アマミハナサキガエル

Odorrana amamiensis (Matsui, 1994)

両生綱 > 無尾目 > アカガエル科 > ニオイガエル属 > アマミハナサキガエル

概要

[大きさ] 

メス: 7.5 – 10.1 cm

オス: 5.6 – 6.9 cm  [7]

[説明]

  • 奄美大島と徳之島のみに分布する中型のカエル
  • 山地に生息し、渓流の滝壺やよどみに産卵
  • 鹿児島県の天然記念物に指定されており、環境省レッドリストでは絶滅危惧II類(VU)に指定されている
分布

[分布]

鹿児島県の奄美大島、徳之島

[生息環境]

主に自然林の残る山地の、渓流近くや森林でみられる[13]。

分類

[分類]

  • 両生綱 > 無尾目 > アカガエル科 > ニオイガエル属 > アマミハナサキガエル

[タイプ産地] 

名瀬市金作原 (現在の奄美市名瀬大字朝戸)[7]

[説明]

  • 亜種名の amamiensis は「奄美の」という意味で、その生息地に由来。
  • 本種は元々ハナサキガエル Rana narina  に含まれていたが、1994年松井正文氏によって琉球~台湾におけるハナサキガエル類の系統的な整理がなされた[7]。この研究によって形態的(鳴き声を含む)そして遺伝的な特徴から、オオハナサキガエルとコガタハナサキガエルと共に、アマミハナサキガエルは別種として記載されることになった。
  • ハナサキガエル類の中では、沖縄本島に分布するハナサキガエルに遺伝的に最も近縁である。また奄美大島と徳之島の個体群間にはわずかながら遺伝的分化が見られる[10]。
体の特徴

[形態]

  • 背面の体色は暗褐色から緑色まで変異が大きく、個体によって斑紋が現れる[8]。
  • 背面はほぼ平滑で、小顆粒が全身にみられる。
  • 後肢が発達しており、跳躍力に優れる。
  • 和名の通り、吻端は尖り顕著に突出する。

[似た種との違い]

野外において判別に困る種といえば、サイズが比較的似ているオットンガエルであろう 。両者は以下の形態的な特徴が大きく異なるので、容易に判別することができる。

アマミハナサキガエルオットンガエル
体型スレンダーがっしり
体色多様茶褐色
背面の隆起弱い多数
生態

[食性]

アリ、チョウ、カマドウマなどの昆虫や、クモ、ヤスデ、ザトウムシ、ワラジムシ、ミミズ、腹足類などを捕食する[6]。

[捕食]

アカマタ[3]やヒメハブ[11]、モクズガニ[4]に捕食された例がある。

[繁殖]

  • 上~中流域の急流近くのよどみや滝壺、淵などで産卵がなされる[9,12]。卵塊は複数回に分けて産み落とされると推測される[12]。
  • 繁殖は10月中旬から5月上旬にかけてなされ、12~1月に最盛期を迎える[8]。数日の間に一地点に急速に集まって繁殖を行い、その数は小さな沢でも200を超えることもある[5]。

[鳴き声]

「ピョッ・・・ピーヨ」と鳥のさえずりを思わせるような声で鳴く。

[成長]

  • 性成熟に要する期間などは詳しくわかっていないが、オスは繁殖に参加するまで少なくとも1年半、メスは2年半を要するとする結果もある[1]
  • 一般的に徳之島個体群の方が奄美大島の個体群よりも大きくなることが知られており、これは奄美大島におけるオットンガエルとの餌資源をめぐる競争を反映しているとされる[6]。小峰ら (2019) では、奄美大島内のアマミハナサキガエルとオットンガエル間には餌サイズの違いがあるのに対し、徳之島産のアマミハナサキガエルと奄美大島のオットンガエルの間には有意な餌重量の違いがないことを明らかにした。よって奄美大島ではオットンガエルと餌を巡る競争があり、一方オットンガエルのいない徳之島ではその競争から解放されて体サイズが大きくなっている可能性がある。

[卵]

卵径は3.0mm程度と大きく、全体がクリーム色をしている[9]。一腹卵数は1500程度[7,9]。

[幼生]

最大全長は50㎜ほど。尾は筋肉が発達して長く太い。体色は黒褐色で金色の点が散在する[9]。野外での報告例は少ないが、沢の本流から外れ、流れがほとんどない水溜まりの中、底に堆積した落葉に潜んでいたという例がある[12]。

その他

[保全]

  • 鹿児島県指定天然記念物
  • 環境省レッドリスト (2020): 絶滅危惧Ⅱ類 (VU)  [2]
  • 1980年以降、森林伐採や林道の敷設などによって生息地の減少や悪化がみられ、特に徳之島でその傾向が著しい[2]。また、奄美大島では外来種であるフィリマングースによる捕食などの影響が懸念されていたが、駆除がかなり進んだ近年ではその個体数は回復しつつある[14]。

執筆者:野田叡寛


引用・参考文献

  1. 岩井紀子, 亘悠哉, & 戸田光彦. (2015). アマミハナサキガエル繁殖個体の体サイズと年齢. 爬虫両棲類学会報, 2015(2), 93-96.
  2. 環境省. (2014). レッドデータブック.
  3. Komine, H. (2017). ODORRANA AMAMIENSIS (Amami Tip-nosed Frog). PREDATION. Herpetological Review, 48(2), 412.
  4. Komine, H. (2020). ODORRANA AMAMIENSIS (Amami Tip-nosed Frog). PREDATION. Herpetological Review, 51(2), 301.
  5. Komine, H., & Trentin, B. E. (2020). Temporal changes in number of breeding individuals of the Amami tip-nosed frog. Current Herpetology, 39(1), 13-18.
  6.  Komine, H., Watari, Y., & Kaji, K. (2019). Ecological character displacement in non-congeneric frogs. Zoological science, 36(5), 410-416.
  7. Matsui, M. (1994). A taxonomic study of the Rana narina complex, with description of three new species (Amphibia: Ranidae). Zoological Journal of the Linnean Society, 111(4), 385-415.
  8. 松井正文・前田憲男. (2018). 日本産カエル大鑑. 株式会社文一総合出版, 東京.
  9. 松井正文, & 関慎太郎. (2008). カエル・サンショウウオ・イモリのオタマジャクシハンドブック. 株式会社文一総合出版, 74.
  10. Matsui, M., Shimada, T., Ota, H., & Tanaka-Ueno, T. (2005). Multiple invasions of the Ryukyu Archipelago by Oriental frogs of the subgenus Odorrana with phylogenetic reassessment of the related subgenera of the genus Rana. Molecular Phylogenetics and Evolution37(3), 733-742.
  11. 三島章義. (1966). 奄美群島産ヒメハブの食性に関する研究. 爬蟲兩棲類學雑誌, 1(4), 67-74.
  12. 迫田拓, 永井弓子, & 水田拓. (2007). アマミハナサキガエル Rana amamiensis 幼生の野外での初確認. 爬虫両棲類学会報, 2007(1), 5-8.
  13. 関慎太郎, & 松井正文. (2016). 野外観察のための日本産両生類図鑑. 緑書房,東京.
  14. Watari Y, Nishijima S, Fukasawa M, Yamada F, Abe S & Miyashita T (2013) Evaluating the “recovery level” of endangered species without prior information before alien invasion. Ecol Evol 3: 4711–4721.