イシガキトカゲ

Plestiodon stimpsonii (Thompson, 1912)

爬虫綱 >有鱗目 > トカゲ科 > トカゲ属 > イシガキトカゲ

  • イシガキトカゲ 雄 成体 西表島
概要

[大きさ] [6]

  • 頭胴長:55–80 mm 
  • 尾長は頭胴長の150%程度
  • 日本産トカゲ属の中ではかなり小型な部類に入る。

[説明]

  • 八重山諸島に分布する中型のトカゲ
  • 海岸沿いから山地まで広く生息
  • 移入されたイタチやクジャクによる捕食の影響が心配される

[保全状況]

環境省レッドリスト(2020):準絶滅危惧 (NT)

分布

[分布]

与那国島を除く八重山諸島に分布(石垣島、西表島、竹富島、小浜島、黒島、鳩間島、新城島、波照間島)[3]

[生息環境]

海岸から山地にかけて広く生息し、石垣や林道などの開けた場所でよく見られる[3]

分類

[分類]

爬虫綱 > 有鱗目 > トカゲ科 > トカゲ属 > イシガキトカゲ

[タイプ産地] 

石垣島 [10]

[説明]

  • 1861年、Hallowellがオキナワトカゲ Plestiodon marginatusを報告して以降、この種は広く南西諸島全域に分布すると考えられていた[2]。1912年、Thompsonはオキナワトカゲを再検討を行い、オキナワトカゲ Eumeces marginatus、オオシマトカゲ Eumeces oshimensis、そしてイシガキトカゲ Eumeces stimpsoniiに分割した[10]。Van Denburgh(バーバートカゲの命名者でもある)はEumeces ishigakiensisを提起したが、後にTaylorによってイシガキトカゲのシノニムとされた[9]。その後は分類学的再検討が進み、本種含め日本産のトカゲ属はEumeces属からPlestiodon属へと変更された[1]。
  • 遺伝的にはクチノシマトカゲに最も近く、オキナワトカゲやオオシマトカゲよりもセンカクトカゲやアオスジトカゲに近い[5]。
  • 種小名はアメリカの動物学者、William Stimpsonに由来している。彼は1853-1856年に行われた北太平洋探検に参加し、小笠原諸島、本州、琉球列島などを巡って数多くの標本を残した。この標本群を基に数多くの種が記載され、Hallowellがオキナワトカゲを記載する際も彼の標本を用いた[2]。
体の特徴

[形態][6,7]

  • 幼体の地色は黒色から暗褐色で、尾はメタリックブルーとなる。成長するにつれて体色は淡褐色になるが、特にメスでは幼体のころの体色を残す個体もいる。
  • 幼体には背部に黄白縦条が7本見られることが普通だが、波照間島の集団など、5本のみが明瞭であるものもある。オスでは、成長とともに一番外側にある2本の淡色縦条が消失することが多い。
  • 体鱗列数は通常26列だが、24-28列までの変異がある。
  • 後鼻板を欠く。         

[似た種との違い][4,6]

  • 同所的に分布するキシノウエトカゲとは、特に幼体の場合に識別が難しい場合がある。成体の場合、イシガキトカゲ(全長12-21cm)はキシノウエトカゲ(全長 30-38cm)より明らかに小さいので、判別に困ることは少ない。また、イシガキトカゲは比較的頭部が細長く、キシノウエトカゲは吻端と頭頂間板の後端の間隔が、両眼の間隔の1.5倍よりも少し大きい程度なのに対し、イシガキトカゲは2倍ほどになる。そして、イシガキトカゲには後鼻板がないが、キシノウエトカゲには小さいながらもある個体が多い。幼体においては目の後方を通る縦条で判別が可能で、イシガキトカゲが実線状なのに対して、キシノウエトカゲは破線状になる。
  • また、遺伝的に最も近いクチノシマトカゲとの識別点も述べる。イシガキトカゲにおいては、体側の胴中央部において縦条が耳孔の上と第5列目の体鱗を通過するのに対し、クチノシマトカゲでは耳孔と第6-8列目の体鱗を通過する。また、上体側において胴中央部を通る縦条が、イシガキトカゲでは第1上睫板から始まるのに対し、クチノシマトカゲでは眼上板から始まる。加えて、体鱗列数でもある程度の識別が可能である。イシガキトカゲでは24-28列(通常26列)だが、クチノシマトカゲでは27-32列(通常30列)になる。
生態

[食性]

主に昆虫やクモ類を捕食する[8]

[被食]

イリオモテヤマネコ[11]や国内移入のニホンイタチ[6]などの哺乳類、外来種であるインドクジャクなどの鳥類[6]に捕食されていた例が報告されている。オオハナサキガエルによる捕食の例もある[12]。

同属種のキシノウエトカゲに捕食されることもある[13]

[繁殖]

繁殖期は3月ごろから始まるとされ、5月上旬から中旬ごろ、メスは4-9個の卵を石の下などに産む。メスはそのまま巣穴に留まり抱卵し、6月下旬から7月上旬に幼体が孵化する[6]

[成長]

通常は2年目の春に性成熟を迎え繁殖に参加するが、波照間島では孵化翌年の3月から繁殖に参加する個体もみられる[6]

その他

[保全]

いくつかの島では、移入したニホンイタチやインドクジャクの捕食圧によって個体数が減少しており、影響が危惧されている[6]。特に波照間島、小浜島、黒島ではこの傾向が著しい[7]。

執筆者:野田叡寛

2023/7/13:伊與田翔太が[大きさ]、[被食]を一部追加


引用・参考文献

  1. 疋田努. 2006. トカゲ属の学名変更~ Eumeces から Plestiodon へ~. 爬虫両棲類学会報, 2006(2), 139-145.
  2. 疋田努. 2007. スタイネガー (1907) に掲載された日本とその周辺地域のトカゲ類の分類. 爬虫両棲類学会報, 2007(2), 173-181.
  3. 菊川章. 2019. 沖縄県立博物館・美術館における両生類および陸生爬虫類の標本資料の収蔵状況. 沖縄県立博物館・美術館博物館紀要, (12), 7-14.
  4. 栗田和紀. (2014). オキナワトカゲの系統地理学および集団遺伝学.
  5. Kurita, K., Ota, H., & Hikida, T. 2017. A new species of Plestiodon (Squamata: Scincidae) from the Senkaku Group, Ryukyu Archipelago, Japan. Zootaxa, 4254(5), 520-536.
  6. 松井正文,& 森哲.2021.新 日本両生爬虫類図鑑.サンライズ,滋賀.
  7. 太田英利. 2014. 環境省(編)レッドデータブック2014 ー日本の絶滅のおそれのある野生生物ー 3爬虫類・両生類. (株)ぎょうせい, 東京.
  8. 関慎太郎, & 疋田努. 2016. 野外観察のための日本産爬虫類図鑑. 緑書房,東京. .
  9. Taylor, E. H. 1935. Proposed Changes in the Nomenclature of the Scincoid Lizard Genus Eumeces. Transactions of the Kansas Academy of Science (1903-), 38, 345-347.
  10. Thompson, J.C. 1912. Herpetological notices, No. 2. Prodrome of descriptions of new species of Reptilia and Batrachia from the Far East. Privately published, San Francisco.
  11. Tobe, A., Nakanishi, N., Sato, Y., Wachi, N., & Izawa, M. 2020. Diet analysis of two umbrella species using DNA barcoding to conserve the ecosystem of Iriomote-jima Island―Iriomote Cat Research Group―. Annual Report of Pro Natura Foundation Japan, 29, 238-248.
  12. Fukuyama, I. 2018. Odorrana supranarina (Large Tip-nosed Frog). DIET. Herpetological Review 49(4): 729.
  13. 千石正一, 疋田努, 松井正文 & 仲谷一宏(編). 1996.日本動物大百科5.平凡社,東京.