オキナワシリケンイモリ

Cynops ensicauda popei (Inger, 1947)

両生綱 > 有尾目 > イモリ科 > イモリ属 > シリケンイモリ > オキナワシリケンイモリ

概要

[説明]

  • アカハライモリと比べて陸生傾向がつよいらしく、繁殖期でも陸上でよく見つかる [1]。
  • 尾は細く剣のようにとがっていて、これがシリケン(尻剣)の名のもとになった [2]。

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020:準絶滅危惧
  • レッドデータおきなわ 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版 (2017) :準絶滅危惧
分布

  • 沖縄島とその属島および慶良間諸島の渡名喜島 [3]

分類

[分類]

  • 両生綱 > 有尾目 > イモリ科 > イモリ属 > シリケンイモリ > オキナワシリケンイモリ

[学名の由来]

  • 種小名のensicaudaはensis (刃、剣)+cauda (しっぽ)の意味 [4]。
  •  亜種小名のpopeiは、シカゴ自然史博物館のキュレーターであるClifford H. Pope氏への献名 [5]。

[タイプ産地]

  • 沖縄県 Kin (金武町のことと思われる) [5]

[説明]

  • もともと奄美諸島の個体群と共にTriturus ensicaudus (Hallowell, 1861)とされていた。
  • その後、奄美諸島の個体群に比べ頭が相対的に小さく、斑紋を持つ個体が多いことなどから、沖縄諸島の個体群は別亜種Triturus ensicaudus popeiとして区別された [5]。
  • もともと、沖縄諸島の個体群と共にTriturus ensicaudus (Hallowell, 1861)とされていた [5]。
  • 中村・上野(1963)などは、この亜種区分を認めず、またシリケンイモリ自体をアカハライモリの亜種Triturus (Cynops) pyrrhogaster ensicaudaとしている。しかし、遺伝的な差異が見られることなどから [6][7]、現在ではそれぞれ別亜種として扱われている。
体の特徴

[幼生] [8*]*アマミシリケンイモリと本亜種を区別していない記述からの引用については、番号の横に*を追加した (例:[8*])

  • 3対の外鰓をもつ。瞼はなく、胴部の長さは頭部の倍ほど。
  • 尾部は頭部と胴部を合わせたより長く、全長40~45mmほどで変態・上陸する。

[成体][1][3][8*]

  • 胴部には背面正中に一本、背面と腹面の両側にそれぞれ一対の、計5条の縦隆起を持つ。
  • 尾部は頭胴長より長くなる。皮膚はざらついていて、とくに陸上にいるときこの傾向は顕著。
  • 体色・模様は多様で、基本は背面が黒く腹面が赤に近いオレンジであるが、背面に金箔状の模様を持っていたり、背面の両隆起に沿ってオレンジの線が入ったりする個体も多い。
  • 指は前肢で4本、後肢は5本。

[雌雄の差][8*]

  • メスの方が大きい
  • オスの総排泄孔付近は膨大し、繁殖期には特に顕著。
  • 胴部背面・腹面の両側に位置する4条の隆起が、オスでより顕著。
  • 尾部の下縁におけるオレンジ色の部分が、メスでより先端まで及ぶ。
  • オスの尾部はメスより短く側偏する。

これらのほか、[8]の記述では雌雄差として、繁殖期のオスの体表はメスより滑らかで、またオスのみ婚姻色を呈すると述べているが、オキナワシリケンイモリでは婚姻色を呈さない [1]。

[似た種類・亜種との違い]

アカハライモリ: [2][8*]

  • シリケンイモリの尾は、アカハライモリに比べ細い。
  • 手のひらの色は、アカハラでは黒いがシリケンはお腹と同じ色をしている。

アマミシリケンイモリ:[5][7]

  • オキナワシリケンイモリは背中に金箔状の模様を持つ割合が高く、アマミシリケンイモリは背中の側稜にオレンジの線や斑を持つ割合が高い。ただし実際には外見のみでの判別は困難だと思われる。
生態

[食性] [9*][10*]

  • 陸上では昆虫の幼虫や、カタツムリ、水中では水生昆虫や巻き貝、イトミミズ、カエルの卵やオタマジャクシの他、同種の幼生も捕食する。
  • 幼生は小型の水生動物を捕食する。

[被食例]

  • ケナガネズミやガラスヒバァで捕食例がある [11][12]。

[繁殖]

  • 12月から5月、ときに9月にかけて池や湿地で繁殖する [3]。
  • オスは水中でメスの進路をふさぎ、尾を振るわせて水流を送り求愛する。次いでオスがメスの前方にゆっくり前進すると求愛を受け入れたメスはこれに追従する。オスはメスに尾をつつかれると精子塊を落とし、メスがこれを取り込むことで交尾が成立する [9*]。
  • 卵は一つずつ水中の落ち葉などに産み付けられるほか、水際(陸上)のコケなどにも産卵する。陸上への産卵は同種による卵の捕食を避ける目的があると考えられており、親個体の密度が高い水場では陸上への産卵が起こりやすいという [9*]。
その他

[保全]

  • 山道で側溝に落ちてしまう個体が多い。側溝における発見時の死亡率も1割近く、年間かなりの個体が落下と乾燥によって死滅していると考えられる[13]。

執筆者:市岡幸雄


引用・参考文献

  1. Sparreboom, M., & Ota, H. (1995). Notes on the life history and reproductive behaviour of Cynops eniscauda popei (Amphibia Salamandridae). Herpetological journal, 5(4), 310-315.
  2. 関慎太郎, & 疋田努. (2018). 野外観察のための日本産爬虫類図鑑第2版. 緑書房,東京.
  3. 松井正文, & 森哲. (2021). 新 日本両生爬虫類図鑑. 日本爬虫両棲類学会. サンライズ出版, 滋賀.
  4. Stejneger, L. (1907). Herpetology of Japan and adjacent territory (No. 58). US Government Printing Office.
  5. Inger, R. F. (1947). Preliminary survey of the amphibians of the Riukiu islands. Fieldiana. Zoology, 32: 297–352.
  6. Hayashi, T. & Matsui, M. (1998). Biochemical differentiation in Japanese newts, genus Cynops (Salamandridae). Zoological Science, 5(5): 1121-1136.
  7. Tominaga, A., Hidetoshi, O., & Masafumi Matsui. (2010). Phylogeny and phylogeography of the sword-tailed newt, Cynops ensicauda (Amphibia: Caudata), as revealed by nucleotide sequences of mitochondrial DNA. Molecular Phylogenetics and Evolution 54.3 (2010): 910-921.
  8. 佐藤井岐雄. 1943. 日本産有尾類総説. 日本出版社. 大阪. 536p.
  9. 日高敏隆. (1996). 日本動物大百科第五巻. 平凡社, 東京.
  10. 高谷榮一 & 大谷勉. (2011). 原色爬虫類両生類検索図鑑. 北陸館, 東京.
  11. 久高奈津子 & 久高將和. (2017). 沖縄島やんばる地域におけるケナガネズミの食性と生息環境. 哺乳類科学 57(2):195-202.
  12. 高良鉄夫. 琉球列島における陸棲蛇類の研究. (1962). The science bulletin of the Division of Agriculture, Home Economics & Engineering, University of the Ryukyus(9): 1-202.
  13. 千木良芳範. (1990). 沖縄島ヤンバル地域における U 字型側溝への小動物の落下について (I) 落下動物の種類相と個体数, および死亡率. 沖縄県立博物館紀要, 16, 1-20.