バーバートカゲ

Plestiodon barbouri (Van Denburgh, 1912)

爬虫綱 > 有鱗目 > トカゲ科 > トカゲ属 > バーバートカゲ

概要

[大きさ] 

  • 全長12 – 18 cm、頭胴長は52 – 73mmほど[2]。

[説明]

  • 奄美群島、沖縄諸島に分布する中型のトカゲ
  • 同所的に分布するトカゲ属と異なり、主に森林に生息
  • 近年は森林域の環境変化や移入した哺乳類の捕食によって個体数を減らしつつある

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト(2020):絶滅危惧Ⅱ類(VU)
  • 鹿児島県レッドデータブック(2016):絶滅危惧Ⅱ類(VU)
  • 沖縄県レッドデータブック(2017):絶滅危惧Ⅱ類(VU)
  • 鹿児島県指定希少野生動植物
分布

[分布]

奄美大島、枝手久島、加計呂麻島、与路島、請島、徳之島、伊平屋島、沖縄本島、渡嘉敷島、久米島 [1]

[生息環境]

  • イタジイなどからなる常緑広葉樹の自然林や回復の進んだ二次林、その林縁部に生息する[2,3]。同所的に分布するオオシマトカゲやオキナワトカゲは主に開けた低地に生息するため、両者の間には生息地の棲み分けがみられる[1]。
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有鱗目 > トカゲ科 > トカゲ属 > バーバートカゲ

[タイプ産地] 

奄美大島[4]

[説明]

  • 学名の barbouri はアメリカの動物学者であったThomas Barbour氏からの献名。
  • 種内においても奄美群島と沖縄諸島の個体群では遺伝的な分化がみられる[5]。
  • 遺伝的には本州に分布するニホントカゲやオカダトカゲと近縁である[6]。
体の特徴

[形態]

  • 幼体では背面の体色は黒褐色であり、そこに5本の黄白色の縦条が背面から側面にかけて伸びる。尾は鮮やかな藍色で頭胴部の腹面は黒っぽくなる。
  • 成体では幼体の形態的な特徴を残すことも多いが、一部は背面が褐色へと変化し縦条も薄れる。代わりに体側に赤褐色の縦条がみられる。 [1,5]

[似た種との違い]

奄美諸島ではオオシマトカゲ、沖縄諸島ではオキナワトカゲと分布が被っており、両者との判別点を述べる。とはいえ、本種の形態は遺伝的にも近縁なニホントカゲに近いため、識別はそれほど難しくはない。

オオシマトカゲとの違い

最もわかりやすいのは体色である。2種の幼体においては、背面に5本の白い縦条や鮮やかな藍色の尾などの特徴的な形態がみられるが、バーバートカゲではこれらの特徴が成体になっても残ることが多い。オオシマトカゲでは成体になるにつれ縦条は薄れ、体色も茶褐色になることが多い。また、体鱗列数でも判別は可能であり、バーバートカゲが22–24なのに対し、オオシマトカゲは24–28になる。 [5]

バーバートカゲオオシマトカゲ

オキナワトカゲとの違い

こちらも体色で判別可能。オキナワトカゲにおいても成体になるにつれて幼体の特徴は薄れ、特にオスにおいてこの傾向は顕著である。また、幼体時にみられる縦条はバーバートカゲでは尾の基方1/3までしか達しないが、オキナワトカゲでは中央の3本が1/2から3/4に達する。細かいところでは、オキナワトカゲの体鱗列数は24-28なのでバーバートカゲの方が少ない点や、バーバートカゲでは後鼻板が通常みられることなどでも識別は可能。 [5]

バーバートカゲ    オキナワトカゲ(幼体)
生態

[食性]

クモなどの節足動物のほかにも、陸貝やミミズ等を捕食していると考えられる[1]。

[被食]

ハブに捕食された報告例がある[7]。

[繁殖]

よくわかっていないが、7月にふ化直後の幼体や抱卵直後と思われるメスがみられる[3]。

[寿命]

成熟後に捕獲されたオスが飼育下で4年11ヶ月ほど生存した記録があり、少なくとも6年程度は生きると考えられる[3]。

その他

[保全]

  • 沖縄本島では外来種であるフイリマングースや野生化したネコによる捕食の影響や生息環境の悪化によって個体数の減少が懸念されている[2]。特に生息環境の変化は深刻であり、下草刈りによる林床の乾燥、耕作地や住宅地の拡大による生息地の縮小・分断が生じている。とりわけ沖縄島・徳之島・奄美大島における分布範囲は、この30~40年間で大きく縮小したと考えられている[3]。一方で、詳細な個体数の動向や他の島々での現状はわかっておらず[2]、今後の調査が期待される。

執筆者:野田叡寛


引用・参考文献

  1. 日本爬虫両棲類学会. (2021). 新 日本両生爬虫類図鑑.サンライズ出版,滋賀.
  2. 当山昌直. (2017). バーバートカゲ. “改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 -レッドデータおきなわ- 第3版―動物編―”, 沖縄県環境保健部自然保護課(編), 沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄, 194-195.
  3. 太田英利. 2014. バーバートカゲ. レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生生物- 3 爬虫類・両生類. 環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室(編), 環境省自然環境保護課, 東京:50-51.
  4. Van Denburgh, J. (1912). Concerning certain species of reptiles and amphibians from China, Japan, the Loo Choo Islands, and Formosa. Proc. Cal. Ac. Sci. (Series 4) 3 (10): 187-258.
  5. 関慎太郎, & 疋田努. (2016). 野外観察のための日本産爬虫類図鑑. 緑書房,東京.
  6. Brandley, M. C., Ota, H., Hikida, T., Nieto Montes De Oca, A., Feria-Ortiz, M., Guo, X., & Wang, Y. (2012). The phylogenetic systematics of blue-tailed skinks (Plestiodon) and the family Scincidae. Zoological Journal of the Linnean Society, 165(1), 163-189.
  7. 浜中京介, 森哲, 森口一. (2014). 日本産ヘビ類の食性に関する文献調査. 爬虫両生類学学会報. 2014(2):167-181.