サキシマヌマガエル

Fejervarya sakishimensis Matsui, Toda et Ota, 2007

両生綱 > 無尾目 > ヌマガエル科 > ヌマガエル属 > サキシマヌマガエル

概要

[大きさ] 

  • 全長 4-7 cm

[説明]

  • 宮古諸島や八重山諸島に分布する日本固有種
  • 本州や沖縄に生息するヌマガエルと似るが、いくつかの形態的特徴から分けられている
  • 多様な環境下に生息しており、様々な高次消費者に捕食される
分布

[分布]

  • 宮古諸島(宮古島、池間島、来間島、伊良部島、下地島)、八重山諸島(石垣島、竹富島、小浜島、西表島、波照間島)に自然分布。大東諸島(北大東島、南大東島)、先島諸島の一部(多良間島、黒島、与那国島)に移入が確認されている[5]。

[生息環境]

  • 平地や山地の水田、水辺から離れた森林中にも生息する。本州で見られる近縁種であるヌマガエルと比べると水田への依存性は高くないと考えられる。
分類

[分類]

  • 両生綱 > 無尾目 > ヌマガエル科 > ヌマガエル属 > サキシマヌマガエル

[タイプ産地] 

  • 石垣市於茂登[7]

[説明]

  • 種小名であるsakishimensisは生息地である先島諸島に由来している。
  • サキシマヌマガエルやヌマガエルは長らくFejervarya(当時はRana) limnocharis という南・東南アジアにも広く分布する種に含まれていた。
  • しかし、limnocharisの分類学的な再検討が進む中で2007年に基準産地であるジャワ島の個体群との形態的特徴や鳴き声、遺伝的な違いから、サキシマヌマガエルが新種記載された[7]。その後2011年には本州と沖縄、台湾、大陸に分布する個体群が、ヌマガエルとして新種記載された[2]。
  • 遺伝的に見ると、台湾に生息するヌマガエルに近い[6]。
体の特徴

[形態]

  • 背側の体色は灰色から褐色で、不規則な隆条が認められる一方、腹面は白色で平滑[8]。
  • 背中線は幅広くなることもあるが、全くない個体も存在する[7,11]。
  • 他のヌマガエル類同様、腹部両脇にはヌマガエル線が存在し[1]、吻端はとがっている。

[似た種との違い]

ヌマガエルとサキシマヌマガエルの分布域は被っていないが、簡単な形態の違いをここでは述べる

サキシマヌマガエルヌマガエル
体長(SVL)大きい小さい
(体長に比して)四肢がより長いより短い
頭の幅が広い狭い
背中線が太い個体が現れる細い又は存在しない

  • 他にも誤同定が起こる可能性がある種としては、同所的に分布するリュウキュウカジカガエルが挙げられる。
    基本的に2種は成体の体サイズが異なるので(サキシマヌマガエルの方が大きい)間違えることはあまりないと思われるが、成長段階や体色の変異によっては両者の姿が被ることが起こりえる。
  • 両者を区別する最良の方法は、四肢端つまり指先に注目することである。
    リュウキュウカジカガエルの指先には吸盤があるが、サキシマヌマガエルには存在しない。この違いは前者の仲間であるアオガエル科が基本的に樹上性であるのに対し、後者が陸上に生息するヌマガエル科の仲間であることに起因する。リュウキュウカジカガエルは樹上生活者とは言えないが、グループ内の他の種が持つ形質を共有している。
生態

[食性]

  • 本種の食性に関する研究は十分になされていない。しかし近縁種であるヌマガエルが、節足動物だけでなくカエルの幼生、幼体、成体を採餌している[4]ことから、本種の食性の幅が同様に広いことは十分に考えられる。

[捕食]

  • 野生下での個体数の多さ[13]からか、ヘビ類(ミヤコヒバァ、ガラスヒバァ、アカマダラ、サキシマハブ、サキシママダラ、ヤエヤマヒバァ)[3,7]やキシノウエトカゲ、鳥類や哺乳類などの様々な高次捕食者に利用される。胃内容の分析から、西表島でのイリオモテヤマネコに最も高頻度で消費される獲物はサキシマヌマガエルであるという研究結果[9]もある。
  • また、西表島にも生息するマクファーレンチビカ (Uranotaenia macfarlanei) は本種の鳴き声に誘引され[10]、吸血を行っている[11]と考えられる。

[繁殖]

  • 繁殖は4~8月で、水田や池、雨水でできた水溜まりなどの様々な止水域に産卵する[7]。

[卵]

  • 卵は3300~3800個を小卵塊として産みつけ[7]、水草に付着させたり、水底に産卵する。

[幼生]

  • 幼生の体色は灰色で、尾の丈は低い[7]。
  • 5~8月にかけて変態する[7]。

[鳴き声]

  • ケレー・ケレー、クワー・クワー
その他

[コメント]

  • 背中線の有無、幅には大きな個体差があり、それのみをヌマガエルとの区別点とするのはいささか無理がある。しかし個人的な意見としては、やはり太い背中線が一つの「サキシマヌマガエルらしさ」を形成しているように思う。

執筆者:野田叡寛
このページは西表かえる連合公民館さまのご支援により作成されました。


引用・参考文献

  1. Borthakur, R., Kalita, J., Hussain, B., and Sengupta, S. 2007. Study on the Fejervarya (Anura: Dicroglossidae) species of Assam. Zoos’ Print Journal, 22(4):2639-2643.
  2. Djong, H. T., Matsui, M., Kuramoto, M., Nishioka, M., and Sumida, M. 2011. A new species of the Fejervarya limnocharis complex from Japan (Anura, Dicroglossidae). Zoological science, 28(12): 922-930.
  3. 浜中京介, 森哲, and 森口一. 2014. 日本産ヘビ類の食性に関する文献調査 (特集 日本の両生類・爬虫類の食性). 爬虫両棲類学会報, 2014(2):167-181.
  4. 伊藤健吾,鳥居充裕, and 千家正照. 2012. 畦畔の草刈りがヌマガエルの食性に及ぼす影響. 農業農村工学会論文集, 80(6):465-470.
  5. 国立環境研究所.2021 侵入生物データベース. サキシマヌマガエル. <https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/40230.html>, 参照 2021-03-20
  6. Kotaki, M., Kurabayashi, A., Matsui, M., Kuramoto, M., Djong, T. H., and Sumida, M. 2010. Molecular phylogeny of the diversified frogs of genus Fejervarya (Anura: Dicroglossidae). Zoological Science, 27(5):386-396.
  7. Matsui, M., Toda, M., and Ota, H. 2007. A New Species of Frog Allied to Fejervarya limnocharis from the Southern Ryukyus, Japan (Amphibia: Ranidae). Current Herpetology 26(2): 65–79.
  8. 松井正文. 2016. ネイチャーウォッチングガイドブック 分類と生活史~全種の生態、卵、オタマジャクシ 日本のカエル. 誠文堂新光社.
  9. Nakanishi, N., and Izawa, M. 2016. Importance of frogs in the diet of the Iriomote cat based on stomach content analysis. Mammal Research, 61(1):35-44.
  10. Toma, T., Miyagi, I., Higa, Y., Okazawa, T., and Sasaki, H. 2005. Culicid and Chaoborid flies (Diptera: Culicidae and Chaoboridae) attracted to a CDC miniature frog call trap at Iriomote Island, the Ryukyu Archipelago, Japan. Medical entomology and zoology, 56(2):65-71.
  11. Toma, T., Miyagi, I., and Tamashiro, M. 2014. Blood meal identification and feeding habits of Uranotaenia species collected in the Ryukyu Archipelago. Journal of the American Mosquito Control Association, 30(3):215-219.
  12. 当山昌直. 1976. 宮古群島の両生爬虫類相 (I). 爬虫両棲類学雑誌, 6(3):64-74.
  13. Watanabe, S., Nakanishi, N., and Izawa, M. 2005. Seasonal abundance in the floor-dwelling frog fauna on Iriomote Island of the Ryukyu Archipelago, Japan. Journal of Tropical Ecology, 21(1):85-91.

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です