ニホンイシガメ

Mauremys japonica Temminck et Schlegel, 1838

爬虫綱 > カメ目 > イシガメ科 > イシガメ属 > ニホンイシガメ

概要

[大きさ] 

  • 成熟個体の平均甲長:オス 10.4cm, メス 17.3cm [17]

[説明]

  • 背甲は楕円形であまり高くなく真ん中に低い1本の隆条がある
  • 背甲の色は鮮やかな橙色から暗褐色までと様々である
  • 腹甲は一様に黒色であることが多い
  • 河川の上流域や中流域、湖、池、湿地、水田に生息する
  • エビ類、貝類、昆虫類、藻類、果実などを食べる

[保全状況]

  • 環境省レッドデータブック指定:準絶滅危惧(NT) 
分布

[分布]

  • 本州、四国、九州とその属島(佐渡・隠岐・見島・壱岐・対馬・五島列島など)[14] 
  • 東日本よりも西日本に多くみられる。中部地方・関東地方では全県に生息しているといわれている。東北地方では福島県・宮城県・山形県・秋田県で生息が確認されている。東北各県のほとんどの生息場所は、人為的に移入された可能性が高い[17]。 

[生息環境]

  • 河川の上流域や中流域、湖、池、湿地、水田に生息する。クサガメが平地の水系に分布しているのに対し、イシガメは山麓の水系を中心に分布する。
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > カメ目 > イシガメ科 > イシガメ属 > ニホンイシガメ 

[タイプ産地] 

  • 日本

[説明]

  • ニホンイシガメは遺伝的に異なる2集団から構成されることが知られている。
  • 両集団は中国地方を境に東西に分かれている。
  • 最終氷期以前は日本の主要な島嶼に分布しており、最終氷期に近畿地方と九州のレフュジアで生き残ったと考えられている。最終氷期後、この2つのレフュジアから分布を拡大したと推定されている[1][6]。
体の特徴

[形態]

  • 背甲は楕円形であまり高くなく、頭から尾にかけて真ん中に低い1本の隆条がある。
  • 色は鮮やかな橙色から暗褐色までと様々で、中央に黒または褐色の断続的な線がある。
  • 0~2歳の幼体では後縁が鋸歯状になっているが、成体では幼体ほどは目立たない。
  • 腹甲は一様に黒色だが、肛甲板の後縁が淡い橙色を帯びている個体もいる。 
  • 頭は比較的小さく、色は背甲と同じかやや灰色がかる。
  • 鼻や目から鼓膜にかけて暗色の模様がある。
  • 手足と尾は黒または暗灰色で四肢の外側および尾の背面側に黄色く小さい模様がある[17][20]。
生態

[食性]

植物質から動物質まで幅広い食性を持つ。

餌は陸上由来のものも、水中由来のものもあるが、クサガメと比較すると陸上由来のものを食べる傾向が強い[15]。

  • エビ類、
  • モノアライ目、ニナ目等の淡水生貝類
  • マイマイ目等の陸生貝類
  • ハエ目、トンボ目、コウチュウ目、セミ目、バッタ目、チョウ目等を含む昆虫類
  • 魚類
  • イネ目、ガマ目、フトモモ目、マメ目、キク目
  • 藻類
  • サワガニ、オイカワ、フナの死体
  • カラスの死体
  • イシガメの死体
  • 他個体が生んだカメ類の卵
  • 果実(ヤマモモ、アケビ、カキ)

[繁殖]

  • オスの求愛行動は主に9月~12月と3月~4月に行われ[2]、メスは畔や畑、荒れ地に穴を掘って2~9個の卵を産む[16]。
  • 卵は2~3か月で孵化し、孵化個体は産卵された年の秋に地上に現れる[3]。

[行動]

  • 基本的には昼行性だが、気温の高い夏は、昼間は泥の中に潜り、朝方と夕方に活動的になる[5]。
  • 水底の岩の割れ目や浸食による横穴、落ち葉の堆積の下で越冬する[17]。
その他

[文化]

  • 歌川広重の名所江戸百景深川万年橋にはイシガメと思われるカメが描かれている。この浮世絵は捕らわれた生き物を離すことで功徳を積む「放生会」の「離し亀」の様子を描いているといわれている。また、この「離し亀」は「佃祭」という落語でも取り上げられている。イシガメは古くから人々の身近にいるカメだったと考えられる[8][13]。

執筆者:工藤葵
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引用・参考文献

  1. Dai Suzuki, Tsutomu Hikida. 2011. Mitochondrial phylogeography of the Japanese pond turtle, Mauremys japonica (Testudines, Geoemydidae). Journal of Zoological Systematics and Evolutionary Research. Volume 49:141-147
  2. Dai Suzuki, Takashi Yabe. and Tsutomu Hikida. 2014. Hybridization between Mauremys japonica and Mauremys reevesii Inferred by Nuclear and Mitochondrial DNA Analyses. Journal of Herpetology. 48(4):445-454.
  3. 深田祝・石原重厚. 1976. イシガメの孵化時期. 爬虫両棲類学雑誌 6(3):93-94
  4. 長谷川由希子. 2013. イシガメが卵を食う. 亀楽(6):1
  5. 石原重厚. 1981. テレメーターで淡水のカメを調べる. Nature Study, 27(3):2-6.
  6. 楠田哲士. 2019. ニホンイシガメの生息域外保全に向けた考え方の整理と全国の取り組み事例の紹介. 亀楽, 17, 10-18.
  7. 日本爬虫両棲類学会. 2017. 日本産爬虫両生類標準和名リスト. <http://herpetology.jp/wamei/index_j.php>, 参照 2018-02-26.
  8. 日本経済新聞深川専売所, 参照 2019-04-12
  9. 野田英樹・鎌田直人. 2004. 淡水性カメ類の個体群特性と食性の関係. 爬虫両棲類学会報 2004(2):102-113.
  10. Takashi Yabe. 1992. Sexual Difference in Annual Activity and Home Range of the Japanese Pond Turtle, Mauremys japonica, Assessed by Mark-recapture and Radio-tracking Methods. Japanese Journal of Herpetology 14 (4):191-197.
  11. 竹中践. 2014. 環境省(編)レッドデータブック2014 ー日本の絶滅のおそれのある野生生物ー 3爬虫類・両生類. (株)ぎょうせい, 東京.
  12. THE REPTILE DATABASE , 参照 2018-04-03.
  13. 国立国会図書館デジタルコレクション, 参照 2019-04-12
  14. 千石正一(編). 1979. 原色両生・爬虫類. 家の光協会. 東京:206.
  15. 上野真太郎・笹井隆秀・石原孝・谷口真理・三根佳奈子・亀崎直樹. 2014. 日本に産するカメ類の食性. 爬虫両棲類学会報 2014(2):146–158
  16. 矢部隆. 1991. X線写真で調べた雌の繁殖生態について. 爬虫両棲類学雑誌 14:82-83.
  17. 矢部隆. 1995. イシガメ. p.455-462. 日本水産資源保護協会(編), 日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(Ⅱ). 日本水産資源保護協会, 東京.
  18. 矢部隆. 2002. 爬虫類と両生類3-5-1里山のカメ類. p.178-179. 広木詔三(編)里山の生態学. 名古屋大学出版, 名古屋.
  19. 湯橋翔・太田英利. 2014. 淡路島に生息する淡水性カメ類3種の食性. 爬虫両棲類学会報 2014(1):45-46(講演要旨)
  20. Yuichirou Yasukawa, Takashi Yabe, and Hidetoshi Ota. 2008. Mauremys japonica (Temminck and Schlegel 1835) –Japanese Pond Turtle. Chelonian Research Monographs 5:003-1

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