タカラヤモリ

Gekko shibatai Toda, Sengoku, Hikida et Ota, 2008

爬虫綱 > 有鱗目 > ヤモリ科 > ヤモリ属 > タカラヤモリ

概要

[大きさ] [1]

  • 全長は最大で15 cm程度になる
  • 頭胴長は6~7 cm程度で、最大で7.5 cm
  • 尾長は頭胴長とほぼ同じか、やや長い

[説明]

  • 吐噶喇諸島南部の宝島・小島のみに分布する固有種
  • 吻端から上唇板にかけては黄色い条があり、唇が黄色いように見える
  • 島内のさまざまな環境で見られる
  • 昆虫などを捕食する

[保全状況]

  • なし
分布

[分布] [1,2]

  • 吐噶喇諸島南部(宝島と小島)

[生息環境][1]

  • 海岸林や原生林、二次林、人家、露岩など、島内のさまざまな環境に生息
  • 小島では、夜間に砂浜でも見られる
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有鱗目 > ヤモリ科 > ヤモリ属 > タカラヤモリ

[タイプ産地][2]

  • 吐噶喇諸島宝島
  • 本種の種小名のshibataiは、日本のヤモリ類の研究で知られた柴田保彦博士への献名。

[近縁種との分類学的関係]

  • 宝島産のヤモリは古くから記録報告があり、既知の種と異なる未記載種であるということも、比較的前から知られていた。
  • 松井・鈴木(1981)[3]は吐噶喇諸島で採集したトカゲ類標本を検討し、前肛孔を欠くことなどの特徴がこれまでの既知種と一致しないということを報告した。なお、この報告は学会発表にとどまり、その後この内容が論文化されることはなかったと思われる。
  • 柴田(1989)[4]は宝島産のニホンヤモリ Gekko japonicusと同定されていた標本を再検討し、既知種と異なるさまざまな特徴があることを確認した。この特徴が松井・鈴木(1981)の報告と一致したことから、便宜的に和名をつけ、タカラヤモリ(仮称)Gekko sp. 1として報告した。
  • その後2008年の論文で、吐噶喇諸島と奄美諸島にミナミヤモリとは形態的・遺伝的に異なる集団がいることが確かめられ、タカラヤモリG. shibatai (宝島と小島)とアマミヤモリG. vertebralis (小宝島と奄美諸島)が記載された[2]。
  • 吐噶喇諸島には複数の島々があるが、宝島と小島にはタカラヤモリが、小宝島にはアマミヤモリが分布し、それ以外の島にはミナミヤモリが生息する[1]。したがって、これらの種は吐噶喇諸島の中では同所的に生息せず、島ごとに棲み分けている。
体の特徴

[形態][1,2]

  • 背面は栗色で、明暗の斑点が散らばる
  • 背面には縦に、斜めで不規則な形の暗帯が並ぶ
  • 吻端から上唇板にかけては鮮やかな黄色い条があり、黄色い唇をしているように見える
  • 腹面は灰褐色から黄色で、暗褐色の小さな斑点が散在することが多い
  • 背面には大型鱗が多数散在するが、四肢には存在しない
  • オスの前肛孔は基本的にはないが、ごく稀に1〜3個の発達の悪い前肛孔を持つことがある
  • オスはメスよりも相対的に大きな頭を持つ
  • 頭胴長は65 mm前後で、宝島よりも小島の個体群の方が、やや大きい
  • 尾率は頭胴長の98~114%程度

[似た種との違い][1]

基本的な見分け方
  • 宝島と小島には本種以外のヤモリは生息していなかったが、2017年に宝島でホオグロヤモリの生息が確認された。近年になって宝島に定着したと考えられている[1]。
  • そのため、基本的にはホオグロヤモリとの見分け方さえわかれば、宝島、小島に生息するヤモリの判別が可能である。
  • ホオグロヤモリは尾に突起があるが、タカラヤモリの尾には突起がない(ただしホオグロヤモリの再生尾には突起がないため、注意が必要)。また、ホオグロヤモリは指下板が左右二つに分かれるが、タカラヤモリは分かれない。
吐噶喇諸島のミナミヤモリ種群との見分け方
  • ヤモリ属の種では、吐噶喇諸島の宝島と小島にはタカラヤモリ、吐噶喇諸島の小宝島および奄美諸島にはアマミヤモリ、吐噶喇諸島のそれ以外の島々にはミナミヤモリが生息する。
  • これら3種は元々同一種として扱われていた経緯があり、外見もよく似ている。
  • ミナミヤモリのオスは前肛孔を6-10個持つが、アマミヤモリとタカラヤモリでは前肛孔がほぼなく、ある場合でも痕跡的なものが3個以下あるのみである。
  • アマミヤモリとミナミヤモリは口の周りが黄色くならないが、タカラヤモリは鮮やかな黄色い条で吻端から上唇板にかけてが縁取られる。
ミナミヤモリのオス個体(久米島産)の前肛孔

タカラヤモリのメス個体(宝島産)の総排泄腔付近。本種ではオスの場合でも、前肛孔は見られない。

生態

[食性][1,2]

  • 主に昆虫などを捕食する
  • サツマゴキブリの幼虫の捕食例がある
  • ブラーミニメクラヘビの捕食例もある

[繁殖][2]

  • 7月後半に採集されたメス(SVL68 mm)が、腹部に産卵直前の卵を二つ持っていた記録がある。
  • この卵は採集の二日後に産卵され、他の近縁種のヤモリ同様、垂直な壁や天井に貼り付けるように産み付けられた。
  • この二つの卵は産卵の63日後に孵化し、孵化幼体は頭胴長が28.2~28.8mm、尾長が34mmだった。
その他

[コメント]

唇の黄色が美しく、体も大きな、見栄えのするヤモリです。宝島と小島にしかいないため、いつか見に行ってみたいと思っています。

執筆者:福山亮部


引用・参考文献

  1. 日本爬虫両生類学会 編. 2021. 新 日本両生爬虫類図鑑. サンライズ出版, 232pp
  2. Toda, M., Sengoku, S., Hikida, T., & Ota, H. (2008). Description of two new species of the genus Gekko (Squamata: Gekkonidae) from the Tokara and Amami Island Groups in the Ryukyu Archipelago, Japan. Copeia2008(2), 452-466.
  3. 松井孝爾・鈴木博. 1981. トカラ列島産トカゲ類の採集記録(1)〔講演要旨〕.爬虫両棲類学雑誌 9 (2): 66–67.
  4. 柴田保彦. 1989. Gekko japonicus と同定されていた大隅諸島とトカラ列島産ヤモリ標本の再検討. 自然史研究2(5), 73-75.