オキナワヤモリ

Gekko sp. 1

爬虫綱 > 有鱗目 > ヤモリ科 > ヤモリ属 > オキナワヤモリ

  • 成体(久米島)
概要

[大きさ] [3]

  • 頭胴長は6–7 cm

[説明]

  • 沖縄諸島に分布する
  • 日本に生息するヤモリ属では最大級の大きさ
  • 未記載種であるが、酷似する種が多いために分類が非常に難しく、新種記載はまだ行われていない

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020 : 準絶滅危惧種 (NT)
分布

[分布][1]

  • 沖縄島中・北部、伊平屋島、伊是名島、水納島、渡名喜島、久米島

[生息環境][1]

  • 常緑広葉樹からなる自然林、回復の進んだ二次林と、その周辺の岩場
  • 人為的影響の強い環境(開けた二次林や居住地等)ではほとんど見られない
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有鱗目 > ヤモリ科 > ヤモリ属 > オキナワヤモリ

[タイプ産地] 

  • まだ記載が行われていない

[近縁種との分類学的関係]

  • 本種は東アジアから東南アジアにかけて広く分布するミナミヤモリGekko hokouensisに近縁な未記載種である。かつて沖縄諸島に生息するヤモリ属 Gekko は、ミナミヤモリのみだと考えられてきたが、Toda et al. (2001)で行われたアロザイム分析で、これまでミナミヤモリとされていた集団内に、形態的な差異がほとんど無い隠蔽種がいることが明らかにされ、オキナワヤモリという和名で区別されるようになった[2]。
  • 外部形態としては、背面の暗帯の形状や、頭部下面および腹部の模様、頭胴長、オスの前肛孔数、尾部の大型鱗対数などで、ミナミヤモリと概ね識別ができるとされている[3]。
  • なお、上記のアロザイム分析は九州南部から台湾までの地域の個体を対象にしており、ミナミヤモリのタイプ産地である中国東部の標本は用いられていない。アロザイム分析で分かれた2グループ中、より分布域の狭い集団(沖縄諸島周辺の集団)を便宜的に隠蔽種として扱っている。また、外部形態にも地域変異があるため、追加での標本調査が必要とされている[3]。
  • 本種の記載がまだ行われていない理由の一つには、上記の分類学上の問題だけでなく、形態形質の非常に似た種が数多く存在するということもある。ヤモリ属 Gekko は東アジアから東南アジアにかけて広く分布するが、本種を含む東アジアのヤモリ属は系統的にニホンヤモリ亜属 Japonigekkoというグループとして分けられている[7]。このグループの種は同種内での形態形質の個体差が激しく、遺伝的に大きく異なる種同士でも形態形質がオーバーラップするということが頻繁に起きる[4]。このような事情のために、本種は存在が知られてから20年以上が経過した今でも、未記載種として扱われているのだろうと思われる。
体の特徴

[形態][1,3]

  • 背面は灰色から褐色
  • 胴部背面の暗色斑は左右に分離し、ハの字状
  • 腹面は薄黄色からクリーム色
  • 頭部下面や腹面に黒い斑紋のある個体もいる。特に久米島や渡名喜島では、多くの個体が黒い斑紋を持つ。
  • オスの前肛孔は5–8 個

[似た種との違い][3]

沖縄諸島に生息するヤモリ属の種は、オキナワヤモリとミナミヤモリのみである。両者は生息環境が重なり、かつ非常に似た外見をしているが以下の特徴で概ね区別できる。なお、この形態形質は沖縄島、伊平屋島、伊是名島、渡名喜島、久米島の個体で検証された結果のため、それ以外の島の個体に関しては当てはまらない場合がある。

  • 背面の暗帯の形状

オキナワヤモリの背面の暗帯は左右に2分し、ハの字状になる。ミナミヤモリの背面の暗帯は左右に2分しないことが多い。

  • 頭部下面や腹面の斑紋

オキナワヤモリは個体により、頭部下面や腹面に黒い斑紋がある。斑紋があった場合、オキナワヤモリと判断して良い。また、斑紋のない個体を久米島か渡名喜島で採集した場合は、ほぼ間違いなくミナミヤモリと判断できる。それ以外の地域では斑紋のないオキナワヤモリが多く存在するため、斑紋がないだけでは同定の根拠にはならない。

  • 頭胴長

オキナワヤモリはミナミヤモリより基本的に大きい。頭胴長が57 mmを越えていれば、オキナワヤモリとみなせる。なお、オキナワヤモリの分布域外では、大型化するミナミヤモリの個体群も知られている。

  • オスの前肛孔数

沖縄島のオス個体の場合、前肛孔が6個以下ならオキナワヤモリ、7個以上ならミナミヤモリ。沖縄島以外の集団や、前肛孔の発達しない若齢個体、メスでは、この形質は用いることができない。

  • 尾部の大型鱗対数

伊是名島の個体では、尾の基部の第2自切節後端までに大型鱗がなければオキナワヤモリ、あればミナミヤモリと識別できる。他の個体群や、再生尾の個体ではこの形質は使えない。

また、オキナワヤモリを含むヤモリ属の種は指下板が二分しない点で、他のヤモリ類と識別ができる

生態

[食性]

  • 昆虫やクモを捕食する[1]
  • 果実も捕食し、シマグワの実を食べていた例もある[5]

[繁殖]

  • 2月下旬に交尾を行っている雌雄ペアが観察されている[6]
その他

[備考]

太田(2014)[1]では、本種は全長140~225mm、頭胴長55~105mmと表記されており、非常に大型になるとされている。しかし、以下の理由から、上記のサイズ表記は誤植だと判断し、本図鑑では戸田(2008)[3]の計測データを大きさの表記に用いることにした。

  • 他の論文[3]で用いられている標本は、最も大きな個体でも73mmであり、105mmには届きそうにない
  • 太田(2014)でヤモリ科最大種とされているミナミトリシマヤモリは、最大で頭胴長81.1 mmと表記されており、オキナワヤモリの頭胴長105mmが誤表記でなかった場合に矛盾が生じる。

[コメント]

ミナミヤモリと酷似している上に、比較的環境の良い場所にしか生息しないため、注意していないと見過ごしがちな種でもあります。かつてはクメヤモリとも呼ばれていました。日本のヤモリ類では珍しく果実を食べることも知られており、近縁種のミナミヤモリとの生態的な違いも気になります。

執筆者:福山亮部


引用・参考文献

  1. 太田英利. 2014. オキナワヤモリ, 環境省(編)レッドデータブック2014 爬虫類・両生類編, 74.
  2. Toda, M., Hikida, T., & Ota, H. 2001. Discovery of sympatric cryptic species within Gekko hokouensis (Gekkonidae: Squamata) from the Okinawa Islands, Japan, by use of allozyme data. Zoologica Scripta30(1), 1-11.
  3. 戸田守. 2008. オキナワヤモリとミナミヤモリの識別点について(予報), Akamata (19): 23–30.
  4. Roesler, H., Bauer, A. M., Heinicke, M. P., Greenbaum, E., Jackman, T., Nguyen, T. Q., & Ziegler, T. 2011. Phylogeny, taxonomy, and zoogeography of the genus Gekko Laurenti, 1768 with the revalidation of G. reevesii Gray, 1831 (Sauria: Gekkonidae). Zootaxa2989(1), 1-50.
  5. 城野哲平・傳田哲郎. 2020. オキナワヤモリによるシマグワの果実の採食例, Akamata (29): 1–4.
  6. 戸田守・小島光明・前田真希・正井佐知・坂田ゆず. 2015. 沖縄島北部におけるオキナワヤモリの交尾の観察例, Akamata (25): 17–20.
  7. Wood Jr, P. L., Guo, X., Travers, S. L., Su, Y. C., Olson, K. V., Bauer, A. M., … & Brown, R. M. 2020. Parachute geckos free fall into synonymy: Gekko phylogeny, and a new subgeneric classification, inferred from thousands of ultraconserved elements. Molecular Phylogenetics and Evolution146, 106731.