ホオグロヤモリ

Hemidactylus frenatus Duméril et Bibron, 1836

爬虫綱 > 有鱗目 > ヤモリ科 > ナキヤモリ属 > ホオグロヤモリ

  • 成体
概要

[大きさ] [1]

  • 頭胴長4.5–6 cm
  • 尾まで入れた全長は9–13 cm

[説明]

  • 琉球列島や小笠原諸島に広く分布する外来種のヤモリで、都市部でもよく見られる
  • 内陸部を除く世界中の熱帯から亜熱帯に広く分布するが、ほとんどが移入と考えられ、自然分布域はよくわかっていない
  • 「チッ,チッ,チッ・・・・・」と鳴く

[保全状況]

  • なし
分布

[分布][1]

  • 奄美諸島,沖縄諸島,大東諸島,先島諸島のほぼ全ての有人島,小笠原諸島

[生息環境]

  • 人工的な環境が生息環境の中心
  • 民家などの建造物を中心に生息し、人里離れた自然林ではあまり見られない[1]
  • 灯火に集まる昆虫を捕食するため、自販機や街灯などでもよく見られる
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有鱗目 > ヤモリ科 > ナキヤモリ属 > ホオグロヤモリ

[タイプ産地] 

  • 記載論文ではタイプ標本が指定されていないが、複数の標本の計測値に基づく形態の記載や、マダガスカルやセイロン(スリランカ)、ジャワ島などの分布域の情報が示されている[5]。

[備考]

  • ナキヤモリ属 Hemidactylusは東南アジアからアフリカ、南米にかけて分布し(移入での分布域を除く)、現在までに170種以上が知られている[3]。
  • ホオグロヤモリはその中でもインドに生息する種群と系統的に近縁であることがわかっている[4]。
  • このことから、ホオグロヤモリはインドに起源し、海洋分散や人為的な移入によって東南アジアをはじめとする世界各地に生息域を広げていったと推測されている[4]。
体の特徴

[形態][1,2]

  • 背面は灰色から灰褐色、暗褐色
  • 背面の模様がほぼ無く一様な個体もいるが、黒褐色の不規則な斑点や条線を持つ個体もいる
  • 背面は細かい粒状の鱗で覆われる
  • 背面や体側面の鱗には通常、大型の顆粒が散在する
  • 腹面は黄白色または灰白色
  • 指下板は二分する
  • 尾には棘状の突起が並ぶ(再生尾には棘がない)

[似た種との違い][2]

ヤモリ属の種(ミナミヤモリオキナワヤモリなど)や、オンナダケヤモリオガサワラヤモリキノボリヤモリタシロヤモリなどが同所的に生息する。

国内の場合、以下の特徴から同所的に生息する他のヤモリ類と区別ができる

  1. 尾のあるホオグロヤモリとそれ以外のヤモリの識別法:尾の突起の有無
  • ホオグロヤモリの尾には棘状の突起が並ぶ。このような突起は国内の他のヤモリでは見られない
  • なお、ホオグロヤモリの再生尾にはこの突起がなくなるため、根本から尾が切れてしまった個体ではこの識別法は使えない

  1. 尾のないホオグロヤモリとそれ以外の識別:指下板の構造と大型の顆粒状の鱗の有無
  • ヤモリ属の種は指下板が2分しない点で、ホオグロヤモリと区別できる
  • 指下板が2分する種の中で、背面や体側面の鱗に大型の顆粒状の鱗が散在するのは、国内だとホオグロヤモリのみ
生態

[食性]

  • 昆虫等を捕食する[1]
  • 北大東島の雌個体を対象に行われた研究によると、冬季にはワラジムシ類やゴキブリを主に捕食し、春から秋にかけては鱗翅目やハエ目の昆虫を主に捕食していた[6]

[繁殖][1,6]

  • 日本国内では、春から秋の暖かい時期に繁殖を行う
  • 1回に2つの卵を壁の隙間などに産みつける
  • 卵は1.5–2.5ヶ月で孵化し、暖かいほど孵化までの時間が早くなる
  • 卵は18度以下で保管されると孵化しない

[移入]

  • ナキヤモリ属Hemidactylusは、尾に栄養分を溜め込み長期の絶食に耐えたり、卵の海水への耐性が高いといった、長距離分散に適した特性を持つ種が多く、過去複数回渡り、複数の種が長距離の海洋分散を行なってきたと考えられている[8,9]
  • 交易などで人間の移動が活発になってからは、資材等に紛れて各地へ分布を広げたとされている
  • 実際に、外部から樹木を移植した際、紛れて非意図的に持ち込まれた例もある[7]
その他

[コメント]

琉球列島の島々では街中でもよく見かける、馴染み深いヤモリです。「チッ,チッ,チッ・・・・・」という本種の声が聞こえると、琉球列島に来たんだなぁという実感が湧きます。

執筆者:福山亮部


引用・参考文献

  1. 国立環境研究所. 侵入生物データベース. https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/30080.html 参照 2021.8.20
  2. 中村健児・上野俊一. 1963. 原色日本両生爬虫類図鑑. 保育社. 大阪. 214p.
  3. The Reptile Database. https://reptile-database.reptarium.cz/advanced_search?genus=Hemidactylus&submit=Search. 参照 2021.8.20
  4. Bansal, R., & Karanth, K. P. (2010). Molecular phylogeny of Hemidactylus geckos (Squamata: Gekkonidae) of the Indian subcontinent reveals a unique Indian radiation and an Indian origin of Asian house geckos. Molecular Phylogenetics and Evolution57(1), 459-465.
  5. Duméril, A.M. C. and G. Bibron. 1836. Erpetologie Générale ou Histoire Naturelle Complete des Reptiles. Vol. 3. Libr. Encyclopédique Roret, Paris, 528 pp.
  6. Ota, H. (1994). Female reproductive cycles in the northernmost populations of the two gekkonid lizards, Hemidactylus frenatus and Lepidodactylus lugubris. Ecological Research9(2), 121-130.
  7. Brisbane, J. L. K., Dewynter, M., Angin, B., Questel, K., & van den Burg, M. P. (2021). Importation of ornamental plants facilitates establishment of the Common House Gecko, Hemidactylus frenatus Duméril & Bibron, in the Lesser Antilles. Caribbean Herpetology77, 1-5.
  8. Kluge, A. G. (1969). The evolution and geographical origin of the New World Hemidactylus mebouiabrookii complex (Gekkonidae, Sauria).
  9. Carranza, S., & Arnold, E. N. (2006). Systematics, biogeography, and evolution of Hemidactylus geckos (Reptilia: Gekkonidae) elucidated using mitochondrial DNA sequences. Molecular phylogenetics and evolution38(2), 531-545.