ニホンヤモリ

Gekko japonicus (Duméril et Bibron, 1836)

爬虫綱 > 有鱗目 > ヤモリ科 > ヤモリ属 >ニホンヤモリ

概要

[大きさ] [1]

  • 頭胴長は5–7 cm前後
  • 尾長は頭胴長とほぼ同じ

[説明]

  • 国内では本州から九州にかけて広く分布し、近年は北海道からの記録もある
  • 人家に多く、街灯の周りにも集まる
  • 昆虫などを捕食する

[保全状況]

  • なし
分布

[分布]

  • 国内では本州、四国、九州とその周辺島嶼。近年北海道南部にも進出が確認された[1]
  • 国外では、朝鮮半島南部と中国南東部に分布する[1]
  • 起源は中国南東部であり、日本に侵入したのは、ここ数千年の間だと考えられている[2]
  • 日本への侵入が海洋分散による自然分布か、資材等にまぎれた人為分布なのかは定かでない[2]
  • 少なくとも東日本や朝鮮半島の個体群は、人為的な移入によるものだと考えられている[2,3]

[生息環境]

  • 人家やその周辺の街灯など、人工的な環境に多い[1]
  • 露岩地や二次林でも見られる[1]
  • 原産地の中国南東部では、自然度の高い環境でも見られる[2]

[ニホンヤモリは外来種なのか?]

ニホンヤモリの起源は中国南東部であり、日本に侵入したのは、ここ数千年の間だと考えられている。それには以下の根拠が理由として挙げられている[2]。

  1. 日本や朝鮮半島の個体群は、中国南東部の個体群と比べ、遺伝的多様性が明確に低い。
  2. 日本や朝鮮半島の個体群のハプロタイプ(片親由来の遺伝子型)は、中国南東部の個体群にもほぼ存在する。一方、中国南東部の個体群は固有のハプロタイプを多く持つ。つまり、日本や朝鮮半島の個体群は、中国南東部の一部の祖先個体にルーツを持つと推測される。
  3. 日本や朝鮮半島の個体群は、多くが沿岸部やその近くの町などの周辺で見られる。一方、中国南東部では自然度の高い自然保護地域などでも広く生息が確認されている。それゆえ、日本や朝鮮半島の個体群は人為的な資材の移動などで分布を広げてきた結果、分布が沿岸部を中心とした人里周辺に偏っていると推測される。
  4. ニホンヤモリの現在の生息域は、比較的温暖な環境に限られる。ここ数万年の気候変動を考慮した分布推定を行うと、約二万年前の最終氷期の最寒冷期には、日本や朝鮮半島のほぼ全ての地域がニホンヤモリの生息に不適なほど寒冷になる。一方、中国南東部には温暖で生息に適したエリアが常に存在する。

これらの根拠から、日本の個体群は中国南東部から人為的に運ばれてきた移入種である可能性が高い。侵入時期に関しては不明だが、シーボルトが日本で採集した標本(1823–1829年頃)が存在する[4]ことや、人見必大によって1697年に著された本朝食鑑にヤモリに関する詳細な記載がある[5]ことなどを考えると、江戸時代にはすでに定着していたと考えられる。本朝食鑑によれば、1697年当時ニホンヤモリは九州や関西で見られるものの、関東では見られないとされており、これ以降に東日本へ分布を拡大していったと考えられる。

分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有鱗目 > ヤモリ科 > ヤモリ属 > ニホンヤモリ

[タイプ産地] 

  • Japan[4]

[近縁種との分類学的関係]

  • ニホンヤモリはDuméril et Bibron (1836)によりPlatydactylus Japonicusとして記載され、その後現在のGekko属へと移された。原産地は中国南東部と推測されているが、記載論文に用いられた個体は日本で採集されたシーボルトのコレクションである[4]。
  • なお、上記のDuméril et Bibron (1836)によれば、Platydactylus Japonicusという名前はFauna Jaonicaの執筆を行なっていたSchlegelによるものだと記述している。Schlegelによるこの命名はおそらく私信とみられ、Duméril et Bibron (1836)以前にその名前を扱った文献は知られていない。それゆえ、国内の文献では命名者をDuméril et Bibronとして扱うことが多いが、海外の論文等ではSchlegelを命名者とし、Gekko japonicus (Schlegel, 1836)と表記する場合もある。
  • ニホンヤモリを含む東アジアから東南アジア北部にかけて生息する小型から中型のGekko種群は、形態的・系統的に分かれた単系統となる。このグループはJaponigekko亜属として分類されており、ニホンヤモリはそのタイプ種に当たる[6]。
体の特徴

[形態][1]

  • 背面は灰色から灰褐色
  • 背面には縦に暗帯が並び、不規則な暗色の斑紋も存在する(ただしこの斑紋は夜間の活動時には不明瞭になることも多い)
  • 尾の基部背面の暗帯はW字型をしている
  • 腹面は汚白色から灰白色
  • 体の背面は細かい顆粒状の鱗で覆われ、そこに大型の鱗が混在する
  • 大型鱗は後肢の脛(すね)にも存在する
  • オスは6–9個の前肛孔を持つ
  • 指下薄板は中央で2分しない

[似た種との違い]

ニホンヤモリは、タワヤモリ(瀬戸内海沿岸地域と四国太平洋岸)、ミナミヤモリ(本州・四国・八丈島などに移入)、ニシヤモリ(九州西部の沿岸部や島嶼)、ヤクヤモリ(九州南部)と分布域が重なる場合がある[1]。

ニホンヤモリは、側肛疣(尾の基部の左右にある大きな鱗でできた突起)を2–4対持つ点で、他の種(1対しか持たない)と区別ができる[1]。また、尾の基部背面の暗帯がW字型をしているのも特徴である[1]。

ニホンヤモリの側肛疣。2–4個だが、通常は3個。
ニホンヤモリの尾の最基部にある、W字の暗帯。なお、色彩は変わりやすいため、見えない場合もある。

そのほかには、以下のような違いがある。

タワヤモリ(瀬戸内海沿岸地域と四国太平洋岸)との識別点[1,7]
  • タワヤモリの側肛疣は1対のみ。ニホンヤモリは側肛疣を2–4対持つ。
  • タワヤモリのオスには前肛孔がない。ニホンヤモリのオスは6–9個の前肛孔を持つ。
  • タワヤモリは背面などに大型鱗を持たないが、ニホンヤモリは大型鱗を持つ。
  • タワヤモリはニホンヤモリよりも自然度の高い環境(露岩のある乾燥した山地や岩場など)を好み、市街地ではほぼみられない。
  • 瀬戸内海の島々など、両種が同所的に存在する場所では交雑個体も記録されているが、交雑の1世代目(タワ×ニホン)は中間的な形質(側肛疣は1–2対、オスの前肛孔は存在し、後肢の脛の大型鱗はない)を示すため、純系個体と区別ができる。
  • 一方、交雑個体(タワ×ニホン)とニホンヤモリの交雑個体も確認されており、このような個体はニホンヤモリとの判別が難しい場合がある。
ニホンヤモリのオスに見られる前肛孔
ミナミヤモリ(九州、本州・四国・八丈島などに移入)との識別点[1]
  • ミナミヤモリは九州南部以南に生息する種だが、移入によって九州西部の沿岸部や島嶼、四国南部と和歌山県、八丈島の各所で定着が確認されており、本州太平洋側の各地でも単発的な記録がある。
  • ミナミヤモリの側肛疣は1対のみ。ニホンヤモリは側肛疣を2–4対持つ。
  • ミナミヤモリは後肢の脛(すね)に大型鱗を持たないが、ニホンヤモリは大型鱗を持つ。
ニホンヤモリの後脚脛にある大型鱗
シヤモリ(九州西部の沿岸部や島嶼)との識別点[1]
  • ニシヤモリの側肛疣は1対のみ。ニホンヤモリは側肛疣を2–4対持つ。
  • ニシヤモリの尾基部背面にはW字型の暗帯がない。
  • ニシヤモリの腹面は黄色であることが多い。ニホンヤモリの腹面は汚白色から灰白色。
ヤクヤモリ(九州南部)との識別点[1]
  • ヤクヤモリの側肛疣は1対のみ。ニホンヤモリは側肛疣を2–4対持つ。
  • ヤクヤモリの尾基部背面にはW字型の暗帯がない。
生態

[食性]

  • 昆虫を中心とした無脊椎動物を捕食し、樹液を舐めるという報告もある[1]。
  • 民家近くの自販機など、街灯に集まり、そこにやってくる昆虫等を捕食する[1,8]。

[街灯での採餌行動][9]

京都で行われた研究で、以下のことが示されている。

  • 標識した個体のうち再確認された個体のほとんどが、同じ場所で再発見されたことから、街灯などの採餌場所からあまり移動しないことが示唆されている。
  • 街灯で昆虫を採餌する頻度は通常、一晩に0–10回程度だが、40回以上採餌を行うこともある。
  • 明るい場所には常に滞在せず、定期的に暗い場所に隠れて、再度出現するといった行動をとる。
  • 近くに昆虫がいない時でも街灯で待ち伏せをしており、特定の街灯の場所を好適な採餌場所として学習している可能性がある。

[繁殖]

  • 5月から7月にかけて産卵する[1]。
  • 8月末から9月に頭胴長30 mm弱の幼体が孵化する[1]。
  • オスは45 mm程度、メスは52 mm程度で性成熟する[10]。
  • オスの精巣には年間を通して精子が貯蔵されている[10]。
  • それゆえ冬眠する12–3月を除き、年間を通して交尾が可能だと考えられており、実際に4月から9月にかけては交尾が確認されている[10]。
  • 交尾後の精子は繁殖期に合わせ、メスの輸卵管で貯精されると推測される[10]。

[鳴き声][11]

  • 他個体と遭遇すると体の接触と同時に小さな鳴き声を発し、個体間コミュニケーションをとることがある。
  • 声はとても小さく、3 m程度の距離でも聞こえなくなるほどである。
  • オスはオス・メスどちらと遭遇しても、鳴き声を発する。一方、メスはメス同士では鳴き声を発するが、オスと遭遇した際にはほぼ鳴き声を発さない。また、遭遇した際に攻撃的な反応を示した頻度は、[オス→オス] > [メス→オス] ≒ [メス→メス] >[オス→メス]となった。
  • 同じ性別間で発される鳴き声は、周波数のピークは異なるものの、音声の構成状はほぼ同一の鳴き声である。
  • 一方、オスがメスに発する鳴き声は、構造が大きく異なる。
  • 同性間で交わされる鳴き声には、ライバルを牽制する役割があり、オスがメスに発する鳴き声には、求愛の役割があると考えられている。
その他

[コメント]

人家の周囲で見られる本種は、多くの人にとって最も身近な爬虫類と言っても過言ではないでしょう。部屋の中から窓の外側に張り付いたヤモリを眺め、灯りに寄せられた昆虫を捕食する様子を見守るのは、なかなかに楽しいものです。

執筆者:福山亮部


引用・参考文献

  1. 日本爬虫両生類学会 編. 2021. 新 日本両生爬虫類図鑑. サンライズ出版, 232pp
  2. Kim, J. S., Park, J., Fong, J. J., Zhang, Y. P., Li, S. R., Ota, H., … & Park, D. (2020). Genetic diversity and inferred dispersal history of the Schlegel’s Japanese Gecko (Gekko japonicus) in Northeast Asia based on population genetic analyses and paleo-species distribution modelling. Mitochondrial DNA Part A31(3), 120-130.
  3. 国立環境研究所. 2022.侵入生物データベース-ニホンヤモリ- <https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/30160.html>, 参照 2022-04-24
  4. Duméril, A.M. C. and G. Bibron. (1836). Erpetologie Générale ou Histoire Naturelle Complete des Reptiles. Vol. 3. Libr. Encyclopédique Roret, Paris, 528 pp. 
  5. 人見必大, 島田勇雄訳注. (1981) 本朝食鑑 5,東洋文庫(395), 平凡社, pp216.
  6. Wood Jr, P. L., Guo, X., Travers, S. L., Su, Y. C., Olson, K. V., Bauer, A. M., … & Brown, R. M. (2020). Parachute geckos free fall into synonymy: Gekko phylogeny, and a new subgeneric classification, inferred from thousands of ultraconserved elements. Molecular Phylogenetics and Evolution146, 106731.
  7. Toda, M., Okada, S., Hikida, T., & Ota, H. (2006). Extensive natural hybridization between two geckos, Gekko tawaensis and Gekko japonicus (Reptilia: Squamata), throughout their broad sympatric area. Biochemical Genetics44(1), 1-17.
  8. 渡邉礼雄, & 加藤元海. (2012). 野外用自動販売機に集まる爬虫両生類と昆虫類.
  9. Kobayashi, K., & Mori, A. (2020). Site Fidelity of Gekko japonicus to Artificially Lit Environments. Current Herpetology39(2), 184-195.
  10. Ikeuchi, I. (2004). Male and female reproductive cycles of the Japanese gecko, Gekko japonicus, in Kyoto, Japan. Journal of Herpetology38(2), 269-274.
  11. Jono, T., & Inui, Y. (2012). Secret calls from under the eaves: acoustic behavior of the Japanese house gecko, Gekko japonicus. Copeia2012(1), 145-149.