サキシマキノボリトカゲ

Diploderma polygonatum ishigakiense (Van Denburgh, 1912)

爬虫綱 > 有隣目 > トカゲ亜目 > アガマ科 > キノボリトカゲ属 > キノボリトカゲ > サキシマキノボリトカゲ

概要

[大きさ]

  • 雌雄で大きさが異なり、全長はオスで27 cm、メスで20 cmに達する[1]
  • 尾が体の70%程度を占める[1]
  • 成体の頭胴長はオスで4.8 – 7.7 cm、メスで4.7 – 6.8 cm程度になる [1,2]
  • 宮古諸島の個体群の方が八重山諸島の個体群よりも体サイズが大きい[1]

[説明]

  • 宮古諸島と八重山諸島に生息する日本固有亜種
  • 主に樹上棲で、昆虫やクモ、特にアリをよく捕食する[1,4]
  • 尾は長く、切れにくい

[保全状況]

  • 環境省:準絶滅危惧(NT)
  • 沖縄県:準絶滅危惧(NT)
分布

[分布]

  • 宮古諸島(宮古島、池間島、大神島、伊良部島、来間島)、八重山諸島(石垣島、西表島、小浜島)[1,3]

[生息環境]

  • 常緑広葉樹の自然林や回復の進んだ二次林に多い[4]
  • 森林的な環境を好み、民家周辺や公園などの開けた環境には少ない[2]
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有隣目 > トカゲ亜目 > アガマ科 > キノボリトカゲ属 > キノボリトカゲ > サキシマキノボリトカゲ

[タイプ産地] 

  • Ishigaki, Loo Choo Islands, Japan (石垣島) [5]

[分類学上の変遷]

  • キノボリトカゲ Diploderma polygonatum は、琉球列島から台湾にかけて広く生息する。サキシマキノボリトカゲ D. polygonatum ishigakiense は宮古諸島と八重山諸島に分布する亜種である。
  • Hallowell (1861)によって新属新種キノボリトカゲ Diploderma polygonatum として記載されたが、その後Günther (1864)によってJapalura属に移動され、以降長きにわたってJapalura polygonataという学名で扱われることになる[6,7]。
  • Van Denburgh (1912)は奄美大島、沖縄島、石垣島、西表島のキノボリトカゲ J. polygonata と、台湾と蘭嶼島のスウィンホーキノボリトカゲ J. swinhonis の比較を行い、色彩的な差異を根拠に宮古島の個体群と石垣島および西表島の個体群が、それぞれJ. p. miyakensisJ. p. ishigakiensis という亜種として記載された[5]。なお、宮古島のJ. p. miyakensis に関しては、松本 (1971)によって記載根拠となったJ. p. ishigakiensis との差異が明確でないことがのちに確かめられ、現在ではシノニムとして扱われている[2]。
  • サキシマキノボリトカゲを含む日本のキノボリトカゲは、長らくJapalura属として扱われてきたが、Wang et al. (2018)によるJapalura属全体を扱った系統解析によって、Japalura属が遺伝的に異なる4グループに分かれることが明らかにされた。Japalura属の模式種はヒマラヤに生息する別グループの種であったため、東アジアを分布の中心とするキノボリトカゲの種群に、Hallowell (1861)の命名したDiplodermaという属が適用されることになった[8]。
  • なお、学名に用いられるラテン語には性が存在し、Japaluraは女性、Diplodermaは中性である。種小名の性は属名の性に応じて変化するため、サキシマキノボリトカゲの種小名と亜種小名も女性から中性へと語尾が変更になり、Japalura porigonata ishigakiensisから、Diploderma polygonatum ishigakienseへと変化することになった。
体の特徴

[形態]

  • 背面は褐色から暗褐色。メスでは赤褐色になる個体もいる[2]
  • オスの体側部には白色から黄白色の白い帯が入る[4]
  • メスにはこの帯はないか、あっても幅の狭い淡緑色の帯となる[2]
  • 体側の下部は雌雄ともにやや緑味を帯びることが多い[2]
  • 腹面はくすんだ白色[2]
  • 体色を暗く変化させることが可能で、雌雄ともに黒褐色になることがある[1]
  • 幼体は褐色で、体色を変化させない[1]
  • 四肢は長く、爪も大きい[1]
  • 鼓膜は鱗に覆われ、外部から見えない[2]
  • 頸部から胴部にかけての背中線上には鋸歯状の大型の鱗が並び、特にオスではよく発達する[1]

[よく似た種類]

宮古諸島に本種に似たトカゲは生息していない。首の後ろに鋸歯状の鱗があるのは本種のみである。

八重山諸島に関しても在来種のトカゲで似た種類はいないが、石垣島で定着しているグリーンイグアナの幼体と間違えられる可能性がある。グリーンイグアナとの判別点は以下の通りである[2]。

  • サキシマキノボリトカゲは鼓膜が鱗に覆われており、外から見えない。グリーンイグアナは鼓膜が鱗に覆われず、外から見える。
  • サキシマキノボリトカゲの頭胴長(鼻先から総排泄孔までの長さ)は最大でも8 cmに達しない。頭胴長が9 cmを超えていればグリーンイグアナと判断して良いだろう。

[属内の識別]

日本ではキノボリトカゲ属のトカゲが外来種含め4種(亜種含む)記録されている(スウィンホーキノボリトカゲ、オキナワキノボリトカゲ、サキシマキノボリトカゲ、ヨナグニキノボリトカゲ)。各種の識別は、以下の通りである。

スウィンホーキノボリトカゲ(静岡県、神奈川県、宮崎県に移入)の判別法

  • スウィンホーキノボリトカゲは口腔内が黒い。それ以外の3種は口腔内が黒くならない。

キノボリトカゲ(琉球列島に在来、宮崎県と鹿児島県に移入)3亜種のオスの判別法

  • オキナワキノボリトカゲのオスの体側には、淡色の帯があり、斑状にはならない。また、体は鮮やかな緑色であることが多い。
  • サキシマキノボリトカゲのオスの体側には、淡色の帯があるが、こちらは斑状にはならず明瞭な黄色味も帯びない。背面の体色は褐色で腹面はやや緑味を帯びる。
  • ヨナグニキノボリトカゲのオスの体側には、大きな白斑が3 – 5 個並び、部分的に繋がることもあるが、帯状にはならない。

キノボリトカゲ(琉球列島に在来、宮崎県と鹿児島県に移入)3亜種のメスの判別法

  • オキナワキノボリトカゲのメスの頭胴部背面には、幅の広い暗帯が3 – 5本横切る。地色は緑褐色になることも。
  • サキシマキノボリトカゲのメスの頭胴部背面には、幅の狭い明るい条線が3 – 5本横切る。背面の地色は暗褐色から灰褐色。
  • ヨナグニキノボリトカゲのメスの体には、青緑色や黄緑色の鮮やかな鱗が散らばる。
生態

[食性]

  • 主に昆虫やクモなどを捕食する[4]
  • 特にアリをよく捕食する[1]

[捕食]

イリオモテヤマネコやヘビ類、アカショウビンなどの鳥類によって捕食される[1]。インドクジャクやニホンイタチといった外来種による捕食も推測されている[1]。ヘビ類では、下記の種類による捕食記録がある[9,10]。

  • サキシマバイカダ
  • サキシママダラ
  • サキシマハブ

[繁殖]

  • 6 – 8月ごろが産卵期で、メスはこの間に1 – 2回産卵を行う。一度に1 – 3個の卵を産む[4]
  • 孵化直後の幼体の頭胴長は2.1 – 2.4 cm程度[1]

[活動傾向と体温]

  • 朝から夕方まで、日中を通して活動する[11]
  • 日光浴で体温調節することはなく、体温と外気温がほぼ一致する[12]
  • 晴れた時によく見られる他のトカゲ類と異なり、曇りや小雨の時でもよく見られる[12]

[行動]

  • なわばりを持ち、オスは一定の範囲内に侵入した他個体のオスを排除する[4]
  • メス間、幼体間、メス-幼体間にもなわばりがある[1]
  • 利用する高さはオス>メス>幼体の順であり、特に繁殖期のオスは非繁殖期よりも高い場所で活動する[1]
その他

[保全]

  • 宮古諸島や小浜島では生息密度が低い[1]
  • 宮古島ではかつて多くの個体が見られた環境でも、大きく数を減らしている場所がある[1]
  • 定量的な研究はないものの本種の生息密度の低さの要因として、開発に伴う生息地の減少や、外来の捕食者(ニホンイタチやインドクジャク)による捕食の影響が強く疑われている[1]
  • 小浜島ではインドクジャクの侵入後に行われた調査で、サキシマキノボリトカゲの低い生息密度と成体オスに偏った生息状況が明らかになった[13]

[コメント]

西表島や石垣島で森を歩いた際に、最もよく見かける爬虫類でしょう。日中は気に張り付いている姿が、夜間は枝先に掴まって寝ている姿がよく見られます。本州には自然分布しないキノボリトカゲ類を目にすると、琉球列島に来たんだという実感が湧きます。このような普通種であっても、環境改変や外来の捕食者の侵入で絶滅の危機に瀕しうるというのが環境保全の恐ろしいところです。いつまでも身近な生き物であってほしいです。

執筆者:福山亮部


引用・参考文献

  1. 田中聡, 戸田守,2018.サキシマキノボリトカゲ.沖縄県文化環境部自然保護課(編),改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版(動物編)-レッドデータおきなわ-,pp. 203–204.沖縄県文化環境部自然保護課,那覇
  2. 日本爬虫両棲類学会 編. 2021. 新日本両生爬虫類図鑑. サンライズ出版. 彦根.
  3. 菊川章. 2019. 沖縄県立博物館・美術館における両生類および陸生爬虫類の標本資料の収蔵状況. 沖縄県立博物館・美術館博物館紀要, (12), 7-14.
  4. 太田英利. 2014. 環境省(編)レッドデータブック2014 ー日本の絶滅のおそれのある野生生物ー 3爬虫類・両生類. (株)ぎょうせい, 東京.
  5. Van Denburgh, J., 1912. Concerning certain species of reptiles and amphibians from China, Japan, the Loo Choo Islands, and Formosa. Proc. Cal. Ac. Sci. (Series 4) 3 (10): 187-258.
  6. Hallowell, E. 1861. Report upon the Reptilia of the North Pacific Exploring Expedition, under command of Capt. John Rogers, U. S. N. Proc. Acad. Nat. Sci. Philadelphia 12 [1860]: 480 – 510 
  7. Günther, A. 1864. The Reptiles of British India. London (Taylor & Francis), xxvii + 452 pp.
  8. Wang, K., Che, J., Lin, S., Deepak, V., Aniruddha, D. R., Jiang, K., … & Siler, C. D. (2019). Multilocus phylogeny and revised classification for mountain dragons of the genus Japalura sl.(Reptilia: Agamidae: Draconinae) from Asia. Zoological Journal of the Linnean Society185(1), 246-267.
  9. Mori, A. and H. Moriguchi. 1988. Food habits of the snakes in Japan: A critical review. The Snake 20: 98-113.
  10. 浜中京介, 森哲, 森口一. 2014. 日本産ヘビ類の食性に関する文献調査. 爬虫両棲類学会報 2014(2):167-181.
  11. 仲地明, & 田中聡. (2004). 西表島山地林におけるトカゲ類の活動について. 沖縄県立博物館紀要, (30), 27-35.
  12. Tanaka, S. (1986). Thermal ecology of the forest-dwelling agamid lizard, Japalura polygonata ishigakiensis. Journal of herpetology, 333-340.
  13. 田中聡. (2004). 小浜島における両生爬虫類の現状について. 沖縄県立博物館 (編), 小浜島総合調査報告書. 沖縄県立博物館, 那覇, 21-33.

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です