Plestiodon latiscutatus Hallowell, 1861
爬虫綱 > 有鱗目 > トカゲ科 > トカゲ属 > オカダトカゲ
概要
[大きさ]
全長 15 – 27 cm
伊豆大島・伊豆半島では60 – 85 mm、利島・式根島・神津島・御蔵島では65 – 90 mm、三宅島・青ヶ島では75 – 90 mmと、頭胴長は島間で変異がみられる[2]
[説明]
主に伊豆半島、伊豆諸島に分布
体色は地理的変異が大きく、これは島間で異なる捕食者の影響によると考えられている
島間で卵サイズ、産卵数、繁殖開始年齢に変異がみられる
移入したイタチによる過度な捕食圧により、一部の島では絶滅のおそれのある地域個体群に指定されている
[保全状況] [3]
東京都:絶滅危惧ⅠB類(EN)
静岡県:要注目種
「三宅島、八丈島、青ヶ島のオカダトカゲ」は環境省レッドリストで絶滅のおそれのある地域個体群に指定
分布
[分布] [4,5,6]
伊豆半島とその周辺(酒匂川、御殿場市北部、富士山以南、富士宮市中部、富士川下流に囲まれる地域)、初島および伊豆諸島(伊豆大島、利島、新島、式根島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島、八丈小島、青ヶ島)
[生息環境]
草原や海岸、火山のガレ場、疎林、常緑広葉樹の自然林・二次林、農山村内など、かなり多様な環境でみられる[7]
分類
[分類]
爬虫綱 > 有鱗目 > トカゲ科 > トカゲ属 > オカダトカゲ
[タイプ産地]
[説明] [8]
学名の latiscutatus はラテン語のlatus(広い)とscutum(鱗)に由来し、おそらく本種の特徴である大きな後鼻板にちなんでいる。ちなみに和名は動物学者の岡田弥一郎への献名。
本学名はもともとニホントカゲを指すものであり、オカダトカゲという和名は1907年にStejneger氏が伊豆諸島の三宅島をタイプ産地としたEumeces okadae に対応していた。2003年、本川氏と疋田氏は、日本列島のトカゲ属の遺伝的な変異をアロザイムを用いて調べ、伊豆半島産のニホントカゲE. latiscutatus (Hallowell,1861)と伊豆諸島のオカダトカゲ E. okadae が同種であるとした。ニホントカゲ E. latiscutatus のタイプ産地が伊豆半島の下田であったため、従来ニホントカゲの学名として用いられてきたE. latiscutatus はオカダトカゲの学名となり、日本列島に広く分布するニホントカゲの学名としては新参異名のE. japonicus Peters,1864が採用されることになった。
2006年には日本のトカゲ属の属名が変わり、現在のPlestiodon latiscutatus となった
体の特徴
[形態]
基本的な形態が(ヒガシ)ニホントカゲに似る。体鱗列数は島間で変異が見られる[2]。伊豆半島では22 – 26列、初島では26列、伊豆大島から神津島までの伊豆諸島、八丈島、青ヶ島では26 – 30列、三宅島と御蔵島では28 – 30列とされている[4]。
幼体の体色は島間で大きく異なり、これは島間の捕食者相の違いに対応していると考えられている([9]、以下の表を参照に)。幼体胴部のストライプや青色の尾はトカゲ類の多くの種で何度も進化してきた形質で、これにはシマヘビなどの陸上捕食者の攻撃を鮮やかな尾部に誘引し、生存にとってより重要な腹部への攻撃を回避する役割があると考えられている。事実、シマヘビが主な捕食者である神津島の幼体は、ヘビのいない八丈小島の幼体と比較して、ヘビの匂いに反応して青い尾を振る行動を高頻度で示すことが実験により明らかになっている[10]。捕食者として鳥類のみが分布する三宅島や青ヶ島の個体群では、明瞭なストライプや青い尾が二次的に失われており、これは隠蔽色として、色覚が発達している鳥類への捕食回避の役割を果たしていると考えられている。
成体の体色も、幼体ほどではないが島間で異なる。伊豆半島と伊豆大島、利島、神津島、御蔵島の個体では、背面がやや緑がかった暗色で、側面暗帯の上下境界線が幼体に比べやや不明瞭になる傾向がある[4]。一方の三宅島、八丈島、八丈小島、青ヶ島のものでは、全体にやや暗色で、幼体時より更に白色縦条が不明瞭となり、側面暗帯と他の部分との境界線はやはり不明瞭になっていく [4]。
個体群 捕食者 幼体の体色 伊豆半島 ・伊豆大島 イタチ 、シマヘビ、鳥類胴体に明瞭なストライプ 鮮やかな青 色の尾 利島・式根島・神津島・御蔵島 シマヘビ 、鳥類胴体に明瞭なストライプ 茶、緑、青色に変化する尾 三宅島・青ヶ島 ・八丈島 ・八丈小島 鳥類 明瞭なストライプなし 尾は体色と同じ茶色
島による捕食者の違いとオカダトカゲ幼体の体色の関係
生態
[食性] [7]
クモ類やミミズ類をはじめ、多くの地表性・半地中性無脊椎動物を食べる。三宅島では陸生甲殻類である端脚類を多く食べることが知られており、餌が不足する夏季にはアリ類も捕食する。
[捕食]
イタチ・シマヘピ・鳥類が主な捕食者として挙げられ、オカダトカゲがこれらの捕食者層に応じた生活史特性、形態を発達させてきたことが示唆されている[9]。実験環境下では、アカコッコという昆虫・果実食の鳥が本種の幼体を捕食しており、鳥類が重要な捕食者の一つであると考えられる[11]。
[繁殖]
交尾は4中旬から5月末に行われ、6月頃に産卵、7月末にふ化幼体が出現[4,7]
メスは隔年で産卵をするが、卵サイズや産卵数には島間で変異がみられる。伊豆大島・利島では小卵多産(一腹卵数平均9個)、三宅島・青ヶ島では大卵少産(一腹卵数平均7個)、式根島・神津島、御蔵島ではその中間であるとされる[4]。
繁殖期にはオス同士の闘争行動がみられるが、御蔵島と青ヶ島ではその程度が低い[4]
[行動]
三宅島での活動期は3-11月で、12-2月は越冬期と考えられる[7]
[成長]
性成熟するタイミングは島間で異なる。伊豆半島や伊豆大島では2歳弱から、利島・神津島・式根島ではオスは2 – 3歳弱、メスは3歳弱から、三宅島。青ヶ島では3 – 4歳弱から繁殖に参加する[4]。
平均寿命は6年弱ほどと考えられる[7]
その他
[進化生物学的な重要性]
オカダトカゲは伊豆諸島の多くの島々に分布していることもあり、島嶼生態学、特に島間で異なる対捕食者表現型の進化における研究対象として重要な位置を占めている。上述のような幼体の体色の変異に関するものに限らず、現在も様々な形質において島間で異なる捕食者の影響が調べられている。2021年には香港大学と東北大学・東邦大学らの研究グループによって、シマヘビが主要な捕食者となっている島では、そうでない島の個体より活動時の体温が高くなる上に(これには地球温暖化の影響もあるとしている)、後脚がより長くなることが発見され、捕食者の種類に応じて島間で異なる捕食回避戦略を発達させてきたことが明らかにされた[12]。
[保全] [7]
オカダトカゲは一部の島嶼において個体数を激減させており、イタチの導入が大きな要因として挙げられる。八丈島では1950年代から、三宅島では1970年代から、青ヶ島では1980年代から害獣であるネズミ駆除のためにイタチの放獣がなされ、本種を捕食することで個体数減少の直接的な原因となっている。その他にも、1980年代半ばから進められている道路工事に伴う石垣の撤去や改修が、生息環境を奪うことによって個体数減少の遠因となっていることが予測される。加えて八丈島では、本土からのニホントカゲ類との浸透交雑が進行、遺伝的独自性の消失が危惧されている。
執筆者:野田叡寛
引用・参考文献
関慎太郎.(2018).疋田努(監). 野外観察のための日本産 爬虫類図鑑.緑書房.
Hasegawa, M. (1994). Insular radiation in life history of the lizard Eumeces okadae in the Izu Islands, Japan. Copeia , 732-747.
環境省.(2022).日本のレッドデータ検索システム. http://jpnrdb.com/search.php?mode=map&q=04020040035 .(2022年12月16日ログイン)
日本爬虫両棲類学会.(2021). 新 日本両生爬虫類図鑑.サンライズ出版
原幸治. (1976). オカダトカゲの分布域. 爬虫両棲類学雑誌 , 6 (3), 95-98.
樋口広芳, 長谷川雅美, 上條隆志, 岩崎由美, 菊池健, & 森由香. (2020). 伊豆諸島八丈小島におけるノヤギ駆除後の島嶼生態系回復状況と復元に向けた基礎調査―伊豆諸島自然史研究会―. 自然保護助成基金助成成果報告書 , 28 , 69-75.
長谷川雅美. (2014). オカダトカゲ. In: 環境省(ed.), レッドデータブック2014 —日本の絶滅のおそれのある野生生物— 3爬虫類・両生類. (株)ぎょうせい, 東京.
疋田努. (2006). トカゲ属の学名変更~ Eumeces から Plestiodon へ~. 爬虫両棲類学会報 , 2006 (2), 139-145.
栗山武夫. (2012). オカダトカゲの色彩パタンの進化: 捕食者に対応した地理的変異 (< 特集 1> 種間相互作用の島嶼生物地理). 日本生態学会誌 , 62 (3), 329-338.
Mori, A., & Hasegawa, M. (1999). Geographic differences in behavioral responses of hatchling lizards (Eumeces okadae ) to snake-predator chemicals. Japanese Journal of Herpetology , 18 (2), 45-56.
Hasegawa, M. (1990). The thrush Turdus celaenops as an avian predator of juvenile Eumeces okadae on Mayake-Jima, Izu Islands. Japanese Journal of Herpetology , 13 (3), 65-69.
Landry Yuan, F., Ito, S., Tsang, T. P., Kuriyama, T., Yamasaki, K., Bonebrake, T. C., & Hasegawa, M. (2021). Predator presence and recent climatic warming raise body temperatures of island lizards. Ecology Letters , 24 (3), 533-542.