ヒャン

Sinomicrurus japonicus japonicus (Günther, 1868)

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概要

[大きさ] 

  • 全長:40-53 cm。尾は全長の1/10前後。

[説明]

  • 種ヒャン(Sinomicrurus japonicus)にはヒャン(S. j. japonicus)とハイ(S. j. boettgeri)の2亜種が存在しており、本亜種は基亜種
  • 日本固有種
  • 毒ヘビ。口が小さく、攻撃性が低いと推定されているが、同属のワモンベニヘビでは咬傷による死亡例が報告されている。
  • 尾端の鱗が棘状に尖り、捕まえると尾で刺すような防御行動をとる。
  • 6月に2-4個産卵した例がある。
  • 小型の爬虫類を主に捕食すると考えられている。

[保全状況]

  • 環境省レッドデ-タブック2020:準絶滅危惧(NT) [6]
分布

[分布]

  • 奄美諸島の奄美大島とその付近の島嶼に分布する[14]。

[生息環境]

  • 湿潤な自然林や二次林の林床に生息する[14]。
分類

[分類]

爬虫網>有鱗目>ヘビ亜目>コブラ科 > コブラ亜科 > ワモンベニヘビ属 > ヒャン > ヒャン

[タイプ産地]

  • Nagasakiとされるが、おそらく誤り[13]

[学名の由来]

  • “sino”はギリシャ語で「中国の」という意味、“micrurus”はサンゴヘビという意味[16]。japonicusは日本のという意味。

[説明][1, 4, 7, 8, 13, 16]

  • 本種は1868年Güntherにより、マタハリヘビ属(Calliophis)として記載された。その後、Slowinski(2001)の研究によりワモンベニヘビ類(本種も含めて)はワモンベニヘビ属(Sinomicrurus)という新属へと移された。この研究では南北アメリカ大陸のサンゴヘビ(MicrurusMicruroides)とワモンベニヘビ属が近縁であることを示し、さらにアメリカ大陸のサンゴヘビの起源はアジアであるという仮説を提唱した。サンゴヘビの祖先はベ-リング海峡を経由して、アメリカ大陸に到達し、定着したものと考えられている 。
  • ワモンベニヘビ属は頭部の内部形態や半陰茎の形態から他の近縁属と区別できる。
  • ワモンベニヘビ属は2021年5月時点で、8種が認められており、そのうち2種が日本に分布する。
  • 広義のヒャン(S. japonicus)は日本固有種である。ヒャン(S. japonicus)には基亜種ヒャン(S. j. japonicus)とハイ(S. j. boettgeri)の2亜種が含まれており、両亜種は地理的に隔離されている。
体の特徴

[形態][11][15]

  • 吻端から側頭部にかけては黒い。
  • 背面は薄いオレンジ色である。
  • 胴をほぼ一周する13-19本の黒い横帯がある。背中には1本の黒い縦帯が走り、個体によっては胴体側面に1-2対のごく細い縦帯もある。腹面の地色はクリ-ム色で、黒斑が不規則に分布している。
  • 鱗は滑らかで光沢がある。尾端の鱗は棘状に尖っている。
  • 体鱗:13列 腹板:190­-215枚 尾下板:27-40対。 
[似た種との違い]
  • 本種は独特な色彩と体型を持つため、他種と誤認することは殆どない。唯一似ている種として、同所的に分布するアカマタ(Lycodon semicarinatus)の幼体があげられる。どちらもクリーム色の地色に黒い模様を持つが、アカマタの黒色の斑紋は間隔が狭く、特に胴の前半では黒い紋の幅が黒い紋同士の間隔よりも広い。また、黒い紋は腹面まで伸びず、背中線を持たない。ヒャンの黒い横帯は腹面まで伸びて胴をほぼ一周し、黒い横帯同士の間隔は広い。また、アカマタの腹面には斑紋がないが、ヒャンの腹面には黒帯の間に不規則な黒斑が分布している。
生態

[食性][9, 10, 15]

  • 野外でのブラーミニメクラヘビの捕食が報告されている。また、森田(1964)は本種の排出物中に哺乳類の毛があったことから、ワタセジネズミのような小型哺乳類を捕食すると推測した。飼育下での記録から、メクラヘビやトカゲ、ヤモリなど小型の爬虫類を主に食べると考えられている。

[繁殖] 

  • 野外で採集した個体が、6月に2-4個産卵し、8月に孵化した記録がある[12]。

[行動]

  • 捕まえられると尾の先端を押し付けるような行動を取る。尾端に毒腺はない[17]。

[毒性][3, 5, 15,17]

  • 神経毒を持つが、これまで被害報告はない。一方で、マウスに対する実験により、ヒャンが持つ神経毒はマダラウミヘビ Hydrophis cyanocinctusに匹敵する強い毒性を持っていることが示唆されている 。また、ネパールでは同属のS. macclellandi univirgatus による死亡事故が報告されている。

執筆者:叶林芸

引用・参考文献

  1. Günther, A. 1868. Sixth account of new species of snakes in the collection of the British Museum. Ann. Mag. nat. Hist. (4) 1: 413-429.
  2. 疋田努. 2013. 知られざる動物の世界 10. p16-20.
  3. 本間学. 小此木丘. 小菅隆夫. 1967. ヒャン(Calliophis japonicus japonicus)毒の毒性について. 日本熱帯医学雑誌. 第8巻. 第2号. p65-69.
  4. Kaito, T., Ota, H. and Toda, M. 2017. The evolutionary history and taxonomic reevaluation of the Japanese coral snake, Sinomicrurus japonicus (Serpentes, Elapidae), endemic to the Ryukyu Archipelago, Japan, by use of molecular and morphological analyses.
  5. Kramer E. 1977. Revue suisse de zoologie. 84: 721.
  6. 環境省レットリスト<http://www.env.go.jp/press/files/jp/114457.pdf> 最後閲覧日2021/2/26
  7. McDowell, S. B. 1986. The architecture of the corner of the mouth of colubroid snakes. J. Herpetol. 20: p353-407.
  8. McDowell, S. B. 1987. Systematics. In R. A. Seigel, J. T. Collins, and S. S. Novak (eds.), Snakes: Ecology and Evolutionary Biology, p3-50. Macmillan Publ. Co., New York.
  9. Mori, A., Moriguchi, H. 1988. Food habits of the snakes in Japan: a critical review. The snake, vol. 20. p98-113.
  10. 森田忠義. 1964. 奄美大島の動物. 鹿児島の自然. p315-325.
  11. 中村健児・上野俊一. 1963. 原色日本両生爬虫類図鑑. p169-17.
  12. Nobusaka, R., Nakamoto, E., et al. 1995. Note on the reproduction of Hyan, Calliophis japonicus japonicus (Guenther). Snake. vol. 27. p57-59.
  13. Ota, H., Ito, A., Lin, JT. 1999. Systematic review of the elapid snakes allied to Hemibungarus japonicus (G€unther, 1868) in the East Asian islands, with description of a new subspecies from the Central Ryukyus. J Herpetol 33: p675-687.
  14. 関慎太郎・疋田努. 2018. 野外観察のための日本産爬虫類図鑑 第2版.p193.
  15. 千石正一・疋田努・松井正文. 1996.日本動物大百科5.p104-105.
  16. Slowinski, J. B., Boundy and R. Lawson, 2001. The phylogenetic relationships of Asian coral snakes (Elapidae: Calliophis and Maticora) based on morphological and molecular characters. Herpetologica 57 (2): 233-245.
  17. 田原義太慶. 2020. 毒ヘビ全書.p104-105.

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