ヤマトサンショウウオ

Hynobius vandenburghi Dunn, 1923

両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属 > ヤマトサンショウウオ

  • オスの成体(滋賀県)
概要

[地方名]

ハタケドジョウ(奈良県)、ヤブドジョウ(滋賀県)[5]

[英名]

Yamato Salamander [4]

[大きさ]

全長 7 – 13 cm [7]頭胴長 4.5 – 7 cm [4]

[説明]

  • カスミサンショウウオとされていたが、近年、形態的、遺伝的な違いから再記載された
  • 中部地方西部から近畿地方にかけて分布する
  • 2月から5月に水たまりや水田の溝、湿地などにコイル状の卵嚢を産む

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020:絶滅危惧II類
  • 岐阜県レッドデータブック(動物編)改訂版:絶滅危惧I類(カスミサンショウウオとして)
  • レッドデータブックあいち2020:絶滅危惧IB類
  • 三重県レッドデータブック2015:絶滅危惧II類(カスミサンショウウオとして)
  • 滋賀県で大切にすべき野生生物-滋賀県版レッドリスト-:希少種(カスミサンショウウオとして)
  • 京都府レッドデータブック2015:絶滅寸前種(カスミサンショウウオとして)
  • 大阪府レッドリスト2014:絶滅危惧I類(カスミサンショウウオとして)
  • 奈良県版レッドデータブック 2016 改訂版:絶滅寸前種(カスミサンショウウオとして)
  • 京都府および奈良県の特定希少野生動植物
分布

[分布]

  • 中部地方西部から近畿地方(愛知県、岐阜県、滋賀県、三重県、京都府、大阪府、奈良県)

[生息環境]

  • 丘陵地の水田や湿地の周辺などに生息する[4][7]
分類

[分類]

  • 両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属 > ヤマトサンショウウオ

[タイプ産地] 

  • 奈良県[4]

[学名の意味]

種小名のvandenburghiはカリフォルニア科学アカデミーの爬虫両生類の学芸員であったJohn Van Denburgh氏への献名[4]

[説明]

  • 本種はDunnによって1923年にH. vandenburghiとして記載された[1]が、その後、佐藤(1934)はカスミサンショウウオH. neblosusのシノニムであるとした[5]。その後、長きに渡って、カスミサンショウウオとされていたが、2019年に遺伝的、形態的な違いから再記載され、ヤマトサンショウウオH. vandenburghiの名前が復活した[4]。
  • 本種の愛知県の個体群はかつてトウキョウサンショウウオとされていた[6]が、Matsui et al. (2001)のアロザイムを用いた研究によって、カスミサンショウウオとされ[3]、Matsui et al. (2019)によってヤマトサンショウウオとされた[4]。また、愛知県の個体群はオワリサンショウウオHynobius sp.とされていたこともある[10]。
  • 系統的にはトウキョウサンショウウオH. tokyoensisに近い[4]。愛知県の一部(知多半島から瀬戸市、名古屋市にかけての地域)からは他地域(近畿地方、岐阜県、渥美半島)の個体群と大きく異なる遺伝子型を持つ個体群が知られており、名古屋市内からはそれら2系統が両方見つかっている[2][4][8]。
体の特徴

[形態][4]

  • 背面は黒褐色で多くの場合斑紋がないが、黒点を持つ個体もいる。腹面は背面よりも明るく、多くの場合紋がないが、銀色の小点を持つ個体もいる。尾の上下面に黄色の条線を持つ。繁殖期のオスの喉の下面は白くなる。
  • 体は大きく、前後肢は短い。尾は短く頭胴長の70%程度の長さ。肋条数は13。
  • ほとんどの個体で後肢の第五趾を持つ。

[似た種との違い][4]

カスミサンショウウオ種群(カスミ、サンイン、セトウチ、ヒバ、アキ、イワミ、アブ、ヤマグチ)の他種とは、胴が長いこと、肋条数が13であること、助骨歯列の幅が狭く長さが短いこと、後肢の第五趾を持つこと、尾の上下面に黄色の条線を持つことなどで識別できる。また、基本的にこれらの種とは分布域が重ならない。

生態

[食性][9]

節足・環形・軟体動物などを捕食する。

[繁殖]

  • 繁殖期は2月~5月で、丘陵地の水たまりや水田の溝、湿地などに産卵する[4][8]。
  • 性成熟は2歳以降と考えられている[9]。

[卵][4]

  • 卵嚢はコイル状で皺が入る。
  • 卵数は65–113。
  • 落ち葉や植物の根などに産み付けられる。

[幼生][8]

基本的に生まれた年に変態して上陸する。

[寿命][9]

  • 野外での寿命は不明であるが、飼育下では京都市産の個体が15年生存した例がある。

執筆者:福山伊吹


引用・参考文献

  1. Dunn, E. R. (1923). New species of Hynobius from Japan. Proceedings of the California Academy of Sciences, 4th Series 12, 27–29.
  2. 藤谷武史, 能登原盛弘, & 熊澤慶伯. (2016). ミトコンドリア DNA 塩基配列を用いた名古屋市及び周辺地域におけるカスミサンショウウオの遺伝的多様性の研究. 爬虫両棲類学会報 2016 (1), 1-12.
  3. Matsui, M., Nishikawa, K., Tanabe, S., & Misawa, Y. (2001). Systematic status of Hynobius tokyoensis (Amphibia: Urodela) from Aichi Prefecture, Japan: a biochemical survey. Comparative Biochemistry and Physiology Part B: Biochemistry and Molecular Biology, 130(2), 181-189.
  4. Matsui, M., Okawa, H., Nishikawa, K., Aoki, G., Eto, K., Yoshikawa, N., Tanabe, S., Misawa, Y., & Tominaga, A. (2019). Systematics of the widely distributed Japanese clouded salamander, Hynobius nebulosus (Amphibia: Caudata: Hynobiidae), and its closest relatives. Current herpetology, 38(1), 32-90.
  5. 佐藤井岐雄. 1934. 頭骨の構造に基く”霞山椒魚群”の分類學的研究. 動物學雑誌, 46, 214–224.
  6. 佐藤井岐雄. 1943. 日本産有尾類総説. 日本出版社. 大阪. 536p.
  7. 関慎太郎, & 井上大輔編. (2019). 特盛山椒魚本. NPO法人北九州・魚部(ぎょぶる編集室).
  8. 島田知彦. (2020). ヤマトサンショウウオ. p. 203. 愛知県環境調査センター(編)レッドデータブックあいち 2020ー動物編ー. 愛知県.
  9. 田邊真吾, 松井正文. (2015). カスミサンショウウオ. p. 119. 京都府自然環境保全課(編)京都府レッドデータブック2015 第1巻野生動物編. 京都府.
  10. 内山りゅう, 前田憲男, 沼田研児, & 関慎太郎. (2002). 決定版日本の両生爬虫類. 336pp. 平凡社, 東京.