オオヒキガエル

Rhinella marina (Linnaeus, 1758)

両生綱 > 無尾目 > ヒキガエル科 > ナンベイヒキガエル属 > オオヒキガエル

概要

[大きさ] 

  • 原産地では23.8cmの記録はあるものの[20]、国内の移入個体については8.8-15.5cmとされている[19]。

[説明]

  • 外来種で日本では小笠原諸島や南西諸島に移入
  • サトウキビ畑など人里近くの開けた場所で主に見られる
  • 大きな耳腺を持ち、毒液を分泌する
  • 捕食者として在来の貴重な生物に影響を及ぼすだけでなく、毒をもつ被食者として在来の高次消費者への影響が懸念される
分布

[分布]

原産地は南米 (ギアナから中央ブラジル、コロンビア南部、ペルーやボリビアなど)だが、フロリダ州や小アンティル諸島、ハワイ、フィジー、フィリピン、台湾、ニューギニア、ソロモン諸島、オーストラリアなど世界各地に移入されている。日本国内においても、小笠原諸島(父島,母島),大東諸島(北大東島,南大東島),先島諸島(石垣島,西表島,鳩間島)で分布が確認されている[13]。その多くは、サトウキビ畑などの害虫駆除の目的で人為的に導入されたものであり、導入された年代などもかなりはっきりとしている[13]。一方で、西表島においては石垣島からの意図せぬ移入があったと考えられている[18]。

[生息環境]

  • 海岸や河川の近く、熱帯乾林から熱帯雨林まで非常に多様な環境で見られるが、一般的には草原や畑などの開けた土地に分布するとされる[23]。Zugら (1979) は、開けた土地の周辺部が主な生息域であり、未開の森林域が分散の障壁になっている可能性を指摘している[23]。日本国内の移入集団においても主な生息環境は原産地と変わらず、サトウキビ畑や人家の庭、公園など、人里近くの開けた場所で見られる。
分類

[分類]

  • 両生綱 > 無尾目 > ヒキガエル科 > ナンベイヒキガエル属 > オオヒキガエル

[タイプ産地] 

  • リンネは”America”としており、Muller & Hellmich (1936)はスリナムにあたるとしている

[説明]

  • 学名の marina はラテン語で「海の」という意味であり、耐塩性が高く沿岸部にも生息することに由来している[16]
  • 本種は長らく、中南米に生息する広域分布種であると考えられてきたが、オオヒキガエルとされてきた種に複数のグループがあることが明らかになってきた。2016年には、かねてより別種ではないかと考えられていた中米からアンデス山脈以西のコロンビアやベネズエラの集団について、形態的、遺伝的な差異が認められたことからRhinella horribilis という古くに記載され、シノニムとされていた名前が復活することになった [1] 。これら2種の関係については、2020年の研究で、両種の系統関係が核DNAとmtDNAで一致しないことから過去の交雑が示唆され、また、最近も遺伝交流が生じていることが明らかになっている[3]。
体の特徴

[形態]

  • 頭頂後部 (眼の周辺) に顕著な骨質隆起を持ち、皮膚は骨と完全に癒合している[16]。
  • 体色は黄褐色から茶褐色[21]で、背面は多数の隆起でおおわれる。
  • 菱形で非常に大きな耳腺をもち、そこからブフォトキシンを含む白色の毒液を分泌する。
  • 幼体~亜成体においては成体と体色が異なることが多い。幼体の背面は黒色だが、成体に近づくにつれ褐色や灰色となり、暗色部がモザイクに入った体色を呈する。
  • 成体において顕著な性的二型を伴うとされる。中でも前肢の頑健さにおける違いはよく知られており、オスはより発達し筋肉量の多い前肢をもつとされる[14]。また、繁殖に成功するオスはより頑健な前肢を有することから、この特徴は抱接時にメスをしっかりと抱きとめ他のオスの邪魔を防ぐという点で、性選択が強く働いた結果であるとも考えられている[14]。このような前肢の発達は、日本のヒキガエルにおいて「蛙合戦」とも形容される、短期間に多数のオスがメスを巡って争うような繁殖形式をとるような種ではよく見られる。一方で、メスを抱きとめる際に使われる筋肉だけに関していえば、雌雄間やオスの繁殖の成功において大きな違いがないというデータもあり[15]、このような形態が本当に性選択によるものかは議論の余地があるといえる。

[似た種との違い]

日本に生息するカエルと比べると、サイズや形態的特徴の面で大きく異なるため、別種と誤同定することはまずないだろう。成体になるまではサイズが他種と似通っている場合も考えられるが、眼の上の骨質隆起や大きな耳腺から判別は容易。

生態

[食性]

  • 石垣島における研究では、アリを含むハチ目を筆頭に、甲虫やカメムシ類、クモ類などの多様な節足動物を捕食していることが報告されている[12]。他のヒキガエルと同じくアリをよく捕食する傾向が見られたが、特定の餌を好んで捕食するかどうかは議論の余地があるとしている[12,23]。
  • 小笠原諸島の個体においては、人などによって殻が砕かれた後と思われるアフリカマイマイを捕食していることも知られているなど[17]、野外集団においても動かない餌を捕食する可能性がある。実際、アボカドなどの植物質に加えて皿の上に置かれたドックフードまでも摂食した記録があるなど[2]、その食性はかなり広い可能性が考えられる。

[被食]

毒性が強く捕食者が死亡することもあるため、移入先での悪影響が懸念される。実際にオーストラリアでは、本種の影響によると思われるオオトカゲやジョンストンワニの減少が報告されている[7,9]

[繁殖]

  • 繁殖期は一地点においても長く、条件が整えば一年を通して繁殖がなされる[11]。日本においても通年繁殖がみられるが、大東島では12-1月、石垣島では春から秋にかけて繁殖のピークがあるとされる[13]。
  • 産卵場所としては、池などの止水で安定した水域が選ばれる傾向にある[11,23]。ただ、乾季が存在する地域(原産地付近など)では、乾季のはじめには流れの停滞した河川へと繁殖場所がシフトしていくとされる[11]。日本においても、池や水溜まり、水田などの止水域を中心に産卵する。

[卵]

  • 紐状の卵塊の中に最大で58000個の卵を産む[18]。主に浅瀬の水生植物などに絡みつけて産み落とされる[22]。

[幼生]

  • 体色は黒色で、全長は20-30㎜ と小型。尾部が短く、体長の1-1.5倍程度しかない[4]。
  • 防除の研究の副産物としてかもしれないが、生態学的な研究が盛んになされている。例えば、Crossland (2011) は本種のオタマジャクシが同種の卵を好んで摂食することを示し、それを別親由来の個体との競争を低減させる効果があるのではないかと考えた[5,6]。またHagmanら (2009) は、オタマジャクシが同種個体の粉砕液を通して捕食リスクの大小を感じ取り、それに応答するように体サイズを小さくし、さらに変態後の耳腺サイズや毒液の組成を変化させることを実験によって明らかにした[10]。

執筆者:野田叡寛


引用・参考文献

  1. Acevedo, A. A., Lampo, M., & Cipriani, R. (2016). The cane or marine toad, Rhinella marina (Anura, Bufonidae): two genetically and morphologically distinct species. Zootaxa, 4103(6), 574-586.
  2. Alexander, T. R. (1965). Observations on the feeding behavior of Bufo marinus (Linne). Herpetologica, 20(4), 255-259.
  3. Bessa-Silva, A., Vallinoto, M., Sampaio, I., Flores-Villela, O. A., Smith, E. N., & Sequeira, F. (2020). The roles of vicariance and dispersal in the differentiation of two species of the Rhinella marina species complex. Molecular Phylogenetics and Evolution, 145, 106723.
  4. Cane Toad Challenge (2017). CTC Cane Toad Tadpole identification Guide [PDF file]. Available from https://imb.uq.edu.au/files/16159/CTC%20Cane%20Toad%20Tadpole%20Identification%20Guide.pdf.
  5. Crossland, M. R., Hearnden, M. N., Pizzatto, L., Alford, R. A., & Shine, R. (2011). Why be a cannibal? The benefits to cane toad, Rhinella marina [= Bufo marinus], tadpoles of consuming conspecific eggs. Animal Behaviour, 82(4), 775-782.
  6. Crossland, M. R., & Shine, R. (2011). Cues for cannibalism: cane toad tadpoles use chemical signals to locate and consume conspecific eggs. Oikos, 120(3), 327-332.
  7. Doody, J. S., Green, B., Rhind, D., Castellano, C. M., Sims, R., & Robinson, T. (2009). Population‐level declines in Australian predators caused by an invasive species. Animal Conservation, 12(1), 46-53.
  8. Frost (2021). Amphibian species of the world.
  9. Fukuda, Y., Tingley, R., Crase, B., Webb, G., & Saalfeld, K. (2016). Long‐term monitoring reveals declines in an endemic predator following invasion by an exotic prey species. Animal conservation, 19(1), 75-87.
  10. Hagman, M., Hayes, R. A., Capon, R. J., & Shine, R. (2009). Alarm cues experienced by cane toad tadpoles affect post‐metamorphic morphology and chemical defenses. Functional Ecology, 23(1), 126-132.
  11. Hearnden, M. N. (1991). The reproductive and larval ecology of Bufo marinus (Anura: Bufonidae) (Doctoral dissertation, James Cook University of North Queensland).
  12. Kidera, N., Tandavanitj, N., Oh, D., Nakanishi, N., Satoh, A., Denda, T., Izawa, M., & Ota, H. (2008). Dietary Habits of the Introduced Cane Toad Bufo marinus (Amphibia: Bufonidae) on Ishigakijima, Southern Ryukyus, Japan. Pacific Science, 62(3), 423-430.
  13. 国立環境研究所(2021).侵入生物データベース-オオヒキガエル- <https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/40010.html>, 参照 2020-03-20
  14. Lee, J. C. (2001). Evolution of a secondary sexual dimorphism in the toad, Bufo marinus. Copeia, 2001(4), 928-935.
  15. Lee, J. C., & Corrales, A. D. (2002). Sexual dimorphism in hind-limb muscle mass is associated with male reproductive success in Bufo marinus. Journal of Herpetology, 36(3), 502-505.
  16. 松井正文, & 関慎太郎. (2016). ネイチャーウォッチングガイドブック: 日本のカエル 分類と生活史~ 全種の生態, 卵, オタマジャクシ.
  17. Matsumoto, Y., Matsumoto, T., & Miyashita, K. (1984). Feeding habits of the marine toad, Bufo marinus, in the Bonin Islands, Japan. Japanese Journal of Ecology, 34(3), 289-297.
  18. 中島朋成, 戸田光彦, 青木正成, & 鑪雅哉. (2005). 西表島におけるオオヒキガエル対策事業について. 爬虫両棲類学会報, 2005(2), 179-186.
  19. 高田栄一, & 大谷勉. (2011). 原色爬虫類・両生類検索図鑑. 北隆館.
  20. Powell, R., Conant, R., & Collins, J. T. (2016). Peterson field guide to reptiles and amphibians of eastern and central North America. Houghton Mifflin Harcourt.
  21. 関慎太郎, & 松井正文. (2016). 野外観察のための日本産両生類図鑑.緑書房.
  22. Semeniuk, M., Lemckert, F., & Shine, R. (2007). Breeding-site selection by cane toads (Bufo marinus) and native frogs in northern New South Wales, Australia. Wildlife Research, 34(1), 59-66.
  23. Zug, G. R., & Zug, P. B. (1979). The marine toad, Bufo marinus: a natural history resume of native populations. Smithsonian contributions to zoology.