カスミサンショウウオ

Hynobius nebulosus (Temminck et Schlegel, 1838)

両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属 > カスミサンショウウオ

  • オスの成体(福岡県)
概要

[地方名]

シショムショ(平戸)、シシミショウ(長崎県)[11]、トコトコ(壱岐)[10]

[英名]

Clouded salamander [3]

[大きさ]

全長 8 – 12 cm [11]頭胴長 4.5 – 7 cm [3]

[説明]

  • かつては西日本に広く分布するとされていたが、近年の分類の見直しにより、本種には多くの種が含まれていたことがわかり、本種は九州のみに分布することが明らかになった
  • 1月から3月に水たまりや水田の溝、湿地などにコイル状の卵嚢を産む

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020:絶滅危惧II類
  • 長崎県レッドリスト平成22年度改訂版:絶滅危惧II類
  • 福岡県の希少野生生物―福岡県レッドデータブック2014―:絶滅危惧II類
  • 佐賀県レッドリスト2003:準絶滅危惧種
  • レッドデータブックくまもと2019:絶滅危惧II類
  • 鹿児島県レッドリスト(平成26年改訂):絶滅危惧II類
  • 鹿児島県指定天然記念物
分布

[分布]

  • 九州北部から西部(福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、鹿児島県)

[生息環境]

  • 標高15〜670 m(平均114 m)の水田や湿地の周辺などに生息する[3]
分類

[分類]

  • 両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属 > カスミサンショウウオ

[タイプ産地] 

  • 長崎県三ツ山[3]

[学名の意味]

種小名のnebulosusはラテン語で雲を意味し、本種の背面の模様に由来する[3]

[説明]

  • 本種はシーボルトが採集した標本に基づき、テミンクとシュレーゲルによって1838年にFauna Japonicaで記載された[12]。
  • 壱岐の個体群はかつて、H. ikishimae Dunn, 1923として記載されたが、その後の研究で本種のシノニムであるとされた[1][9]。
  • 本種は西日本に広く分布するとされてた[10]が、アロザイムを用いた研究により、各地で遺伝的に分化していることが明らかになった[2]。また、形態的にも非常に多様で、各地で様々な形態型が知られ、多くの隠蔽種を含む可能性が指摘されていた[5][6][7][8]。
  • Matsui et al. 2019により、本種には8種の隠蔽種を含むことが明らかにされ、狭義のカスミサンショウウオは九州のみに分布することが明らかになった[3]。
  • 系統的にはツシマサンショウウオH. tsuensisに近い[3]。種内に遺伝的に大きく分化している複数の系統が存在する[3]。
  • Matsui et al. 2019は本種が対馬に分布するとしたが、Niwa et al. 2021によって、対馬の個体群はカスミサンショウウオと異なり、流水産卵性でツシマサンショウウオと同地的に生息することが明らかになり、分類学的な見直しが必要であるとされている[3][4]。
体の特徴

[形態][3]

  • 背面は暗いオリーブ色で、暗色の斑紋が散在する個体もいる。腹面は背面よりも明るく、銀白色の小点が散在する。尾の上下面に黄色の条線を持つ。繁殖期のオスの喉の下面は白くなる。
  • 体は大きく、前後肢は比較的短い。尾は短く頭胴長の70%程度の長さ。肋条数は13。
  • 後肢の第五趾はよく発達する。

[似た種との違い][3]

カスミサンショウウオ種群(ヤマト、サンイン、セトウチ、ヒバ、アキ、イワミ、アブ、ヤマグチ)の他種とは、体が大きいこと、胴が長いこと、肋条数が13であること、助骨歯列が長いこと、後肢の第五趾を持つこと、尾の上下面に黄色の条線を持つことなどで識別できる。また、これらの種とは分布域が重ならない。

生態

[繁殖]

  • 繁殖期は1月下旬~3月下旬で、水たまりや水田の溝、湿地などに産卵する[3]。

[卵][3]

  • 卵嚢はコイル状で皺が入る。
  • 卵数は41–333。北九州の個体群は特に一腹卵数が多い。
  • 落ち葉や植物の根などに産み付けられる。

執筆者:福山伊吹


引用・参考文献

  1. Dunn, E. R. (1923). New species of Hynobius from Japan. Proceedings of the California Academy of Sciences, 4th Series 12, 27–29.
  2. Matsui, M., Nishikawa, K., Utsunomiya, T., & Tanabe, S. (2006). Geographic allozyme variation in the Japanese clouded salamander, Hynobius nebulosus (Amphibia: Urodela). Biological Journal of the Linnean Society, 89(2), 311-330.
  3. Matsui, M., Okawa, H., Nishikawa, K., Aoki, G., Eto, K., Yoshikawa, N., Tanabe, S., Misawa, Y., & Tominaga, A. (2019). Systematics of the widely distributed Japanese clouded salamander, Hynobius nebulosus (Amphibia: Caudata: Hynobiidae), and its closest relatives. Current herpetology, 38(1), 32-90.
  4. Niwa, K., Kuro-o, M., & Nishikawa, K. (2021). Discovery of Two Lineages of Hynobius tsuensis (Amphibia, Caudata) Endemic to Tsushima Island, Japan. Zoological Science, 38(3).
  5. 大川博志, & 宇都宮妙子. (1997). カスミサンショウウオ後肢趾の骨. 日本爬虫両棲類学雑誌14(4), 214.
  6. 大川博志, 奥野隆史, & 宇都宮妙子. (2005). 阿武・津和野地方および山口市に分布するカスミサンショウウオの一集団. 両生類誌, 14, 11-14.
  7. 大川博志, 奥野隆史, & 宇都宮妙子. (2007). 西日本におけるカスミサンショウウオの3つの大きなグループ. 爬虫両棲類学会報, 2007, 58–59.
  8. Okawa, H. and Utsunomiya, T. (1989). Hynobius nebulosus from Hiroshima Prefecture. p. 142–146. In: Matsui, M., Hikida, T. and Goris, R.C. (eds.), Current Herpetology in East Asia. Herpetological Society of Japan, Kyoto.
  9. 佐藤井岐雄. 1934. 頭骨の構造に基く”霞山椒魚群”の分類學的研究. 動物學雑誌, 46, 214–224.
  10. 佐藤井岐雄. 1943. 日本産有尾類総説. 日本出版社. 大阪. 536p.
  11. 関慎太郎, & 井上大輔編. (2019). 特盛山椒魚本. NPO法人北九州・魚部(ぎょぶる編集室).
  12. Temminck, C. J. & Schlegel, H. (1838). Fauna Japonica sive descriptio animalium, quae in itinere per Japonianum, jussu et auspiciis superiorum, qui summum in India Batava Imperium tenent, suscepto, annis 1823–1830 colleget, notis observationibus et adumbrationibus illustratis. Volume 3 (Chelonia, Ophidia, Sauria, Batrachia). J. G. Lalau. Leiden.