モリアオガエル

Zhangixalus arboreus (Okada et Kawano, 1924)

両生綱 > 無尾目 > アオガエル科 > アオガエル属

概要

[大きさ] 

  • 体長 4–8 cm 雌のほうがずっと大型になる

[説明]

  • 樹上性でやや大型のカエル。本州と佐渡島に分布する。一般に丘陵地から山地の森林に住む。昆虫、クモ、ムカデなどを捕食する。繁殖期は4~7月で、池に張りだした樹上などに泡状の卵を産む。泡巣内のオタマジャクシは孵化すると雨と一緒に滴り落ちて水中に入る。秋ごろ変態し、2~3年で成熟する。

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020未掲載。ただし各都府県レベルでは絶滅危惧種に選定されている。[1]
  • 大揚沼(岩手県)と平伏沼(福島県)の繁殖地は国指定天然記念物。その他にも各県単位で天然記念物に指定されている。
分布

[分布]

  • 本州、佐渡島
  • 伊豆諸島は移入。千葉県・神奈川県も移入の疑いがあるが詳細は不明[15]

[生息環境]

  • 一般に山地の森林に生息し、2000mほどの高地まで見られる。ただし日本海側では海岸付近でも生息する。[9]
  • 繁殖期には池や水田といった止水近くの樹上で観察される。繁殖が終わると周辺の森に移動し、とくに高さ0.5~2mほどの低木上にいることが多いという。[12]
  • 本種が生息するためには、周囲が森で覆われていることが大切なようだ[7,21]。
分類

[タイプ産地] 

  • 衣笠山(京都府)

[説明]

  • 学名のarboreusは「樹上性」の意
  • 中部から東北にかけての個体群はやや小型で、暗色の斑紋がなく、背中の皮膚が滑らかであり、シュレーゲルアオガエルとの中間的ともいえる特徴を示す。そのため過去にキタアオガエルとして記載されたことがあるが、現在は同一種とみなされている。遺伝的にも、本州の東北部と南西部の個体群ではある程度の違いが見られる[6, 13]。
体の特徴

[形態]

  • 背面は緑色で、腹面は白色。背面に暗色の斑紋が出る個体と出ない個体とがある。
  • 鼻先は裁断状に切れず、尖る。指先の吸盤は幅広い。背中の皮膚はよく見ると細かい隆起が目立つ。

[似た種との違い]

  • ニホンアマガエルとは同所的に分布する。モリアオガエルには鼻先からわき腹にかけて走る黒や茶色の線が見られないことで区別できる。
  • ただし上陸直後の個体は鼻先が黒ずむことがあり、ニホンアマガエルと見間違えやすい。

(左)モリアオガエル:黒い線はなく、鼻先は尖る。
(右)ニホンアマガエル:鼻先から鼓膜にかけて黒い線がはしる。鼻先は裁断状にストンと切れる。

  • シュレーゲルアオガエルとは同所的に分布する。どちらも緑色のアオガエルだが、成体であれば大きさが異なるので容易に見分けられる。ただし小型のモリアオガエルと大型のシュレーゲルアオガエルでは体長が同程度で、識別しづらい。以下の点が見分けるのに役立つ。[17]
モリアオガエルシュレーゲルアオガエル
大型(成体で4–8 cm)小型(成体で3–5 cm)
光彩は赤みを帯びることが多い(若い個体は黄色)光彩は黄色
吸盤や水かきが大きい吸盤や水かきは小さい
生態

[食性]

  • 昆虫、クモ、ムカデなどを捕食する[11,12,27]

[繁殖]

木の枝に泡状の卵を産むためよく目出ち、繁殖生態についての研究の数は比較的多い。

  • 繁殖期は4–7月。本州の低地では5月下旬から7月はじめがふつう。特に雨の日の夜に産卵する個体が多い。[2,8]
  • 産卵場所は池に張りだした樹の枝先であることが多いが、水場近くの草上や地上に産卵することもある[7-8,18,26]。地上に産卵すると捕食リスクが高まる一方で、乾燥しにくい、低温にさらされにくいという利点もあり、捕食されなかった場合の生存率はむしろ高いという[25-26]。そのような捕食と温度・湿度環境のトレードオフのなかで、より適した産卵サイトが選ばれているものと考えられる[25]。
  • オスは鳴いてメスを探し、ペアとなって抱接すると、産卵場所まで移動する。このとき近くのオスが加わって、一匹のメスに複数のオスが抱き付く状態になることもしばしばである。メスは活発に鳴くオスを好むようだ。 産卵が始まると、ペアは後ろ肢を使ってそれをかき混ぜ、泡状の球にする。一連の産卵行動には2–4時間ほどかかる。[3-4]
  • 産卵後メスはふつうすぐに池を離れ、夏季の生活場所である森林へと移動してゆくことが行動追跡によって観察されている。一方でオスは、個体にもよるが、2週間ほど繁殖地にとどまって次の繁殖の機会を待つ。[2,5]

[成長]

  • 金沢での調査によれば、上陸時の体長は2㎝ほど。翌年の夏には約5㎝まで成長し、雌雄ともに2歳で繁殖に参加できるようになる。千葉での調査では3歳でメスが成熟するとされ、青森ではさらに長くかかるらしい。[9,12]

[卵]

  • 泡に包まれた卵を産む。この泡巣により胚は乾燥や夏場の高温から守られ、また泡は孵化直後の幼生の餌としても機能する。[19]
  • 卵は全体がクリーム色で、卵数は300–900個。[8,20]
  • ニホンザル、ヒバカリ、アオダイショウ、アライグマ、ハエ目幼虫による泡巣の捕食が報告されている。[19-20,22–24]

[幼生]

  • 背面は黒色~黄土色。全体に色素が散るが、目立つ斑紋はない。
  • 幼生の全長は5㎝に達する。
  • 5–7月に孵化すると、6–9月ごろ変態・上陸する。[10]
  • 飼育下実験によれば、藻類・リター・イトミミズのうちどれかひとつだけを与えて育てるとすると、最も成長がよく変態の成功率が高いのは藻類だという。野外で何を食べているか詳細は不明だが、藻類が好適な餌だと考えられる。[16]
その他

[コメント]

  • はじめて見たときはその大きさと迫力に驚きました。大きな吸盤で貼りつく感触がすごいです。

執筆者:木村楓

2018年10月執筆 
2021年8月 文献追加・微修正
2023年3月12日 文献23–27を追加。本文を微修正。


引用・参考文献

  1. 環境省. いきものログ. https://ikilog.biodic.go.jp/. 2021年8月閲覧
  2. 加藤憲一. 1955. 産卵期におけるモリアオガエルの生態について 第1報. 日本生態学会誌 5(2): 70-73.
  3. 加藤憲一. 1956. 産卵期におけるモリアオガエルの生態について 第2報 産卵時の行動・その他. 日本生態学会誌 6(2): 57-61.
  4. Kasuya, E., Kobayashi, T., Ootaki, M., Oota, N., and Takada A. 1997. Female preference for temporal features of vocalization in the Japanese treefrog,Rhacophorus arboreus. Journal of Ethnology 15(2): 103-108.
  5. Kusano, T. 1998. A radio-tracking study of postbreeding dispersal of the treefrog, Rhacophorus arboreus (Amphibia: Rhacophoridae). Japanese Journal of Herpetology 17(3): 98-106.
  6. 岡田爾一朗・河野卯三郎. 1924. 本邦産アヲガエル二新変種とその生態的分布(二). 動物學雜誌36: 140-153.
  7. 大澤啓志・黒田貴綱・勝野武彦. 2009. 林内止水域におけるモリアオガエルの産卵部位に関する研究. 環境情報科学論文集 23: 149-154.
  8. 前田憲男・松井正文. 1999. 改訂版 日本カエル図鑑. 文一総合出版, 東京.
  9. 松井. 1981. モリアオガエル. pp. 38-46. 日本の重要な両生類・は虫類の分布(全国版). 環境庁編. 東京.
  10. 松井正文・関慎太郎. 2008. カエル・サンショウウオ・イモリのオタマジャクシハンドブック. 文一総合出版, 東京.
  11. 佐野誠・篠原正典. 2012. カエル類7種における繁殖生態と食性の関係性について. 帝京科学大学紀要 8: 101-111.
  12. 戸田光彦. 2005. モリアオガエルの生態. pp. 72-80. 松井正文. これからの両棲類学. 裳華房, 東京.
  13. Matsui, M., Y. Kawahara, K. Nishikawa, S. Ikeda, K. Eto, and Y. Mizuno. 2019. Molecular phylogeny and evolution of two Rhacophorus species endemic to mainland Japan. Asian Herpetological Research 10:86–104.
  14. 国指定文化財等データベース. < https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/index_pc.html> 参照2018.06.27.
  15. 国立環境研究所. 侵入生物データベース.<https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/40110.html> 参照 2018.06.27.
  16. 岩井紀子・加賀谷隆. 2005. モリアオガエル幼生の食物好適性. 爬虫両生類学会報2005(2): 100-102.
  17. カエル探偵団(編). 2020. 見つけて検索! 日本のカエルフィールドガイド. 文一総合出版.
  18. 北野聡. 2001. 戸隠地域の古池ならびに種池におけるモリアオガエルの産卵環境. 長野県自然保護研究所紀要4 別冊1:257–262.
  19. Kusano, T., A. Sakai, and S. Hatanaka. 2006. Ecological functions of the foam nests of the Japanese treefrog, Rhacophorus arboreus (Amphibia, Rhacophoridae). Herpetological Journal. 16:163–169.
  20. Kusano, T., A. Sakai, and S. Hatanaka. 2005. Natural egg mortality and clutch size of the Japanese treefrog, Rhacophorus arboreus (Amphibia: Rhacophoridae). Current Herpetology 24:79–84.
  21. Kato, N., M. Yoshio, R. Kobayashi, and T. Miyashita. 2010. Differential responses of two anuran species breeding in rice fields to landscape composition and spatial scale. Wetlands 30:1171–1179.
  22. 井上光興・辻大和. 2016. 野生ニホンザル Macaca fuscata によるモリアオガエル Rhacophorus arboreus 泡巣の採食事例. 霊長類研究 32:27–30.
  23. 前澤勝典・高見累. 2021. アオダイショウによるモリアオガエル卵塊の捕食行動. 爬中両棲類学会報 2021(2): 186–188.
  24. Ichioka, Y., and N. Hijii. 2021. Raccoon predation on foam nests and adults of the Forest Green Tree frog (Zhangixalus arboreus: Rhacophoridae) in central japan. Current herpetology 40.
  25. Ichioka, Y., and N. Hijii. 2021. Spawning sites of the Japanese Forest Green Tree Frog (Zhangixalus arboreus: Rhacophoridae) in Central Japan. Current Herpetology 40:151–158.
  26. Ichioka, Y., and H. Kajimura. 2024. Arboreal or terrestrial: Oviposition site of Zhangixalus frogs affects the thermal function of foam nests. Ecology and Evolution 14:e10926.
  27. Takahashi, K., and H. Takeuchi. 2024. Feeding Habits of the Forest Green Tree Frog, Zhangixalus arboreus (Anura: Rhacophoridae), in the Izu-Oshima Island. Current herpetology 43:1–6.

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