ハブ

Protobothrops flavoviridis (Hallowell, 1861)

概要

[別名・地方名]

  • ウフー、ナガー、ナガムン、ハミ、ハビ、ハム、ハンビ、パウ、パブ、パプ、ハンプ、パンプ、マパプ、マジムン、マシモン、マララ、フイイブ、ハンシセイ、ハンビダ、アヤナギ、コシキマダラ、アヤクマダラ、アヤキマダラキ、アヤクマダラクなど[10]

[大きさ] 

  • 全長100–220 cmで、尾は全長の1/5程度を占める。オスの方が大きくなる[1]。

[説明][2]

  • 琉球列島の固有種で、奄美諸島と沖縄諸島に広く分布する。体色には変異が大きく、島ごとにある程度変わるが、個体による変異も顕著である。沖縄諸島では黄色の地色に2列の斑紋を持つ個体が多いが、奄美諸島ではこの斑紋が互いにつながっている個体が多い。
  • 平地にも山地の森林にも見られるが、ネズミなどを求めて人家に侵入することもある。
  • 夜行性で、日中は石垣や植物の間に静止し、日が暮れるころから活動を始める。
  • ネズミ、小鳥、ヘビ、トカゲ、カエル、稀にウナギなど、幅広い食性を持つ。
  • 強力な毒を持ち、攻撃性も比較的高い。現在年100件ほどの咬症例があるが、抗毒素血清が容易に利用できるようになったため死亡例は稀である。
  • 開発による生息地の減少に加え、ヒトによる捕獲や殺戮などにより、生息数の減少が懸念されている。

[保全状況]

  • IUCNレッドリスト:低懸念種(LC)
  • 環境省レッドリスト:記載なし
  • クサリヘビ科全種が動物愛護管理法において特定動物に指定[3]
分布

[分布][2]

  • 奄美大島、加計呂麻島、徳之島を含む奄美諸島と、沖縄島、渡嘉敷島、久米島、伊平屋島、伊江島を含む沖縄諸島に分布する。
  • 水納島の個体群は周辺地域からの移入集団だとされる。
  • 近年、これまで記録がなかった粟国島で幼体を含む発見が相次いでおり、人為的な移入に伴って定着していると考えられる。

[生息環境]

平地から山地まで広く生息する。集落や農耕地にも多く、ネズミなどを求めて人家にも侵入する[2]。

分類

[分類]

  • 爬虫綱>有鱗目>ヘビ亜目>クサリヘビ科>マムシ亜科>ハブ属>ハブ

[タイプ産地] 

  • Amakarima Island (現在の慶良間諸島) [4]

[説明][2]

  • ハブの新種記載時にはBothrops flavoviridisという学名が付けられた。Bothropsは南米大陸に生息するヤジリハブ属のことである。種小名のflavoviridisは黄緑色を意味し、本種の体色を示している。
  • 1880年にHilgendorfにより、本種はアジアハブ属に含まれるとして、Trimeresurus riukiuanus(現在は本種のシノニムとされている)という学名が付けられた[6]。
  • 1983年にHoge and Romano-Hogeにより、形態的特徴を根拠にハブ、タイワンハブ、Trimeresurus jerdoniiの3種は新属Protobothropsに含められた。
  • 久米島の個体群には正中線付近にしか模様がない特殊な体色をした個体がおり、Gloyd (1955)によって亜種(Trimeresurus f. tinkhami)にされたこともあるが、久米島には普通の模様のものも出現し、両者は模様以外に形態的な違いがないこと、久米島の個体群は分子遺伝学的に周辺の島嶼個体群から特に分化した個体群ではないことから、亜種の妥当性は認められていない。
  • 奄美諸島個体群と沖縄諸島個体群は分子遺伝学的に大きく分化しており、また前者は後者よりもトカラハブにより近いことから、ハブは単系統群とならず、分類学的な再検討が必要である[8, 9]。
体の特徴

[形態][1, 2]

  • 背面の基色は通常、淡灰黄褐色から黄褐色だが、黄色味のない灰白色の個体もいる(俗に言う銀ハブ)。背面には左右両側に大きな暗褐色ないし黒色の斑紋が並び、各斑紋の中央部に黄色調の基色が小島状に残る。
  • 久米島には背面の暗褐色の模様が正中線上に極端に縮小し、側面に模様のない個体がいる。
  • 頭部が非常に大きく、長い三角形となり、長さが最大幅の1.5倍を超える。
  • 体鱗は胴の中央部で普通35列、時に33、37、39列。腹板数は216–239枚ぐらい。
生態

[食性]

  • ネズミや小鳥などの恒温動物を捕食する以外に、他のヘビやトカゲ、カエル、稀にウナギなどの魚類を捕食するなど、幅広い食性を持つ[2, 11, 12]。
  • 幼体はカエルやトカゲなどの変温動物を主に捕食するが、成長するにつれて齧歯類、食虫類、小型鳥類などの恒温動物食に移行する傾向がある[14]。

[繁殖][2, 13]

  • 交尾期は3–6月でこの時期にはオス同士の儀式的な闘争(コンバットダンス)が見られる。
  • 6月下旬から8月に3–20卵を生み、40–50日ほどで頭胴長30–40 cmの幼体が孵化する。

[行動]

  • ハブの最も活動が盛んな時期は沖縄島では4–5月、奄美大島では6月、および秋季の9–11月である[10]。暖かく湿った夜間に活動性が高まる。
  • 主に地表で活動するが、強い登攀力を持ち、木に登ることもある。
  • 餌動物や外敵に咬みつく際には、体を曲げた状態から一気に伸ばして咬みつき、反撃を避けるために瞬時に離す。この一連の攻撃動作の速さから、土地の人々はハブに襲われることを「ハブに打たれる」と形容している[2]。咬みつかれて毒で死んだ餌を匂いにより追跡し、頭から飲み込む。
その他

[文化]

  • ハブは南西諸島の文化、産業、民間療法に深く関わっている。ハブ酒やハブの肝、ハブ粉などは強壮剤として利用される。ハブの皮は財布やお守りなどの製品に利用される。ハブ油は化粧品や革の手入れ用に利用されることがある。食材として汁物や唐揚げなどに使われることもある。
  • 人間を寄せ付けないハブは古くから神聖視された。ハブは人間の善悪を見抜く力があるといい、琉球王国時代には神事に用いられた[10]。
  • 琉球列島が明治政府による支配下となって以降、ハブは組織的かつ大規模な駆除の対象となった。ハブの買い取りが継続して行われたほか、当時大きな問題だったクマネズミおよびハブの捕食者としてマングースやイタチが導入された。しかしマングースは攻撃性の高いハブをあまり捕食せず、他の貴重な小動物を脅かす存在となった。また、地表性のマングースは樹上に逃げることのできるクマネズミの対策としてもあまり効果はなかった[10]。ハブにまつわる文化、対策史については中井(2020 [10])に詳しい。

[毒]

  • ハブの毒には多様な酵素が混在している。主な毒成分はホスホリパーゼA2と呼ばれる酵素群で、これは赤血球の細胞膜を破壊し、溶血、細胞膜損傷、血小板凝縮の阻止、筋壊死、浮腫など、様々な病理的症状を引き起こす[10, 15]。
  • ハブの毒性自体はニホンマムシよりも弱い[17, 18], が、持っている毒量はニホンマムシが20 mg程度なのに対してハブは100–300 mgではるかに多い。また、牙の長さがニホンマムシでは0.4 cm程度なのに対し、ハブの牙は1.5 cmもあり、体内深くまで毒を注入することができる[16]。

執筆者:藤島幹汰


引用・参考文献

  1. 中村健児・上野俊一. (1963). 原色日本両生爬虫類図鑑. 保育社. 大阪.
  2. 松井正文・森哲. (2021). 新日本両生爬虫類図鑑. サンライズ出版. 滋賀.
  3. 環境省自然環境局. 特定動物(危険な動物)の飼養又は保管の許可について. 動物の愛護と適切な管理. https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/danger.html 参照 : 2023/11/06.
  4. Hallowell, E. (1861). Report upon the Reptilia of the North Pacific Exploring Expedition, under command of Capt. John Rogers, U. S. N. Proc. Acad. Nat. Sci. Philadelphia 12 [1860]: 480–510
  5. Gloyd, Howard K. 1955. A new crotalid snake from Kume Shima, Riu Kiu Islands. Bulletin of the Chicago Academy of Sciences 10 (8): 123-134
  6. Hilgendorf,F. 1880. Bemerkungen über die von ihm in Japan gesammelten Schlangen nebst Beschreibungen zweier neuer Schlangenarten. Sitzungsber. Ges. Naturf. Freunde Berlin 1880 (8): 111-121
  7. Hoge, A. R. & S. A. R. W. L. Romano-Hoge 1983. Notas sobre micro e ultra-estructura de “Oberhäutchen” em Viperoidea. Mem. Inst. Butantan 44/45: 81-118
  8. Toda M, Nishida M, Tu MC, Hikida T, Ota H. (1999). Genetic variation, phylogeny, and biogeography of the pit vipers of the genus Trimererusus sensu lato (Reptilia: Viperidae) in the subtropical East Asian islands. pp. 249–270. In: Ota (ed.), Tropical island herpetofauna: origin, current diversity, and conservation. Elsevier, Amsterdam.
  9. Shibata, H., Chijiwa, T., Hattori, S., Terada, K., Ohno, M., & Fukumaki, Y. (2016). The taxonomic position and the unexpected divergence of the Habu viper, Protobothrops among Japanese subtropical islands. Molecular phylogenetics and evolution101, 91-100.
  10. 中井穂瑞領. (2020). 毒蛇ハブ. 南方新社. 鹿児島.
  11. Mori, A. and H. Moriguchi. 1988. Food habits of the snakes in Japan: A critical review. Snake 20(2): 98-113.
  12. 浜中京介・森哲・森口一. 2014. 日本産ヘビ類の食性に関する文献調査. 爬虫両棲類学会報. 2014(2): 167-181.
  13. Shiroma H., Kamura T. (1987). Mating season, proportion of reproductive females, and sexual maturity of habu, Trimeresurus flavoviridisJpn. J. Herpetol12(1), 16-21.
  14. Nishimura, M. (1991). Frequencies of prey items of Habu, Trimeresurus flavoviridis (Viperidae), in the Okinawa Islands 1. Snake23, 81-83.
  15. Chijiwa, T., Yamaguchi, Y., Ogawa, T., Deshimaru, M., Nobuhisa, I., Nakashima, K., … & Ohno, M. (2003). Interisland evolution of Trimeresurus flavoviridis venom phospholipase A 2 isozymes. Journal of molecular evolution56, 286-293.
  16. 堺淳, 森口一, & 鳥羽通久. (2002). フィールドワーカーのための毒蛇咬症ガイド. 爬虫両棲類学会報2002(2), 75-92.
  17. 野崎真敏,山川雅延,他間善次. (1978). 沖縄ハブ抗毒素の有効性の検討(VIII)沖 縄本島産ハブ毒と奄美大島産ハブ毒の中和実験 第2報.P. 3-11.沖 縄ハブ抗毒素製造研究報告書 〔III〕. 沖縄県公害衛生研究所.
  18. 本間学・小菅隆夫・阿部良治.1968.マムシ毒の研究.1.生物学的毒性について.日本熱帯医学雑誌 8(2):70–73.