ホクリクサンショウウオ

Hynobius takedai Matsui et Miyazaki, 1984

両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属 > ホクリクサンショウウオ

概要

[大きさ] 

  • 全長 約10 cm

[説明]

  • 石川県、富山県にのみ分布する。
  • 緩やかな流れのある環境で繁殖する。
  • 生息地全体で採集が規制されている。

[保全状況]

  • 石川県指定希少野生動植物種
  • 富山県指定希少野生動植物種
  • 羽咋市指定天然記念物
  • 羽咋市千路町の生息地 – 石川県指定天然記念物
  • 環境省レッドリスト2014 – 絶滅危惧ⅠB類
  • 石川県レッドデータブック2020 – 絶滅危惧Ⅰ類
  • 富山県レッドデータブック2012 – 絶滅危惧Ⅰ類
分布

[分布]

  • 石川県、富山県

[生息環境]

  • 低地の二次林や杉林などに生息する[2]。
分類

[分類]

  • 両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属 > ホクリクサンショウウオ

[タイプ産地] 

  • 石川県羽咋市[3]

[説明]

  • 1971年4月に竹田俊雄氏によって発見され、当初はアベサンショウウオとされていた[2, 3]。
  • 1984年に形態差および血清蛋白質の電気泳動解析において、他種とは明瞭に異なることから、新種として記載された[3]。
  • 種小名は発見者に由来する[3]。
  • ホロタイプ標本は国立科学博物館に保管されている[3]。
  • ミトコンドリアDNAチトクロームb領域の解析において、本種はミカワサンショウウオ、クロサンショウウオと比較的近縁であることが判明している[4]。
体の特徴

[形態]

  • 手足が体に対して比較的太く、後肢は5指。
  • 背面がオスで黒褐色、メスで黄褐色。腹面は灰白色で、体側に銀白色の斑紋が出る場合もある。

[似た種との違い]

同所的にクロサンショウウオが見られることもあるが、本種と比べてクロサンショウウオは大きく、体色は緑褐色をしているため、容易に区別できる。

元々同一の種とされていたアベサンショウウオとは、本種の方が頭部が小さく、胴部、尾部が長いことから区別できる。尾はアベサンショウウオほど側偏せず、顕著なヒレ状にならない。また、石川県中部を境として、地理的に隔離されており、分布域は重ならない。

生態

[繁殖]

  • 1月下旬~4月上旬にかけて、林近くの池や側溝など、緩やかな流れの中で繁殖する[2, 6]。
  • 大型オスは約20cm四方の繁殖縄張をもつ[7, 8]。
  • 水中の枯れ枝や石、落葉などの物陰に産卵する[2]。

[卵]

  • 卵嚢はコイル状で、表面に明瞭な条線はない[2]。
  • 一卵嚢中に含まれる卵は26~148個[2, 6]。

[幼生]

  • 体色は灰褐色で、尾部に黒斑が入る。
  • 節足動物や環形動物を食べて成長する[2]。
  • 6月上旬~9月下旬にかけて上陸する[1]。
  • 他の幼生より成長の早い、大型の幼生がごく少数発生することもある。この幼生は通常のサイズの幼生より、早い時期に上陸する[1]。
  • 30℃以上の高水温が幼生の成長を妨げるとされる[1]。
  • 幼生は越冬することもある[2, 6]。

[成長]

  • 産卵から3年以上かけて性成熟する[2, 5]。
その他

[コメント]

  • 2014年時点の石川県下の成体個体数は2000個体前後と見積もられている[2]。
  • 本種は繁殖地の土手が石やコンクリートで整備されると、上陸できなくなる可能性が指摘されている[1]。本種を保全する際は、この点を十分に注意する必要があるだろう。
  • 本種と太平洋側に生息するミカワサンショウウオが遺伝的に近いのは、生物地理学的にとても興味深い。今後の研究が楽しみである。

執筆者:高田賢人


引用・参考文献

  1. 秋田喜憲. 2010. ホクリクサンショウウオ幼生の成長. 爬虫両棲類学会報2010(2): 113–120.
  2. 松井正文. 2014. ホクリクサンショウウオ. レッドデータブック2014 日本の絶滅のおそれのある野生動物 3 爬虫類・両生類. 環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編, 株式会社ぎょうせい: 102–103.
  3. Matsui, M. & Miyazaki, K. 1984. Hynobius takedai (Amphibia, Urodela), a new species of salamander from Japan. Zoological Science 1: 665–672.
  4. Matsui, M., Okawa, H., Nishikawa, K., Aoki, G., Eto, K., Yoshikawa, N., Tanabe, S., Misawa, Y., & Tominaga, A. 2019. Systematics of the widely distributed Japanese clouded salamander, Hynobius nebulosus (Amphibia: Caudata: Hynobiidae), and its closest relatives. Current herpetology, 38(1): 32–90.
  5. 道野靖貴. 2011. ホクリクサンショウウオ南限個体群の生態解明と復活・保護. 北東アジア地域環境体験プログラム2011: 12–13.
  6. 南部久男. 1994. 富山市におけるホクリクサンショウウオの産卵状況,卯数及び卵嚢の形態. 富山市科学文化センター研究報告 17: 105–115.
  7. 田中清裕. 1986. 繁殖期におけるホクリクサンショウウオの縄張り行動. 爬虫両棲類学雑誌11(4): 173–181.
  8. 田中清裕. 1988. 繁殖期におけるホクリクサンショウウオ雄の体の大きさと縄張り形成. 爬虫両棲類学雑誌12(2): 45–49.