ヤエヤマイシガメ

Mauremys mutica kami Yasukawa, Ota et Iverson, 1996

両生綱 > カメ目 > イシガメ科 > イシガメ属 > ミナミイシガメ > ヤエヤマイシガメ

概要

[大きさ] 

  • 背甲長 成体メス120~176mm、成体オス130~189mm[14]

[説明]

  • 背甲は楕円状でなめらか。腹甲は淡黄色~灰黄色で各甲板上に暗い斑点がある。ミナミイシガメに比べると甲羅と頭部の色が薄く、眼の後方から頸部前端にかけての鮮やかな縞模様が見られない。
  • 石垣島、西表島、与那国島に固有の亜種。
  • 水田、湿地、池、小川などに生息する。
  • 雑食性で、植物、魚類、昆虫類、甲殻類などを食べる。

[保全状況]

  • 絶滅危惧Ⅱ類(環境省レッドリスト2017)
  • 石垣市自然環境保全条例保全種
  • 竹富町指定特別希少野生動植物種
  • 沖縄県指定希少野生動植物種(石垣島、西表島、与那国島の自然分布の個体群に限る)

石垣島、西表島、与那国島の個体群は上記の規制により、採集や捕獲が禁止されている。

分布

[分布]

  • 石垣島、西表島、与那国島に自然分布。
  • 悪石島、阿嘉島、座間味島、瀬底島、沖縄島、宮古島、来間島、下地島、波照間島、多良間島に移入 [1][3][9][14]。ペットとして持ち出された個体が定着したと考えられ、固有種の捕食や他種との交雑が起こっている [1][13]。

[生息環境]

  • 水田、湿地、池、小川などの柔らかい底質で、水の流れが緩やかな浅い水場やその周辺でよく見られる[14]
分類

[分類]

  • カメ目>イシガメ科>イシガメ属>ミナミイシガメ>ヤエヤマイシガメ

[タイプ産地] 

  • 石垣島

[説明]

  • 八重山諸島に生息している個体群が1996年にヤエヤマイシガメとして基亜種であるミナミイシガメから分けられた[14]。
体の特徴

[形態]

背甲は黄褐色または淡褐色、楕円形でややドーム型になり、7番目の縁甲板の部分で最も幅が広くなる。背甲の甲板は滑らかで、成体では椎甲板のキールが不明瞭または全く見られず、後縁には鋸歯がほとんどない。腹甲は淡黄色~灰黄色で各甲板上に暗い斑点があり、後縁に浅いV字の切れ込みがある。通常、雄の腹甲は凹型に、雌の腹甲は平らになっている。頭部は中程度の大きさで、滑らかで細鱗は見られない。上顎には浅い切れ込みがある。四肢の鱗は先端で細かく、前肢の前面では瓦状に重なる。尾は比較的短く厚さが薄い[14]。全長の半分ほどになる長い尾を持ち、目は大きく突出している。

基亜種ミナミイシガメに比べると、ヤエヤマイシガメは甲羅と頭部の色が薄く、眼の後方から頸部前端にかけての鮮やかな縞模様が見られない。背甲は比較的扁平で、腹甲の各甲板上の暗い斑点は他の甲板とつながらない[14]。

体サイズの性的二型に関しては、一般に淡水ガメは雄よりも雌のほうが、背甲長が大きいが、基亜種ミナミイシガメでは雌雄で背甲長に差はなく、ヤエヤマイシガメでは雄のほうが雌よりも背甲長が大きいとされている[8][10][11]。しかし、ヤエヤマイシガメについては、複数の島の個体群や一定期間飼育下にあった個体から採集して比較するのではなく、ひとつの野外個体群から無作為に採集して比較した場合は雌雄間で背甲長に有意差はないという報告もある [6]。

生態

[食性]

  • 雑食性で、水草、藻類、草本、果物、魚類、オタマジャクシ、昆虫、ミミズ、甲殻類などを食べる[1][14]。

[繁殖]

  • 雌雄ともに背甲長120mm前後で成熟する[6]。飼育下では、与那国島産の個体が8~9月にかけて2回、合計8個の卵を産卵したという報告がある[4]。沖縄島ではヤエヤマイシガメとクサガメの交雑個体が採集されている[7]。
その他

[その他]

西表島では生息密度が低い個体群で成長がはやく大型化することがわかっている[11]。

移入個体群については、阿嘉島、多良間島、沖縄島国頭村で体サイズが大型化し、このうち阿嘉島、多良間島では性比が雌に偏っていることが報告されている[9][12]。悪石島では体サイズは小さく、性比が雌に偏っている[10]。

2015年の環境省の発表によると、2013年8月以降だけで約6,000個体のヤエヤマイシガメが食用やペットとして香港や中国に輸出されており、自然分布域における個体数は約33,000個体と推定されている。これをうけて2015年5月からワシントン条約に基づき環境省が輸出規制を行っている[2]。

執筆者:工藤葵


引用・参考文献

  1. 藤田喜久, & 笹井隆秀. (2014). 宮古島に定着したヤエヤマイシガメによるミヤコサワガニの捕食. 沖縄生物学会誌, (52), 53-58.
  2. 環境省. 2015. 亜種ヤエヤマイシガメを含む種ミナミイシガメの輸出に係る助言の停止について. https://www.env.go.jp/press/100984.html, 閲覧 2019-7-14
  3. 小林頼太, & 長谷川雅美. (2005). 千葉県印旛沼流域における外来種ミナミイシガメの定着について. 爬虫両棲類学会報, 2005(2), 150-154.
  4. 森哲. (1986). 飼育下におけるミナミイシガメ Mauremys mutica の交尾, 産卵, 孵化. 両生爬虫類研究会誌, 33, 5-9.
  5. 日本爬虫両棲類学会. 2019. 標準和名リスト. <http://herpetology.jp/wamei/index_j.php>, 閲覧2019-7-10.
  6. 太田英利, 藤井亮, 岡本卓, & 疋田努. (2004). 八重山諸島波照間島の外来性爬虫類に関する新知見およびこれまでに同島から報告された爬虫類の記録に関するコメント. 爬虫両棲類学会報, 2004(2), 128-137.
  7. 嶋津信彦. (2015). 沖縄島国場川水系饒波川から採集されたクサガメ, ヤエヤマイシガメ および両種の雑種と推定されるカメの記録. Fauna Ryukyuana, 18: 1-8
  8. 嶋津信彦. (2017). 与那国島における陸生・ 陸水生カメ類の文献と環境省自然環境保全基礎調査からの 分布記録, および 2015 年の生息実態. Fauna Ryukyuana, 37, 15-22.
  9. 嶋津信彦, & 河内紀浩. (2017). 外来種亜種ヤエヤマイシガメの多良間島における定着及び島内分布に関する報告. Fauna Ryukyuana, 36, 13-17.
  10. 嶋津信彦, & 山川(矢敷)彩子. (2017). 2015 年の悪石島における外来生物ヤエヤマイシガメの生息個体数, 性比および体サイズ. Nature of Kagoshima= カゴシマネイチャー: an annual magazine for naturalists, 43, 13-16.
  11. 矢部隆. (1995). 西表産ミナミイシガメに見られる個体群間における個体群構造の違いについて. 爬虫両生類学雑誌, 16(2), 70.
  12. Yabe, T., & Hatta, M. 1996. 慶良間列島阿嘉島に帰化したミナミイシガメについて. みどりいし,(7), 25-27
  13. 矢部隆. (2003). 外来ガメが変える水環境: 外来種が引き起こす諸問題 (< 特集> 第 9 回シンポジウム). コミュニティ政策研究, 5, 3-19.
  14. Yasukawa, Y., Ota, H., & Iverson, J. B. (1996). Geographic variation and sexual size dimorphism in Mauremys mutica (Cantor, 1842)(Reptilia: Bataguridae), with description of a new subspecies from the southern Ryukyus, Japan. Zoological Science, 13(2), 303-318.

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です