アマミイボイモリ

Echinotriton raffaellii Hernandez et Dufresnes, 2022

両生綱 > 有尾目 > イモリ科 > イボイモリ属

概要

[大きさ] 

  • 頭胴長 5–8 cm 全長 10–17 cm

[説明]

  • 奄美群島に固有の種で、沖縄島のイボイモリと同種とされてきたが2022年に独立種として記載された。背面のざらざらとした皮膚と張り出した肋骨が特徴。オキナワイボイモリと比較して肋骨や口角が顕著に張り出し、先端が橙色を呈する個体が多い。樹林内や耕作地に生息する。冬から初夏にかけて水場近くの落葉下などに産卵し、孵化した幼生は跳ねて水場まで移動する。

[保全状況]

  • 鹿児島県の天然記念物および国内希少野生動植物種に指定され、無許可での捕獲等は禁止されている。
  • 環境省レッドリスト2020:絶滅危惧II類(VU)
分布

[分布]

  • 奄美群島(奄美大島、請島、および徳之島)[1]

[生息環境]

  • 樹林内やさとうきび畑などの耕作地で見られる。変態後は陸上ですごし、基本的に水中に入らない。[2]
分類

[分類]

  • 両生綱 > 有尾目 > イモリ科 > イボイモリ属 > アマミイボイモリ

[タイプ産地] 

  • 徳之島(鹿児島県)[3]

[説明][1,3]

  • 近年まで同種とされてきたオキナワイボイモリ(E. andersoni)とは遺伝的な分化が深く別種とみなせるほどであることから、2022年に独立種として記載された。両種は形態的にも差異が認められる。
  • 学名のraffaelliiはフランスの有尾類研究者ジャン・ラファエリ(Jean Raffaëlli)博士への献名
体の特徴

[形態]

  • 体色は地色が黒色で、肋骨や口角の先端、四肢端、総排出口、尾の下面は濃い橙色から黄色を呈する。背面は小突起が並びザラザラとした質感で、体側に張り出した肋骨が特徴的である。[1]
  • 繁殖期になると雄は総排出口が膨らむことで雌雄が判別できる[4]。

[似た種との違い]

  • 沖縄諸島に生息するオキナワイボイモリ(E. andersoni)とは近縁で外部形態も似ている。本種はオキナワイボイモリに比べてやや小型で、口角および肋骨の張り出しがより顕著であり、またそれらの先端が橙色を呈する個体が多い。[1]
アマミイボイモリ
オキナワイボイモリ
  • 奄美大島および請島においてはアマミシリケンイモリと同所的に分布する。本種はアマミシリケンイモリと異なり、背面に肋骨が張り出して鋸歯状となっていること、また腹部は一様に黒色で赤色の斑紋を持たないことで区別できる。[5]
アマミシリケンイモリ
生態

[食性][6]

  • ムカデの捕食例が報告されている。

[繁殖]

  • 繁殖期は11月から6月頃。[2, 7, 8]
  • 飼育下でオスがメスを円周状に回転しながら追いかけるという求愛行動が観察されており、その過程でオスが落とした精包をメスが受け取ると考えられている。[9]
  • 池や水たまり、湧水ちかくの陸上で産卵し、卵は落葉の下や腐植質に産み付けられる。雌は鼻先を使って産卵した卵を土中に埋め込む行動をするという。[2]

[行動][10]

  • 攻撃を受けると、尾を高く上げ背を反らす防御姿勢を見せる。同時に肋骨を広げてその先端を皮膚から飛び出させることで、捕食者を攻撃する。

[卵][1,2,11]

  • 水場近くの陸上の落葉下などに産卵する。卵は乳白色で卵径は3mmほど。

[幼生]

  • 陸上で孵化した幼生は、飛び跳ねながら移動し、近くの水場に入る。[2, 7]
  • 幼生は全長40mmほどまで成長して変態する。[11]
その他
  • 保全|海によって分断された奄美大島、請島、徳之島の個体群はそれぞれ遺伝的に一定の分化が見られ、小規模な島である請島では遺伝的多様性が低いことから、絶滅のリスクが懸念されている。[12]
  • 寄生|Haemadipsidae科のヒルによる吸血が報告されている。[13]

執筆者:木村楓
2023年7月 執筆・公開


引用・参考文献

  1. Nishikawa K, Matsui M, Tominaga A (2022) Morphological and taxonomic reexamination on a crocodile newt recently described from Japan (Urodela, Salamandridae, Echinotriton). Zootaxa 5196:223–234
  2. Utsunomiya Y, Utsunomiya T, Kawachi S (1978) Some ecological observations of Tylototriton andersoni, a terrestrial salamander occurring in the Tokunoshima Island. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci 54:341–346
  3. Dufresnes C, Hernandez A (2022) Towards completing the crocodile newts’ puzzle with all-inclusive phylogeographic resources. Zool J Linn Soc.
  4. Utsunomiya T, Matsui M (2002) Male courtship behavior of Tylototriton (Echinotriton) andersoni Boulenger under laboratory conditions. Curr Herpetol 21:67–74
  5. 日本爬虫両生類学会 (2021) 新 日本両生爬虫類図鑑. サンライズ出版, 滋賀県
  6. 本多正尚・八幡謙介・富永篤・太田英利 (2011) 沖縄島および奄美大島産イボイモリ(両生綱:有尾目)の胃内容について. Akamata 22:5–8
  7. 宇都宮妙子 (1999) 南西諸島の両生類調査記(1)徳之島のイボイモリTylototriton andersoni. 両生類誌 2:30–36
  8. 岡崎幹人・中村麻理子・鮫島正道 (2010) 徳之島におけるイボイモリTylototrion andersoniの生態とロード・キルの保全対策. Nature of Kagoshima 36:1–10
  9. 井川武. (2020) イボイモリの飼育と繁殖行動の観察. Caudata 4:18–22
  10. Brodie ED, Nussbaum RA, Marianne DiGiovanni (1984) Antipredator adaptations of Asian salamanders (Salamandridae). Herpetologica 40:56–68
  11. 宇都宮泰明・宇都宮妙子 (08 1977) イボイモリ(Tylototriton andersoni) の発生. 広島大学水畜産学部紀要 16:65–76
  12. Igawa T, Sugawara H, Honda M, et al (2020) Detecting inter- and intra-island genetic diversity: population structure of the endangered crocodile newt, Echinotriton andersoni, in the Ryukyus. Conserv Genet 21:13–26
  13. Fukuyama R, Morishima K (2021) The first record of ectoparasitism by a land leech on Anderson’s spiny crocodile newt, Echinotriton andersoni (Caudata: Salamandridae). Herpetol Notes 14:1379–1380

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