ヌマガエル

Fejervarya kawamurai Djong, Matsui, Kuramoto, Nishioka et Sumida, 2011

両生綱 > 無尾目 > ヌマガエル科 > ヌマガエル属 > ヌマガエル

概要

[大きさ] 

  • 体長 メス: 36.8–48.7 mm  オス: 30.7–41.8 mm [3]

[説明]

  • 西日本に分布する中型のカエル
  • 水田に依存した生活史である
  • 食性は広く、死体食もみとめられる
  • 5~8月ごろによく見られる

[保全状況]

  • 国内移入の影響によって、2016年に環境省と農林水産省によって作成された「生態系被害防止外来種リスト」では、「重点対策外来種」として選定されている[13]。一方で、自然分布のなかでは、主な生息域である水田の減少によって数を減らしている地域もあり、京都府レッドデータブック2015では「要注目種」[14]、滋賀県版のレッドデータブック2015年版では、「希少種」に選定されている[要出典]。
分布

[分布]

  • 中部地方 (岐阜、愛知、静岡)、本州近畿以西[3]、四国、九州と一部の島嶼 (島戸、天草など)、奄美諸島 (与論島を除くほぼ全域)、沖縄諸島(一部の島嶼を除く)が分布域とされる[2]。国外では台湾西部、大陸中国の東部にも分布していると考えられている[3]。本種は自然分布域を東へと拡大している可能性があり[1]、近年には国内移入によって関東地方でも生息が確認されるようになっているほか[4]、長崎の島嶼 (対馬、壱岐、五島列島)、種子島 (定着の有無は不明) でも確認されている[2]。

[生息環境]

  • 湿地、河川、とりわけ水田でよく見られる[3,5,8]。標高が高い場所にはあまり生息せず[6]、大分県における研究では、標高450 mを超えると生息個体数が減りはじめ、550 mを超えるとほとんど生息しなくなることが報告されている[7]。

分類

[分類]

  • 両生綱 > 無尾目 > ヌマガエル科 > ヌマガエル属 > ヌマガエル

[タイプ産地] 

  • 東広島市。広島大学から2 km 離れた水田[3]。

[説明]

  • 学名のkawamurai は広島大学の名誉教授である川村智治郎氏からとられた。
  • 本種は長らく東南アジアに広く分布する(と当時考えられていた) Fejervarya limnocharis と同種であると考えられてきたが、分類学的な再検討が進むなかで2011 年に記載された[3]。
体の特徴

[形態]

  • 体色は背側が暗灰色から灰褐色で腹側は白色[5]。緑色の個体も稀に見られる。本州では背側線がみられる個体もいるが、奄美や沖縄の集団では見られない[3]。吻は比較的とがっており、鳴嚢は膨らむとふた山になる。背側には多数の隆起がみられるが、その程度はツチガエルと比べるとそれほど顕著ではない。前肢の脇から後肢の基部に向けて、ヌマガエル線と呼ばれる黒線がみられる。

[似た種との違い]

  • 一番よく間違われるのは、ツチガエルであろう。日本本土では生息域も重複しているために、フィールドでも判別をする必要が出てくる。識別点は、ツチガエルのページが詳しい。
  • また、同所的には分布しないものの近縁であるサキシマヌマガエルとの識別点は、該当のページにて確認してもらいたい。
ヌマガエル    ツチガエル    サキシマヌマガエル
生態

[食性]

  • 食性の幅は広く、アリやハエ、クモ、ミミズなど様々な生物を捕食する[3]。平井&松井 (2001) の研究によると、アリを含む節足動物をはじめ、ミミズ、カエルの幼生や幼体などを捕食していた報告された[9]。他にも、ヌマガエルの幼体がニホンアマガエルの幼体を捕食した例も報告されている[11]。このような、いわゆるジェネラリスト的な捕食によって、国内移入した先における貴重な在来種への過剰な捕食圧、他のカエル種への競争的排除 (あるいは捕食による直接的な影響) が懸念される[10]。
  • 興味深いことに、ヌマガエルは死体食を行っているという報告があり、芝刈り機に轢かれて死んでしまったトノサマガエルの死体にくいつく様子が観察されている[12]。飼育個体以外で、変態後のカエルが生きていない餌を捕食する例はかなり珍しい。

[繁殖]

  • 5~8月にかけて水田や、一時的に形成された水たまりなどに産卵する[3]。一年中水を湛えている安定した水域よりも水田を産卵場所として選ぶ傾向があり[16]、水田に依存した生活史であると推測される。
  • 1シーズンに複数回産卵することが知られており[3]、一度に1100~1400個の卵を産み落とす[18]。卵を順次発達させ、成熟卵を次々と排出していると考えられている[17]。また、メスの性成熟も速く、一回越冬後の繁殖期には多くの個体が成熟しているという報告もある[17]。このような産卵方式と世代の交代の速さはいずれも、水田という不安定な水域に適応した結果であるといえるかもしれない。

[鳴き声]

  • グエッ・グエッ…キャウキャウ [15]

[卵]

  • 卵の直径は1.1 mm と小型で動物極側は薄茶色をしている[3]。

[幼生]

  • 幼生のサイズは最大で40㎜近くになる[3]。吻は短く、口器も比較的小さい。尾部には黒斑があり、先に向かって急激に尖るような形状をしている
  • 高温への耐性を持っており[19]、これも繁殖期の終盤に水温が高くなる水田域への適応の一端であると考えることができるだろう。
  • 変態時期は6~10月で、変態時の体長は14㎜ほど[18]。
その他

執筆者:野田叡寛


引用・参考文献

  1. 倉本満, 岡田純, & 鶴崎展巨. (2002). 山陰地方東部のヌマガエル. 爬虫両棲類学会報2002(1), 10-13.
  2. 国立研究開発法人 国立環境研究所 侵入生物データベース. ヌマガエル.
  3. Djong, H. T., Matsui, M., Kuramoto, M., Nishioka, M., & Sumida, M. (2011). A new species of the Fejervarya limnocharis complex from Japan (Anura, Dicroglossidae). Zoological Science28(12), 922-929.
  4. 潮田好弘, 池澤広美, 中川裕喜, & 林光武. (2016). 茨城県の利根川および鬼怒川流域におけるヌマガエル (無尾目, ヌマガエル科) の分布. 茨城県自然博物館研究報告= Bulletin of Ibaraki Nature Museum, (19), 87-92.
  5. 関慎太郎(著), 松井正文(監修). 2016. 野外観察のための日本産両生類図鑑. 緑書房.
  6. 村上裕. (2008). 愛媛県におけるトノサマガエルとヌマガエルの分布傾向. 爬虫両棲類学会報2008(2), 89-93.
  7. 大澤啓志, & 勝野武彦. (2005). 大分川中流部の農村景観における両生類の分布パターン. ランドスケープ研究68(5), 563-566.
  8. 田和康太, 永山慈也, 萱場祐一, & 中村圭吾. (2019). 河道内氾濫原と水田域におけるカエル類の生息状況の比較. 応用生態工学22(1), 19-33.
  9. Hirai, T., & Matsui, M. (2001). Diet composition of the Indian rice frog, Rana limnocharis, in rice fields of central Japan. Current herpetology, 20(2), 97-103.
  10.  Takeuchi, H., Hojo, T., Kajino, M., & Tosano, N. (2019). Feeding Habits of the Japanese Rice Frog, Fejervarya kawamurai, as an Invasive Species. Current Herpetology, 38(2), 187-189.
  11. Doi, T. (2014). Field observations of predatory behavior by juvenile rice frogs (Fejervarya kawamurai) on Japanese tree frogs (Hyla japonica). Current Herpetology, 33(2), 129-134.
  12. Nishikawa, K., & Ochi, S. (2016). A Case of Scavenging Behavior by the Japanese Rice Frog, Fejervarya kawamurai (Amphibia: Anura: Dicroglossidae). Current herpetology, 35(2), 132-134.
  13. 環境省, & 農林水産省. (2015). 生態系被害防止外来種リスト. (参照: 2020 年 10 月 31 日).
  14. 京都府. (2015). 京都府レッドデータブック. https://www.pref.kyoto.jp/kankyo/rdb/bio/db/amp0016.html. (参照2020年10月31日)
  15. 松井正文, & 関慎太郎. (2016). ネイチャーウォッチングガイドブック: 日本のカエル分類と生活史~ 全種の生態, 卵, オタマジャクシ.
  16. 田和康太 & 佐川志朗.(2017) 兵庫県豊岡市祥雲寺地区の水田域とビオトープ域におけるカエル目の繁殖場所.
  17. 志知尚美, 芹沢孝子, & 芹沢俊介. (1988). 愛知県刈谷市におけるヌマガエルの成長と卵巣の発達. 爬虫両棲類学雑誌, 12(3), 95-101.
  18. 松井正文,関慎太郎,(2008).カエル・サンショウウオ・イモリのオタマジャクシハンドブック.pp.14-15.32.49.文一総合出版.
  19. Kuramoto, M. (1978). Thermal tolerance of frog embryos as a function of developmental stage. Herpetologica, 417-422.

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