ニホンヒキガエル

Bufo japonicus Temminck et Schlegel, 1838

両生綱 > 無尾目 > ヒキガエル科 > ヒキガエル属

  • 繁殖期の雄成体(京都府) / Adult male
概要

[大きさ] 

  • 体長 8–17 cm メスのほうが大きい

[説明]

  • 大型のカエルで、西日本に分布する。体色は赤褐色から濃褐色だが、繁殖期のオスは黄土色へ変化する。東日本に分布する近縁種アズマヒキガエルと比べて鼓膜が小さいことが特徴。アリや甲虫、ミミズ、サワガニなどを食べる。おたまじゃくしは小さく、変態時の体長は1cmに満たないが、成体になると日本最大級のカエルである。

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020未掲載。ただし県によっては絶滅危惧種に選定されている地域もある。
分布

[分布]

  • 近畿以西の本州と、四国、九州、またそれらの周辺島嶼。
  • 東京には人為移入されて定着し、アズマヒキガエルと交雑を起こしている。

[生息環境]

  • 海岸近くの低地から標高1900mほどの山地まで生息する。 [1]
分類

[タイプ産地] 

  • タイプ産地について原記載には “Japon”(日本)としか書かれていないが、おそらく長崎県だと考えられている。[2]

[説明]

  • 本種は最近までアズマヒキガエル B. formosus と亜種の関係にあるとされていた。しかし遺伝的には明瞭に異なり、また2種間で交雑はするものの、交雑帯は比較的狭いことから、2種の遺伝子が自由に混ざり合わないような選択圧があると考えられ、2023年に別種と判断された。[18]
  • 種内でも九州の集団と本州・四国の集団では遺伝的には差異があることが報告されていた[3]。しかしこれらは形態的には区別が難しく、また最近の遺伝的解析によれば、広く交雑することから同種と考えられている。[1,18]
体の特徴

[形態]

  • がっしりとした体型で脚は短い。背中一面にイボがある。眼の後方には耳腺と呼ばれる大きな毒腺が発達する。
  • 体色は様々だが、一般に背面は赤褐色から濃褐色で、側面にはより暗い色の帯状模様が走る。オスは繁殖期に黄土色へと体色が変化する(婚姻色)。

[似た種との違い]

  • 体型ががっしりしており、また大型であることからヒキガエル属以外のカエルと見分けるのは容易。
  • 東日本に分布するアズマヒキガエルとはよく似る。基本的には本種のほうが鼓膜が小さく、鼓膜の長径が眼から鼓膜までの距離とほぼ等しい(アズマヒキでは鼓膜が大きく、鼓膜の長径が眼から鼓膜までの距離の2倍以上)。しかし個体差が大きく交雑もするため、分布域境界で2種を識別するのは難しい場合がある。なお、東京都における本種とアズマヒキとの交雑個体群の調査では、中間的な大きの鼓膜を持つことが知られている。[4]
生態

本種の生態研究としては奥野良之助による金沢城跡での長期研究が有名であり、ここでもその観察に基づいて解説する部分が多い。なお、金沢はアズマヒキガエルの分布域ではあるが、金沢城跡にのみニホンヒキガエルが棲んでいたらしい。[5]

[食性]

  • アリや甲虫といった昆虫類を捕食する他、サワガニやミミズなども食べる。[1, 6, 7]

[繁殖]

  • 【繁殖期】繁殖期間は1週間ほど。時期は地域によって異なり、屋久島の高地では春期に加えて秋(9–10月)にも産卵期がある一方で、関西の平地で3月ごろであり、四国の高地では産卵が5月ごろの地域もある。[1, 8]
  • 【繁殖行動】冬眠から目覚めた雄は、繁殖期になると毎年ほぼ決まった水場へと向かい、そこで雌を待つ。繁殖場所は水たまり、湿地、池、湖などの止水域である。雌が訪れると雄は後ろからその背に飛びのり、前肢でしっかりと雌を抱え込む(抱接)。つられて周りの雄が次々と飛びつき、団子状になることもしばしばである。最終的には一匹の雄のみが雌と上手く抱接し、水中に入って産卵する。卵塊は10–30mに及ぶ長い紐状で、雌はそれを何回かに分けて産み落とす。ほとんどの雌は一晩あるいは二晩で繁殖池を離れるが、雄は数日居残り、他の交尾の機会を待つことも多い。[1, 5, 7, 9, 10]

[鳴き声]

  • クックックッ…と高い声で鳴く

[行動]

  • 【非繁殖期の活動】繁殖が終わるとまずは”春眠”をして、4月下旬頃に活動を再開する。特に活発に動くのは雨の晩である。夏の盛りにはやや観察されにくくなるが、秋には再び活発になり、最低気温が5℃を下回るころになると冬眠する。[11, 12]
  • 【生活圏】繁殖期に水場に向かう以外は狭い範囲で定住することが多く、3−4年にわたってほぼ同じ場所で見つかる個体もいる。各個体の生活圏はかなり重複しており、縄張りとは考えられない。一方で、少数だが居場所をどんどん変えてゆくような個体も見られるらしい。[13]

[成長]

  • 金沢での研究によれば、変態したばかりの幼体は体長10mmに満たないほど小さいが、生後2–3年で平均100mmを超えるまで成長する。また、繁殖に参加するようになるのは、雄で3歳程度、雌で4歳程度からのことが多い。野外でも10年生きることがある。[14, 15]

[卵]

  • 10–30mに及ぶ長い紐状の卵塊であり、一個体の蔵卵数は2800–20000個。浅い止水域に産み落とされる。[1, 7]

[幼生]

  • 体全体が黒く、斑紋は無い。成長しても35mm程度と小さい。[16]
  • 多数の幼生が集まり、群れをなして行動する。[16]
その他

[毒]

  • 他の多くのヒキガエルと同様、本種も皮膚の粘液腺にブフォトキシンと総称される強心ステロイドの毒をもつ。[17]

執筆者:木村楓
2023年12月2日 アズマヒキガエルとニホンヒキガエルを別種とするFukutani et al. 2023の報告をもとに記述を修正した。


引用・参考文献

  1. 松井正文 (2018) 日本産カエル大鑑. 文一総合出版
  2. 松井正文 (1980) ニホンヒキガエルの模式標本に関する知見. 動物学雑誌 89:624
  3. Igawa T, Kurabayashi A, Nishioka M, Sumida M (2006) Molecular phylogenetic relationship of toads distributed in the Far East and Europe inferred from the nucleotide sequences of mitochondrial DNA genes. Mol Phylogenet Evol 38:250–260
  4. Hase K, Nikoh N, Shimada M (2013) Population admixture and high larval viability among urban toads. Ecol Evol 3:1677–1691
  5. 奥野良之助 (1984) ニホンヒキガエル Bufo japonicus japonicusの自然誌的研究 : I.生息場所集団とその交流. 日本生態学会誌 34:113–121
  6. 日隈徳子, 大庭伸也, 古賀雅夫 (2015) 長崎市の人工池周辺におけるツチガエル(Rana rugosa)とニホンヒキガエル(Bufo japonicus japonicus)の食性. 環動昆 = Japanese journal of environmental entomology and zoology : 日本環境動物昆虫学会誌 26:17–28
  7. 中村定八 (1934) ニホンヒキガヘルBufo unlgaris japonicus(SCHLEGEL)の産出卵及び卵巣に關する數量的研究. 動物学雑誌 46:429–448
  8. 宮形佳孝 (2013) 屋久島上部地区におけるニホンヒキガエルの繁殖生態について. 爬虫両棲類学会報 2013:4–5
  9. 奥野良之助 (1985) ニホンヒキガエルBufo japonicus japonicusの自然誌的研究 : IX.繁殖期における♂の行動. 日本生態学会誌 35:621–630
  10. 奥野良之助 (1986) ニホンヒキガエルBufo japonicus japonicusの自然誌的研究 : X 抱接と産卵. 日本生態学会誌 36:11–18
  11. 奥野良之助 (1984) ニホンヒキガエルBufo japonicus japonicusの自然誌的研究 : II.活動性と気象条件の関連. 日本生態学会誌 34:217–224
  12. 奥野良之助 (1984) ニホンヒキガエル Bufo japonicus japonicus の自然誌的研究 : III.活動性の季節変化と終夜変化. 日本生態学会誌 34:331–339
  13. 奥野良之助 (1985) ニホンヒキガエルBufo japonicus japonicusの自然誌的研究 : VII 成体の行動圏と移動. 日本生態学会誌 35:357–363
  14. 奥野良之助 (1984) ニホンヒキガエルBufo japonicus japonicusの自然誌的研究 : IV.変態後の成長と性成熟年令. 日本生態学会誌 34:445–455
  15. 奥野良之助 (1985) ニホンヒキガエルBufo japonicus japonicusの自然誌的研究 : V.変態後の生残率と寿命. 日本生態学会誌 35:93–101
  16. 松井正文, 関慎太郎 (2008) カエル・サンショウウオ・イモリのオタマジャクシハンドブック. 文一総合出版
  17. Inoue T, Nakata R, Savitzky AH, et al (2020) Variation in Bufadienolide Composition of Parotoid Gland Secretion From Three Taxa of Japanese Toads. J Chem Ecol 46:997–1009
  18. Fukutani, K., M. Matsui, and K. Nishikawa (2023) Population genetic structure and hybrid zone analyses for species delimitation in the Japanese toad (Bufo japonicus). PeerJ 11:e16302.

「ニホンヒキガエル」への2件のフィードバック

    1. 撮影者に確認したところ、京都府産の個体とのことでした。形態的な特徴である鼓膜に着目すると、ニホンヒキに見える(鼓膜が小さい)個体だと思い、ニホンヒキの説明写真として用いています。
      ただ最近の研究によれば、京都府の一部ではアズマヒキガエルとニホンヒキガエルの交雑が知られているので、写真の個体ももしかするとアズマヒキの遺伝子が部分的に混ざった交雑個体かもしれません。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です