エゾサンショウウオ

Hynobius retardatus Dunn, 1923

両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属 > エゾサンショウウオ

概要

[大きさ] 

  • 全長 11 – 19 cm

[説明]

  • サンショウウオ科サンショウウオ属の日本固有種で、北海道に広く分布する。
  • 成体は平地や山地の湿地や池の周辺に生息する。繁殖期は4–7月で基本的に止水環境に産卵し、幼生は数ヶ月で上陸する。
  • 過去には幼形成熟した個体が見つかっている。
  • 幼生の一部は共食い型と呼ばれる、頭部が大きく共食いに適する形態になることが知られている。

[英名][2]

  • Noboribetsu Salamander
  • Yeso Salamander
  • Hokkaido Salamander

[方言(アイヌ名)][22]

  • オチウチェッポ(北海道千歳市、幌別群、幌別群幌別町)
  • チポンルラム(網走郡、網走郡美幌町)
  • フマルラプ(勇払郡、勇払郡穂別町)
  • ホマルラ(網走郡、網走郡美幌町)

[保全状況]

  • 北海道レッドリスト【両生類・爬虫類編】改訂版(2015年): 留意種(N)[3]
  • 北海道レッドリスト【両生類・爬虫類編】改訂版(2015年): 石狩平野の個体群-地域個体群(Lp)[3]
  • 北海道レッドリスト【両生類・爬虫類編】改訂版(2015年): 十勝平野の個体群-地域個体群(Lp)[3]
  • 【両生類】環境省レッドリスト2019 : 情報不足(DD)[8]
  • 枝幸町:枝幸町文化財
分布

[分布]

  • 北海道

[生息環境]

  • 平地から高山帯までの静水域に生息する。
分類

[分類]

  • 両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属 > エゾサンショウウオ

[タイプ産地] 

登別(北海道)[2]

[説明]

  • サンショウウオ属Hynobiusのなかでは、系統的に最も祖先的な種とされる[15][23]。
  • 染色体数は2n=40。サンショウウオ属Hynobiusを構成するサンショウウオは一般に、流水型が2n=58 (例外:ツシマサンショウウオとオキサンショウウオは2n=56), 静水型が2n=56である[5]。ちなみに同じく北海道に生息するキタサンショウウオ(キタサンショウウオ属Salamandrella)の染色体数は2n=62。
  • 染色体数、鋤骨歯列や肋条の違いから、本種をSatobiusという独立属にするとした説もあったが[1]、現在では否定されている[10][15]。
体の特徴

[形態]

  • 肋条は11本。四肢は長く、体側に沿って伸ばすと重なり合う。鋤骨歯列は浅いV字型[13]。
  • 本種の後肢の趾は5本である。
  • 尾は長く、全長の1/2を越えることが多い[13]。
  • 小型サンショウウオの中では比較的大型。
  • 体の大きさが大型・中型・小型である個体群が存在し、地域によって存在するグループが異なる。

[キタサンショウウオとの違い]

  • 北海道に生息するサンショウウオはエゾサンショウウオとキタサンショウウオの2種である。どちらも釧路湿原には分布しているが、同地的には分布しない[21]。
  • エゾサンショウウオの後肢の趾は5本、キタサンショウウオの後肢の趾は4本である。キタサンショウウオの背面中央には褐色の線が縦に1本入ることなど、体色からも容易に判別できる。
  • エゾサンショウウオの方がやや大型である。
生態

[食性]

  • 成体はゴミムシやクモ類などを捕食する[20]。

[被食]

  • 成体はヘビやフクロウ[20]に捕食されることが知られている。外来種のアライグマによる捕食も確認されている[4]。
  • 幼生はエゾアカガエルの幼生を捕食したり、共食いを行ったりすることがある[20]。

[繁殖]

  • 繁殖期は、平地や山麓では4月~5月。高山帯においては7月に繁殖することもある[20]。
  • 産卵時、雄は雌の卵嚢を引き出すという行動をとり、雌を手助けする[19]。
  • 繁殖場所について、一般的な止水性サンショウウオが好む完全な止水域よりも、むしろ少し流れのある水域において繁殖する[18]。
  • 雄では4~6歳、雌では4~7歳で性成熟する[21]。

[卵]

  • 卵は、細長いひも状で螺旋状に巻く[13]。

[幼生]

  • 数か月で上陸する。寒冷地では越冬幼生もみられ、本種では1回もしくは2回冬を越してから上陸する[6]。
  • 倶多楽湖にて本種の幼形成熟(ネオテニー)を示す個体が発見されていたが[16]、その個体群は現在では既に絶滅したとされる。本個体群のネオテニーは、環境依存的なものであったようだ[17]。ただし、実験下においてネオテニーは再現されていない。
  • 本種では、幼生で共食い型が出現することが知られる。共食い型は、顎幅が広がり頭部が巨大化する。高密度条件下で出現しやすいが、兄弟同士で共食いは抑制される[14]。共食い型は自然下では、同種の幼生の他、エゾアカガエルの幼生を捕食するのに有利だとされる。同種よりも異種(エゾアカガエル)の幼生によってより共食い型が誘発されることから[11]、本種のこの形態については、共食い型という言葉を避けて、頭でっかち型という言葉が使われることもある[12]。
  • エゾアカガエルの幼生に対する本種の頭でっかち型を攻撃型と称し、それに対して捕食者であるヤゴの存在下において尾や外鰓の形状を変化させる表現型可塑性を防御型と呼ぶことがある。
その他

[文化]

  • 本種を指すアイヌ語の存在から、北海道の先住民であるアイヌの人々には本種の存在が知られていたようである。

[その他]

  • 水槽実験下では、本州からの国内移入種で有毒であるアズマヒキガエルの幼生を捕食し、中毒死してしまう[9]。

[コメント]

  • 本種は垂直分布・水平分布・繁殖域の水流の観点において、同属他種と比較して幅広く生息していると言えます。
  • ネオテニー個体群が人為的に絶滅してしまったのは非常に残念です。
  • エゾサンショウウオのアイヌ語には語義があるようなので、調べてみると面白いかもしれません。

執筆者:村川駿介


引用・参考文献

  1. Adler, K.A. & Zhao, E.-M. (1990). Studies on hynobiid salamanders, with description of a new genus. Asiatic Herpetological Research, 3, 37–45.
  2. American Museum of Natural History. (2019). Hynobius retardatus. Amphibian Species of the World 6.0, an Online Reference. http://research.amnh.org/vz/herpetology/amphibia/Amphibia/Caudata/Hynobiidae/Hynobiinae/Hynobius/Hynobius-retardatus 参照 2019-07-28.
  3. 北海道. (2015). 北海道レッドリスト【両生類・爬虫類編】改訂版. http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/yasei/tokutei/rdb/list2015_ryouha.htm 参照 2019-07-28.
  4. 堀繁久, 植木玲一, 札幌啓成高校科学部フィールド班. (2013). 野幌森林公園で確認されたアライグマ(Procyon lotor)による在来両生類の捕食. 北海道爬虫両棲類研究報告, 1, 1-10.
  5. 飯塚光司, 頼俊祥, ニコライポヤルコフ, スタンレイセッションズ. (2016). 染色体, 四肢発生, 生活史を総合したアジア産サンショウウオ属の分析. 爬虫両棲類学会報, 2016(1), 40-53.
  6. Iwasaki, F. & Wakahara, M. (1999). Adaptable Larval Life Histories in Different Populations of the Salamander, Hynobius retardatus, Living in Various Habitats. Zoological Science, 16(4), 667-674.
  7. 環境省. (2014). レッドデータブック2014ー日本の絶滅のおそれのある野生生物― 3 爬虫類・両生類. ぎょうせい.
  8. 環境省. (2019). 【両生類】環境省レッドリスト2019. https://www.env.go.jp/press/106383.html 参照 2019-07-28.
  9. Kazila, E. & Kishida, O. (2019). Foraging traits of native predators determine their vulnerability to a toxic alien prey. Freshwater Biology, 64(1), 56-70.
  10. Matsui, M., Sato, T., Tanabe, S., & Hayashi, T. (1992). Electrophoretic Analyses of Systematic Relationships and Status of Two Hynobiid Salamanders from Hokkaido (Amphibia: Caudata). Herpetologica, 48(4), 408-416.
  11. Michimae, M. & Wakahara, M. (2002). A tadpole-induced polyphenism in the salamander Hynobius retardatus. Evolution, 56(10), 2029-2038.
  12. 道前洋史, 若原正巳. (2007). エゾサンショウウオの適応的な表現型可塑性―「頭でっかち型」. 日本生態学会誌, 57, 33-39.
  13. 中村健児, 上野俊一. (1963). 原色両生爬虫類図鑑. 保育社.
  14. Nishihara, A. (1996). Effects of density on growth of head size in larvae of the salamander Hynobius retardatus. Copeia, 2, 478-483.
  15. 西川完途. (2011). 東アジアの有尾類第4回サンショウウオ科(その2)-サンショウウオ属-. クリーパー, 56, 40-47. 
  16. Sasaki, M. (1924). On a Japanese salamander, in LakeKuttarush, which propagates like the axolotl. J. Coll. Agr.Hokkaido Imp. Univ., 15, 1–36.
  17. Sasaki, M., & H. Nakamura. (1937). Relation of endocrine systemto neoteny and skin pigmentation in a salamander, Hynobiuslichenatus Boulenger. Annot. Zool. Japon., 16, 81–97.
  18. 佐藤孝則. (1990). エゾサンショウウオの産卵場所における水温と水流. 爬虫両棲類学雑誌, 13(4), 131-135.
  19. 佐藤孝則. (1992). エゾサンショウウオにおける繁殖行動. 爬虫両棲類学雑誌, 14(4), 184-190.
  20. 佐藤孝則. (1996). エゾサンショウウオ. 千石他編. 日本動物大百科5. 平凡社. 12-21.
  21. 佐藤孝則・松井正文. (2013). 北海道のサンショウウオたち. エコ・ネットワーク.
  22. 白井祥平. (2005). 全国爬虫両生類地方名検索辞典【北日本編】. 生物情報社.
  23. Weisrock, D. W., Macey, J. R., Matsui, M., Mulcahy, D. G., & Papenfuss, T. J. (2013). Molecular phylogenetic reconstruction of the endemic Asian salamander family Hynobiidae (Amphibia, Caudata). Zootaxa, 3626(1), 77-93.