オットンガエル

Babina subaspera (Barbour, 1908)

両生綱 > 無尾目 > アカガエル科 > バビナ属 > オットンガエル

概要

[大きさ] 

全長 9-14 cm [4]

奄美大島における調査によって、メスに比べてオスの体長が大きいことが報告されている[6]。

[説明]

  • 奄美大島と加計呂麻島にのみ生息する大型のカエル
  • 沖縄島などに生息するホルストガエルと本種の2種のみでバビナ属を形成
  • 山地の自然林や湿地、渓流部、林道などでみられる
  • 第一指の内側に拇指を持ち、その先端からは骨棘が突出する
  • オスが砂泥を掘って穴を作り、そこにメスが産卵する

[保全状況]

  • 鹿児島県指定天然記念物
  • 国内希少野生動植物種
  • 環境省レッドリスト 絶滅危惧IB類(2020)   [7]

種の保存法や県の条例によって、採取は禁止されている。

分布

[分布]

鹿児島県奄美大島と加計呂麻島

[生息環境]

山地の自然林や二次林の湿地や渓流部で見られる[10]。林道に出てくることもあり、交差して沢が存在したり、道に沿って湿地帯が見られるような場所ではとりわけ発見頻度が上がる[4]。

分類

[分類]

両生綱 > 無尾目 > アカガエル科 > バビナ属 > オットンガエル

[タイプ産地] 

Duboisは琉球列島としている[3]。

[説明]

  • 学名の subaspera はラテン語で「粗い、隆起した」を意味するasperに「少し」を意味するsub-をつけたもの。本種の背面に多数の隆起がみられることに由来する。
  • 和名のオットンは奄美の方言で「大きい」という意味[2]。
  • Babina属は、本種と沖縄本島などに分布するホルストガエルの2種のみからなる。分子系統解析では、ヤエヤマハラブチガエルなどが属するNidirana属と姉妹群になり、この2系統とOdorrana属が姉妹群となるとされる[8]。Nidirana属と合一する考えもあるが、第一指の内縁に拇指が発達し前肢が5本指となる共有派生形質から別属に位置付けられることもあり[10]、本稿はこれに従う。Babina属は爬虫両生類において唯一の日本固有属である。
体の特徴

[形態]

  • 成体の体表面は腹側が白色、背側は茶褐色となっており、背面、特に脇腹には隆起を多数持つ。体格はがっしりしている。
  • 第一指の内縁に拇指が発達しているため、前肢が5本指になっている。この指の先端には小孔があり、そこから骨棘が飛び出すようになっている。この形質には雌雄差が認められ、オスの方がより長く分厚い指を持つ。拇指の機能については諸説あるが、オス同士のメスをめぐる争いに用いられていると考えられている。本種の繁殖は長期にわたるうえ繁殖巣において1対1でなされるため、より良い場所を確保することが繁殖の成功に大きく関わっており、そのような地点をめぐってのオスの競争が激しいと考えられている。拇指の性的二型やメスに比してオスの体長が大きいことは、本種の雄間競争の激しさを示唆しているといえる。またこの尖った指には、繁殖の際に、メスをよりしっかりと抱きとめるためのアンカーのような役割があるとも考えられている。   [6]

[似た種との違い]

体サイズなどから他種との判別に困ることは少ないが、奄美大島において同所的に分布するアマミハナサキガエルとは判断に困るケースもあるかと思う。

オットンガエルアマミハナサキガエル
体長大きい (9-14㎝)小さい (6-10cm)
前肢5本指4本指
背面隆起多い平滑
体格がっしりスレンダー

また生息地は重ならないが、同属であるホルストガエルとの判別点も述べる。

オットンガエルホルストガエル
背側線の隆起断続的連続
背面隆起多い平滑
生態

[食性]

奄美大島における調査では、水域由来のサワガニや陸上由来のマダラカマドウマやオオゲジをよく捕食することが知られている[1]。

[被食]

ガラスヒバァは本種の卵、幼生、亜成体を捕食する天敵として知られている。またハブも本種の成体を捕食するがある[11]。近年では外来種であるフイリマングースによる捕食が問題となっており、個体群の分断化の一因となることが懸念されている[5]。

[繁殖]

流れがなく柔らかい砂泥をもつ水場において、オスが皿状の巣を掘って産卵場所とすることが知られている。このような産卵巣は皿状で、直径20-30cm、深さ2cmほどになる。他のオスが使用した巣を再利用するケースや、巣で産卵せずに岩の隙間の水たまりや、林道脇の集水マス、公園の池などに産み落とされることもある。繁殖期は5-10月と考えられ、一地点でも繁殖は長く続く。        [1,10]

[鳴き声]

クウォン!…

[卵]

卵数は1300個ほど、直径は2.0-2.5mm[9]。

[幼生]

  • 大型で全長は80㎜にもなる[9]。尾が太く長いほか、吻端から眼の上部に目がけて白斑が並ぶのが特徴[9]。
  • 成長は早いと考えられており、産卵から2-3日で孵化する[1]。繁殖期が10月まで及ぶからか、一部の個体は孵化した年に変態せず、幼生のまま越冬することが知られている。

[成長]

成熟年齢は3歳、寿命は7年以上であると考えられている[1]。

その他

[文化]

喘息に効くといわれ、食用とされてきた歴史がある[2]。

執筆者:野田叡寛


引用・参考文献

  1. 奄美両生類研究会 岩井紀子, 亘悠哉, 戸田光彦, 阿部慎太郎,& 加賀谷隆. (2004). 奄美諸島固有種オットンガエルの保全生態学的研究. 第15期 プロナチューラ助成金成果報告.
  2. 奄美自然体験活動推進協議会.(2015).奄美野生生物保護センターニュースレター 奄美の風だより, 53号.
  3. Frost, Darrel R. (2021). Amphibian Species of the World. (Accessed: 05/15/2021).
  4. 岩井紀子, & 亘悠哉. (2006). 奄美大島におけるイシカワガエル, オットンガエルの生息状況. 爬虫両棲類学会報, 2006(2), 109-114.
  5. Iwai, N., & Shoda-Kagaya, E. (2012). Population structure of an endangered frog (Babina subaspera) endemic to the Amami Islands: possible impacts of invasive predators on gene flow. Conservation Genetics, 13(3), 717-725.
  6. Iwai, N. (2013). Morphology, function and evolution of the pseudothumb in the Otton frog. Journal of Zoology, 289(2), 127-133.
  7. 鹿児島県.(2021)希少野生動植物パンフレット 奄美群島版.
  8. Lyu, Z. T., Zeng, Z. C., Wang, J., Lin, C. Y., Liu, Z. Y., & Wang, Y. Y. (2017). Resurrection of genus Nidirana (Anura: Ranidae) and synonymizing N. caldwelli with N. adenopleura, with description of a new species from China. Amphibia-Reptilia, 38(4), 483-502.
  9. 松井正文,& 関慎太郎.(2008). カエル・サンショウウオ・イモリのオタマジャクシハンドブック.
  10. 松井正文, & 関慎太郎. (2016). ネイチャーウォッチングガイドブック: 日本のカエル 分類と生活史~ 全種の生態, 卵, オタマジャクシ.
  11. 三島章義. (1966). ハブに関する研究: I. 奄美群島産ハブの食性について. 衛生動物, 17(1), 1-21.