ツシママムシ

Gloydius tsushimaensis (Isogawa, Moriya, and Matsui, 1994)

爬虫綱 > 有鱗目 >ヘビ亜目> クサリヘビ科 > マムシ亜科>マムシ属 > ツシママムシ

概要

[別名] 

ヒラクチ

[大きさ]

  • 全長32.8-62cm。体形は近縁種のニホンマムシより細い。

[説明]

  • 体色は黒褐色の個体が多いが、赤褐色や黄褐色の物もいる。背面には黒い縁取りの円斑または楕円斑を持つ。
  • 有毒かつ非常に攻撃的である。
  • 林内や河川、田んぼなど様々な場所に生息している。研究が進んでおらず、生態などについてはほとんど何も分かっていない。
  • 魚類や両生類、小型哺乳類を捕食する。
分布

[分布]

  • 対馬

[生息環境]

山林や河川、田んぼなど様々な場所。

分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有隣目 > ヘビ亜目 > クサリヘビ科 > マムシ亜科 > マムシ属 > ツシママムシ

[タイプ産地] 

  • 対馬市厳原町与良内院 (採集者:YMS研究チーム)

[説明]

  • ツシママムシは長らくニホンマムシ Agkistrodon blomhoffii として扱われてきたが、形態的な手法により1994年にIsogawa et. Alによってツシママムシ Agkistrodon taushimaensis として新たに記載された。

[形態]

  • 体鱗列数は胴体中央部で21列、腹板は140-153枚、尾下板列数はオスで44-50列、メスで38-45列。尾下板は二分し、肛板は二分しない。上唇板は7枚まれに6または8枚で、内3枚目が最も大きく、眼に接する。頭の後ろから尾先までのすべての背面の鱗はキールが発達し、背中に近づくにつれ、より顕著になる。[1][2]
  • 体色は酷褐色の物が多いが、赤褐色や黄褐色のものもいる。背面の模様は円斑または楕円斑をもち、それぞれの斑の周囲は暗い。また、ニホンマムシでみられる斑紋中心部の黒点がない。腹面は白みがかったピンクの地色に、明褐色や灰褐色あるいは赤褐色のきめの細かい霜降り状の斑点が付き、下腹部ほど集中する。側頭部には黒褐色の縞がある。尾部先端の背面は黒みがかり、腹面側は赤みがかる。[2]
  • 舌の基部は無地ないし薄い色合いであるが、中間部か先端は赤褐色ないしピンク色である。ちなみに近縁種のニホンマムシでは黒褐色である。[1][2]
  • 虹彩上部は黄色がかった茶色で、下部は黄色みがったまだら模様の茶色である。瞳孔は黒い垂直な楕円形である。[1][2]
生態

[食性]

  • アユ[5]
  • シマヨシノボリ[5]
  • アカガエルの一種[7]
  • ツシマアカガエル[3][4]
  • アジアコジネズミ[4]

[繁殖]

  • ニホンマムシ同様に胎生。
  • ニホンマムシとツシママムシにおける野外での交尾期の観察例はこれまでに記録がない。しかしながら、近縁種であるニホンマムシにおいては南九州における野外飼育下において9月に交尾の観察例がある。[2]
  • また、近縁種であるタイリクマムシGloydius brevicaudusにおいては春と秋の年二回の交尾期を持つことが知られており、ニホンマムシやツシママムシも同様に年二回の交尾期を持っている可能性もある。[2]
  • 出産数や新生蛇の全長について、ツシママムシではこれまでに記録はないが、9月に3匹出産した例がある。また、ニホンマムシにおいては8月末から10月初旬、特に9月に出産が集中することが知られ、18~23cmの幼蛇を2~9匹出産することが知られている。[2]
  • 養命酒製造株式会社中央研究所により行われた20年間のメスのニホンマムシの採集個体の妊娠率についての調査から、雌のニホンマムシの野外における繁殖頻度は3年に1度と考えられている。[2]ツシママムシにおいては不明。

[行動]

  • 夜行性。それぞれの採餌場所で夜間にとぐろを巻き、獲物を待ち伏せする姿がみられる。[8]
  • 5月に水辺で1匹のツシマアカガエルを2匹のツシママムシが奪い合っていた記録がある。[3]ツシママムシは対馬内でも生息密度が非常に高い場所があるため、それらの場所ではこのような行動は比較的頻繁にみられる可能性がある。
  • 夏季に河川で非常に高い割合でアユを中心とした魚類を捕食していることが報告されている。同属他種では魚食例は少なくかつその捕食例はほぼすべては遊泳性の低い魚種であるため、ツシママムシは近縁種とは異なった特異な採餌生態を持っていると考えられる。[5]
  • 非常に攻撃性が高く、直に咬みついてくる。また、危険を感じると胴を顕著に扁平にする。これはニホンマムシではあまり見られず、ツシママムシに特徴的な行動に思える。[8]

[毒性]

  • ツシママムシの毒性について、マウスの致死価は48LD50/mg、ウサギの出血価は200MHD/mg。それぞれニホンマムシは91LD50、17500MHD/mgであり、出血価においてはニホンマムシよりもツシママムシの方が弱いと考察されている。[4]
その他

[コメント]

  • 筆者の研究対象のヘビ。夏に大量のツシママムシが河川でアユを捕食しているさまは圧巻の一言でした。
  • 地元民には未だ毒ヘビである本種に強い嫌悪感を捨てきれない方がいらっしゃるようです。攻撃的な個体が多く、そう感じるのも無理はありませんが、本種は希少な対馬固有種です。対馬にヒトよりはるかに古くから生息している彼らに対する最低限のマナーは守り、生息地の破壊や駆除などは行わないようにしましょう。

執筆者:児玉知理


引用・参考文献

  1. Isogawa, Moriya, Mitsui. 1994. A New Snake of the Genus Agkistrodon(Serpentes: Viperidae) from Tsuhima Island, Nagasaki Prefecture, Japan. Japanese journal of Herpetology 15(3): 101-111.
  2. 養命酒製造株式会社中央研究所. 1999. マムシの生態と養殖. (株)プラルト:pp.13-133
  3. 藤田浩一. 2013. ツシママムシによるツシマアカガエルへの捕食行動例. 九州両生爬虫類研究会誌 4:pp62-63
  4. 徳永栄治・鳥羽通久. ツシママムシ毒素の活性及びマムシ抗毒素との反応性
  5. 児玉知理. 2017. 野外におけるツシママムシGloydius tsushimaensisの魚食性(講演要旨). 爬虫両棲類学会報 2017(1):p.104.
  6. 橋元浩一. 1987. 対馬産ニホンマムシの捕食一例. 爬虫類雑記. 14(1):p.15.
  7. 大谷勉. 2009. ポケット図鑑日本の爬虫両生類 157. 文一総合出版 :pp..
  8. 筆者による観察
  9. THE REPTILE DATABASE , 参照 2018-04-01.