Cynops ensicauda ensicauda (Hallowell, 1861)
両生綱 > 有尾目 > イモリ科 > イモリ属 > シリケンイモリ > アマミシリケンイモリ
アマミシリケンイモリ
概要
[大きさ]
全長103~168 mm [1]
佐藤(1943)によると、ふつうオス105~120 mm、メス125~140 mm [2]
[説明]
雨後によく山道を歩いている[1]。
尾は細く剣のようにとがっていて、これがシリケン(尻剣)の名のもとになった[3*]。*本亜種は近年沖縄のオキナワシリケンイモリとは別亜種とされているが、以前の図鑑等においては両亜種は区別されていないことが多い。どちらの亜種か分からない記述からの引用については、番号の横に*を追加した (例:[8*])
[保全状況]
環境省レッドリスト2020:準絶滅危惧
鹿児島県レッドデータブック2016 :準絶滅危惧
分布
[分布]
奄美大島とその属島 [1]
徳之島には生息していないが、その理由はよく分かっていないらしい。[4]
分類
[分類]
両生綱 > 有尾目 > イモリ科 > イモリ属 > シリケンイモリ > アマミシリケンイモリ
[学名の由来]
種小名のensicaudaはensis (刃、剣)+cauda (しっぽ)の意味。
[タイプ産地]
[説明]
記載論文にあたるHallowell, (1861)は本種のタイプ標本について「Ousimaの北側で採集された」と述べている [5]。しかし採集者のStimpson氏はカタログに「Ousimaの南 (側?)、Katonasimaで採集」と記録していたらしい [6]。大島の南という位置関係や、同氏によるスケッチからすると、Katonasimaは奄美大島の南にある加計呂麻島を指すようだ [6]。
以上のことから、ここではタイプ産地を“おそらく加計呂麻島”とした。
もともと、沖縄諸島の個体群と共にTriturus ensicaudus (Hallowell, 1861)とされていた [5]。
その後、沖縄諸島の個体群は別亜種Triturus ensicaudus popei として区別された [7]。
中村・上野(1963)などは、この亜種区分を認めず、またシリケンイモリ自体をアカハライモリの亜種Triturus (Cynops) pyrrhogaster ensicauda としている。しかし、遺伝的な差異が見られることなどから[6][7]、現在ではそれぞれ別亜種として扱われている。
体の特徴
[形態] [2*]
胴部には背面正中に一本、背面と腹面の両側にそれぞれ一対の、計5条の縦隆起を持つ。
体色・模様は多様で、基本は背面が黒く腹面が赤に近いオレンジであるが、背面に金箔状の模様を持っていたり、背面の両隆起に沿ってオレンジの線が入ったりする個体も多い。
指は前肢で4本、後肢は5本。
[幼生] [2*]
3対の外鰓をもつ。瞼はなく、胴部の長さは頭部の倍ほど。
尾部は頭部と胴部を合わせたより長く、全長40~45mmほどで変態・上陸する。
[雌雄の差] [2*]
雌雄の成体では、以下の点で形態的差異がある[2*]
メスの方が大きい
オスの総排泄孔付近は膨大し、繁殖期には特に顕著。
胴部背面・腹面の両側に位置する4条の隆起が、オスでより顕著。
尾部の下縁におけるオレンジ色の部分が、メスでより先端まで及ぶ。
オスの尾部はメスより短く側偏する。
繁殖期のオスの体表はメスより滑らかで、またオスのみ婚姻色を呈する。
[似た種類・亜種との違い]
アカハライモリ: [1][3*]
シリケンイモリの尾は、アカハライモリに比べ細い。
手のひらの色は、アカハラでは黒いがシリケンはお腹と同じ色をしている。
オキナワシリケンイモリ:[7]
オキナワシリケンイモリは背中に金箔状の模様を持つ割合が高く、アマミシリケンイモリは背中の側稜にオレンジの線や斑を持つ割合が高い。ただし実際には外見のみでの判別は困難だと思われる。
生態
[食性] [9*][10*]
陸上では昆虫の幼虫や、カタツムリ、水中では水生昆虫や巻き貝、イトミミズ、カエルの卵やオタマジャクシの他、同種の幼生も捕食する。
幼生は小型の水生動物を捕食する。
[被食例]
[繁殖]
1月から9月にかけて池や湿地で繁殖する[1]。
オスは水中でメスの進路をふさぎ、尾を振るわせて水流を送り求愛する。次いでオスがメスの前方にゆっくり前進すると求愛を受け入れたメスはこれに追従する。オスはメスに尾をつつかれると精子塊を落とし、メスがこれを取り込むことで交尾が成立する[8*]。
卵は一つずつ水中の落ち葉などに産み付けられるほか、水際(陸上)のコケなどにも産卵する。陸上への産卵は同種による卵の捕食を避ける目的があると考えられており、親個体の密度が高い水場では陸上への産卵が起こりやすいという[8*]。
その他
[保全]
路上に出て轢死する個体が多い[12]。
沖縄に生息するオキナワシリケンイモリでは、山道で側溝に落ちてそのまま死んでしまう個体が多い[13]。アマミシリケンイモリにおいても同様の脅威が存在すると思われる。
執筆者:市岡幸雄
引用・参考文献
松井正文, & 森哲. (2021). 新 日本両生爬虫類図鑑. 日本爬虫両棲類学会. サンライズ出版, 滋賀.
佐藤井岐雄. 1943. 日本産有尾類総説. 日本出版社. 大阪. 536p.
関慎太郎, & 疋田努. (2016). 野外観察のための日本産爬虫類図鑑. 緑書房,東京.
関慎太郎, & 井上大輔編. (2019). 特盛山椒魚本. NPO法人北九州・魚部(ぎょぶる編集室)
Hallowell, E. (1861). [1860] Report upon the Reptilia of the North Pacific exploring expedition, under command of Capt. John Roger. In Proc Acad Nat Sci Phil, 1860: 480-510.
Ditmars, R. L. (1907). Herpetology of Japan and Adjacent Territory. Science, 26(668), 577pp.
Inger, R. F. (1947). Preliminary survey of the amphibians of the Riukiu islands. Fieldiana. Zoology, 32: 297-352.
Tominaga, A., Hidetoshi, O., & Masafumi Matsui. (2010). Phylogeny and phylogeography of the sword-tailed newt, Cynops ensicauda (Amphibia: Caudata), as revealed by nucleotide sequences of mitochondrial DNA. Molecular Phylogenetics and Evolution, 54.(3) : 910-921.
日高敏隆. (1996). 日本動物大百科第五巻. 平凡社, 東京.
高谷榮一, &大谷勉. (2011). 原色爬虫類両生類検索図鑑. 北陸館, 東京.
三島章義. (1966). ハブに関する研究: I. 奄美群島産ハブの食性について. 衛生動物, 17(1), 1-21.
浅利裕伸, 鈴木真理子, & 辻維周. (2022). 奄美大島に生息する希少両生類のロードキルの実態―奄美大島ロードキル研究会―. 自然保護助成基金助成成果報告書, 31, 102-108.
千木良芳範. (1990). 沖縄島ヤンバル地域における U 字型側溝への小動物の落下について (I) 落下動物の種類相と個体数, および死亡率. 沖縄県立博物館紀要, 16, 1-20.