オキナワイボイモリ

Echinotriton andersoni (Boulenger, 1892)

両生綱 > 有尾目 > イモリ科 > イボイモリ属 > オキナワイボイモリ

  • 成体・沖縄本島北部
概要

[大きさ] 

  • 頭胴長 5.5–10 cm。全長 10–20 cm。[11,15]

[説明]

  • 沖縄諸島の一部のみに分布し、常緑広葉樹の自然林や草原などで見られる。
  • 肋骨が皮膚のすぐ下で左右に葉脈状に広がり、体側でその先端が突出し、いぼのように見えることから「イボイモリ」の名がついた。
  • 全身が黒褐色だが、総排出腔周辺、四肢の下面、尾の下面などはオレンジ色。
  • 普段は低密度で林床に棲むが、繁殖期には水場近くの陸地で多く観察される。
  • ミミズ、陸貝、小型の節足動物を捕食する。

[保全状況]

  • 沖縄県の天然記念物および国内希少野生動植物種に指定され、無許可での捕獲等は禁止されている。
  • IUCNレッドリスト2020:絶滅危惧II類(VU)
  • 環境省レッドリスト2020:絶滅危惧II類(VU)
  • レッドデータおきなわ2017 :絶滅危惧II類(VU)
分布

[分布]

  • 沖縄諸島(沖縄島、瀬底島、渡嘉敷島)[11]
  • 台湾からもわずかに記録があるが、産地の誤りまたは既に絶滅したものと考えられている[10]。

[生息環境]

  • 常緑広葉樹の樹林内や草原などで見られる[14]。
分類

[分類]

  • 両生綱 > 有尾目 > イモリ科 > イボイモリ属 > オキナワイボイモリ

[タイプ産地] 

  • 沖縄島[1]

[説明]

  • ミナミイボイモリ属Tylototritonとして記載されたが、1982年に頭骨形態の違いからイボイモリ属Echinotritonとして分けられた。本種はイボイモリ属のタイプ種である[1,12]。
  • 奄美群島と沖縄諸島の個体群は長く同種として扱われてきたが、遺伝的な解析から別種レベルに分化していることが示唆されていた[5]。そこで2022年に奄美群島の集団がアマミイボイモリとして新種記載された。[3]
  • 本種の標準和名は単に「イボイモリ」であったが、アマミイボイモリの新種記載をきっかけに、「オキナワイボイモリ」に変更された。[17]
体の特徴

[形態][2,11,15]

  • 体色は黒色または黒褐色でまれに赤褐色。総排出腔周辺、四肢の下面、尾の下面は多くの場合オレンジ色。
  • 頭部は幅が広く扁平。尾は全長と同程度か少し短い。
  • 脊椎は隆起し、皮膚の上からでも明瞭に確認できる。肋骨が皮膚のすぐ下で左右に葉脈状に広がり、体側でその先端が突出する。

[似た種との違い]

  • オキナワイボイモリはオキナワシリケンイモリCynops ensicaudaと同所的に生息している。オキナワイボイモリの方が頭部や胴部が太く平たいこと、体側で肋骨が張り出し鋸歯状となっていること、またオキナワイボイモリは腹部がオレンジ色にならないことなどで見分けられる。
生態

[食性]

  • 成体はミミズ、クモ、甲虫、ワラジムシ、ナメクジなどを捕食する[6]

[被食]

  • 移入種のジャワマングースに捕食された例がある[13]
  • ガラスヒバァの胃内容物から卵が見つかった記録がある[16]

[繁殖][15]

  • 繁殖期は11月~5月ごろ。

[卵][15]

  • 卵は1つずつ池や水たまりの近くの陸上の落ち葉の下などに産みつけられる。

[幼生][9,15]

  • 幼生はおそらく降雨をきっかけに孵化し、跳ねながら自力で水場へ移動する。2–3ヶ月で変態し、上陸する。
その他

[保全]

  • 域外保全のため、飼育下での繁殖が試みられている[7]。
  • 生息場所の多くは人為的な活動の影響を受けやすく、絶滅が危惧されている[4]。
  • 渡嘉敷島などの小さな島、および沖縄島南部の集団は特に絶滅のリスクが高いことが懸念されている[8,14,15]。

執筆者:福山伊吹
2023年7月 アマミイボイモリの記載に伴い、記述の修正を行った。(木村楓)


引用・参考文献

  1. Boulenger, G. A. 1892. Descriptions of new reptiles and batrachians from the Loo Choo Islands. Annals and Magazine of Natural History, Series 6, 10: 302–304.
  2. Brodie Jr, E. D., Nussbaum, R. A., & DiGiovanni, M. (1984). Antipredator adaptations of Asian salamanders (Salamandridae). Herpetologica, 56-68.
  3. Dufresnes, C., and A. Hernandez. (2023). Towards completing the crocodile newts’ puzzle with all-inclusive phylogeographic resources. Zoological journal of the Linnean Society 197:620–640.
  4. Hernandez, A., Escoriza, D., & Hou, M. (2017). Habitat selection of the endangered crocodile newts Echinotriton (Amphibia: Salamandridae): a preliminary assessment. Bulletin de la Société Herpétologique de France, 163, 21-34.
  5. Honda, M., Matsui, M., Tominaga, A., Ota, H., & Tanaka, S. (2012). Phylogeny and biogeography of the Anderson’s crocodile newt, Echinotriton andersoni (Amphibia: Caudata), as revealed by mitochondrial DNA sequences. Molecular phylogenetics and evolution, 65(2), 642-653.
  6. 本多正尚, 八幡謙介, 富永篤, 太田英利. (2011). 沖縄島および奄美大島産イボイモリ(両生綱:有尾目)の胃内容について. Akamata 22:5–8.
  7. Igawa, T., Sugawara, H., Tado, M., Nishitani, T., Kurabayashi, A., Islam, M. M., … & Sumida, M. (2013). An attempt at captive breeding of the endangered newt Echinotriton andersoni, from the Central Ryukyus in Japan. Animals, 3(3), 680-692.
  8. Igawa, T., Sugawara, H., Honda, M., Tominaga, A., Oumi, S., Katsuren, S., … & Sumida, M. (2020). Detecting inter-and intra-island genetic diversity: population structure of the endangered crocodile newt, Echinotriton andersoni, in the Ryukyus. Conservation Genetics, 21(1), 13-26.
  9. 栗田一輝, 富永篤. (2017). 野外でのイボイモリの孵化サイズとその発生段階. AKAMATA 27:13–17.
  10. 西川完途. (2020). 台湾のイモリの謎. Caudata, 4, 30–31.
  11. Nishikawa, K., M. Matsui, and A. Tominaga. 2022. Morphological and taxonomic reexamination on a crocodile newt recently described from Japan (Urodela, Salamandridae, Echinotriton). Zootaxa 5196:223–234.
  12. Nussbaum, R. A., & Brodie Jr, E. D. (1982). Partitioning of the salamandrid genus Tylototriton Anderson (Amphibia: Caudata) with a description of a new genus. Herpetologica, 320-332.
  13. 小倉剛, 佐々木健志, 当山昌直, 嵩原建二, 仲地学, 石橋治, … & 織田銑一. (2002). 沖縄島北部に生息するジャワマングース (Herpestes javanicus) の食性と在来種への影響. 哺乳類科学, 42(1), 53-62.
  14. 太田英利, & 小原祐二. (2004). 沖縄島南部におけるイボイモリの分布. 爬虫両棲類学会報, 2004(2), 113-115.
  15. 富永篤. (2017). イボイモリ. p. 224–226. In: 沖縄県環境部自然保護課(ed.), 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第 3 版(動物編)—レッドデータおきなわ—. 沖縄県環境部自然保護課, 沖縄.
  16. 皆藤琢磨 (2012) ガラスヒバァによるイボイモリ卵の捕食.Akamata. No. 23: 9–14.
  17. 日本爬虫両生類学会. 近年の分類・和名の変更に関する解説記事・文献.(http://herpetology.jp/wamei/notes_j.php) 2023年7月26日閲覧