キクザトサワヘビ

Opisthotropis kikuzatoi (Okada et Takara, 1958)

爬虫綱>有鱗目>ヘビ亜目>ナミヘビ科>サワヘビ属>キクザトサワヘビ

概要

[大きさ] 

  • 全長 50–60 cm [4][9]

[説明]

  • 沖縄県久米島のごく一部の渓流にのみ生息する非常に希少なヘビ。無毒。
  • 国内に生息する唯一のサワヘビ。
  • 褐色の地にオレンジ色の小さい斑点が多数入る。
  • 渓流性でサワガニや小型甲殻類、オタマジャクシなどを捕食すると考えられる。
  • 生息地の破壊により絶滅が危惧されている。

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020:絶滅危惧ⅠA類
  • レッドデータおきなわ2017 : 絶滅危惧ⅠA類
  • 国内希少野生動植物種
  • 沖縄県天然記念物
分布

[分布]

  • 沖縄県久米島のみに分布する日本固有種。

[生息環境]

  • 半水性のヘビで、山地の森林内の渓流のみに生息する[4][9]。
分類

[分類]

  • 爬虫網>有鱗目>ヘビ亜目>ナミヘビ科>サワヘビ属>キクザトサワヘビ

[タイプ産地] 

久米島

[説明]

  • キクザトサワヘビは1958年にキクザトアオヘビLiopeltis kikuzatoiとして記載された[6]。その後、分類学的な再検討により、サワヘビ属Opisthotropisに移され、和名もキクザトサワヘビとされた[8]。
  • 同属の近縁種との分岐年代は約1500万年前とされている[5]。
体の特徴

[形態][4][8][9]

  • 背面は茶褐色でオレンジ色の斑点が体側上に並ぶ。腹面は淡黄色で尾部ではやや暗色を帯びる。
  • 外鼻孔はやや背方に開口する(水生のヘビによく見られる特徴)。
  • 前額板は1 枚だが、時々不完全な縦割れが見られ、2 枚に見える場合もある。
  • 胴部の大部分の鱗は滑らかだが、胴後部と尾部の一部の鱗には顕著な隆条をもつ。
  • 体鱗列数は胴中央部で15枚。
生態

[食性]

  • 野外で確認された食性としてクメジマミナミサワガニのみが知られていたが[3]、近年の文献では他にもベンケイガニ類、テナガエビ類、カエルの幼生も食べるとされる[7]。

[行動]

一年を通して活動し、飼育下では午前中に活動性が上がることが知られる[1]。野外では昼も夜も活動するが、4月から8月は昼に、9月から3月は夜に活動する傾向があることが知られる[3]。野外では主に水底を泳いでいるところや、水底の石の下にいるところが観察されているが[3][8]、飼育下では午前中は陸上で動き、夜間には水中で静止していることが多いことが知られている[1]。飼育下では12 分 30 秒、野外の渓流中の観察では、最低でも25 分間潜水した例が知られている[3]。

[繁殖]

知見はほぼないが、7月に採集され、10月まで飼育されたメスが卵巣内に発達途中の卵を11個持っていた例が知られる[2]。

その他

[コメント]

  • 国内に分布する唯一のサワヘビであり、同属の近縁種は中国大陸南部から東南アジアにかけて分布しています。本種の分布域は非常に限られており、開発や外来種など、存続を脅かす危機にさらされています。効果的な保全が進み、いつまでも本種が生息できる環境が保たれることを願うばかりです。

執筆者:福山伊吹


引用・参考文献

  1. Mori, A. and A. Nakachi. (1994). Laboratory observations on the daily activity of the endangered stream snake, Opisthotropis kikuzatoi (Reptilia, Squamata, Colubridae) from Kumejima Island, Japan. Island Stud. Okinawa, 12, 25–35.
  2. Ota, H. and A. Mori, 1985. On the fourth specimen of Opisthotropis kikuzatoi. The Snake, 17, 160–162.
  3. Ota, H. (2004). Field observations on a highly endangered snake, Opisthotropis kikuzatoi (Squamata: Colubridae), endemic to Kumejima Island, Japan. Current herpetology, 23(2), 73–80.
  4. 太田英利. (2014). キクザトサワヘビ. p. 8–9. In: 環境省(ed.), レッドデータブック2014 —日本の絶滅のおそれのある野生生物— 3爬虫類・両生類. (株)ぎょうせい, 東京.
  5. 太田英利・長崎哲新・河村功一・佐藤文保. (2019). 琉球列島久米島の固有種キクザトサワヘビ(有鱗目, ナミヘビ科)の系統学的, 生物地理学的位置について. 爬虫両生類学会報 2019 (1), 105.
  6. 岡田弥一郎・高良鉄夫. (1958). 琉球産アオヘビの一新種. 日本生物地理学会会報, 20(3), 1–3.
  7. 佐藤文保, 佐藤直美, 岩浅有記, 皆藤琢磨, & 太田英利. (2018). キクザトサワヘビ (有鱗目: ナミヘビ科) の保全に向けて (特集 日本における有鱗目の保全). 爬虫両棲類学会報, 2018(2), 197-203.
  8. Toyama, M., 1983. Taxonomic reassignment of the colubrid snake, Opheodrys kikuzatoi, from Kume-jima Island, Ryukyu Archipelago. Jpn. J. Herpetol., 10, 33-38.
  9. 当山昌直. (2017). キクザトサワヘビ. p. 181–182. In: 沖縄県環境部自然保護課(ed.), 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第 3 版(動物編)—レッドデータおきなわ—. 沖縄県環境部自然保護課, 沖縄.