ヒダサンショウウオ

Hynobius kimurae Dunn, 1923

両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属

  • 成体
概要

[大きさ] 

  • 全長 10–14 cm

[説明]

  • 山地に棲む小型サンショウウオ
  • 黒色の地に黄色の斑紋が並ぶ体色が特徴的
  • ミミズ、昆虫、ヨコエビなどを食べる
  • 2~5月に渓流源流部の岩の下に卵を産みつける

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020:準絶滅危惧
  • 堰や林道の建設、樹木伐採、水質汚濁などが生息環境を悪化させている[3]。
分布

[分布]

  • 北陸から中国地方までの本州

[生息環境]

  • 標高35~1800mの山地の林床に生息する[4]。
  • 冬眠~繁殖期(11月~5月)には細い沢の川底に浅く埋まった岩の下などにいる。それ以外の時期は谷の林床の倒木・岩・落ち葉の下などから見つかることがある。
分類

[タイプ産地] 

  • 比叡山(京都府)

[説明]

  • 東日本と西日本の個体群では遺伝的、形態的に違いが大きいことが2000年代までには明らかにされており[5,6]、2018年に東日本の集団がヒガシヒダサンショウウオとして独立した[13]。
  • 形態・生態が似ることからブチサンショウウオに近縁と考えられてきたが[4]、遺伝的な解析によるとブチサンショウウオとは比較的遠縁で、むしろオオダイガハラサンショウウオに最も近いとされる[9,10]
体の特徴

[形態]

  • 黒~黒紫色で背面に黄色い小さな斑点が散らばる。斑点の少ないものから多いものまで、模様は個体差・地域差が大きい。
  • 尾は肉厚。肋条はふつう13本。肢は短く、前肢と後肢を体に沿って伸ばしても触れ合わずに1~3肋皺を開ける。鋤骨歯列は深いU~V字型[11]。
  • カエルやサンショウウオでは多くの種で前肢の指が4本、後肢の指は5本だが、ヒダサンショウウオでは後肢の指が4本しかない個体がよく見られる[6]。

[似た種との違い]

  • 西日本の山地でチュウゴクブチサンショウウオ(H. sematonotos)やマホロバサンショウウオ(H. guttatus)と同所的に分布することがあるが、体色で区別できることが多い。ヒダは背中の斑紋が黄色だが、ブチやマホロバは褐色〜銀灰色である。ただし模様が少ない場合など、地域や個体によっては体色が酷似する場合もあり、より正確には、ヒダは他2種より鋤骨歯列が深いことが識別点の一つとなる。
ヒダサンショウウオ
チュウゴクブチサンショウウオ
マホロバサンショウウオ
生態

[食性]

  • ミミズ、昆虫、ナメクジ、ヨコエビ類を食べる[12]。

[繁殖]

  • 2~5月に、一匹のメスが一対(2個)の卵嚢を産む[4]。

[成長]

  • 京都府での調査によればオスは6歳、メスは7歳から繁殖をはじめ、野外で20歳の個体も観察されている[8]。

[卵]

  • 渓流源流部の岩の底に産みつけられる。バナナ型で、水中で青い光彩をもつ。一つひとつの卵はクリーム色。
  • 卵嚢は水中では青白く輝くが、水から出すと無色半透明となる。この色は卵嚢表面の微細な溝構造によって生じるらしい。しかし本種の繁殖や生存において意味があるのかは分かっていない。[14]

[幼生]

  • 幼生は黄褐色の地色に褐色~黒色の模様がある。エラはよく発達する。
  • 細流の流れがやや緩やかな場所に生息する[7]。
  • 孵化した年の夏(7~9月)に変態し上陸することが多い。しかし地域によっては越冬するのが普通の場合もある。[7,15,16]
その他

執筆者:木村楓

2023年12月20日 幼生の生態に関する記述を修正した。


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引用・参考文献

  1. Dunn, E.R. 1923a. New species of Hynobius from Japan. Proceedings of the California Academy of Sciences Vol.12, No.2: 27-29.
  2. Dunn, E.R. 1923b. The salamanders of the family Hynobiidae. Proceedings of the American Academy of Arts and Sciences Vol.58, No.13: 445-523.
  3. 環境省自然環境局野生生物課編. 2010. 改訂レッドリスト 付属説明資料 爬虫類・両生類. 東京. 23p.
  4. 松井. 1981. ヒダサンショウウオ. pp.117-121. 日本の重要な両生類・は虫類の分布(全国版). 環境庁編. 東京. 263p.
  5. Matsui, M., Misawa, Y., Nishikawa, K., and Tanabe, S. 2000. Allozymic variation of Hynobius kimurae Dunn (Amphibia, Caudata). Comparative Biochemistry and Physiology, Part B 125: 115-125.
  6. Matsui, M., Misawa, Y., and Nishikawa, K. 2009. Morphological variation in a Japanese Salamander, Hynobius kimurae (Amphibia, Caudata). Zoological Science 26: 87-95.
  7. Misawa, Y. and Matsui, M. 1997. Larval life history variation in two populations of the Japanese salamander Hynobius kimurae (Amphibia, Urodela). Zoological Science 14: 257-262.
  8. Misawa, Y. and Matsui, M. 1999. Age determination by skeletochronology of the Japanese salamander Hynobius kimurae (Amphibia, Urodela). Zoological Science 16: 845-851.
  9. Nishikawa, K. and Matsui, M. 2014. Three new species of the salamander genus Hynobius (Amphibia, Urodela, Hynobiidae) from Kyushu, Japan. Zootaxa 3852(2):203-226.
  10. Pyron, R.A. and Wiens, J.J. 2011. A large-scale phylogeny of Amphibia including over 2800 species, and a revised classification of extant frogs, salamanders, and caecilians. Molecular Phylogenetics and Evolution 61: 543–583.
  11. 佐藤井岐雄. 1933. Hynobius kimurai DUNNの個體間に於ける形態的變異に就いて. 動物學雜誌 45: 327-336.
  12. 佐藤井岐雄. 1943. 日本産有尾類総説. 日本出版社. 大阪. 536p.
  13. Okamiya, H., Sugawara, H., Nagano, M., & Poyarkov, N. A. 2018. An integrative taxonomic analysis reveals a new species of lotic Hynobius salamander from Japan . PeerJ, 6, e5084.
  14. Zabuga, A.V., M.I. Arrigo, J. Teyssier, S.R. Mouchet, K. Nishikawa, M. Matsui, M. Vences, and M.C. Milinkovitch. 2020. Translucent in air and iridescent in water: structural analysis of a salamander egg sac. Soft Matter 16:1714–1721.
  15. Jo, T., S. Tomita, Y. Kohmatsu, M. Osathanunkul, A. Ushimaru, and T. Minamoto. 2020. Seasonal monitoring of Hida salamander Hynobius kimurae using environmental DNA with a genus-specific primer set. Endanger. Species Res. 43:341–352.
  16. 日本爬虫両生類学会(編). 2021. 新 日本両生爬虫類図鑑. サンライズ出版. 232p.

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