チュウゴクオオサンショウウオ

Andrias davidianus (Blamchard, 1871)

両生綱>有尾目>オオサンショウウオ科>オオサンショウウオ属>チュウゴクオオサンショウウオ

概要

[大きさ] 

  • 全長100cm前後(記録上の最大全長180cm[2])

[説明]

  • 世界最大級の両生類で中国固有種
  • 基本的に形態・生態ともにオオサンショウウオに似る
  • 食用として日本に移入された外来種
  • 現在では日本の野外ではほとんど確認されていない

[保全状況]

  • ワシントン条約附属書Ⅰに記載[3]
  • 種の保存法で国際希少野生動植物種に指定[6]
  • 中華人民共和国野生水棲動物保護規制の対象[7]
  • IUCNレッドリストで絶滅危惧ⅠA類に指定[3]
分布

[分布]

  • 国内では京都、現地では青海省、山西省南部、四川省南部、雲南省、広西省、広東省の河川[7]

[生息環境]

  • 国内では鴨川水系の上流部で確認されていた[9]。現地では、標高1500m以下、特に300~800mあたりの山間部の清流などに生息し、生涯を水中ですごす[2]。
分類

[分類]

  • 両生綱>有尾目>オオサンショウウオ科>オオサンショウウオ属>チュウゴクオオサンショウウオ

[説明]

  • ヨーロッパ産の化石種Andrias scheuchzeriと同属であるとされ、Andriasが属名として与えられた[1,5,10]。
  • 近縁種オオサンショウウオA. japonicusも含め、A. scheuchzeriの亜種であるとする説もあったが、骨格形態に差があることなどから、現在では一般に独立種として扱われている[10]。
  • オオサンショウウオとも遺伝的な差異が見られ、別種として扱われている(形態的にも異なると言われているが定量的研究は未知)[10]。
  • 遺伝子解析の結果、5種から8種を含む可能性が示唆されている[12]。

[別名・現地名]

  • 大鯢(da ni)、娃娃魚(wa wa yu)、猪不吃(zhu bu chi)[3]
体の特徴

[形態]

  • 以下、在来種との違いのみ記載(その他の形態情報はオオサンショウウオを参照)。
  • 黒~灰褐色の地に、それより薄い色の大きな斑紋が散在する[4,8]。
  • 目がややとび出し、頭はより扁平で吻端はくちばし状になることが多い[4,8]。
  • 尾が長い[8]。
生態

[繁殖]

  • 繁殖行動はオオサンショウウオと同様と考えられている。8月末から9月ごろに雄が待つ巣穴に雌が入り産卵する。1腹500個程度の卵を産む[2]。

[卵]

  • 卵は数珠状。雄は孵化後50~60日程度巣穴に残って卵を守る[2]。

[幼生]

  • 卵は50~60日ほどで孵化し、全長3cm程度の幼生が生まれる。孵化直後は外鰓をもち、四肢はない。数か月で四肢が生えるが、外鰓は全長で20~25㎝程度に成長するまで残る[2]。
  • 体色はオオサンショウウオより暗く、外鰓が長い[2]。
その他

[文化]

  • 中国において食用にされ、保全の観点から野生個体は捕獲せず養殖されている[3]。
  • 中国の地域名「娃娃魚」は赤ん坊魚の意で、捕獲された時に発する鳴き声が赤ん坊に似ているところからついた[3]。

[問題]

  • 現地では絶滅対策から養殖個体の放流が行われている。しかし、中国内でも地域によって別種レベルで遺伝的に分化しているにもかかわらず、養殖場で地域個体群を区別していなかったため交雑が起こっており、遺伝子攪乱が進んでいる[3,12]。また、病気の蔓延も懸念される[3]。
  • 日本では本種の移入や在来のオオサンショウウオとの交雑が問題となっており、行政や大学により調査・対策が進められている。なお、外部形態での同定が困難であることや、オオサンショウウオ属全種が種の保存法に指定されていることから、中国種や交雑個体であっても無許可での取り扱いは一切禁止されている[4,6,10,11]。

[コメント]

  • オオサンショウウオと並んで世界最大の両生類の一つであり、これはこれで美しくかっこいい種である。しかし、中国では絶滅寸前に追いやられ、日本では外来種として排除対象となり、行き場を失った残念な種でもある。いくつかの水族館等で見ることができるが、見られなくなるのも時間の問題であろう。中国国内地域間の交雑個体群にはなってしまうかもしれないが、保全活動がうまく機能して現地での生息数を取り戻せることを願ってやまない。

執筆者:浜中京介


引用・参考文献

  1. American Museum of Natural History. Amphibian Species of the World 6.0, an Online Reference. Andrias davidianus. http://research.amnh.org/vz/herpetology/amphibia/amphib/basic_search?basic_query=Andrias+davidianus&stree=&stree_id= 参照 2019-04-30.
  2. AMPHIBIAWEB. Andrias davidianus. https://amphibiaweb.org/cgi/amphib_query?where-genus=Andrias&where-species=davidianus&account=amphibiaweb 参照 2-19-04-30.
  3. Cunningham, A. A., S. T. Turvey, F. Zhou, H. M. R. Meredith, W. Guan, X. Liu, C. Sun, Z. Wang and M. Wu. 2016. Development of the Chinese giant salamander Andrias davidianus farming industry in Shaanxi Province, China: conservation threats and opportunities. Oryx. 50(2): 265-273.
  4. 浜中京介. 2018. 交雑オオサンショウウオの調査. Caudata. 2: 9-13.
  5. Hoogmoed, M. S. 1978. An annotated review of the salamander types described in the Fauna Japonica. Zoologische Mededelingen, 53(9): 91-105.
  6. 環境省. 種の保存法の概要. https://www.env.go.jp/nature/kisho/hozen/hozonho.html 参照 2019-02-09.6.
  7. 国立環境研究所. 侵入生物データベース. チュウゴクオオサンショウウオ. https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/40250.html 参照 2019-04-30.
  8. 桑原一司. 東広島市自然研究会. オオサンショウウオの現在. http://benriyamoku.lolipop.jp/index.php?%E3%82%AA%E3%82%AA%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%82%A6%E3%82%AA%E3%81%AE%E7%8F%BE%E5%9C%A8 参照 2019-04-30.
  9. 京都市情報館. 記念物 (史跡・名勝・天然記念物).. http://www.city.kyoto.lg.jp/menu2/category/24-4-3-0-0-0-0-0-0-0.html 参照2019-02-08.
  10. 松井正文. 2001. オオサンショウウオの属名について. 爬虫両棲類学会報, 2001(2): 75-78.
  11. 日本オオサンショウウオの会 HP. https://www.giantsalamander.net/ 参照 2019-02-08.
  12. Yan, F., J. Lu, B. Zhang, Z. Yuan, H. Zhao, S. Huang, G. Wei, X. Mi, D. Zou, W.Xu, S. Chen, J. Wang, F. Xie, M. Wu, H. Xiao, Z. Liang, J. Jin, S. Wu, C. Xu, B. Tapley, S. T. Turvey, T. J. Papenfuss, A. A. Cunningham, R. W. Murphy, Y. Zhang and J.Che. 2018. The Chinese giant salamander exemplifies the hidden extinction of cryptic species. Current Biology. 28(10). 590-592.

注釈:11. 日本オオサンショウウオの会のHPは、引用元記載のないインターネット情報ではあるが、そのソースが栃本武良氏をはじめとする、日本を代表するオオサンショウウオ学者や動物園水族館関係者の著作・調査結果等であることがわかっているので、全体を通して広く参考にさせていただいた。筆者自身も栃本氏や関係者から直接情報を得たり飼育個体やデータを拝見したりして確認済みであることを追記しておく。