イワサキセダカヘビ

Pareas iwasakii (Maki, 1937)

爬虫綱 > 有隣目 > ヘビ亜目 > セダカヘビ科 > セダカヘビ属 > イワサキセダカヘビ

  • 成体
概要

[大きさ] 

  • 全長 50 – 70 cm

[毒性] 

  • 無毒

[説明]

  • 夜行性
  • 褐色の地に淡黒色の縞模様が入る。体型は細長い。
  • 性格はおとなしく、ほとんど噛むことはない。
  • カタツムリ専食のヘビで、右巻きのカタツムリを食べるために特殊化していることから「右利きのヘビ」としても知られる。
  • 樹上性で湿潤な森林に生息する。

[保全状況]

  • 環境省レッドデータブック指定:準絶滅危惧種
分布

[分布]

  • 八重山諸島(石垣島、西表島)

[生息環境]

  • 湿潤な常緑広葉樹林。樹上性だが、地上でもしばしば観察される。
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有隣目 > ヘビ亜目 > セダカヘビ科 > セダカヘビ亜科 > セダカヘビ属 > イワサキセダカヘビ

[タイプ産地] 

  • 石垣島(採集者:岩崎卓爾) [11]

[説明]

  • 日本固有種。日本に生息する唯一のセダカヘビ科の種である。八重山地方の研究の基礎を築いたことで知られる岩崎卓爾氏に献名された。
体の特徴

[形態][4]

  • 体は細く、胴は縦長に扁平で背面中央が隆起している。
  • 体色は褐色から赤褐色の地に淡黒色の縞模様が入る。腹面は灰褐色。
  • 頭部はかくばり、目はやや大きい。虹彩はオレンジまたは赤みのかかった黄土色で、瞳は縦長。
  • 下顎腹面には頤溝がなく、咽頭板は左右非対称。
  • 左右の歯の本数が異なり、右側の方が7–8本程度多い。(下顎の左側が17.5±1.1、右側が24.9±1.1)[1]
  • 上顎の歯は短く、あまり尖らない。下顎の歯は鋭く尖り、前方のものほど長い
  • 背面中央部の鱗は弱いキールを持つ。

頤(おとがい)溝とは?

一般的なヘビは、頭部の下面の中心に頤(おとがい)溝(Mental groove)という溝を持っている。
しかしイワサキセダカヘビは頤溝を持っていない。
この特徴はセダカヘビ科の多くのヘビに見られる特徴で、他の科のヘビとの区別点にもなる。
以下に示した4種のうち、セダカヘビ科の2種は頤溝がないが、他の2種には頤溝(赤線)がある。

イワサキセダカヘビ(セダカヘビ科)の頭部下面。鱗は不揃いで中央に溝はない。
アオダイショウ(ナミヘビ科)の頭部下面。中央に溝(頤溝)がある。
生態

[食性]

  • カタツムリ類。野外でイッシキマイマイを捕食していた例が知られている。[6,7]

[行動]

本種はカタツムリを専門に食べることが知られており、殻からカタツムリを引き出して食べるために特殊化した行動が見られる。
カタツムリの捕食は、以下のように行われる。

  1. カタツムリの後ろから近づき、首を左に傾けて噛み付く。
  2. 攻撃を受け殻に引っ込むカタツムリに引っ張られ、下顎が殻の内部に入り込む。この際上顎は殻に阻まれ、殻の外側に配置される。
  3. 左右の下顎を順番に動かし、軟体部を引き出していく。片側の歯で軟体部を固定し、もう一方の歯を殻の奥の方に差し込み、引っ張り出す。
  4. これを繰り返し、軟体部を殻の外へと引きずり出す。

一般的にカタツムリは右巻き(殻が時計回りの巻き方)のため、下顎の左側の歯の方が、右側の歯よりも殻の奥に差し込むことができる。
本種は右巻きのカタツムリを食べることに特殊化し、それに適した行動と、下顎の左右非対称性を獲得している[12]。

[繁殖]

  • 飼育個体が9月30日に6卵を産み、うち1卵が孵化したという記録がある。孵化した幼蛇もカタツムリを食べる[5]
  • 染色体数は2n = 36の雌ヘテロ接合型(ZW型)[9]
その他

[左右性][10]

イワサキセダカヘビは左右の歯の本数が異なり、右側の方が7本程度多い。本種はカタツムリ専食のヘビであり、カタツムリの軟体部に噛みつき、下顎を使って引っ張り出すことで軟体部のみを引き摺り出して食べている。カタツムリの殻は左右非対称であり、多くの種は右巻きの構造をしているが、イワサキセダカヘビの非対称な顎は多数派である右巻きのカタツムリを捕食するのに効率的な構造となっている。このような左右非対称性はセダカヘビ科のカタツムリを食べる多くの種で知られているため、特殊な形状の餌を効率よく食べるために起きた進化だと考えられている[1]。

また、イワサキセダカヘビの主な捕食対象であるイッシキマイマイは成長すると殻口にコブを形成し、噛みつかれた際の下顎の動きを阻害することで、一定の割合でヘビからの捕食を逃れている[13]。また、殻口の変形にコストを割けない幼貝の時期には噛みつかれた尾部を切断することで、ヘビから逃げることが知られている[3]。

カタツムリは突然変異によって殻の巻く向きが変化することがある。それによって多数派の右巻きカタツムリから生まれるのが、左巻きのカタツムリだ。カタツムリは交尾の際、両者の巻きの向きが一致している必要があるため、突然変異で生まれた逆巻きのカタツムリには元の種からの生殖隔離が生じ、種分化することとなる。一方、そのような突然変異で生まれた左巻きの個体同士が出会う確率は低く、繁殖上不利である左巻きの個体群が定着するには何かしらの外的な要因が必要だと考えられる。そこで注目されたのが、右巻きカタツムリの捕食者であるイワサキセダカヘビである。イワサキセダカヘビは左巻きのカタツムリを食べる際、右巻きのものを食べるよりも時間や労力が必要になるほか、成功率も低下する[1]。そのため左巻きのカタツムリは右巻きのものより、セダカヘビの捕食から逃れる上での優位性がある。イッシキマイマイを含むニホンマイマイ属では、セダカヘビの分布域で独立に複数回、左巻きへの進化が起きていたことがわかっており、セダカヘビの存在が、一見不利に思える左巻きへの進化を促進していたことが実証されている[2]。

[コメント]

 キョロキョロした目が特徴的な、かわいいヘビです。幻のヘビと言われることもありますが、夜行性かつ樹上棲の為に見つかりにくいというだけで、そこまで数の少ないヘビでは無いように思います。樹上であれば比較的低いところで見かけることも多いです。明るいライトを持って、夜の林道の樹上を丁寧に探しましょう。じめじめして暖かい雨上がりならなお良しです。

執筆者:福山亮部


引用・参考文献

  1. Hoso, M., Asami, T. & Hori, M. (2007) Right-handed snakes: convergent evolution of asymmetry for functional specialization. Biology Letters 3(2): 169–172. (doi:10.1098/rsbl.2006.0600)
  2. Hoso, M., Kameda, Y., Wu, S. P., Asami, T., Kato, M. & Hori, M. (2010) A speciation gene for left-right reversal in snails results in anti-predator adaptation. Nature Communications 1: 133. (doi:10.1038/ncomms1133)
  3. Hoso, M. (2012) Cost of autotomy drives ontogenetic switching of anti-predator mechanisms under developmental constraints in a land snail. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 279(1748): 4811–4816.
  4. 太田英利. 2014. 環境省(編)レッドデータブック2014 ー日本の絶滅のおそれのある野生生物ー 3爬虫類・両生類. (株)ぎょうせい, 東京.
  5. Hoso, M. (2007) Oviposition and Hatchling Diet of a Snail-eating Snake Pareas iwasakii (Colubridae: Pareatinae). Current Herpetology, Vol.26 2007, 41-43.
  6. Hoso,M.,& Hori,M. (2006). Identification of molluscan prey from feces of Iwasaki’s slug snake, Pareas iwasakii. Herpetological review, 37(2), 174-176.
  7. Hoso,M.,& Kakegawa,T. (2018). PAREAS IWASAKII (Iwasaki’s Snail-eating Snake). DIET. Herpetological Review, 49(4), 760-761.
  8. 日本爬虫両棲類学会. 2021. 日本産爬虫両生類標準和名リスト. <http://herpetology.jp/wamei/index_j.php>, 参照 2021-02-28.
  9. Ota, H. (1999). Karyotype of Pareas iwasakii The First Chromosomal Description of a Pareatine Snake (Colubridae). Japanese journal of herpetology18(1), 16-18.
  10. Hoso’s Website. <https://sites.google.com/site/masakihoso/home> 参照 2021-02-28.
  11. Toriba, M. 1993. Present location of the type specimens described by Maki. The Snake 25: 71-72
  12. 細将貴. 2012. 右利きのヘビ仮説. 東海大学出版, 秦野.
  13. Hoso, M.* & Hori, M. (2008) Divergent shell-shape as an anti-predator adaptation in tropical land snails. The American Naturalist 172(5): 726–732.

10番はセダカヘビの研究で有名な武蔵野美術大の細将貴准教授の個人ページです。セダカヘビの左右性に関する論文が、著者目線でわかりやすく解説されています。

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