Babina holsti (Boulenger, 1892)
両生綱 > 無尾目 > アカガエル科 > バビナ属 > ホルストガエル
概要
[大きさ]
[説明]
沖縄本島、渡嘉敷島にのみ生息する日本固有種。 主に山地に生息し、雨の日などは特に林道上などに姿を現す。 こげ茶色で、背側は背側線にそって隆起が連続しているもののそれ以外は基本的に隆起が少なく平滑。全体としてはずんぐりむっくりした体型。 繁殖期は4~8月で、川辺の土を掘って穴を作り、そこに球形の卵を多数産む。 種小名は、タイプ標本を採集したホルスト氏にちなむ。
[保全状況]
環境省レッドデータブック選定:絶滅危惧ⅠB類 沖縄県天然記念物 国内希少野生動物植物種(種の保存法)
分布
[分布]
[生息環境]
山地周辺に生息し、比較的乾燥した場所でも見受けられる。とりわけ雨の日に沢近くの林道上などでも観察することができる。
分類
[分類]
両生綱 > 無尾目 > アカガエル科 > バビナ属 > ホルストガエル
[タイプ産地]
[説明]
本種はBabina属に含まれているが、Nidirana属(ハラブチガエル属)に含まれることも多い。今回は、棘状の拇指を含めた5本の指をもつという共有派生形質に注目し、Babina属を採用した。 沖縄本島のグループと渡嘉敷島のグループ間の遺伝的差異は大きく、両グループの遺伝的交流は久しく妨げられていると考えられている。[2] また沖縄島における現在の分布は、「やんばる」と呼ばれる北部の自然度の高い森に限定されているが、化石記録から3万年前から2万年前には最南端部にも生息していたことがわかっている。[3]
体の特徴
[形態]
ずんぐりとした体型。鼻先は尖っており、鼓膜は円状で大きいが、眼径よりは大きくない。[1]背中は、背側線にそって断続的な隆起を持ち、両線の間は大きな隆起はなく平滑。背側線から腹部にかけては棘状の突起が見られる。吸盤はなく、水かきはよく発達している。 成体の体色はこげ茶色であるが、亜成体などでは背側線で囲まれた領域が茶褐色でそれ以外がこげ茶色というハラブチガエルに似た配色になることが多い。腹面は白色である。 前肢の指が5本あり、第一指(人間でいうと人差し指)内縁に拇指が発達している。この拇指は袋状になっており、外敵に襲われた際にはこの袋から棘状の骨を露出させ身を守る。
[似た種との違い]
オットンガエルと似るが、オットンガエルでは背側線の隆起は断続的だが、ホルストガエルでは隆起が連続している。また両線の間は、オットンガエルでは多数の隆起があるが、ホルストガエルでは平滑。
生態
[食性]
[繁殖]
[卵]
山地の源流部や水溜まりなどの水辺の近くに穴を堀り、そこに800~1000個の球形卵を産む。
[鳴き声]
「ワン」というイヌに似た鳴き声や「ウワオッ」という老人の咳きに似た鳴き声
その他
[コメント]
ホルストガエルは、ウチナーグチでは「ワクビチ」(実際はイシカワガエルなどの大型のカエルの総称)といってかつては食用にされていた。 筆者が沖縄本島で観察した際は、警戒心が強く、カメラを構えるなどの動作ですぐに逃げてしまう印象を受けた。 またその跳躍力はすさまじく、林道のガードレールを飛び越えて逃げ出した時はさすがに驚いた。 遺伝子調査から沖縄本島の個体群は急激な個体数の減少を経験していることが示唆され、マングースやイヌネコによる食害が懸念される。[3]
執筆者:野田叡寛
引用・参考文献
松井正文, 関慎太郎. 2016. ネイチャーウォッチングガイドブック日本のカエル 分類と生活史~全種の生態、卵、オタマジャクシ. 誠文堂新光社, 東京. 172~173pp. Tominaga, A., Matsui ,M., &Nakata K. Genetic Diversity and Differeniation of the Ryukyu Endemic Frog Babina holsti as Revealed by Mitochondrial DNA. Zoological Science, 31(2): 64-70 松井正文, 関慎太郎. 2016. 野外観察のための日本産両生類図鑑. 緑書房, 東京. 178pp.