ヤクヤモリ

Gekko yakuensis Matsui et Okada, 1968

爬虫綱 > 有鱗目 > ヤモリ科 > ヤモリ属 > ヤクヤモリ

概要

[大きさ] 

  • 頭胴長 雌: 61~67 mm,雄: 57~66 mm. 雌雄ともに最大73 mm.[1]

[説明]

  • 九州南部及び大隅諸島に生息する日本固有種.
  • 日本に生息するヤモリ属の中ではかなり大型になる.
  • 人里から離れた森林地帯に生息し,外灯にもあまり出現しない.

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト選定 : 絶滅危惧Ⅱ類 (VU).[2]
  • 長崎県レッドリスト選定 : 絶滅危惧ⅠB類 (EN).[3]
  • 宮崎県レッドリスト選定 : その他の保護上重要な種 (OT-1).[4]
  • 鹿児島県レッドリスト選定 : 絶滅危惧Ⅱ類 (VU).[5]
  • IUCNレッドリスト選定 : 準絶滅危惧 (NT). [6]
分布

[分布]

  • 屋久島[7],種子島[8],馬毛島[9],九州南部[10],長崎県[3].

[生息環境]

  • 標高30~150 mの常緑広葉樹林やそれに囲まれた社殿.[8]
  • 周囲に植生のある海岸の岩場や民家周辺.[1]
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有鱗目 > ヤモリ科 > ヤモリ属 > ヤクヤモリ

[タイプ産地] 

  • 鹿児島県屋久島安房 [7]

[近縁種との分類学的関係]

  • ミナミヤモリ(Gekko hokouensis)に近縁であり,本種とミナミヤモリの交雑集団が九州南部で確認されている[11].また,屋久島にもミナミヤモリが人為的に持ち込まれ,本種との交雑が進行している[12].このような交雑種は,形態的特徴のみから純親種と識別することは困難である.[11]
体の特徴

[形態]

  • 体の背面は暗灰色または灰色がかった黄緑色で,暗褐色の不規則な横斑がある.[1,7,8,13]
  • 背面は細かい顆粒状鱗で覆われ,丸みを帯びた円錐形の大型鱗が散在.[7,8,13]
  • 腹面は赤みがかった黄色[8]で,暗黒色の斑点が散在.[1,7,8,13]
  • 喉を除く体の下側はやや大きめの同心円状の鱗で覆われている.[7]
  • 尾の上面は暗灰色で,不規則な横帯があり,下面は明灰色で多数の暗褐色の斑点がある.[7]
  • 尾は徐々に細くなり,先端は尖っている.[7]
  • 尾の基部から先端にかけ,20以上の環状溝があり,各溝の中央に一対の大型鱗がある.[7,8]
  • 頭部が比較的大きく,特に吻が幅広い.[7]
  • 上下の唇が黄色味を帯び,周辺の鱗よりも色が明るい.[1]
  • 四肢が比較的長い.[7,13]
  • 尾は頭胴長より長い.[13]

[似た種との違い]

ミナミヤモリとの違い

本種は尾の環状溝中央に一対の大型鱗が後方まで並ぶ.また,本種は鼻孔の間にある鱗が,それよりも後方の鱗より大きいため識別可能.[8]

生態

[食性]

  • 昆虫類を中心に小型の無脊椎動物を捕食する.[1]

[捕食]

  • ヤクシマザルによる捕食例が報告されている.[14,15]

[生活史]

  • 3月には活動を開始し,夏場にかけて多くの個体が出現.[1]     
  • 繁殖期は6~9月で,一回に2個の卵を産卵.[1]
  • ガジュマルの幹の隙間や岩の割れ目,社殿の壁などに産卵する.[1,13]
  • 森林内の廃墟などに,多数の卵を壁面に固めて産み付けることもある.[1]

[卵]

  • 長径15 mm,短径10 mmほど.[1]
その他

[その他]

  • 同所的に生息するミナミヤモリとの交雑により,種の存続が脅かされている.海岸や森林の開発により,開放的な環境を好むニホンヤモリ(Gekko japonicus)が増え,本種と置き換わった地域もある.また,九州や屋久島に持ち込まれた国内外来種であるオキナワキノボリトカゲ(Diploderma polygonatum polygonatum)との競合が懸念されている.[1]

執筆者:鈴木洋平


引用・参考文献

  1. 戸田守, 2014. ヤクヤモリ, 環境省(編)レッドデータブック2014 爬虫類・両生類編, p. 40-41.
  2. 環境省. 環境省レッドリスト2020. https://www.env.go.jp/press/files/jp/114457.pdf参照2021-04-19.
  3. 長崎県.長崎県版レッドリスト 平成22年度改訂版 中間見直しhttps://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2017/06/1498553919.pdf 参照2021-04-19.
  4. 宮崎県.宮崎県版レッドリスト 2015年度改訂版https://www.pref.miyazaki.lg.jp/shizen/kurashi/shizen/page00193.html 参照2021-04-19.
  5. 鹿児島県環境林務部自然保護課編集.2016.改訂・鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物 : 鹿児島県レッドデータブック2016.鹿児島県環境技術協会,鹿児島県.
  6. Kidera, N. and H. Ota. 2017. Gekko yakuensis. The IUCN Red List of Threatened Species 2017: e.T96251941A96251944. http://dx.doi.org/10.2305/IUCN.UK.2017-3.RLTS.T96251941A96251944.en
  7. Matsui, T. and Y. Okada. 1968. A new species of Gekko found in Yakushima, one of the small island south of Kyushu. Acta Herpetologica Japonica. 3(1): 1-4.
  8. 柴田保彦. 1981. 種子島のヤクヤモリ. 自然史研究, 1(15): 149-154.
  9. 竹内寛彦,戸田守. 2006. ヤクヤモリGekko yakuensisの馬毛島からの記録. 爬虫両棲類学会報, 1: 26-27.
  10. 岡田純,1998.日南海岸で発見されたヤクヤモリ.比婆科学,185: 1–5, pl. 1.
  11. Toda, M., S. Okada, H. Ota, and T. Hikida. 2001. Biochemical assessment of evolution and taxonomy of the morphologically poorly diverged geckos, Gekko yakuensis and G. hokouensis (Reptilia : Squamata) in Japan, with special reference to their occasional hybridization. Biol. J. Linnean Soc. 73 : 153-165.
  12. Toda, M. and T. Hikida. 2011. Possible incursions of Gekko hokouensis (Repitilia: Squamata) into non-native area: an example from Yakushima Island of the northern Ryukyus, Japan. Current Herpetology 30(1): 33-39.
  13. 千石正一.1979.原色 / 両生・爬虫類.家の光協会.p. 20.
  14. Suzuki, S., Hill, D.A., Maruhashi, T. et al. 1990. Frog- and lizard-eating behaviour of wild Japanese macaques in Yakushima, Japan. Primates. 31(3): 421–426.
  15. 西川真理.2009.ヤクシマザルによるヤクヤモリの捕食例.Akamata. 20: 1-4.