タワヤモリ

Gekko tawaensis Okada, 1956

爬虫綱>有鱗目>ヤモリ科>ヤモリ属>タワヤモリ

  • 成体・岡山県
概要

[地方名] 

  • 七分蛇(ひちぶじゃ)

[大きさ] 

  • 頭胴長 雌: 62 mm(最大72 mm),雄: 60 mm(最大66 mm)[1]. 全長 90–120 mm.[2]

[説明]

  • 本州,四国,九州の一部に分布する日本固有種.
  • 主に自然環境が残された場所に生息し,市街地では見られない.
  • ニホンヤモリと同所的に分布する.

[保全状況]

環境省レッドリスト2020選定 : 準絶滅危惧 (NT).[3]

分布

[分布]

  • 本州,四国,九州の瀬戸内海沿岸部と島嶼部,及び四国の太平洋岸に分布.[1,4,5]

[生息環境]

  • 海岸や丘陵地など.あまり撹乱されていない環境に多く生息する.[1,6]
  • ウバメガシ,トベラ(島嶼部),アカマツ(沿岸部)などの植生の乾燥した岩場を好む.[5]
分類

[分類]

  • 爬虫綱>有鱗目>ヤモリ科>ヤモリ属>タワヤモリ

[タイプ産地] 

  • 香川県大川群長尾町多和 [7]

[説明]

  • 学名のtawaensisは,タイプ産地である香川県多和村に由来する(「多和」は「山の峠」の意).[2]
  • 遺伝的な解析から,本種の分布域の広い範囲において,同所的に生息するニホンヤモリ(Gekko japonicus)との交雑個体が出現していることが判明している.このような交雑種は,形態的特徴のみから純系の個体と識別することは困難である.[8]

[形態]

  • 体の背面は暗灰色で,暗褐色の不規則な横帯がある.[7]
  • 背面は一様な細かい粒状の鱗からなる.[7]
  • 腹面はより大きな鱗で覆われ,暗黒色の斑点が散在.[7]
  • 尾の上面は暗黒色で,胴部のものよりもやや大きめの鱗で覆われている.[7]
  • 尾の下面は明るい灰色で,不規則な暗褐色の斑点が多数ある.[7]
  • 尾は先端に向かうに連れて徐々に黒くなる.[7]
  • 尾の基部に1–2本のやや深い環状溝がある.[7]
  • 頭部が比較的大きく,吻が角ばる.[7]
  • 目の前後に明色と暗色の線が走る.[1]
  • 四肢はやや細身で短い.[7]

[似た種との違い]

ニホンヤモリと分布域が大きく重なるが,本種とは以下の点で見分けられる.

  • ニホンヤモリは,胴部や四肢の鱗に大型鱗が混在するのに対し,本種の鱗はほぼ均一の粒状である.[9]
  • ニホンヤモリは総排出孔の左右に側肛疣が2–4対ある一方,本種の側肛疣は1対のみである.[9]
  • 本種の幼体は,ニホンヤモリの幼体と比較して体色が濃く,尾の斑紋が顕著である.[5]

四国太平洋岸において,本種とミナミヤモリ(Gekko hokouensis)が同所的に分布する例が報告されている[10].ミナミヤモリとの識別は,上述の大型鱗の有無の違いにより可能である.

生態

[食性]

  • 小型の昆虫類を捕食する.[5]

[捕食]

  • シロマダラ(Lycodon orientalis)による捕食例が報告されている.[11]

[生活史]

  • 日中は岩の割れ目や涼しい場所に潜み,日没後に活動する.[5]
  • 11月以降に単独または複数で越冬する.[5]

[繁殖]

  • 日当たりの良い露岩の隙間などに産卵する.[1,5]         
  • 繁殖期は6月下旬–8月上旬で,1回に2個の卵を産卵.[5]
  • 同じ場所に複数の雌が産卵することが多い.[5]

[卵]

  • 長径13–17 mm,短径9–11 mm.[5]

[幼体]

  • 産卵後50–61日で孵化する.[5]
  • 孵化直後の幼体は全長50–62 mm.[5]
その他
  • 集団遺伝学的な研究により,本種はニホンヤモリとは対照的に集団内での遺伝的多様性が低いことが判明しており,個体群の断片化が進んでいると考えられる.[1,12]
  • 環境改変により,開放的な環境を好むニホンヤモリが各地で優占し,本種と置き換わった地域もある.[1,8]
  • ニホンヤモリとの交雑による純系個体群の減少も懸念されている.[1]
  • かつては有毒であると誤解され,咬まれると1日に七分(2 cm)ずつ腐るという意味から,七分蛇(ひちぶじゃ)などと呼ばれていた.[2,5]

執筆者:鈴木洋平


引用・参考文献

  1. 戸田守. 2014. タワヤモリ, 環境省(編)レッドデータブック2014 爬虫類・両生類編, p. 75.
  2. 千石正一.1979.原色 / 両生・爬虫類.家の光協会.p. 19.
  3. 環境省. 環境省レッドリスト2020. https://www.env.go.jp/press/files/jp/114457.pdf参照2021-08-03.
  4. 柴田保彦. 1983. 日本の”ニホンヤモリ”は2種類. Nat. Stud., 29(3): 3-5.
  5. 比婆科学教育振興会.1996.広島県の両生・爬虫類. 比婆科学教育振興会,広島.p. 163.
  6. 岡田純,戸田守.1999.タワヤモリの新産地.比婆科学,(189): 1–12.
  7. Okada, Y. 1956. A new species of Gekko from Shikoku, Japan. Annnot Zool Jap. 29(4): 239-241. 
  8. Toda, M., S. Okada, T. Hikida and H. Ota, 2006. Extensive natural hybridization between two geckos, Gekko tawaensis and G. japonicus (Reptilia:Squamata), throughout their broad sympatric area. Biochem. Genet., 44(1-2): 1–17.
  9. 柴田保彦. 1980.大阪にもいるタワヤモリ.Nat. Stud., 26(2): 14–19.
  10. 谷岡仁. 2021. 高知県黒潮町のヤモリ類の記録 (2019年から2020年). 四国自然史科学研究, 14: 67-71.
  11. 越智慎平. 2016. シロマダラ(Dinodon orientale)によるタワヤモリ(Gekko tawaensis)の捕食例. 爬虫両棲類学会報, 1: 37-39.
  12. Toda,M., T. Hikida, S. Okada, and H. Ota. 2003. Contrasting patterns of genetic variation in the two sympatric geckos Gekko tawaensis and G. japonicus (Reptilia: Squamata) from western Japan, as revealed by allozyme analyses. Heredity 90(1):90–97.