ニホンマムシ

Gloydius blomhoffii (Boie, 1826)

爬虫綱 > 有鱗目 > ヘビ亜目 > クサリヘビ科 > マムシ亜科 > マムシ属 > ニホンマムシ

概要

[大きさ] 

  • 全長 雄27 – 61cm、雌50 – 66cm、新生蛇約21cm[11]

[説明]

  • 日本本土に広く分布する毒ヘビ
  • 低地から高地まで様々な環境に生息し、基本的には夜行性
  • 両生類を中心に幅広い食性を持つ
  • 古くから食用、酒、漢方などに利用されてきた

[保全状況]

  • 現時点でレッドデータへの記載はない
  • クサリヘビ科全種が動物愛護管理法において特定動物に指定[5]
分布

[分布]

  • 北海道、本州、四国、九州、および対馬を除く屋久島・種子島以北の島々[3,11]

[生息環境]

平地から高山まで幅広く、比較的乾燥した耕地や河原、竹やぶや森林地帯、水田や湿地等様々な環境に生息する[3,7,10,11]

分類

[分類]

  • 爬虫綱>有鱗目>ヘビ亜目>クサリヘビ科>>マムシ亜科>マムシ属>ニホンマムシ

[タイプ産地] 

  • 日本[3]

[説明]

  • 当初、朝鮮半島や中国に分布するニホンマムシ種群は同一種として扱われ、現在のパラスマムシの種小名halysを与えられていた[3]。
  • その後、日本周辺の種はニホンマムシを基亜種とし、種名Agkistrodon blomhoffii blomhoffiiが与えられた[3]。
  • さらに、日本産の亜種が独立種として認められ、Agkistrodon blomhoffiiとなった[3]。
  • 形態学的研究や1990年代以降の分子系統学的研究により、新大陸の系統はアジアのマムシ類よりもガラガラヘビ類やアメリカハブ類により近縁であることが示唆され、旧大陸のマムシ類がAgkistrodon(アメリカマムシ属)から独立し、属名Gloydiusが与えられた[6]。
  • シノニム[3] Trigonocephalus blomhoffiiHalys blomhoffiiAgkistorodon halys blomhoffiiAgkistrodon blomhoffii blomhoffiiAgkistrodon blomhoffii

[別名・地方名]

  • ハメ、ハミ、ハブ、クチハメ、クッチャメ、クソヘビ、クチナワ、ヒラクチなど[3,8]。
体の特徴

[形態][3,7,11]

  • 頭部はほぼ三角形で大きく、よく分化した鱗板におおわれる。
  • 瞳孔は垂直方向の楕円形で、頬板と眼前板の間に左右一対のピット器官をもつ。
  • 背面には灰褐色か暗褐色の地に黒褐色の大きい斑紋が入る。腹面には黒に黄褐色の不規則な斑紋が入るが、個体変異が多い。背面の斑紋は黒く縁どられ、普通中央部に黒点をもつ。
  • 頸部は細く、胴部は太くて短い。尾は全長の1/9~1/5程度の長さで、雄の方が長く、幼蛇は先端が黄色になるが、成長に伴い褐色になる。
  • 体鱗列数は普通21列。腹板数は140前後で、尾下板は30~50対程度。
生態

[食性]

  • 最も多く報告されているのはカエル類とアカハライモリを含む両生類で、その他にもドジョウ等の魚類やトカゲやヘビ等の爬虫類、ネズミやモグラ等の小型哺乳類も比較的よく報告されている[3,4,6,11]。
  • 頻度は低いようではあるが、鳥類も捕食することがある[4,6,11]。
  • 基本的には脊椎動物食であるが、爬虫類等と同程度の頻度で胃内容物からムカデが見つかっている[3,4,6,11]。海外の同属種や世界中のクサリヘビ類においても同様の報告が多数見られる[1,3,12]。

[繁殖][11]

  • 交尾期は初夏から初秋。5~6月と考えられていたが、南九州では8~9月であり、複数回の交尾期の有無や地域差等は明らかになっていない。
  • 胎生で、8月末から10月ごろに2~9匹の新生蛇を出産する。妊娠雌は夏には体温を上げるために日中活動することもある[10]。
  • 雌の繁殖は1~3年に1度と推定される。

[成長][11]

  • 生後すぐの新生蛇は全長20cm前後。
  • 幼蛇は毎年5~10cm程度で成長し、徐々に成長率は低くなる[2]。
  • 雌雄ともに、生後約3年、全長40cmを超えるくらいで性成熟に達する。
  • 2~4カ月に1度程度の頻度で脱皮する。
  • 全長が50~60cmに達するとそれ以上の成長はほとんど見られない。
  • 寿命は10~15年程度。
その他

[文化]

  • 地域によっては食用利用される[3]。
  • 酒に漬けられた「まむし酒」が民間療法等として飲まれている[10]。
  • 首から下の皮を剥いで乾燥させたものはとくに「反鼻」と呼ばれ、強壮や疲労回復の効果があるとされる[11]。

[毒][11]

  • たんぱく質を主成分とする出血毒で、マウスの半数致死量で約1~1.5㎎/kg。注入量は多くないため重症に至ることは少ないが、ショック症状や腎不全等の二次的症状が発症することがあるため、咬まれた場合は適時に血清治療を受けることが望ましい。最悪の場合死に至る。
  • 治療までの応急処置としては、咬傷部からの出血を促す(絞り出す)、咬傷部より内側を緩く緊縛する、タンニン酸を含む溶液(ほうじ茶など)で洗う等が可能である。
  • 血清によるアレルギー症状やショック症状が現れることもあるため、血清治療時には抗ヒスタミン剤やステロイド剤等を準備してもらう。

[コメント]

  • 一般的には危険な毒ヘビとしておそれられるマムシだが、実際には臆病でおとなしく、接し方さえ間違わなければそこまで危険なヘビではない。むしろ、斑紋や色彩は美しく、バリエーションも豊富で、かっこいいかと思えばかわいらしい姿も見せてくれる、非常に魅力的なヘビだと思っている。また、医学的な研究はなされているものの、生態はまだまだ未知の部分が多く、知名度は高いのに謎めいていて奥が深い。筆者はニホンマムシの研究を始めて4年目になるが、やればやるほど意外な顔を魅せてくれて興味が尽きない。山菜採りや農作業の際の事故が絶えないのはお互いに不幸な問題だが、彼らとて咬みたくて咬んでいるわけではないので、彼らの生息地に足を踏み入れる際には十分に注意して、適切な距離感を保っていただきたい。

執筆者:浜中京介


引用・参考文献

  1. Farrell, T. M., S. A. Smiley-Walters and D. E. McColl. 2018. Prey species influences foraging behaviors: Rattlesnake (Sistrurus miliarius) predation on little brown skinks (Scincella lateralis) and giant centipedes (Scolopendra viridis). Journal of Herpetology 52(2): 156-161.
  2. Fukada, H. 1992. Snake life history in Kyoto. Impact Shuppankai. Tokyo. 172p.
  3. 箱根町. (2018). 箱根の文化財一覧 https://www.town.hakone.kanagawa.jp/index.cfm/8,675,34,html
  4. 浜中京介・森哲・森口一. 2014. 日本産ヘビ類の食性に関する文献調査. 爬虫両棲類学会報. 2014(2): 167-181.
  5. 環境省自然環境局. 特定動物(危険な動物)の飼養又は保管の許可について. 動物の愛護と適切な管理. https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/danger.html 参照 : 2019/04/30.
  6. Mori, A. and H. Moriguchi. 1988. Food habits of the snakes in Japan: A critical review. Snake 20(2): 98-113.
  7. 中村健児・上野俊一. 1963. 原色日本両生爬虫類図鑑. 保育社. 大阪. 214p.
  8. 太平洋資源開発研究所(編). 2005. 全国爬虫両生類地方名検索辞典. 生物情報社. 千葉. 56p.(北日本編)、58p.(南日本編)
  9. 鳥羽通久・太田英利. 2006. アジアのマムシ亜科の分類:特に邦産種の学名の変更を中心に. 爬虫両棲類学会報. 2006(2): 145-151.
  10. 内山りゅう・前田憲男・沼田研児・関慎太郎. 2002. 決定版日本の両生爬虫類. 平凡社. 東京. 336p.
  11. 養命酒製造株式会社中央研究所. 1999. マムシの生態と養殖. 養命酒製造株式会社中央研究所, 長野. 159p.
  12. Zhao, E. 2005. Snakes of China I. Anhui Science and Technology Publ. House, Hefei, Anhui. 372 p.