アズマヒキガエル

Bufo formosus Boulenger, 1883

両生綱 > 無尾目 > ヒキガエル科 > ヒキガエル属

  • 成体 / Adult
概要

[大きさ] 

  • 体長 4.5〜16cm。一般に温暖な低地ほど大型化し、高地や高緯度では成体でも小さい。[1]

[説明]

  • 東日本に分布するヒキガエル。低地から2000m以上の高地まで様々な環境に生息する。体格は頑丈で、日本産のカエルとしてはかなり大型になる。背面の体色は赤褐色から濃褐色だが、繁殖期のオスは黄土色へ変化する。西日本に分布するニホンヒキガエルと比べて鼓膜が大きいことが特徴。
    個体数の多い地域では、繁殖期に多数のオスがメスを奪いあう「蛙合戦」が見られる。オタマジャクシは全身黒色で、小型。変態直後、上陸個体の体長は1㎝にも満たない。1~3年で成熟する。アリや甲虫、クモ、ミミズなどを食べる。

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020未掲載。ただし千葉県では要保護生物に選定されているなど、個体数の減少が危惧されている地域もある。個体数の増減を長期的に追跡することは一般に難しいため、詳しくは分かっていないが、横浜市や名古屋市など都市近郊において個体数の減少を示唆する報告がある。[2,3]
分布

[分布]

  • 本州の近畿地方より東に自然分布。
  • 北海道、佐渡島、伊豆諸島(大島,新島,三宅島)に移入されている。[4]

[生息環境]

  • 海岸近くの低地から標高2500m程度まで、様々な環境に生息する。[5]
分類

[タイプ産地] 

  • 神奈川県横浜

[説明]

  • 学名のformosusは「美しい / ハンサムな」の意。
  • 本種は最近まで西日本に分布するニホンヒキガエル B. japonicus の亜種とされており、現行の多くの図鑑にもそのように書かれているが、2023年に遺伝的な解析をもとに独立種と判断された。[24]
  • 【分類学的経緯】ヒキガエル属は種内でも地域ごとに形態的な差異が大きく、形態による分類が難しい。1980年ごろまで、日本産ヒキガエルは大陸産のヨーロッパヒキガエル Bufo bufo の亜種と考えられており、また日本国内だけを考えてもいくつの亜種に分けるかは定説が無かった。その後の交配実験や詳細な遺伝的・形態的解析を経て、現在では、日本本土産は大陸とは別種のニホンヒキガエル B. japonicus (西日本に分布)と本種アズマヒキガエル B. formosus (東日本に分布)、そしてナガレヒキガエル B. torrenticola (渓流性)の3種が認められる 。なおアズマヒキガエル種内にも遺伝的に区別できる2集団が存在するが、それらは交雑体が幅広く、交雑個体に対する明確な選択圧が見られないことから、同種内の地域個体群であると考えられている。[1,6,7,24]
体の特徴

[形態]

  • がっしりとした体型で脚は短い。背中一面にイボがある。眼の後方には耳腺と呼ばれる大きな毒腺が発達する。
  • 体色は様々だが、一般に背面は赤褐色から濃褐色で、側面にはより暗い色の帯状模様が走る。オスは繁殖期に黄土色へと体色が変化する(婚姻色)。

[似た種との違い]

  • 体型ががっしりしており、また大型になることからヒキガエル属以外のカエルと見分けるのは容易。
  • 同属のナガレヒキガエルとは北陸から近畿にかけての山地で同所的に分布するが、本種は鼓膜が明瞭(ナガレヒキは不明瞭)であることから区別できる。
  • 西日本に分布するニホンヒキガエルと比べ、本種のほうが鼓膜が大きいという特徴がある。しかし個体変異があり、分布域境界では種間交雑もするため、識別が難しい場合もある。
生態

[食性]

  • 主にアリや甲虫といった昆虫類を捕食し、他にクモやヤスデ、ミミズ、カタツムリ、トカゲ、カエルなども捕食する。[8, 9]

[繁殖]

  • 繁殖期は地域によって異なる。関東の平野部で2~3月だが高山や高緯度では遅れ、長野県の美鈴湖(標高1000m)や青森県の海岸近くでは4月下旬ごろになる。山地では7月に繁殖する個体群もあるという。ただし一か所での繁殖は1週間程度と短期間で行われる。繁殖の開始は、冬眠場所である地中の温度が一定の値を超えることが引き金になると考えられている。[10–12]
  • 繁殖はふつう湖や湿地、池、水たまりなどの浅い止水で行われる。このとき毎年同じ水場に帰ってきて繁殖する個体が多い。オスは繁殖場所に数日間留まることも珍しくないが、メスは産卵を済ませると一晩ですぐ池を離れる。繁殖場所においてはオスの方がずっと数が多く、多数のオスが少数のメスをめぐって激しく争う「蛙合戦」が見られる。[5, 13, 14]

[鳴き声]

  • クックックッ…と小さな高い声で鳴く

[行動]

  • 繁殖が終わると土にもぐって春眠する。初夏になると活動を再開し、個体ごとに決まった行動圏の中で餌をとって生活する。[15]
  • 強い刺激を受けると、体表から毒性のある乳白色の分泌物を出す。[16]

[成長]

  • 東京都における調査によれば、変態時は体長1cmに満たないがその後の成長は素早く、変態後二年間で平均11cmまで大きくなる。また普通オスは2~3歳、メスは3~4歳から繁殖に参加する。より冷涼な北海道では成長が悪く、性成熟も遅いことが知られる。変態後二年間で平均6㎝ほどにしかならず、繁殖開始は4~5歳程のようだ。[17, 18]
  • 神奈川県における調査では、野生でも最長8歳の個体がいたという。[19]

[卵]

  • 卵は長い紐状の卵塊として生み落とされる。1匹が640〜8000個の卵を産む。[5]

[幼生]

  • 体全体が黒く、斑紋は無い。成長しても30mm程度と小さい。[20]
  • 多数の幼生が集まり、群れをなして行動する。[20]
その他

[北海道の移入個体群]

  • アズマヒキガエル自体は日本在来の種ではあるが、北海道にはもともと分布しておらず、関東地方から運ばれたものが定着し移入種となっている。その地の生態系に負の影響を与えうると考えられており、実際に希少な昆虫等を捕食することや、北海道在来の両生類がヒキガエル幼生の持つ毒で死ぬことが知られる(なお、ヒキガエル類が自然分布する本州に棲むヤマアカガエルやクロサンショウウオは毒への耐性をもつというから面白い)。[9, 21–23]

執筆者:木村楓
2023年11月30日 アズマヒキガエルが亜種から種に引き上げられたこと(文献24)を反映した。


引用・参考文献

  1. Matsui M (1984) Morphometric variation analyses and revision of the Japanese toads (genus Bufo, Bufonidae). Contributions from the Biological Laboratory, Kyoto University 26:209–428
  2. 福山欣司, 阿部道生, 松田久司, 佐々木史江 (2007) 横浜市瀬上谷戸におけるヤマアカガエルとアズマヒキガエルの長期的なモニタリング調査. 爬虫両棲類学会報 2007:146–153
  3. 浅香智也, 寺本匡寛, 島田知彦 (2017) アンケート調査に基づく名古屋市内のアズマヒキガエルの分布変遷. 爬虫両棲類学会報 2017:164–171
  4. 国立環境研究所 侵入生物データベース. https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/. Accessed 22 Jul 2020
  5. 松井正文 (2018) 日本産カエル大鑑. 文一総合出版
  6. Kawamura T, Nishioka M, Ueda H (1980) Inter-and intraspecific hybrids among Japanese, European and American toads. Sci Rep Lab Amphibian Biol Hiroshima Univ 4:1–125
  7. Igawa T, Kurabayashi A, Nishioka M, Sumida M (2006) Molecular phylogenetic relationship of toads distributed in the Far East and Europe inferred from the nucleotide sequences of mitochondrial DNA genes. Mol Phylogenet Evol 38:250–260
  8. Hirai T, Matsui M (2002) Feeding ecology of Bufo japonicus formosus from the Montane Region of Kyoto, Japan. J Herpetol 36:719–723
  9. 更科美帆, 吉田剛司 (2015) 北海道における4種の国内外来カエルの捕食による影響 : 胃重要度指数割合からの把握. 保全生態学研究 20:15–26
  10. 青柳正彦, Bufo研究会, 宇和紘. (1977) 美鈴湖におけるヒキガエル(Bufo bufo formosus)の産卵行動に関する研究 I . 産卵出動開始の時期に及ぼす地温の影響. 信州大学理学部紀要 12:65–78
  11. 木村青史 (2017) 青森県北東部における小型アズマヒキガエルの繁殖状況. 爬虫両棲類学会報 2017:7–12
  12. 久居宣夫, 菅原十一 (1978) ヒキガエルの生態学的研究 (V) 繁殖期における出現と気象条件との関係について. 自然教育園報告 8:135–149
  13. Kusano T, Maruyama K, Kanenko S (1999) Breeding site fidelity in the Japanese toad, Bufo japonicus formosus. Herpetol J 9:9–13
  14. 草野保., 丸山一子, 金子繁則 県指定天然記念物「山北町岸のヒキガエル集合地」におけるアズマヒキガエル繁殖個体群の生態. http://salamander.la.coocan.jp/salamander/shiryou/hiki93.html. Accessed 29 Jul 2020
  15. Kusano T, Maruyama K, Kaneko S (1995) Post-Breeding Dispersal of the Japanese Toad, Bufo japonicus formosus. J Herpetol 29:633–638
  16. 松井正文 (1996) ヒキガエル類. 日高敏隆 (編) 日本動物大百科 第5巻 両生類・爬虫類・軟骨魚類. 平凡社, 東京都, pp 29–31
  17. 久居宣夫 (1981) ヒキガエルの生態学的研究 : (VI)雌雄による成長と性成熟の差異. 自然教育園報告 12:103–113
  18. 八谷和彦 (2018) 北海道深川市に定着したアズマヒキガエル個体群の幼体期の成長. 爬虫両棲類学会報 2018:155–162
  19. Kusano T, Maruyama K, Kaneko S (2010) Body Size and Age Structure of a Breeding Population of the Japanese Common Toad, Bufo japonicus formosus (Amphibia: Bufonidae)
  20. 松井正文, 関慎太郎 (2008) カエル・サンショウウオ・イモリのオタマジャクシハンドブック. 文一総合出版
  21. Suzuki D, Kawase T, Hoshina T, Tokuda T (2020) Origins of Nonnative Populations of Bufo japonicus formosus (Amphibia: Bufonidae) in Hokkaido, Japan, as Inferred by a Molecular Approach. Curr Herpetol 39:47–54
  22. Kazila E, Kishida O (2019) Foraging traits of native predators determine their vulnerability to a toxic alien prey. Freshw Biol 64:56–70
  23. Oyake N, Sasaki N, Yamaguchi A, Fujita H, Tagami M, Ikeya K, Takagi M, Kobayashi M, Abe H, Kishida O (2020) Comparison of susceptibility to a toxic alien toad (Bufo japonicus formosus) between predators in its native and invaded ranges. Freshw Biol 65:240–252
  24. Fukutani, K., M. Matsui, and K. Nishikawa (2023) Population genetic structure and hybrid zone analyses for species delimitation in the Japanese toad (Bufo japonicus). PeerJ 11:e16302.

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