ミナミヤモリ

Gekko hokouensis Pope, 1928

爬虫綱 > 有鱗目 > ヤモリ科 > ヤモリ属 > ミナミヤモリ

  • 成体(久米島)
概要

[大きさ] [1]

  • 頭胴長は4–6 cm前後
  • 尾長は頭胴長とほぼ同じか、やや長い

[説明]

  • 国内では九州南部から琉球列島にかけて分布する
  • 比較的開けた環境に多い
  • 昆虫などを捕食する

[保全状況]

  • なし
分布

[分布]

  • 国内の自然分布域は、九州南端部、大隅諸島(馬毛島・種子島・屋久島を除く全島)、吐噶喇諸島(小島、小宝島、宝島を除く全島)、奄美諸島(枝手久島を除く全島)、沖縄諸島(ほぼ全ての有人島)、先島諸島(八重山諸島嘉弥真島、波照間島、尖閣諸島北小島を除く全島)[1,2]
  • 国外では、台湾から中国東部にかけて分布する。
  • 国内各地に移入しており、屋久島、九州北部の中通島と平島、高知県南部(香南市、芸西村)、和歌山県有田市、八丈島に定着している個体群は、移入分布によるものと考えられている。熊本県水俣市、三重県、神奈川県、静岡県からも報告がある。[1,2,3,4,5]

[生息環境][1]

  • 人工建造物や二次林、防風林といった、比較的ひらけた環境を好む
  • 原生林には少ない
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有鱗目 > ヤモリ科 > ヤモリ属 > ミナミヤモリ

[タイプ産地] 

  • Hok’ou, northeast Kiangsi Province, China (中国江西省鉛山県)[6,7]

[近縁種との分類学的関係]

  • 本種はニホンヤモリ G. japonicusの亜種として、1928年に記載された[6]。
  • その後、中国東部ではニホンヤモリと同所的に生息すること、形態的に明確な差異があること、生態的な違いがあることなどを根拠に、亜種から種への格上げが行われた[7]。
  • 中国東部の個体群と、日本から台湾にかけての島嶼個体群には遺伝的な差異があり、分類学的再検討が必要とされている[1]。
  • 沖縄諸島には本種に近縁な隠蔽種が同所的に生息している。Toda et al. (2001)で行われたアロザイム分析で、これまでミナミヤモリとされていた集団内に、形態的な差異がほとんど無い隠蔽種がいることが明らかにされ、オキナワヤモリという和名で区別されるようになった[8]。
  • 外部形態としては、背面の暗帯の形状や、頭部下面および腹部の模様、頭胴長、オスの前肛孔数、尾部の大型鱗対数などで、オキナワヤモリと概ね識別ができるとされているが、現時点(2021年)ではまだ記載が行われていない[9]。
  • 吐噶喇諸島と奄美諸島についても、ミナミヤモリとは形態的・遺伝的に異なる集団がいることが明らかにされ、2008年にタカラヤモリG. shibatai (宝島と小島)とアマミヤモリG. vertebralis (小宝島と奄美諸島)が記載されている[10]。
体の特徴

[形態][1,9]

  • 背面は淡褐色から灰褐色
  • 背面には縦に暗帯が並び、不規則な暗色の斑紋も存在する
  • 沖縄諸島と奄美諸島では、暗帯が左右に二分しない
  • 尾には幅の広い暗色の横帯が並ぶ
  • 個体によっては(大隅諸島や九州南部など)暗帯がなく、全身無地の個体も出現する
  • 腹面は黄白色から淡黄色、灰白色
  • 暗褐色の小斑点が散在することもある
  • 背面には細かい顆粒状の鱗が並び、そこに大型鱗が混在する
  • 大型鱗は四肢には存在しない
  • オスの前肛孔は6–10 個

[似た種との違い]

沖縄諸島・先島諸島での識別法 [1,9]
  • 沖縄諸島と先島諸島に分布するヤモリ属以外の種(ホオグロヤモリなど)とは、指下板が二分しない点で識別ができる。
  • 沖縄諸島に生息するヤモリ属の種は、オキナワヤモリとミナミヤモリのみである。この2種の識別点は、オキナワヤモリのページをご覧いただきたい。
  • また、先島諸島に生息するヤモリ属の種は本種のみである。
トカラ列島・奄美諸島での識別法 [1,10]
  • ヤモリ属の種だと、吐噶喇諸島の宝島と小島にはタカラヤモリが、吐噶喇諸島の小宝島と奄美諸島にはアマミヤモリが生息する。
  • 吐噶喇諸島の場合、ミナミヤモリは宝島、小島、小宝島に分布しないため、基本的には分布域の違いで識別が可能。
  • 奄美諸島の場合、ミナミヤモリとアマミヤモリが同所的に見られる。
  • ミナミヤモリのオスは前肛孔を6-10個持つが、アマミヤモリとタカラヤモリでは前肛孔がほぼなく、ある場合でも痕跡的なものが3個以下あるのみである。
  • ミナミヤモリのメスとアマミヤモリのメスは判別が難しいが、背面中央の黒帯が左右に分かれない(アマミヤモリはやや二分する傾向あり)ことで大まかに識別できる
  • ヤモリ属以外のヤモリとの識別は、上のフローチャートを参照。
ミナミヤモリ(久米島)の前肛孔
大隅諸島・九州南部での識別法 [1]
  • 大隅諸島や九州南部にはミナミヤモリとヤクヤモリが生息する。
  • ヤクヤモリの鼻間板(鼻の間の鱗)は後方の他の鱗と比べ、明らかに大きい。ミナミヤモリでは鼻間板の大きさがあまり変わらない。
九州西部の沿岸部や島嶼での識別法 [1,11]
  • 九州西部の沿岸部や島嶼にはニシヤモリとニホンヤモリが生息し、局地的にミナミヤモリとヤクヤモリも生息する。
  • 中通島と平島にはミナミヤモリが分布し、地域によってはニホンヤモリとニシヤモリが同所的に分布する。
  • ミナミヤモリの側肛疣(尾の基部の左右にある大きな鱗でできた突起)は1個であり、ニホンヤモリ(側肛疣が2-4個)と識別できる
  • ミナミヤモリの四肢には大型鱗がなく、ニシヤモリ(四肢に大型鱗を持つ)と識別できる
ミナミヤモリの側肛疣
本州・四国・八丈島での識別法 [1]
  • ミナミヤモリの記録のある地域のうち、四国南部と和歌山県にはニホンヤモリとタワヤモリが、本州の各地にはニホンヤモリが生息する
  • また、八丈島にはミナミヤモリのみが生息する
  • ミナミヤモリの側肛疣(尾の基部の左右にある大きな鱗でできた突起)は1個であり、ニホンヤモリ(側肛疣が2-4個)と識別できる
  • ミナミヤモリの背面には大型鱗が混在し、タワヤモリ(大型鱗を持たない)と識別できる
生態

[食性][1]

  • 主に昆虫などを捕食する
  • キノボリトカゲ幼体の捕食例もある

[繁殖]

沖縄島で行われた研究で、以下のことが示されている[1,11]
  • 4月下旬から8月上旬にかけて産卵する
  • 1年に2回産卵する
  • 1度に2個の卵を産む

[成長]

沖縄島で行われた研究で、以下のことが示されている[11]
  • 孵化時の頭胴長は約22 mm
  • 雌雄ともに、頭胴長43 mm程度で性成熟する
  • 孵化後2年以内に性成熟サイズに達するが、早い個体では孵化翌年の繁殖期の間に性成熟サイズに達する
  • 体サイズが大きくなるほどあまり成長しなくなり、一定のサイズに達すると成長がほぼ止まる
  • 最も小さい個体では、オスでは47mm、メスでは50mmで成長がほぼ止まった例がある
  • 体サイズには雌雄差があり、メスの平均体サイズはオスよりも少し大きい
その他

[コメント]

生息地ではよく見かける種ですが、これといった大きな特徴がなく、ついつい写真を取り損ねることが多いです。遺伝的に異なる隠蔽種が複数いることが示唆されていますが、どれも形態的に類似しており、新種記載は困難なようです。それどころか、タイプ産地の中国東部の個体群と、琉球列島などの島嶼個体群の間には遺伝的な違いがあるようなので、真のミナミヤモリ G. hokouensis は日本に生息していないのかもしれません。今後の動向にも注目です。

執筆者:福山亮部


引用・参考文献

  1. 日本爬虫両生類学会 編. 2021. 新 日本両生爬虫類図鑑. サンライズ出版, 232pp
  2. 国立環境研究所. 2021.侵入生物データベース-ミナミヤモリ- <https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/30170.html>, 参照 2021-11-02
  3. Toda, M., & Hikida, T. 2011. Possible incursions of Gekko hokouensis (Reptilia: Squamata) into non-native area: an example from Yakushima Island of the northern Ryukyus, Japan. Current herpetology30(1), 33-39.
  4. 谷岡仁. 2019. 高知県で発見されたミナミヤモリ (ヤモリ下目: ヤモリ科). 四国自然史科学研究12, 28-34.
  5. 坂本真理子. 2017. 熊本県で見つかったミナミヤモリ. 九州両生爬虫類研究会誌, 8: 20-21
  6. Pope,C.H. 1928. Four new snakes and a new lizard from South China. American Museum Novitates 325: 1-4
  7. Zhou K Y; Liu Y Z; Li D J 1989. Three new species of Gekko and remarks on Gekko hokouensis (Lacertiformes, Gekkonidae). Smithsonian Herp. Inf. Serv. (77): 1-10 [Translated from original Chinese from: Acta Zootaxonomia Sinica 7(4) 1982]
  8. Toda, M., Hikida, T., & Ota, H. 2001. Discovery of sympatric cryptic species within Gekko hokouensis (Gekkonidae: Squamata) from the Okinawa Islands, Japan, by use of allozyme data. Zoologica Scripta30(1), 1-11.
  9. 戸田守. 2008. オキナワヤモリとミナミヤモリの識別点について(予報), Akamata (19): 23–30.
  10. Toda, M., Sengoku, S., Hikida, T., & Ota, H. (2008). Description of two new species of the genus Gekko (Squamata: Gekkonidae) from the Tokara and Amami Island Groups in the Ryukyu Archipelago, Japan. Copeia2008(2), 452-466.
  11. Okada, S., Izawa, M., & Ota, H. 2002. Growth and reproduction of Gekko hokouensis (Reptilia: Squamata) on Okinawajima island of the Ryukyu archipelago, Japan. Journal of Herpetology36(3), 473-479.