エラブウミヘビ

Laticauda semifasciata (Reinwardt, 1837)

爬虫綱 > 有鱗目 > コブラ科 > エラブウミヘビ属 > エラブウミヘビ

  • 成体・西表島
概要

[大きさ] 

  • 最大全長150 cm。雌の方が大きくなる。

[説明]

  • 琉球列島から東南アジアのサンゴ礁域に生息し、様々な小型魚類を捕食する。
  • 陸に上がり、卵を生む。
  • 強力な神経毒を持つが、性質はおとなしい。とはいえむやみに触るべきではない。
  • キツネフエフキやカスミアジといった大型魚と共同で狩猟をおこなう行動が目撃されている。
  • 沖縄県では方言名でイラブーと呼ばれ、燻製にしたのちに汁物として食される。

[保全状況]

  • IUCNレッドリスト:準絶滅危惧種(NT)
  • 環境省レッドリスト:絶滅危惧II類(VU)
  • 沖縄県レッドリスト:純絶滅危惧種(NT)
  • 鹿児島県レッドリスト:純絶滅危惧種(NT)
  • 宮崎県レッドリスト:情報不足(DD)
  • 沖縄県漁業調整規則により許可なく全長60 cm以下の個体を捕獲することは禁止されている。
  • 海岸の開発に伴う産卵環境の悪化、赤土の流出や夏季の高温海水塊の出現に伴うサンゴ礁の縮小、さらには食用を目的とした無制限の捕獲や刺し網による混獲などが存続を脅かしていると考えられる[13]。
分布

[分布]

  • 琉球列島からフィリピン、インドネシアまで分布する[1]。
  • 分布北限の琉球列島では石垣島(屋良部半島御願崎)・池間島・久高島(西海岸)・与論島(フンチュ崎)・トカラ宝島(大間)・小宝島(湯泊)及び薩南の口永良部島(元村、姉待、湯向)と硫黄島(港付近、坂元、東南海岸)などに繁殖地が知られている。最寒月の表面海水温がほぼ19℃以上の海域が本種の分布域である。稀に九州や本州でも海流で流されたとされる本種が発見されることがある[2]。
  • 近年では今まで考えられてきた本種の分布域よりも北にある韓国でも発見されている[3]。

[生息環境]

  • 沿岸部の砂地やサンゴ礁で採餌する。休息や産卵は陸上の岩場で行う。トカラ列島や薩南では海水温が低いため、温泉の周辺でのみ産卵する[2]。
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有鱗目 > コブラ科 > エラブウミヘビ属 > エラブウミヘビ

[タイプ産地]

  • モルッカ諸島(採集者 Reinwardt)

[説明]

  • 最も近縁な種はニウエに生息するLaticauda schistorhynchaである。
体の特徴

[形態][11]

  • 背面は青または褐色で、腹面は淡い青色。胴に36本、尾に6本の黒褐色横帯がある。この横帯は背面で鱗5〜5.5枚分の幅となり、横帯間の幅は鱗1または2枚分である。また、横帯は側面に向かうにつれて細く、淡くなり、腹面では灰色になる。
  • 体鱗列数23。腹板数178–200で最後の2枚は二分する。尾下板数32–40。

[似た種との違い][11]

  • ヒロオウミヘビ:エラブウミヘビは黒褐色の横帯は腹面に向かって狭くなり、逆三角形になるのに対し、ヒロオウミヘビは環状になる。またヒロオウミヘビの方が全体的に細長い。
  • アオマダラウミヘビ:エラブウミヘビは黒褐色横帯の幅が帯間よりも広いのに対し、アオマダラウミヘビは黒褐色の横帯が明るい部分より狭く、上唇が黄色であることで区別できる。また、エラブウミヘビよりやや細長い。
ヒロオウミヘビアオマダラウミヘビ
生態

[食性]

  • 遊泳性、あるいは底生の多様な魚類を捕食する。特に台湾ではヒメタカサゴ属の一種やクロハギ属の一種が多く捕食されている[4]。

[繁殖]

  • 台湾では8–11月[7]、宮古島では7–8月に産卵する[5]。
  • 3–7卵を生み、母ヘビの体長が長くなるほど卵数が増える傾向にある[7]。
  • サンゴ礁の海岸洞窟内に産卵する[7]。

[生態]

  • サメ類に捕食されるほか[9]、陸上でもハクビシンに捕食された例がある[8]。
  • 淡水が染み出し、陸上の捕食者から守られる切り立ったサンゴ礁の海岸に上陸する[8]。
  • 同種他個体や、キツネフエフキやカスミアジといった大型魚と共同で狩猟をする行動が確認されている[14].

[毒性]

  • 有毒。本種の毒液の致死性の95%は2種類の神経毒成分erabutoxin aおよびerabutoxin bによるものであり、どちらもマウスに対する半数致死量は0.15 μg/gである[12]。なお、ヒトとチンパンジーのアセチルコリン受容体には長鎖型の神経毒は強く結合するが、短鎖型の神経毒は非常に弱くしか結合しない[18]。本種を含むLaticauda属は短鎖型の神経毒が主であるため、ヒトの咬症では神経毒症状は弱いと考えられる[18, 19]。
  • 本種は性質がおとなしく、滅多に咬もうとしない[20]。咬症例はほとんど知られておらず、本種と断定できる死亡例は確認されていない[21]。ただし、1943年に沖縄県知念村久高島のウミヘビを捕獲する洞穴(イラブーガマ)の中でウミヘビ(方言名:ソーイラブー)の捕獲中にLaticauda属の一種に成人女性が咬まれて受傷後約2時間30分で死亡した例がある[17]。久高島では主に旧暦の6–8月、エラブウミヘビは9–12月に捕獲されるとのことで、捕獲時期(旧暦の7月)から咬症はヒロオウミヘビによるものの可能性が高いが、エラブウミヘビと捕獲時期は完全に分離しておらず、後者である可能性も考えられる。

[寄生虫]

  • 体表にしばしばウミヘビキララマダニ (Amblyomma nitidum)が、気管および肺にはツツガムシ類や吸虫類が寄生する[10, 15, 16]。
その他

[文化]

  • 琉球列島では伝統的な食材として食されてきた[5]。燻製にされイラブー汁として食される。主に久高島、宮古島、八重山諸島で漁獲される。少なくとも17世紀からイラブーを食す文化が続いており、高級食材とされた[6]。
  • 方言名は沖縄諸島ではイラブー、ソームン、宮古諸島ではウナズ、イラウナグ(大神島)、八重山諸島ではイラブー、イラバー[17]。

[執筆者コメント]

  • 大型のメスはとにかく迫力があります。日本で最大級のヘビと言ってよいでしょう。
  • ウミヘビ類の目撃情報をFacebookで集めています。お気軽にご参加ください! https://www.facebook.com/groups/890706932270229

執筆者:藤島幹汰(最終更新2025年1月24日) 


引用・参考文献

  1. Heatwole, H., Lillywhite, H., & Grech, A. (2016). Physiological, ecological, and behavioural correlates of the size of the geographic ranges of sea kraits (Laticauda; Elapidae, Serpentes): A critique. Journal of Sea Research115, 18-25.
  2. 環境庁.(1982) 日本の重要な両生類・はちゅう類の分布(全国版).
  3. Park, J., Kim, I. H., Fong, J. J., Koo, K. S., Choi, W. J., Tsai, T. S., & Park, D. (2017). Northward dispersal of sea kraits (Laticauda semifasciata) beyond their typical range. PLoS One12(6), e0179871.
  4. Su, Y., Fong, S. C., & Tu, M. C. (2005). Food habits of the sea snake, Laticauda semifasciataZoological Studies44(3), 403-408.
  5. Kuwabara, R., Shimizu, R., & Haneda, T. (1990). Ecological consideration on the sea snake Laticauda semifasciata in the Ryukyu Islands from trends in the catch. In The Second Asian Fisheries Forum. Asian Fisheries Society, Manila pp:773-776.
  6. 田原美和. (2012). 学校で活用できる地域の食文化の教材化を目指して -沖縄の屋取集落の実態を中心に-. 科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書.
  7. Tu, M. C., Fong, S. C., & Lue, K. Y. (1990). Reproductive biology of the sea snake, Laticauda semifasciata, in Taiwan. Journal of herpetology, 119-126.
  8. Liu, Y. L., Chen, Y. H., Lillywhite, H. B., & Tu, M. C. (2012). Habitat selection by sea kraits (Laticauda spp.) at coastal sites of Orchid Island, Taiwan.
  9. Masunaga, G., Kosuge, T., Asai, N., & Ota, H. (2008). Shark predation of sea snakes (Reptilia: Elapidae) in the shallow waters around the Yaeyama Islands of the southern Ryukyus, Japan. Marine Biodiversity Records1, e96.
  10. 林文男, 増永元. 日本産ウミヘビ類に寄生するマダニ類とツツガムシ類の生態. 日本ダニ学会誌, 10: 1–17.
  11. 牧茂一郎. (1931). 原色版日本蛇類圖説. 第一書房, 東京.
  12. Tamiya, N. and Arai, H. (1966) Studies on sea-snake venoms. Crystallization of erabutoxins a and b from Laticauda semifasciata venom. Biochem. J. 99, 624–630
  13. 太田英利 (2014) 環境省レッドデータブック2014:エラブウミヘビ.
  14. Somaweera, R., Udyawer, V., Amarasinghe, A. T., de Fresnes, J., Catherall, J., & Molchanova, G. (2023). Apparent coordinated and communal hunting behaviours by Erabu sea krait Laticauda semifactiata. Scientific Reports13(1), 21471.
  15. Coil, W. H., & Kuntz, R. E. (1960). Three new genera of trematodes from Pacific sea serpents, Laticauda colubrinn and L. sernifasciata. In Proc. Helminthol Soc. Wash (Vol. 27, pp. 145-150).
  16. 大橋赳実, 大田和朋紀, 浅川満彦 (1995) 沖縄県産エラブウミヘビ(Laticauda semifasciata)の肺から得られた二種類の内部寄生虫の記録. 酪農学園大学紀要: 自然科学編. 42:179–181.
  17. 新城安哲, 富原靖博 (1989) 沖縄県で発生したウミヘビ咬症II. 平成元年度抗毒素研究報告書別刷. 39–44.
  18. Pickwell, G. V. 1994. A review of contemporary sea snake toxinology : Chemistry, pharmacology, immunology and clinico-pathological aspects. p. 93-166. In : P. Gopalakrishnakone (ed.) Sea snake toxinology. Singapore Univ. Press, Singapore.
  19. 堺淳, 森口一, 鳥羽通久 (2002) フィールドワーカーのための毒蛇咬症ガイド. 爬虫両棲類学会報 2002: 75–92.
  20. Pickwell, G. V. 1994. Sea snake bites in the Asia-Pacific region. p. 1-36. In : P. Gopalakrishnakone (ed.) Sea snake toxinology. Singapore Univ. Press, Singapore.
  21. 田原義太慶, 福山伊吹, 福山亮部, 堺淳. 2024. 日本ヘビ類大全. 誠文堂新光社. 東京.

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