イワサキワモンベニヘビ

Sinomicrurus iwasakii (Maki,1935)

爬虫網>有鱗目>ヘビ亜目>コブラ科 > コブラ亜科 > ワモンベニヘビ属 > イワサキワモンベニヘビ

  • オス成体(西表島)
概要

[地方名・別名] 

  • フニンダマハブ、イワサキベニヘビ[6]

[大きさ] 

  • 全長 29–89 cm[5][7]

[説明]

  • 背面は赤茶色で白く縁取られた黒い環状紋があり、非常に美しい。腹面は薄黄色で黒い環状紋の間に不規則に黒斑が入る。
  • 有毒だが、咬傷例はない。
  • 地上性で湿潤な森林に生息する。発見例は非常に少なく、生態などについてはほとんど何も分かっていない。
  • 小型のヘビを捕食する。

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020:絶滅危惧II類
  • レッドデータおきなわ 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版 (2017) :準絶滅危惧
  • 石垣市自然環境保護条例保全種
  • 竹富町自然環境保護条例希少野生動植物種
分布

[分布]

  • 石垣島、西表島

[生息環境]

  • 湿潤な常緑広葉樹林、落ち葉や倒木の下などで見つかっている[3]
分類

[分類]

  • 爬虫網>有鱗目>ヘビ亜目>コブラ科 > コブラ亜科 > ワモンベニヘビ属 >イワサキワモンベニヘビ

[タイプ産地] 

  • 石垣島バンナ山 (採集者:岩崎卓爾)

[説明]

  • イワサキワモンベニヘビは1935年にCalliophis iwasakiiという独立種として記載されたが[2]、Loveridge(1945)によってC. macclellandi iwasakiiとしてインドからインドシナ半島にかけて分布するワモンベニヘビC. macclellandi (現在のSinomicrurus macclellandi)の亜種にされた[11]。
  • その後、本種は長くCalliophisとされてきたが、分子系統学的、形態学的な研究により、2001年にSlowinskiらによってヒャンSinomicrurus japonicusなどと共にワモンベニヘビ属Sinomicrurus(中国のサンゴヘビの意)として分けられた[4]。
  • 上述の通り、近年まで本種は台湾や中国大陸に分布する近縁種とともに、ワモンベニヘビS. macclellandiの亜種として扱われていたが、2021年に本種を含むワモンベニヘビ属全体の分類が見直され、遺伝的、形態的な違いをもとに、独立種S. iwasakiiとして扱われるようになった[12]。
体の特徴

[形態]

  • 頭部は平たく、頸よりも少し太い。尾は短く頭胴長の9–14%程度で、先が尖る。
  • 体鱗は13列、腹板は210〜233枚、尾下板は27〜40対。肛板は二分する。頰板はない。上唇板は7枚で、内3枚目と4枚目は眼に接する。キールはなく平滑。
  • 背面は赤茶色で白く縁取られた黒い環状紋が30〜40個ある。腹面は薄黄色で黒い環状紋の間に不規則に黒斑が入る。頭部は黒帯2本とそれに挟まれた薄黄色の帯が1本入る。
  • 眼は小さく、瞳孔は丸い。

[似た種との違い]

  • 同所的に分布する種で、本種のような赤と黒の環状紋が交互に入る色彩パターンを持つ種はいないため、容易に見分けられる。
生態

[食性][3,6,10]

以下のヘビ類のみが知られている。おそらく探索型の捕食者であると考えられる。

  • ブラーミニメクラヘビ
  • サキシママダラ
  • サキシマアオヘビ
  • タカチホヘビ類(飼育下)

[防御行動][10]

  • 刺激を受けると体を上下方向に平くし、不規則に大きく振る、頭部を体の下に隠す、尾を巻くなどの行動が観察されている。また尖った尾の先端で刺すような行動が知られる。
その他

[毒性]

  • 定量的な研究は行われておらず、毒性は強いとされることも[7]、弱いとされることも[5]あり、詳しくは不明。
  • イワサキワモンベニヘビの咬傷例はないが、ネパールで近縁種のS. macclellandiによる死亡事故が報告されている[1]。
  • 攻撃性は低いとされることもあるが、捕獲時に数分間手袋や近くの物に咬みついていたという観察例もあり、扱う際には注意が必要[10]。

[コメント]

  • とにかく希少で美しいヘビ。筆者の幼少期からの一番の憧れであり、西表島の森の中で見つけた時には驚きと感激のあまり絶句しました。本種が生息できる環境がいつまでも西表島と石垣島に残り続けることを祈るばかりです。

執筆者:福山伊吹

2022年8月追記


引用・参考文献

  1. Kramer E. 1977. Zur Schlangenfauna Nepals. Revue suisse de Zoologie 84(3):721-761.
  2. Maki, M. 1935. A new poisonous snake (Calliophis iwasakii) from Loochoo. Trans. Nat. Hist. Soc. Formosa, 25:216-219.
  3. 太田英利. 2014. 環境省(編)レッドデータブック2014 ー日本の絶滅のおそれのある野生生物ー 3爬虫類・両生類. (株)ぎょうせい, 東京.
  4. Slowinski, J. B., Boundy and R. Lawson, 2001. The phylogenetic relationships of Asian coral snakes (Elapidae: Calliophis and Maticora) based on morphological and molecular characters. Herpetologica 57 (2): 233-245.
  5. 高橋寛・川村善治. 1982. イワサキワモンベニヘビの大型個体と,その飼育(講演要旨). 爬虫両棲類学雑誌 9(4):122-123.
  6. 高良鉄夫. 1962. 琉球列島における陸棲蛇類の研究. 琉球大学農家政工学部学術報告, (9):1-202.
  7. 高良鉄夫. 1969. 八重山群島(琉球)産ヘビに関する若干の知見. 爬虫両棲類学雑誌 3(2-3):19-21.
  8. 日本爬虫両棲類学会. 2017. 日本産爬虫両生類標準和名リスト. <http://herpetology.jp/wamei/index_j.php>, 参照 2018-03-06.
  9. THE REPTILE DATABASE , 参照 2018-03-06.
  10. Fukuyama, I. & Fukuyama, R. 2020. Sinomicrurus macclellandi iwasakii DEFENSIVE BEHAVIOR and DIET. Herpetological Review 51(4): 878–880.
  11. Loveridge, A. (1945). Reptiles of the Pacific world. Macmillan.
  12. Smart, U., Ingrasci, M. J., Sarker, G. C., Lalremsanga, H., Murphy, R. W., Ota, H., … & Smith, E. N. (2021). A comprehensive appraisal of evolutionary diversity in venomous Asian coralsnakes of the genus Sinomicrurus (Serpentes: Elapidae) using Bayesian coalescent inference and supervised machine learning. Journal of Zoological Systematics and Evolutionary Research, 59(8), 2212-2277.