, and ecology of sea snakes (Hydrophiidae) distributed along the Parangipettai Coast, southeast coast of India. International Journal of Current Research4, 62-69.
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  8. Toriba, M. (1994). Sea snakes of Japan. In. P. Gopalakrishnakone ed.Sea snake toxinology, pp. 206-211. Coronet Books Inc.
  9. Tandavanitj N (2013) Population genetics and taxonomic study of laticaudine and hydrophiine sea snakes in the islands of East Asia. Ph.D. Thesis. Graduate School of Engineering and Science, University of the Ryukyus
  10. 吉郷英範.2020.庄原市比和科学博物館に収蔵されている爬虫類のウミヘビ類(有鱗目:コブラ科)と日本産既知種の判別.比和科学博物館標本資料報告. 20: 52–73.
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