ウシガエル

Lithobates catesbeianus (Shaw, 1802)

両生綱 > 無尾目 > アカガエル科 > アメリカアカガエル属 > ウシガエル

  • 成体(滋賀県)

概要

[大きさ] 

  • 11~18㎝

[説明]

  • 外来種として全国に移入されている大型のカエル
  • オスでは特に顕著となる大きな鼓膜、発達した水かき、頑健な体格などが特徴
  • 幼生も大型となり、そのまま越冬して翌年変態することも多い
  • 繁殖力や移動性の高さ、多様な生物を捕食するジェネラリストの側面が強く、地域生態系に大きな影響を及ぼす
分布

[分布]

原産地はアメリカ合衆国の中東部、カナダ南東部。日本では北海道南部、本州のほぼ全域と周辺の島(佐渡島、壱岐、五島列島など)、奄美諸島(与路島、徳之島、沖永良部島)、沖縄諸島(伊平屋島、伊是名島、伊江島、沖縄島、久米島)、八重山諸島(小浜島、西表島)に移入分布が確認されている[15]。

[生息環境]

原産である北米では、池や貯水池などの止水域、湿地や流れの緩やかな小川に生息する[20]。日本でも、同様な環境である水田や場所によっては森林など様々な環境で見られる。


分類

[分類]

  • 両生綱 > 無尾目 > アカガエル科 > アメリカアカガエル属 > ウシガエル

[タイプ産地] 

タイプ産地は明記されていない。図鑑等ではサウスカロライナ周辺であろうとする[14,17]ものあるが、根拠に乏しい[4]。

[説明]

  • 学名のcatesbeianusは当時記載に使用された標本を所有していた、Mark Catesby氏にちなむ[25]。
  • 本種を含む属、アメリカアカガエル属LithobatesL. palmipesをはじめとする新大陸に分布するアカガエルを含む単系統群であり、50種類以上の種が知られている[8]。
体の特徴

[形態]

  • 非常に大型になり、体格はがっしりしている。体色は緑褐色や暗褐色で、暗色の虎斑が見受けられる。水かきが非常によく発達する。
  • 大きな特徴の一つとして大きな鼓膜が挙げられ、とりわけ成体のオスに顕著である。鼓膜の大きさによって雌雄の判別がある程度可能で、メスの場合鼓膜は眼径の0.9~1.2倍で、オスでは1.3~1.7倍になる[16]。オスにおいて鼓膜が大きくなる意義については、オスの繁殖音を構成する低周波音を聞き取りやすくするため[7]や、自身の出す鳴き声を増幅して大きくするため[20]など、様々な説が唱えられている。
生態

[食性]

  • 非常に多様であり食欲も旺盛。おそらく自分の口に入るサイズの獲物ならなんでも捕食しようとする。そのため貴重な在来種への影響が懸念される。
  • 京都市内で行われた調査では、成体の胃内容重量の大部分がザリガニやカニなどの水生甲殻類であり、脊椎動物の割合は非常に低いという結果もある[18]。アメリカザリガニはウシガエルの餌用として日本に持ち込まれ[13]定着した背景があり、場所によってはウシガエル成体とザリガニの間で強い捕食被食関係が成立している可能性もある。とはいえ特にアメリカザリガニの侵入していない地域や幼体では、昆虫などの様々な分類群の生物の捕食例が報告されており[9,22]、水辺への依存性の高さ故に水生昆虫への多大な影響が懸念される。
  • 脊椎動物においてはニホンアカガエル成体[9]やシュレーゲルアオガエル成体[19]、ナゴヤダルマガエル成体[12]などの捕食例も確認されているほか、タガメ[10]やゲンゴロウ類[9]などの貴重な在来生物が捕食されている例も報告されている。

[繁殖]

  • 原産地であるアメリカ東部では、7~9月に繁殖期を迎える[5]。一方、日本に移入された個体群では、5~9月上旬に繁殖期を迎える[17]。繁殖期になるとオスの顎部(鳴嚢のある部分)は黄色を呈する。メスは1シーズンに複数回産卵を行う。

[卵]

  • 田圃や池、湖などの止水域の水面に、層状に産卵する[16]。その卵数は6000~40000個にもなる[16]。

[幼生]

  • 日本で見られるカエルの幼生の中ではかなり大型で、成長すれば全長は10㎝を超える。体色は緑灰色の地色に白色の小さい斑点と中程度の黒点が散在する。
  • 大部分は幼生の姿のまま越冬し、翌年に変態する。これはツチガエルや南西諸島に分布するカエルを除き、日本に生息するカエルでは珍しい特徴である。幼生の期間が長いことで大型化し競争力が高まるために、同所的に生息する両生類幼生の減少、出現時期の遅れなど様々な悪影響が報告されている[3]。

[鳴き声]

  • 大きな鳴嚢を膨らませながら「ヴォー、ヴォー」と鳴き、この音がウシに似ていることが和名の由来でもある。
  • また水面に浮いている個体は、こちらの接近に気付くと「ヴッ」と短く鳴いて水底へ潜行することがある。これは、水中に潜る際に肺の中の空気を抜くために出る音なのかもしれない。

[冬眠]

  • ウシガエル成体は比較的温暖な越冬場所を求め時に長距離移動[23]し、水底で越冬するが冬の間も活動を維持するものもいる[24]。一方で、リタ―の下などで冬眠する個体も報告されている[2]。
その他

[移入、定着]

  • ウシガエルが初めて移入された経緯としては、動物学者である渡瀬庄三郎が1918年に日本に持ち込んだというのが定説である。彼の意図については諸説あるが、養殖とアメリカへの輸出を水産業の一つの柱にしようとしていたのではないかと指摘されている[1,6]。事実、戦前そして戦後~1969年(農薬による汚染によって日本からの輸出が停止された年)までウシガエルは主要な輸出品であり、全盛期である49~51年には年間2億円を稼ぐほどであった[6]。しかし戦時中そして69年以後、輸出がストップしてしまったことで在庫を持て余した養殖業者らの手によって大規模な放逐が始まり、その一部が野生化したと考えられている。

執筆者:野田叡寛


引用・参考文献

  1. 秋山笑子. 2014. [研究ノート] 環境変化に伴う生業のあり方:[ウシガエルの流入を中心として]:『増田実日記』 を糸口に (Ⅱ. 生活環境史の試み). 国立歴史民俗博物館研究報告, 181:147-164.
  2. Bohnsack, K. 1952. Terrestrial hibernation of the bullfrog, Rana catesbeiana Shaw. Copeia, 1952(2), 114.
  3. Boone, M. D., Little, E. E., and Semlitsch, R. D. 2004. Overwintered bullfrog tadpoles negatively affect salamanders and anurans in native amphibian communities. Copeia, 2004(3):683-690.
  4. Fouquette, M. J., Jr., and A. Dubois. 2014. A Checklist of North American Amphibians and Reptiles. Seventh Edition. Volume 1—Amphibians.  Bloomington, Indiana, USA.
  5. Govindarajulu, P., Price, W. S., and Anholt, B. R. 2006. Introduced bullfrogs (Rana catesbeiana) in western Canada: has their ecology diverged?. Journal of Herpetology, 40(2):249-261.
  6. 梁井貴史. 2003. ウシガエルの輸入年および全国分布に関する一考察. 川口短大紀要, 17:89-110.
  7. Hetherington, T. E. 1994. Sexual differences in the tympanic frequency responses of the American bullfrog (Rana catesbeiana). The Journal of the Acoustical Society of America, 96(2):1186-1188.
  8. Hillis, D. M., and Wilcox, T. P. 2005. Phylogeny of the New World true frogs (Rana). Molecular Phylogenetics and Evolution, 34(2):299-314.
  9. Hirai, T. 2004. Diet composition of introduced bullfrog, Rana catesbeiana, in the Mizorogaike Pond of Kyoto, Japan. Ecological Research, 19(4): 375-380.
  10. 平井利明. 2005. ウシガエルの胃内容から検出されたタガメについて. 関西自然保護機構会報, 27(1), 57-58.
  11. 平井利明. 2006. ウシガエルによるニホンアカガエル雄成体の捕食. 爬虫両棲類学会報, 2006(1):15-16.
  12.  平井利明, and 稲谷吉則. 2008. ウシガエルによるナゴヤダルマガエル雄成体の捕食例. 爬虫両棲類学会報, 2008(1):6-7.
  13. 川井唯史 and 小林弥吉.2011. 神奈川県鎌倉市におけるアメリカザリガニの由来.神奈川県自然誌資料(32):55-62.
  14. Kellogg, R. 1932. Mexican tailless amphibians in the United States National Museum. Bulletin of the United States National Museum 160:1–224.
  15. 国立環境研究所.2021. 侵入生物データベース. ウシガエル. <https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/40020.html>, 参照 2021-03-20
  16. 松井正文. 2008. カエル・サンショウウオ・イモリのオタマジャクシ ハンドブック. 文一総合出版.
  17. 松井正文. 2016. ネイチャーウォッチングガイドブック 分類と生活史~全種の生態、卵、オタマジャクシ 日本のカエル. 誠文堂新光社.
  18. Matsui, M., and Dontchev, K. 2016. Food Habits of the American Bullfrog Lithobates catesbeianus in the City of Kyoto, Central Japan. Current Herpetology 35(2): 93–100.
  19. 森生枝. 2008. 移入種ウシガエルによるシュレーゲルアオガエル雄成体等の捕食. 岡山県自然保護センター研究報告 (16).
  20. Powell, R., Conant, R., & Collins, J. T. 2016. Peterson field guide to reptiles and amphibians of eastern and central North America. Houghton Mifflin Harcourt.
  21. Purgue, A. P. 1997. Tympanic sound radiation in the bullfrog Rana catesbeiana. Journal of Comparative Physiology A, 181(5): 438-445.
  22. 更科美帆. 2016. 侵略的外来カエルの捕食影響と食性に関する研究.
  23. Sepulveda, A. J., and Layhee, M. 2015. Description of fall and winter movements of the introduced American Bullfrog (Lithobates catesbeianus) in a Montana, USA, pond. Herpetological Conservation and Biology, 10(3):978-984.
  24. Stinner, J., Zarlinga, N., and Orcutt, S. 1994. Overwintering behavior of adult bullfrogs, Rana catesbeiana, in northeastern Ohio. OHIO J. SCI. 94 (1): 8-13
  25. Shaw, G. 1802. General Zoology or Systematic Natural History. Volume III, Part 1. Amphibia. London: Thomas Davison.

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